「平たく」
ここまで沢山、
「平たく」話をされてきて、
理解したつもりでいるが、
その実、
何も解っていない。
今、俺は、世界の理を揺らされている。
知っていたはずの世界さえ、
「平たく説明された程度」
の、範囲だったみたいだ。
「花畔ぅ君」
そんな、
「bang a glow」
みたいな発音で呼ばないでください。
俺は「バンナグロ」です。
「乗り掛かった船だと思ってさぁ」
降りたいです、
まだ間に合いますよね?
「抜けられねぇって言ったろ?」
「何も脅してるわけじゃないぜ?」
「おまえ、もともとこっち側なんだよ」
「話ここに至っては、」
「導くものが必要だ」
どこにも連れて行かないでください。
俺は、のんびり暮らしたいんですよ……。
「『上津絵里』があの場に現れたのも、」
「なんとなく腑に落ちる」
「土地絡み、なんだったらな。」
「詐欺の現場兼、滞在地って感じか」
「何が目的なんだろうねぇ。」
「上津君の独断か、」
「『危険種』の考えなのか……」
「話は大きくなるかもよ?」
「本部に紛れてるの、」
「上津だけとは思えねぇ」
「civil warだねぇ……」
シビル・ウォー……内戦だ。
「我々は、組織論で動いてはいないぞ?」
「強いて言えば」
「日本のために働いておる」
そんな大層な組織だったの? ここ。
「志の問題だ。だから花畔。この通りだ」
道仁さんが身体を折りたたむ。
俺に頭を下げる。
「協力してくれ」
……………………
慌てて、
道仁さんに頭を上げてもらって、
話はまた後日、
ということにしてもらった。
キャパオーバーです。
家に帰ると、
千歳は相変わらずの夜勤。
出迎えるのは2匹の猫。
普段は出迎えに感謝して、
一頻り遊ぶのだが、
今日は、
寝床に直行させてもらおうと思う。
道中、
職場に連絡し、
明日は休みにさせてもらった。
仕事をしたくないのではなく、
何もしたくない。
一眠りしたら嫌なことは忘れるタチだが、
こうして、何もかも、
「意識の外」に追いやってきたのかもしれない。
そして、
目覚ましとは無縁の朝を迎える。
横には、夜勤明けの千歳、
黒と灰の2匹。
今日もまた遠出する。
ルートは同じだ。
違うのは調査ではなく、
実感するための行動だということ。
俺は、
抜け落ちている「去年」を探しに行く。
母親が死んだ土地を、
説明するのは難しい。
「W」の形で海に突き出している。
下の方の、逆Vの根本にかろうじて、
人が住める余地がある。
突き出た岬の間、
谷間の土地である。
再度、見落としそうな道を曲がり、
峠道を下って行く。
同じように「番屋」の前に駐車し、
小川を渡る。
昨日と同じ。
雑草畑の真ん中に、
御札でデコレーションされた、
棒が刺さっている。
雑草と棒の長さが、
ほとんど同じなので、
意識しないと紛れてしまう。
これは、
道仁さんが残したものだ。
多分、
ここに意識を向けないような、
効能があるんだろう。
一連の出来事で、
自分の頭の中が、
「箇条書き」
であることに気がついた。
何が有ったかは覚えている。
どうしてそうなったのか? が抜けている。
記憶に繋がりがない。
昨日のことも、
俺はちゃんと覚えているのだろうか?
公的には、
母親の死因は「餓死」とされた。
母親は、
よくスピリチュアルな話をする人だった。
父は、
それについて行けなくなった。
俺は、
何も考えていなかった。
多分、どうでもよかった。
母親は、
そういう人なんだ、と理解した。
何の興味も無かった。
俺が成人した辺りから、
疎遠になった。
積極的に関わりたいとも思わなかったが、
日々の生活に追われてもいた。
母親が死んだ部屋を、
見せてもらった。
慎ましやかな生活が窺えた。
目を引いたのは「祭壇」だった。
どういう様式とかは、全く分からない。
雛壇のような棚に、
白い布が掛かっていて、
俺には理解できない、
何らかのオブジェが、
所狭しと並べられていた。
覚えているのは、
一番上の真ん中に三方。
そこには「御神体」があったと思われる。
その直線上の真下、三段目に、
母親が大事にしていた、
「数珠」が、
八角形の入れ物に入っていた。
そして、
降り注いだような、
「水晶の粉」に塗れていた。
水晶を粉砕するなんて、
並大抵ではできない。
母親は、
祭壇に向き合い、
正座のまま後ろに倒れた姿で、
見つかったそうだ。
こんなもの、死因は飢えではなく、
なんらかの「衝撃」に決まっている。
俺のその主張に、
「調査会社」の連中は納得した。
警察には伝わらなかった。
ポケットから数珠を出す。
昨日、……今朝か?
握りしめたまま持ってきてしまった。
首に掛けると、
要の石が胸元に来る長さだ。
その一番大きな要の石は、
赤い天眼石。
その両横から紫の房が伸びている。
そのまた両横には、一段サイズの小さい水晶。
そのまた両横には、橙色の玉髄の龍眼天珠。
それぞれに二つづ、虎目石が並び、
そこから、サイズが小さくなりつつ、
翡翠が連なる。
一番小さな翡翠が、
首の後ろに来る感じだ。
おそらく、全て天然石。
趣味なんで、値段を考えてしまうが、
恐ろしく高価だと思う。
翡翠の一つ一つに彫刻があるという凝りようだ。
母親はずっとこれを持っていた。
死んだ時は身につけずに、
祭壇に祀られていた。
親指に絡めて、手を合わせる。
改めて、
この更地になった雑草畑を眺めても、
俺が何かを感じることはない。
ここが、どれほど重要なのかは、
俺には測れない。
道仁さんには、
分かるのだろう。
千歳も、
何かを感じていたのだろうか?
母親の戯言が、
ただの妄想ではないんだと、
強制的に解らされた今でも、
実感はない。
なのに……。
「貴女は、ここに、」
「何の用事があるんですか?」
後ろで不気味に微笑む、
強面の美人に声をかける。




