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去年の夏  作者: 紫丁香
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13/16

界

どういうこと?


「おまえが『家』のことを思い出したのは、」

「『上津絵里』が『一旦は』死んだからだよ」


だから、どういうこと?


「術者が死んだから術が解けた、的な?」


それ自体は分かる。

他が全く……。


「廃墟に誘導されたのは分かったんだよな?」


「自覚は全くないですけど……」

「未だにアンティークな、」

「お洒落不動産なイメージしかない」

「……笑わないでくださいよ」


「認知操作だな」


「よくやられるんだよ……」


「化かされたってヤツだな」


あの廃墟で、

お茶飲んだのかと思ったら……。

ゾッとする。


「会ったのはそれだけ?」


「いいえ、あっちが出向いて来て、」

「で、契約書を……」


「おまえに任せるって話だったけど、」

「一応、裏は取りに行ったんだよ」

「住所には廃墟しかなかったんだよな」


「いつの話ですか? それ」


「おまえが契約した後だよ」


「いや、だから、」

「なんで、教えてくれないの?」


「その辺なんだよな、めんどくさいの」


面倒くさい?!


「所長も知ってたんですか?」


「報告はね」

「それも含めて山田君に投げてた」


「廃墟だった、」

「しか、分からなかったんだよ、」

「『感染者』が絡んでるのは確かなんだけどな」

「それっきり手詰まりだったんだ」


「オヌシが土地を護っておるから、」

「しばらく流れを見ておった」


だから、

それも意味不明なんですってば。


「花畔に『嫌悪感』を抱かれたら、」

「それこそ往生するんだが、」

「所長、考えは?」


「説明するのもリスクかも、」

「なんだけどねぇ」

「……分かってもらった方がよくない?」


ちらっと俺を見る。


「相分かった」


道仁さんが、

身体に合わない小さい椅子を持って来て掛けた。


「平たく言うとだな」

「オヌシには異能がある」


は?




「オヌシは、」


「『あちらとこちらを分ける』ことができる」


「ワシらの界隈では、」

「この手の異能を『界』と呼ぶ」


「『結界』くらいなら、」

「聞いたことがあるであろう?」


キョトン……。


「まぁ、聞いておけ」

「厄介なのはな、」

「オヌシはそれを無自覚に使っている」


「それも強烈に」


「えっと……バリア?」


「その片鱗は今日垣間見た」


「怪我一つしねぇんだもんな」


……。


「ここから内側」


「ここから外側」


「これは入れる」


「これは出さない」


「これは見せない」


「これは守る」


「オヌシはこれを無自覚にやっておる」


「そんなことしてません」


「無自覚と言っておる」

「そして、自覚させるのが有益なのかは、」

「未だに迷っておるところだ」


自覚……

できるんだろうか……。


「オヌシの性格は、」

「言うなれば『陰』だ」


「ネガティブってヤツだな」


「それが故、『守る』傾向が強い」

「人付き合いも苦手であろう?」

「オヌシが望まぬ限り、」

「他人は干渉してこないのではないか?」


……その傾向はある。


「怖いなと思ったのはね……」


と所長。


「離婚した途端、」

「千歳ちゃんが出世しだしたという話」


それ、俺が縛ってたということ?


「囲ってたんだろうがな」

「いいことばかりではない、」

「という一例だ」


「千歳ちゃんもあるしね、異能。」

「なんとなくは分かってるみたいだけど」


そうなの?!


「おまえは観察眼鋭いようで、」

「興味のないものは捨てるし、」

「見たくないものは見ない、」

「極端にな」


「それも能力の発露だ」

『意識の外』も技の一つ」

「ただ、自覚的に使わないと、」

「生きていくのには不利になることもある」


「物覚えの悪いヤツ、になるな」


と言って笑う。


「山田君も大分助けられたんだよね?」


「まぁな」

「こいつがいると不意打ちが楽だ」


それで、

途中から車待機じゃなくなったんだ……。


「今のところ、半分悪口に聞こえます」


「力の発露がオヌシの性格に由来してるでな」

「あまり褒められたものではない」


え?


「ただ、我々側としては、」

「これほど有能な逸材もない」


「君の力『所有』という効果もあるの」

「『書類に署名する』という儀式で、」

「結界を張れるんだね」


あ……それが土地?


「だね」


「ただよ」

「それのせいで厄介だったんだぜ? 多分」


「え?」


今度はどんな迷惑を……。


「おまえ『家』のこと、興味なかったろ?」

「その感覚のままサインしちまったんだよ」


「『上津絵里』の認知操作と、」

「オヌシの『拒絶』的な『意識の外』が」

「相乗効果になってしまった」


「何の手がかりも、」

「掴めなくなっちまったんだよ」


認めたくない。

山田さんの言いがかりだ。


「タチが悪いのは、」

「こっちにも影響することなんだよ」


「保留してるうちに忘れてしまうでな……」


「うん、花畔君のことすら忘れかけてた」


本当に俺のせいですか? それ。




「そんな力あるとして、」

「道仁さんは何故それを?」


「気付いたのは、」

「オヌシのあまりにも無い『存在感』だ」


「人見知りが、そのまま認識阻害になる」

「それがオヌシの異能だ」


「系譜は分かっていたが、」

「そんな発露をする奴はいない」


系譜?


「オヌシの母親も腕利きの結界師であった」


!


「いや、その時、」

「それなりには教えたはずだが……」


これが「意識の外」とやらか……。


「本当に物覚え悪いだけじゃねぇの?」


返す言葉もない……。


思えば、千歳にも、

物覚えの悪さは責められたことがある。

最近では諦められつつあるけど……。

それでも認識されないまではあるはずは……。


「その辺は相性いいんだろうね」


「千歳殿は『見える人』だからのう」


殿? 千歳は敬称?


「それはいわゆる、」

「幽霊が見える的な?」


「『感じる』が正しいみたいだけどね」


「『エンパシー』ってやつだよ」


分からない。

後で調べよう。


あ、署名といえば。


立ち上がって、

ロッカーから契約書を出した。

数珠が落ちかけたので、

掴んだまま来てしまった。


「つまり、これに署名して契約終わり、」

「となった時点で『意識の外』になったから、」

「みんなが忘れた?」


「雑に言うとそうだ」


「君だけ忘れる予定だったんだけどねぇ」


「言ったろ?」

「おまえが知る予定はなかったんだよ」


いや、山田さんの説明は雑。


「そうか、」

「契約金の余りを忘れるのも想定内だったんだ……」


「ズボラなだけだろ」


ズボラで発揮される異能……。


「おまえが忘れるだけなら、」

「それほど害ないんだけどな」


大人しく聞いてたけど、

話がこんがらがる。


「で、上津さんとやらが、」

「『一旦』死んだせいで」

「……えーと、認知操作?」

「の術が解けて、」

「俺が思い出した?」


「大雑把には」


「ループしてるぞ」


「多分、一連の事象ぼやけてるでしょ?」


その通り……。

さっきも写真を見たから、

「あ」と思っただけで、


顔を覚えてるのか? 

と言われれば、全くだった。


だんだん自信なくなってきたなぁ……。


「上津が関わってるのは、」

「後から分かったんだけどな。 」

「自ら出張ってるとは思わんかった」


あれ?


「皆さんも『家』の件って、」

「半ば忘れてたって話では?」


「何故、上津さんに辿り着いたので?」


「別件だよ」

「さっき言ったろ?」

「あいつパイプだったんだよ」


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