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去年の夏  作者: 紫丁香
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12/16

ホラー

歩きやすくなった藪で、

車に向かう途中、


「痛っ!」


山田さんが呻く。

上着を脱いでバタバタする。


「ガラスついてるじゃねぇか」

「おまえ怪我ないの?」


そういえば……。

身体中確認してみる。


「ないみたいですね」

「痛っ」


ポケットにガラスの欠片が入っていた。


「流石というか……」


「すごいな、おまえ」


え? 褒めるとこ?


ふと周りを見渡すと、

道仁さんが開墾した幅3m以外は藪が深いまま。


ところどころ禿げたように見えるのは、

山田さんが暴れた跡?

ミステリーサークルみたいになってるのかな?


「田舎とはいえ、」

「こんなに暴れたら通報されるんじゃ……」


「おまえがいるから、」

「おそらく大丈夫だと思うけどな」


どういうこと?


「……長居は無用だろう」


と言って、

身体を車にねじ込ませる。


あれ?「棒」は?

あ、玄関前に刺さってるね。


御札のデコレーション……。

これか……。


それにしても、

道仁さんは、

2時間のドライブ大丈夫だろうか?


「案ずるな。修行だ」


山田さんが乗る前に、

助手席を運転席に合わせる。


なんか睨んでるけど知らない。


……………………


爆睡してる。

修行の人も爆睡してる。


少しお尻が痛い。

身体を伸ばしてみる。


街灯に照らされた、

ボロい青い怪しい会社の前だ。

丑三つ時を走り抜けた。


この建物も、

外観に窓らしいものはない、

と思っていたけど、

裏側の方、心なしか明るいな。


「着いたか……」


伸びをしながら出てくる山田さん。

道仁さんは脱出の儀だ。


古びた内戸を開けて、

書類棚の端から覗くと、

所長がソファーで腕組みしたまま寝ていた。

テーブルにはキャンプ用のLEDランタン。

意外と明るい。


「所長、ただいまです」


起きない。


「所長!」


ビクッ。


こっちもびっくりしたよ、

道仁さん。


「あ……お疲れさん、大変だったね」

「うん? 花畔君何してるの?」


そりゃないですよ、所長。


「山田さんに脅されて拉致されてました」


「おい」


「急ぐ話から片付けようかな」


「ではまず、」

「これを隔離していただきたい」


道仁さんがコンビニ袋を掲げる。


「それそれ」


と言いながら、

そそくさとクーラーボックスを開ける。

中に入れてから、

手袋を嵌めて触り始める。


「本人に見えるね」

「傷みは酷いけど」


「ちゃんと死んでるか?」


「腐ってるから大丈夫じゃない?」

「研究室に届くまで、」

「原型あるといいけどね」


蓋を閉める。

道仁さんが、御札を蓋の封印のように貼る。


「酷い目に遭ったよ、あれ見てよ」


所長の指す方を見ると、

白人エージェントを見た窓だ。


窓はおろか周囲の壁まで破壊されてる。

そしてダンボール補強。


「指令が出た途端、木村君が飛んで行ったの」


俺がテンパって所長に電話した頃、

事務所も十分にテンパってたみたいだ。


「誰もお怪我はないですか?」


「大丈夫だよ。びっくりしただけ」

「スマホ見てたらドンガラがっしゃんだもの」


