◆ 妙な歌のしらせ ◆
現世と来世の境界が 弱まるぞ
妖精が 魂が かえってくる
気をつけろ 魔物が紛れているかも
食べ物 飲み物 準備はいいか
呪われないよう不気味になれ
ランタンの灯がお守りさ
お話を聞こう ストーンを探そう
やってくる 魔術師と 世界中の人々が
楽しもう 一年の終わりと始まりを
カラスの羽は今夜きり
さぁおいで BAR -Hallows Eve-
魔法と予知の夜は 本棚のうんと奥
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仕事を終えた夜。帰り道で聞こえてきた妙な歌には、幼い声から老いた声までが混ざり合っていた。出所が分からないまま、それはじきに遠ざかると、住宅街は静まり返っていく。
街灯を一つ通り過ぎ、次の街灯が近づいてくる頃。私は、そこにキラリと何かが光るのを見て立ち止まった。それは、ふわりふわりと降ってきて、そっと地面に寝そべった。
近づいてみると、黒い羽がついた紙が落ちていた。金の縁があしらわれた古紙で、中の文字は、大きさや傾き、太さがバラバラだ。読んでみると
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BAR -Hallows Eve- Open
10.30~11.1 Only Night
✔辿りつけるかもしれない法
1,本棚があるところ(図書館や図書室、本屋とか)
2,本を一冊抜き、その隙間を顔からのぞく
✔決まりごと・持ちもの
1,仮装をすること(魔物に気をつけるため!)
2,強い心や、ひどい悩み(あなたにとってひどけりゃよし)
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チラシのようだ。BARというならば大人向けの店舗のはずだが、どう読んでもそんなイメージじゃない。不思議な呼びかけは面白く、少しばかり心をくすぐられる。
ところで、今日までこのような店を見たことがなかった。ブックカフェならぬブックバーか、もしくは本を扱っている場所の一角で行われているイベントか。そんな想像をしていると、二つ目の持ち物に目が留まった。
私にとってのひどい悩み――先週から抱えているそれが、くっきりと浮かび上がる。
やるにしても趣味ていどにしなさいと言われた。友達にちょっと打ち明けてみたら笑われた。
それでも、少しは何かしらの評価が欲しいと思ってしまうのだ。どうしても上手になりたい。私は、思い切り書きたいのだ。
「全く知らない他人に話しても同じか……」
腕時計を見ると、図書館が閉まるまで一時間あった。そこで、通勤用のショルダーバッグをかけ直すと、来た道を戻ることにした。
その図書館は、子どもの頃こそよく来ていた慣れ親しんだ場所だ。自動ドアが開き、奥の階段へ進むと、そのまま三階を目指す。
薄灰色のしんみりとした空間から抜けると、ふわっと紙の匂いが迎えた。通路を向かった先の、片側だけ開いたガラスの二枚扉から入ると、私はチラシを手にカウンターへ急ぐ。
「あの、これ拾ったんですが……」
顔を上げたのは、黒髪を後ろで丸く整え上げたスタッフだ。こめかみから垂れる縮れ毛を耳にかけると、チラシを受け取った。そして、細いゴールドのチェーンを下げた丸メガネをちょいと上げ、内容に目を凝らしていく。あまりに長こと向き合うので、私は何かの間違いかと、気持ちのままやって来た自分を心で笑い飛ばした。
ところが、スタッフは私にそっとチラシを返すと、ゆるりと口角を上げた。
「いいえ、間違いではございませんよ」
「……え?」
うっかり声をもらしていたのか。ならば尚のこと恥ずかしく、私は笑ってごまかす。
しかしスタッフは目を細めると、すぐ真顔になった。自分の母親くらいか、それより少し年上にも見える。とても真っ黒でクールな瞳をしていた。温みある照明が、そこに光を授けている。誰かの瞳を、ましてやこんな一瞬のやり取りをするだけの相手のそれをじっと見つめるなど、私にはありえなかった。
スタッフは立ち上がると、奥のフロアに手を差し出した。
「あちらがいいですよ。静かに、目立たないように向かえば、より特別感が増します」
「特別感?」
私が聞き返しても、スタッフはあっさりと腰掛け、手元の作業についてしまった。
言われるがまま、誰もいない奥の本棚へ向かった。具体的にどの棚かも教えられず、ただただ突き当りの、本当に一番奥まで来た。そして棚の前に立つと、チラシをもう一度見る。
「あ……仮装……」
オフィスカジュアルに、ユニセックスの秋用ステンカラーコート。その格好をしばし眺め、はっと思いついてはコートを脱いだ。もし辿り着いたら、それを頭から被って被衣姿の者にでもなろうと、かなり無茶で雑な段取りをした。
息を呑むと喉が鳴った。古びた分厚い本を見つめ、そこに指をかける。ゴゴッと引き抜いたそこに開く幅三センチほどの隙間を、じっと見つめた。
入るわけがない――それでも案内をされたのだからと、私は辺りが無人であることをチラと確かめては、そこを、顔が入るつもりでのぞいた。




