21話 ヴォルブルクの休日1
ラ、ラブコメが始まってしまった……
「ユート君! こっち!これ!おいしそうじゃないかな!」
「走り回るな、シア! また迷子になる!」
「ひどい!」
「酷くない…どうすれば一緒に歩いてるのに、3秒ではぐれて迷子になってるんだよ。 子供か!」
「子供じゃないもん! ちゃんと身体は大人だもん!」
「真面目に返すな、馬鹿!」
「むーー!」
シアは俺が最初に渡したサンドイッチを気に入ったようで、食べたがったので、町を歩き、露店の出店で食べ物を買いながら散策することにした。
しかしこいつ、驚いたことに予想以上物を知らない。
なんせ、この世界に来て約一ヶ月の俺よりも知らないのだから相当だ。
しかも、持ち物も着る物以外なく、お金すら持っていなかった。
「お前、お金も持ち歩かないのか…どんだけお嬢様だよ」
「むー! ユート君は責任を取る義務があるんだから、今日は男の甲斐性を見せてくれてもいいんじゃないかな!」
開き直ってそんなこと言ってきやがる。
「はぁ? それは恋人同士の話だ!」
「こ、こここ恋人なんて、少し気が早いんじゃないかな!? それには、やっぱりもっとお互いを知る必要があると思うんだよ!」
「…お前は何を言ってるんだ? もういい…仕方ない、まぁ今日くらいは面倒見てやるよ」
「おー!ユート君、意外と甲斐性持ちなんだね!」
「意外と…とか、思っても言うな、おごるのやめるぞ!」
「ごめんなさい…調子に乗りました、許してください」
出会って数時間、なんだかずいぶん打ち解けてしまった。
なんかこいつ、世間知らずのくせに妙にノリが良く、元の世界の奴と話してる感じに近いんだよな。
お嬢様のくせに気安いのだ。
これでアニメネタとかわかってくれれば完璧なんだがな。
まぁそんなこんなで、俺とシアは町を歩く。
サングラスと帽子は常に外さず、顔は隠したままだが、見るものすべて珍しいようで、最初はなんだか不安がって街を歩いていたが、今では笑顔ではしゃいで小走り気味に歩いていくので怖くて目が離せない。
実際に、一度目を離した際に人ごみに紛れて迷子になってしまって探すのにスゲー苦労した。
まさか、人探しに【気配察知】と【空間把握】を全力で使うことになるとは思わなかった。
「ユート君! これ! これはなにかな?」
シアがまた変なものを見つけたようで、露天商が飾っているデッサン人形のようなものを指さしてくる。
「あん? あぁ、これか…何と説明したらいいか、確か魔道具の一種だよ。こうやって糸に魔力を注入すると操れるんだ」
「へぇー、リビングドールの様なものなのかな? でも、魔力回路が見当たらないかも…あー、これ木自体に魔力線を通して動かしてるのかな…」
不思議なことに、シアはずいぶん魔道具や魔法関係に詳しい。
俺はもともと詳しくないからわからないが、店の人が困惑してるくらいだから、それなりに高い素養を持っているのだろう。
もしかしたらミューやプリムの様に、学園に通っているのかもしれない。
俺が、そんな事を考えながら人形をいじるシアを見ていると
『ボン!』
という小さな破裂音と共に人形が爆発した。
「「「……」」」
露天商のおっさんも俺も唖然である。
シアは若干涙目でおろおろしていた。
たしか、シアは自分で人形を操ろうと、魔力を込めただけのようだったが…というか
「どうして爆発する!!」
「ごめんなさい…」
「ってか、魔力込め過ぎだろう、お前!どんだけ強力なもん動かす気だよ!」
「うー……」
とりあえず、爆発音に人が集まりだしてきてしまったので、今だ呆けている露天商のおっさんに謝罪と人形の代金に色を付けて渡し、その場をシアの腕を引っ張って逃げ出した。
「はぁ…まったく、とんだ厄介事だ」
「ごめんなさい…、まさか爆発するとは…」
「そりゃ俺も思わなかったよ…あんなに魔力一気に込めるなんて」
「…! ユート君、もしかして魔力が見えるの?!」
「ん? いや、見えるわけじゃない。【魔力感知】で感じ取れるだけだな」
「すごい! ユート君は”魔法使い”だったんだね! てっきり、”剣士”だと思ってたよ!」
「いや、俺は…」
と言いかけて、さすがに魔王はないよなと思い直す。
そういえば表示させているステータスは”剣士”になっていたはずだ。
もはや魔法は普通に使っているわけだし、この機会に”魔法剣士”に変える事にした。
「俺の職業は”魔法剣士”だよ」
「すごい!」
”魔法剣士”はこの世界の魔法の復旧率に対し、実はかなり少ない。
”魔法剣士”になる条件が、”剣士”と”魔法使い”の基準を満たし、魔闘法を習得している必要があるからだ。
つまり、一線級の魔法と剣の腕を持っていないと、名乗れないのである。
「そういうお前こそ、あれだけの魔力があるんだ、”魔法使い”なんだろ? なら【魔力感知】くらい使えるだろう?」
「え? うん…出来る事は出来るんだけど…ね。あんまりコントロールは上手くないんだ…エヘヘ」
ふーん、生まれつき魔力が多くてコントロールが難しいとかなのかね?
そう思って、軽い気持ちで、ちょっと注視してみる。
「ふーん、そうなの…はぁ!!?」
「!?ど、どどどうしたの、ユート君!? いきなり!」
「……おまえ「シオン様!!」」
不意に、こちらに慌てて走ってくる一団が発した声に、俺の声がかき消される。
「あ…」
シアがバツの悪そうな顔で俺の後ろに隠れるが、もう遅い。
鎧に身を包んだ4人組の騎士が、こちらを完全に視線に捕らえ、一直線に走ってきている。
白い鎧に胸に剣の紋章、神殿騎士の標準装備だ。
…間違いなく、神殿からのお迎えだろう。
はぁ……やっぱり、厄介事だった。
しかも飛びっきりに、でかい。
”シオン=ティアーズ 16歳 ♀ Lv3 種族:異世界人 職業:勇者”
だってさー、まさか、思わねーじゃん?