所長が軽いのはともかく……。


「処分処置」という「指令」に対しての、

「エージェントの対処」の温度感がわからなくなる。


もっとも、飛んで逃げられた日にゃ、

どうしようもないのかもしれない。

実際、ベテランが逃げられてるし。


「処理班が、」

「無闇にその辺に埋めないでくれ」

「って言ってたよ?」


「感染者なんて、溶けてなくなるだろ」


「その後、消毒とかお祓いだから、」

「人の入れないとこはやめて欲しいってさ」


「やべ。木村、崖の真ん中に埋めたわ」


「あらら」


「奴の根城の遺体もあるしな」


「あ、それ動かない?」


「とどめを刺すまでもない、」

「酷いものだったよ」


「警察案件になっても面倒だね……」


「一応、阻害はしておいた」


「そこも気枯地だったりしない?」


所長はソファー。

向かいは山田さん。

横に道仁さんが仁王立ち。

俺は少し離れた、事務の誰かの席。


うん、いい距離だね。


「じゃ所長、」

「報告書は明日書きますんで、」

「お疲れ様でした!」


「帰れるわけないだろ」


「何故、帰れると思った?」


「処分出ちゃうよ?」


離脱失敗……。


「ついていけません」


ぶっちゃける。


「病み上がりの長期休職者に、」

「務まる任務ではございません」


「元気でしょ?」


いやぁ、所長そうじゃなくて……。


「今までも多少非合法かな?」

「とは思ってましたけど、」

「俺の理解できる範疇でした」


「非常識も通りすぎたので、」

「理解の外です。」

「皆さんの会話が、」

「宇宙人の会話に聞こえます」


「あいつら、」

「地球の言葉話すから、おんなじだぞ?」


ああ、もうorz


「今までのスポットは…、」

「山田さんの補佐の時は乱暴でしたけど、」

「概ね俺の能力内でできたんですよ」


「 対象に空飛ばれたら、尾行もできないんですけど?」


「山田君?」


「ええっとよ……」


頬を掻いてる。

会社と教育係の共有不足?


「花畔よ」

「言わんとすることは分からなくもないが、」

「山田の補佐や、」

「オヌシの単独の仕事でも、」


「対象者は概ね『感染者』だったぞ?」


言って。

そういうことは早く言って。

血の気が音を立てて引いていく……。


「ある程度は教えてよかったんだけど」


「だってよ」

「こういう反応するの想像つくじゃん」


今度は3人がこちらを見る。


「こいつ使い潰せないんだろ?」

「だからお手伝いだけしてもらったんだよ」


気遣われてた?


「『社外秘』が仇になってる感じだが、」

「こやつにはどこまで?」


「もう、僕レベルまではいいよ」

「他所に行かれても困るし、」

「今いてもらうと心強い」


所長が何故か、

とても優しい目で見つめている。


「全部知りたいんだろ?」

「だから俺のこと手伝ったんだろ?」


そうでした。

逃げた過ぎてすっかり忘れてました。


「とりあえず、」

「口を挟まず話聞いてろ」

「仕事の基礎だったりするからよ」


いや挟みたい。

退職の可能性を測りたい。


「何か言いたそうな顔してるけど、」


「抜けられねぇよ?」


悪い顔で笑う。


ダメだ。

ここ、悪の秘密結社だ。

千歳が正しかった……。


「まぁまぁ、あくまで調査よ、」

「うちのお仕事は……」


変身した人が、怪人やっつけるとこ、

間近で見てたんですけど。


あれ? ヒーロー側?


