界
どういうこと?
「おまえが『家』のことを思い出したのは、」
「『上津絵里』が『一旦は』死んだからだよ」
だから、どういうこと?
「術者が死んだから術が解けた、的な?」
それ自体は分かる。
他が全く……。
「廃墟に誘導されたのは分かったんだよな?」
「自覚は全くないですけど……」
「未だにアンティークな、」
「お洒落不動産なイメージしかない」
「……笑わないでくださいよ」
「認知操作だな」
「よくやられるんだよ……」
「化かされたってヤツだな」
あの廃墟で、
お茶飲んだのかと思ったら……。
ゾッとする。
「会ったのはそれだけ?」
「いいえ、あっちが出向いて来て、」
「で、契約書を……」
「おまえに任せるって話だったけど、」
「一応、裏は取りに行ったんだよ」
「住所には廃墟しかなかったんだよな」
「いつの話ですか? それ」
「おまえが契約した後だよ」
「いや、だから、」
「なんで、教えてくれないの?」
「その辺なんだよな、めんどくさいの」
面倒くさい?!
「所長も知ってたんですか?」
「報告はね」
「それも含めて山田君に投げてた」
「廃墟だった、」
「しか、分からなかったんだよ、」
「『感染者』が絡んでるのは確かなんだけどな」
「それっきり手詰まりだったんだ」
「オヌシが土地を護っておるから、」
「しばらく流れを見ておった」
だから、
それも意味不明なんですってば。
「花畔に『嫌悪感』を抱かれたら、」
「それこそ往生するんだが、」
「所長、考えは?」
「説明するのもリスクかも、」
「なんだけどねぇ」
「……分かってもらった方がよくない?」
ちらっと俺を見る。
「相分かった」
道仁さんが、
身体に合わない小さい椅子を持って来て掛けた。
「平たく言うとだな」
「オヌシには異能がある」
は?
「オヌシは、」
「『あちらとこちらを分ける』ことができる」
「ワシらの界隈では、」
「この手の異能を『界』と呼ぶ」
「『結界』くらいなら、」
「聞いたことがあるであろう?」
キョトン……。
「まぁ、聞いておけ」
「厄介なのはな、」
「オヌシはそれを無自覚に使っている」
「それも強烈に」
「えっと……バリア?」
「その片鱗は今日垣間見た」
「怪我一つしねぇんだもんな」
……。
「ここから内側」
「ここから外側」
「これは入れる」
「これは出さない」
「これは見せない」
「これは守る」
「オヌシはこれを無自覚にやっておる」
「そんなことしてません」
「無自覚と言っておる」
「そして、自覚させるのが有益なのかは、」
「未だに迷っておるところだ」
自覚……
できるんだろうか……。
「オヌシの性格は、」
「言うなれば『陰』だ」
「ネガティブってヤツだな」
「それが故、『守る』傾向が強い」
「人付き合いも苦手であろう?」
「オヌシが望まぬ限り、」
「他人は干渉してこないのではないか?」
……その傾向はある。
「怖いなと思ったのはね……」
と所長。
「離婚した途端、」
「千歳ちゃんが出世しだしたという話」
それ、俺が縛ってたということ?
「囲ってたんだろうがな」
「いいことばかりではない、」
「という一例だ」
「千歳ちゃんもあるしね、異能。」
「なんとなくは分かってるみたいだけど」
そうなの?!
「おまえは観察眼鋭いようで、」
「興味のないものは捨てるし、」
「見たくないものは見ない、」
「極端にな」
「それも能力の発露だ」
『意識の外』も技の一つ」
「ただ、自覚的に使わないと、」
「生きていくのには不利になることもある」
「物覚えの悪いヤツ、になるな」
と言って笑う。
「山田君も大分助けられたんだよね?」
「まぁな」
「こいつがいると不意打ちが楽だ」
それで、
途中から車待機じゃなくなったんだ……。
「今のところ、半分悪口に聞こえます」
「力の発露がオヌシの性格に由来してるでな」
「あまり褒められたものではない」
え?
「ただ、我々側としては、」
「これほど有能な逸材もない」
「君の力『所有』という効果もあるの」
「『書類に署名する』という儀式で、」
「結界を張れるんだね」
あ……それが土地?
「だね」
「ただよ」
「それのせいで厄介だったんだぜ? 多分」
「え?」
今度はどんな迷惑を……。
「おまえ『家』のこと、興味なかったろ?」
「その感覚のままサインしちまったんだよ」
「『上津絵里』の認知操作と、」
「オヌシの『拒絶』的な『意識の外』が」
「相乗効果になってしまった」
「何の手がかりも、」
「掴めなくなっちまったんだよ」
認めたくない。
山田さんの言いがかりだ。
「タチが悪いのは、」
「こっちにも影響することなんだよ」
「保留してるうちに忘れてしまうでな……」
「うん、花畔君のことすら忘れかけてた」
本当に俺のせいですか? それ。
「そんな力あるとして、」
「道仁さんは何故それを?」
「気付いたのは、」
「オヌシのあまりにも無い『存在感』だ」
「人見知りが、そのまま認識阻害になる」
「それがオヌシの異能だ」
「系譜は分かっていたが、」
「そんな発露をする奴はいない」
系譜?
「オヌシの母親も腕利きの結界師であった」
!
「いや、その時、」
「それなりには教えたはずだが……」
これが「意識の外」とやらか……。
「本当に物覚え悪いだけじゃねぇの?」
返す言葉もない……。
思えば、千歳にも、
物覚えの悪さは責められたことがある。
最近では諦められつつあるけど……。
それでも認識されないまではあるはずは……。
「その辺は相性いいんだろうね」
「千歳殿は『見える人』だからのう」
殿? 千歳は敬称?
「それはいわゆる、」
「幽霊が見える的な?」
「『感じる』が正しいみたいだけどね」
「『エンパシー』ってやつだよ」
分からない。
後で調べよう。
あ、署名といえば。
立ち上がって、
ロッカーから契約書を出した。
数珠が落ちかけたので、
掴んだまま来てしまった。
「つまり、これに署名して契約終わり、」
「となった時点で『意識の外』になったから、」
「みんなが忘れた?」
「雑に言うとそうだ」
「君だけ忘れる予定だったんだけどねぇ」
「言ったろ?」
「おまえが知る予定はなかったんだよ」
いや、山田さんの説明は雑。
「そうか、」
「契約金の余りを忘れるのも想定内だったんだ……」
「ズボラなだけだろ」
ズボラで発揮される異能……。
「おまえが忘れるだけなら、」
「それほど害ないんだけどな」
大人しく聞いてたけど、
話がこんがらがる。
「で、上津さんとやらが、」
「『一旦』死んだせいで」
「……えーと、認知操作?」
「の術が解けて、」
「俺が思い出した?」
「大雑把には」
「ループしてるぞ」
「多分、一連の事象ぼやけてるでしょ?」
その通り……。
さっきも写真を見たから、
「あ」と思っただけで、
顔を覚えてるのか?
と言われれば、全くだった。
だんだん自信なくなってきたなぁ……。
「上津が関わってるのは、」
「後から分かったんだけどな。 」
「自ら出張ってるとは思わんかった」
あれ?
「皆さんも『家』の件って、」
「半ば忘れてたって話では?」
「何故、上津さんに辿り着いたので?」
「別件だよ」
「さっき言ったろ?」
「あいつパイプだったんだよ」