こんなへらへらした、頭に花畑が咲いたようなお気楽な女が……勇者だなんてさ
神殿騎士の一団は、勇人の目の前まで来て止まると、側面から回り込み、シアに声を掛ける。
「シオン様!探しましたよ」
「えーと、人違いデース。 シア! ワラシーノ ナマエハ シア デース!」
横から声を掛けてくる神殿騎士から更に身を隠し、インチキくさい口調と声でそんなことを言っている。
おまえはどこのインチキ外人だ! おいおい、まさかそれで誤魔化しているつもりなのか…勇者よ
それより、とりあえず、俺を盾にするのはやめてくれませんかね…
「…何を言っているんですか、シオン様? とにかく、みなさん心配していらっしゃいますよ。あんな書置きまで残して…ささ、すぐに神殿に帰りましょう!」
といって、俺の裏に隠れているシアの腕を掴んで強引に引っ張ろうと力を入れる。
「痛いっ!」
ひ弱なシアはすぐに俺を掴む腕を取られ、神殿騎士に連れていかれ──なかった。
「痛い痛い! 貴様!何をするか!」
俺が、強引に連れて行こうとする神殿騎士の腕を、強引に捻って拘束を解いたからだ。
「何を……してるんでしょうね。えぇ、ホント、全くその通りで…すいません」
「はぁ!? 何言っているんだお前は! 痛い痛い!いいからその手を離せ!!」
「あ、すいません」
忘れてた。
まだ掴んでままだった神殿騎士の腕の拘束を解く。
とっさに取った、自分の行動がショックで混乱していたようだ。
案の定、拘束から解かれた神殿騎士Aさんはかなりご立腹でこちらに向き合って睨めつけてくる。
「おのれー! 貴様!さっきからシオン様の隣でいる虫ではないか! ただの虫なら見逃してやろうかとも思っていたが…、邪魔するなら容赦はしないぞ!」
そう言って、いきなり腰の剣を抜刀してくる神殿騎士Aさん。
「ちょ! あんた、いきなり抜刀はないんじゃないの!? ここ、街中!」
「うるさい! 巫女長アンジェル様からも、万が一……万が一にもシオン様の隣に悪い虫がいるようなら、その時は…」
「その、時は?」
「ちょん切れ、と……」
「何を!?」
ちょっと、何それ怖い! 巫女長さん、なんて指示してるのさ!?
その言葉に震えたのは俺だけじゃないようだ。
本人を含めた神殿騎士を始め、数人の見物人(男)までもが恐怖で青ざめる。
「どうする? 今ならまだ間に合うが…邪魔するなら容赦は出来んぞ?」
なんか、この神殿騎士Aさん…目が断るなと言っているような気がするのは、きっと気のせいじゃないよね?
だって血走ってるもん
後ろの同僚の騎士さん方も若干引き気味だけど、大丈夫か? こいつ
はぁ、どうするかなぁ…
「なぁ、シア」
「…ごめんなさい」
「いや、まぁそういうのは今はいいからさ。 後でやるから。」
「後でやるの!?」
「で、俺今日一日、お前の護衛の義務があるわけなんだけどさ…」
「え?あ、うん…そうだよね、こんな状況になって護衛なんて無理だもんね。 ごめんね、無理言って巻き込んで、大丈夫、元々危険な目に合わせるつもりはなかったんだから」
「いや、そういうのもいいんだけどな。 だからさ、つまり…おまえ、どうしたい?」
「ん?」
「いや、この後どうしたい? 今すぐ神殿帰りたいのか、それとも町を見て遊びたいのかだよ」
「え?え? えっと、ユート君、それどういうことかな?」
「いや、今日一日はお前の護衛やるって言っちゃったからさ、今日だけは面倒見てやるけど? 具体的には、まだ遊びたいならここから逃げるけど、どうする?」
俺の言葉に神殿騎士達が目に見えて動揺する。
「な! 貴様!!」
「うっさい、黙れ神殿騎士A! で、どうするシア? …お前が選べ」
「なっ! 貴様!馬鹿にするな、私にはアルフレッドという名前がある!」
「なんだ、やっぱり神殿騎士Aで合ってんじゃねぇか」
「キ、サマー!」
どうやら怒りで血が上っているようだ、カタカタと握った剣が震えて、今にも飛び掛かりそうだが、他の神殿騎士が止めてくれている。
流石に街中で神殿騎士が刃傷沙汰というのは、それなりに不味かろう。
「わたしは……」
「シオン様いけません!」
「 私はまだ遊びたいのーーー!! 」
結婚はしたけど、子供はまだ作りたくない、そんな夫婦の叫びが聞こえてくるようだ。
あ、すまん、あまりの予想外な言葉に正気を失っていたようだ。
「シ、シオンさま!?」
神殿騎士たちがさらに動揺する。
その混乱ぶりはさっきまでの非ではない。
自分たちの信仰の対象である勇者が言った言葉だから無理ないだろう。
「OK…シアお嬢様」
しかし、予想以上に面倒なことになったなぁ
ま、この場合のプランは大きく分けて二つ…だ
逃げる
→逃げる
あれ? おかしいな、二択のはずが一択になっている
まぁいっか、どうせやることは変わらないし
逃げる勇人、追う神殿騎士と巫女長アンジェル!
シオン「ユート君、それにはドン引きかも!」
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