「法は守っといてよ?」


「なんで、こっち見んだよ?」


「で、次は『上津絵里』さんの話だね」

「死んでないんだって?」


「あれ、長く生きてるわ」

「能力使いこなしてる」


「よく埋めたね」


「まぁな。後ろからギュッとして、」

「心臓抜き取った」

「噛まれたけど」


どんな調査ですか? それ……。


「それぇ。なんで言わないの?」


「平気だと思ったんだよ」

「通達出た後だからな、『発症』したの」

「言ったら処分されるし」


「そこまで問答無用じゃないよ、多分」


「活かして働いてる例が、」

「ないでもない」


「大抵は精神性が変わって、」

「モノノケになるがな」


そんな危ないもの、

尾行したりタクシーに乗せたり

してたんだ、俺……。


手を上げる。


「なに?」


「要するに、」

「ここの仕事はその『感染者』の排除?」


「そんな単純なモノじゃねぇよ」


「少なくとも、」

「うちは『共存』を尊重してるよ」


「人に仇なすか、否かだな。境目は……」


「その辺りの『調査』が主だね」

「やることはやるし、」

「指令が出ることもあるけど」


「仕事する前に言ってください」


「言っちゃうと仕事してくれないじゃん」


やっぱり、

悪の組織のやり口だよ、それ……。




「お話や伝承によくある、」

「『吸血鬼』とか『狼男』とかさ」

「『魔女』や『悪魔憑き』なんかもそうか」


「日本だと『鬼』とか『妖怪』だね」


「この言い伝えの元になってるのが、」

「この伝染病」


事実だった、

ということですね……。

見たから否定もできない……。


「細かいとこは違うけどね」

「概ね人外の力を持っちゃう」


「そうそう、」

「山田君ちょっと見せてよ?」


渋々、上着を脱ぐ山田さん。


よく見たら、

下ボロボロだね。薄汚れてるし。


……それで車乗ってたんか……。


みるみる大きくなる山田さん。

全身銀色の毛に覆われて、

少しかっこいい。


上半身のボリュームが大きくなり、

手には鋭い黒い爪。


顔は雄々しい狼……。


猫?


そのデザインは、猫?

いや、元々丸系の顔だったけど。


猫?


前言撤回。

かっこいい、より可愛い。


「なんだよ?」


「ケットシー?」


「ぶん殴るぞ?」


「ワータイガーと言ってやれ」


「獣人系だねぇ。人食べたくなる?」


「ならねぇよ」


いや、緊張感。

なんでこんなモノ見て落ち着いてるの?

俺も大概だけど……。


「心が人であれば、」

「それは助けになるな」


「だからよ、再雇用ってことで」


「扱いはね、」

「『処分処置』の取り消しじゃなくて、」

「『保留』だって」


「はぁ?」


「首輪付きだ。精進しろ」


みるみる萎む山田さん。

ズボンの素材は考えないとね。


「でさ、『上津絵里』さんだけど、」

「上がどう言うか次第だねぇ」

「まぁ、山田君が出張る話になると思うけど」


上、処理班、研究所。

この組織の規模って……。


「あくまで、」

「うちは『調査会社』よ?」


もう、わからん……。

目の前には『妖怪』がいるし…


「…猫又」


「よし、おまえ隣に座れ」


首根っこ掴まれて、

大股開きの山田さんの隣に座らされる。


「言い得て妙だな」


「『上津絵里』さんと『木村将吾』君は、」

「連んでいた、」

「で、いいんだよね?」


「そう」


「木村君も長く勤めてくれたんだけどね」


「あっちに『リクルート』されたんだろうな」


あっちって……

化け物側?


「化け物と言うてやるな」


「彼の国が定義した、」

「『ヴァンピレラウィルス』と言われる種は、」

「知能も技能も、高い種族になる」


「見た目や能力は概ね、」

「『吸血鬼』だ」


「オヌシを惑わしたのも、この種族だ」


「木村は頭悪くなってたけどな」


「というより、」

「『欲』に飲まれてるのだろう」

「欲が増幅されるのも特徴だ」


「この種は、」

「昔から大きなコミュニティあるんだよ」

「最近悪さが目立つね」


と、所長。

悪さって詐欺とか?


「実力の上下はあるようだが、」

「組織立つような性質ではないんだがな」


「自己中が極まるからな」

「大抵性格悪いよ」

「誰が言うこと聞かせてるんだ?」


「それが問題なんだよね」


「そうそう」

「上津絵里」


上着から、

黒革の手帖を出し、

挟んでた写真を出した。


「本部の『パイプ』やってたぞ?」


「おおごとじゃないの」


大事だ。

素人でもわかる。

組織に潜入されてるってことだ。


あれ?

その写真……。


「KASIの人だ」


「はあ?!」


「この人と契約しました」


「そういうことかよ……」


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