蝙蝠
「調査会社」に逆らうと、
親類縁者に類が及ぶという、
そら恐ろしいことを、
山田さんは言い出した。
俺が下手打つと、千歳にまで話いくのか?
勘弁してよ……。
「今のところは、」
「おまえの動きは調査だからさ」
「だから、このルートを走ってる間は、
「何も言われない」
「まぁ、どこで何やってるのかは、」
「把握されてるよ」
「一斉送信だって、」
「おまえにゃ期待してないだろうしな」
「ただ……」
「ただ?」
「おまえが廃墟の2階で見たものが、」
「気になるっちゃ気になる」
「あれ、なんなんです?」
「断定はできないけどな」
「よく思い出して」
「布団の染みは血だけか?」
「肉とか骨とかない?」
そんなものあったら、
チビって逃げてる。
「シーツを捲ってまでは見てないだろ?」
はい、見てません。
確かに、シーツの下までは確認してません。
シーツの下にそんなものがあったら……。
確かに、あんな絵面になるかも……。
「なんなんですか」
「殺人鬼でも潜んでたんですか?」
「当たらずとも遠からずだな」
「ただ『それ』は……」
「俺達にとっても、」
「会社にとっても敵だから」
「あれ?なら位置特定されたのって……」
「俺がケースから出した」
「なんで?」
「引っ張り出せるかと思ってさ」
「なにを?」
「復帰する足掛かり」
「それって何?」
「君をハメたお仲間に会えるかもよ?」
「どう考えても嫌な予感するんだけど」
「俺が殺し合いで役に立つと思ってる?」
「運転手で役に立ってくれよ」
ああ、もう。
「実戦は任しといてくれよ」
「武器も手に入れたしな」
「不本意だけど」
「実戦あるんだ……」
「あ、そっちに曲がってくれ」
「ちょうどよさそうな別荘地があったはず」
何にちょうどいいんだよ……。
この辺の別荘地といえば、
小高い丘から海を眺めるとこだな。
「よし、そこだ」
やっぱりね。
展望台。
星や月や海がよく見えるように、
灯がないんだよ、この辺は……。
「エンジン切って。明かりもつけるなよ」
……鈴虫が鳴いてるねぇ。よく聴こえるわ。
「何待ちですか?」
「待ち人来らず、」
「かもしれないしさ」
「真面目にですね、」
「もう少し情報をですね……」
「知らないで済むなら、」
「知らない方がいいんだよ」
「来ちゃったらごめんだけど」
一般人巻き込まないで……。
「でもさぁ、」
「はなちゃんが役立たずだなんて、」
「俺思ってないよ?」
「あの土地を持たされるくらいだからさ」
「それも意味わからんのですよ」
「俺が所有したからって、」
「なんなんだっての?」
「封印だろうね」
「へ?」
「おまえが状況を作って、」
「道仁が要っただろう?」
道仁。
ああ、あのキャラの濃い人だ。
やっと思い出した。
「あそこに何か建てるなら、」
「神社なんだよな」
そういう話?
そういえば、
元々神社なんだって言ってたな。
なんでアパートなんか建ててたんだ?
「ごめん、来ちゃったわ」
「ふえ?」
来たって、何が?
目を凝らして見る。
昼間と違って月が出ている。
薄ぼんやりとは明るいが、
いかんせん一般人には闇と同じです。
「目線が違うぜ。上だ」
「上?」
空?
綺麗なお月様しか見えないんだけど……。
うん?
あのシルエットって、コウモリ?
「合図したらすぐエンジンかけろ」
「ちょっくら話し合ってくるからさ」
話し合う?
何と?
車は出口に向けてるけどさ、
スパイみたいに上手くできないよ?
「よう! 木村。元気にしてるか?」
木村?
あのコウモリ、サイズおかしくね?
「バラしたのおまえだろ?」
地上に降りたコウモリが喋り出した。
「金もパクったよな?」
「パクったのはおまえだろ」
コウモリの羽で丸まってるけど、あの顔は木村さん?
木村将吾。
山田さんと一緒に「処分処置」の対象だ。
「まさか『感染者』が、」
「紛れてるとは思わなかったからな」
「盛大にバラしてやったさ、」
「あと何人いる?」
「少なくとも『1人』なら知ってるぞ?」
コウモリが笑う。
「おまえらタチ悪いんだよ」
「人喰いだけじゃなく詐欺もするってか?」
お怒りだ...
