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強化倍率∞ ~最弱スキル《超強化》だけで大陸を制した男~  作者: 伝説の男前
第一部 覚醒編

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第1話 「ハズレ」

黒崎レンが最後に覚えているのは、コンビニの帰り道、夜道に響いた自分のスニーカーの足音だった。


気づけば、足の下にあったのはアスファルトではなく、冷たい石の床だった。


高い天井、幾何学模様に彫られた石柱、壁一面を這う紋章――その紋章の意匠だけは、レンにもどこか見覚えがあった。鉄十字に似た、けれど微妙に線の角度が違う十字紋。エイゼンライヒ国の国章だと、後になって知ることになる。


「これは……」


声を上げたのはレンだけではなかった。周囲には、レンと同じように呆然と立ち尽くす若者たちが十一人。制服姿の者、部活帰りらしいジャージ姿の者、スーツの者もいる。国籍も年齢もばらばらに見えるその集団を、居並ぶ甲冑姿の兵士たちが取り囲んでいた。


「静粛に」


低く、よく通る声だった。壇上に立つ壮年の男――白髪交じりの髪を後ろに撫でつけ、勲章をいくつも下げた軍服姿の男が、集められた若者たちを見渡す。


「諸君らは今しがた、我らエイゼンライヒ国が総力を挙げた召喚の儀により、異界より招かれた。私は統領、レオンハルト・フォルスト」


どよめきが起きる。統領――この国で最も高い地位にある者が、直々にこの場に立っている。それだけで、ただごとではないと誰もが悟った。


「大陸はまもなく、かつてない規模の戦火に包まれる。我が国もまた、その渦中に立たされるだろう。諸君らには、その戦火を制する力があると、儀式は告げている」


統領の言葉に合わせて、若者たちの足元の石畳が淡く光り、それぞれの前に半透明の文字盤のようなものが浮かび上がった。レンにも見えた。自分の名前と、見慣れない言語で綴られた何かの項目。


「これより、諸君らの『恩寵』を測る。列の右から」


一人目の若年――東洋系の顔立ちの青年が壇上へと進み出ると、彼の前に浮かぶ文字盤が輝きを増した。近侍の文官が声を張り上げる。


「《剛力無双》! 数値、規格外です!」


歓声が上がった。二人目、三人目と続く。《瞬速》《絶対防御》《炎術極致》――次々と読み上げられる恩寵の名に、居並ぶ将軍たちの顔に喜色が広がっていく。統領の口元にも、かすかな笑みが浮かんでいた。


そして、順番はレンに回ってきた。


「黒崎レン……恩寵の名は……」


文官の声が、途中で止まった。文字盤を覗き込み、もう一度読み上げる。


「《アイテム超強化》……?」


しん、と場が静まり返った。誰かが小さく噴き出す声が聞こえた。


「なんだそれは。聞いたこともない」


「剣も振れず、拳も鍛えられぬということか」


「ハズレを引いたな、あの東洋人は」


ひそひそとした囁きが、レンの耳にも届く。レンは俯いたまま、何も言い返せなかった。それもそのはずだ。自分でも、自分に何が起きたのか分かっていない。ただ、目の前に浮かぶ文字盤の説明書きだけは、なぜか意味がすんなりと頭に入ってきた。


――《アイテム超強化》。対象への理解度に応じ、道具・兵器の性能を際限なく強化する。使用者本人の身体能力・戦闘技能には作用しない。


「……道具を、強くする力」


思わず呟いたレンの声を、壇上の統領が拾った。


「面白い」


意外にも、統領はそう言った。将軍の一人が慌てて進言する。


「統領、この者の恩寵は戦力として計上できません。前線に置くには危険すぎるかと」


「だからこそ、だ」


統領は薄く笑った。


「使い道のない恩寵など存在しない。使い道を見出す知恵がないだけのこと。――だが、それを見極めるのは戦場の役目でいい。この者は、他の十一名と共に東部戦線へ送れ」


「統領、それは……」


「異論は聞かん。招いた恩寵の真価を試す場は、いつだって戦場だ」


冷たい響きだった。レンはようやく理解した。自分は今、期待されて前線へ送られるのではない。むしろ逆だ。価値のない駒として、真っ先に消耗される場所へ押し出されようとしているのだと。


儀式の広間を出るとき、近侍の兵士が投げるようにレンの手に押し付けたのは、鞘も擦り切れた錆びたナイフ一本と、ひび割れた木の盾一つだった。


「装備は各自で調達しろとのことだ。お前にはこれで十分だろう」


兵士はそう言い捨てて、さっさと踵を返してしまった。


レンは、手の中の錆びたナイフを見下ろす。刃こぼれし、柄の巻き革はほとんど剥がれかけている。こんなものが、これから始まる戦争でどれほどの役に立つというのか。


――でも。


レンの脳裏に、あの文字盤の説明書きが蘇る。


理解度に応じて、際限なく強化する。


「際限なく、か……」


誰に聞かせるでもなく呟いた声は、広間の喧騒にかき消されて、誰の耳にも届かなかった。


それが、後に大陸の戦史を塗り替えることになる青年の、最初の一歩だった。


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