1 突然の訪問者
生まれてすぐに施設の前に置き去りにされた。
おれの名は秋月虹。(あきづきこう)
入れられた藤籠から抱き上げて、施設長がそのまま施設に引き取ってくれた。
おれの苗字は市長と同じだ。この町では、捨てられた子には、市長が名づけをするらしい。
名前の「虹」は、拾われたその日、かつて見たこともないほど大きな虹が出ていたからだそうだ。
人名には珍しいと思うし、けっこう安易につけられた気もする名前だけど、実はとても気に入っている。
何しろ一度名乗ったら、すぐに覚えてもらえる……いい名刺代わりだ。
天涯孤独の身の上だけど、自分を不幸だとは思ったことはない。
周囲にはおれよりもっと悲惨な育ちのやつは大勢いるし、懸命に生きているだけでみんなすごいと親代わりの施設長が毎日言うから、まあそうなんだろう。
生い立ちを知ったばかりの小さな頃には、ある日山のようにプレゼントを抱えた、上品な爺さんがあらわれて「坊ちゃま、お探ししました」と、言いながらその場に泣き崩れたりしてなんて、考えたこともあったけど、夢見る子供時代はあっという間に終わった。
部活帰りいつものように帰宅したその日は、何故だか食堂にクーラーがついていた。
「おお~」
年中、経費節減で設定温度29度のはずなのに、嘘みたいに快適で一瞬で汗が引いた。
テーブルの上には、料理自慢の食堂のおばちゃんが、気合を入れたてんこもりの料理。
「ああ、誰か養子の口が決まったのか……」
施設では、里親が決まるお別れの日には、たいていそいつが好きなものが並ぶ。最後の晩餐ってやつかな。
……あれ……?
いつもなら、小学生連中がにぎやかにしているはずなのに、今日はやけに静かだ。
肩寄せあってるわけじゃないけど、一緒にいる時間があったやつと別れるのはときどき寂しい。寂しがりやってわけじゃないけど、誰かがいなくなった空間は、わりに切ないものだから……。
施設長が、食堂までおれを呼びに来た。
「虹君に、お客さまだよ」
「おれ……?」
まさか、里親が決まったのっておれ……?
大抵は物心つく前の子供か、優秀な子供から貰い手は決まるはず。
盆と正月が一度に来たかのようなご馳走にしばしの別れを告げ……じゃなくて、おれに会いに来たという物好きな奴は誰なんだろう?
県大会で大活躍した、おれをスカウトに来たのか?
いやいや、当日肉離れで、ベンチにいたおれをスカウトに来るわけない。
「失礼します」
「おお~……!」
おお~って、外人みたいなリアクションだな……って、正真正銘の外国人だ。
「ナ……ナイス、ミーチュウ……?」
駄目だ。挨拶くらいできるように、もっとちゃんと勉強しておくんだった。
「お探し致しました」
ちょっと、待て。このシチュエーション……ガキの頃の夢の中にあったぜ、こういう台詞。
次は、確か……
「お坊ちゃま」
ほらね。しかも、仕立てのいいスーツ……黒だぜ。