「能力使って何が悪い?」
「絵里には感謝してほしいもんだな」
「おまえ、強くなったろ?」
「ああ。お礼に埋めてやったけどな」
「それだよ」
「まず金返せ」
「そして死ね」
「金かよ」
爆笑する山田さん。
そして上着を投げる。
さっきとは比較にならないほど、
身体が大きくなっていく。
月明かりに照らされて、
とても美しい銀髪の獣になった。
対照的に、
怪物になっていく木村。
まさにコウモリ男だ。
「地べたを這うタイプになる辺りが、」
「おまえらしいな、山田!!」
動きが見えない。
なんだろう?
ストップモーションのような、
ゆっくりな動きなのに
……追えない。
山田さんは、
なんか翻弄されてる。
水飛沫みたいなものって、血?
と、思ってたら、
山田さんも消えた。
ズドン!!
地震みたいな地響きがした。
木村の羽を引き千切らんほどに引っ張って、
背中を踏みつけている。
「地べたタイプはな、パワータイプなんだよ」
ああ。引き千切っちゃった。
「さすがに頭取ったら死ぬよね?」
「証拠に持っていくわ」
俺、目を逸らしたので何も見てない。
見てません。
「なんかコンビニの袋とかない?」
あるにはある。
何を入れるかは聞かない。
「いらないとこ埋めて、」
「ちょっと水浴びしてくるわ」
「下の方に海水浴場あったはずだ」
はい、そうしてください。
血まみれの人乗せたなんて言ったら、
千歳がひっくり返ります。
1人になった。
「はあああああぁぁぁ……」
本日2度目の、
しゃがみ溜息である。
当然、頭を抱えている。
でも、山田さん強くてよかった。
車から出ないで済んだ。
あれがこっちに興味持たなくて、
本当によかった。
「ゴジラ対キングギドラじゃないか……」
いや、キングコング対か?
実写デビルマン……。
口止めされるんだろうけど、
他人に話せる気がしない。
俺がバカにされる。
「よく平気で、こんな濃い瘴気の中にいるな」
何?この地獄から響くような声は?
「久しぶりだな」
いや、シルエットしか見えないけど……。
ああ、山田さんに負けないくらい小汚い人。
道仁さん……。
「その節は……」
一応、立って頭を下げる。
記憶はあまりない。
なんでここにいる?
「山田は?」
それか。
「いやぁ……1人ですよ?」
「面倒くさい嘘をつくな」
そうですね。
「遠目には見ていた」
「それ、その袋改めるぞ?」
はい。
手伝わなくていいなら、
いくらでも見てください。
「木村は完了だな」
「言っておくが、触るなよ?」
触りませんて……。
「時に、」
「エージェントになったそうだな」
「どう仕事をしていくつもりだ?」
そんな声で詰問しないでくださいよ……。
「ここに至っては俺が聞きたいです」
「ふむ。これも経験だ」
「精進するんだな」
「しかし、」
「山田と与するなら、」
「その限りではないぞ?」
あらヤバい……。
ドン!
さっきよりは軽い地響きがした。
「よおぅ、道仁」
人間の山田さんだ。
「久しいな」
「まぁ、通達はわかるけどよ、」
「解決したぜ?」
「オヌシが、」
「人間に戻れたわけではあるまい?」
「リーサル・ウェポンってことで」
「雇ってくれないかな?」
「わしの一存ではな」
「人喰わなきゃいいんだろ?」
「正気を保てるのか?」
「根性で」
「まずはよ、」
「『感染者』2体処分したわ」
「こいつの根城も当てがある」
「あんたが立ち会いになってくれよ」
「ふむ……」
「一報入れる。しばし待て」
脱ぎ捨てた上着を、
素肌に通してる山田さんに囁いた。
「これが『なんとかなる』?」
「俺自身が有用になるしかないからな」
「相分かった。では、検分に行こうかっ!」
道仁が遠くから大声を出す。
近所迷惑だ……。
検分? どこに?
「おまえがカモられた廃墟だよ」
え?
こんな夜中に?
ほんとに?




