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3.ギルバートはミニマリスト?

 ギルバートの7歳の誕生日、兄は教会での魔力検査のためにグリモード伯爵家に帰省していた。


教会へ魔力検査に行っていた両親と兄が帰宅すると、すぐにクリスティーナが執務室に呼ばれた。

 

バタバタ、タ、タ、タッ……バンッ!

「お兄しゃま!どうでしたか!」


執務室まで全速力で廊下を走ってきたクリスティーナは息を切らしながら、執務室に飛び込んだ。


「クリス……。レディは廊下を走らないぞ……」と、勢いよく部屋に入ってきた娘を父は残念なものを見る目で見た。



「おっ!クリス来たか!まずはソファに座って息を整えてからな」


「はい、ギル兄しゃま!」


クリスティーナがソファに座ると、ギルバートが魔石の付いた指輪を差し出した。それはシンプルな銀色の台座に青色の小さな石が付いている指輪だった。


「クリス、これを嵌めてみて」


クリスティーナは言われるがままに指輪を嵌めると、ズンッと体が重くなり力が抜けていくような感覚になった。


「ギル兄しゃま、これは……。指輪を嵌めた途端に体が重くなりました」


ギルバートは、「もう外していいよ」とにっこりしながら青い魔石の指輪をクリスティーナの手から抜き取った。


「この指輪は、自分の魔力を一時的に移せる魔道具。今日、教会で魔力検査を受けた時に、この指輪を嵌めて検査受けた。結果は魔力無しと判定されて上手くいったよ」


クリスティーナは、ホッと安心した顔で兄を見上げた。

 

「良かったでしゅ!これでお兄しゃまが王国魔術師団に連れていかれることはなくなりましたね」


「あぁ、クリスもこれを着けて魔力検査を受ければ大丈夫だ」


父は、ふと難しい顔になると、兄にメナード辺境伯について尋ねた。

 

「ところで、この魔道具のことは、辺境伯はご存知なのか?」


クリスティーナは、隣に座る兄の拳にギュッと力が入ったことに気がついた。

 

「いいえ……。辺境伯はガイに無関心で、この魔道具のことを知っているのは、うちの家族と俺らの師匠だけです」


「そうか、辺境伯はご存知ないのか……。その師匠という方がガイ様を守ってくれているんだな。その師匠は、どんな方なんだ?」


「レイ師匠は、何というか……一言でいうと自由な方ですね。俺達に魔力があるってわかってからは、魔力持ちだと国にバレない方法を色々と考えてくれたり、魔道具作りも師匠に指導を受けました」


「魔道具も作成できるとは……」


父は驚いた様子で、兄に話を促した。


「師匠は、魔法協会に登録している魔術師だって言ってました」


「なんと!魔法協会には、特級魔法が使える者のみしか登録ができないんだ。しかしなぜ辺境伯騎士団に?」


「辺境伯領で魔獣のスタンピードが起きた際に騎士団の戦力だけでは止められなかったと、辺境伯が魔法協会へ魔術師の派遣を依頼したらしいです。あのスタンピードで辺境伯夫人は亡くなりましたから」


母は、過去の悲惨な魔獣災害を思い出し、眉を寄せた。

 

「そうだったわね……。夫人も素晴らしい剣捌きをされる方で、辺境伯様と一緒に魔獣討伐に参加されていたから」


父も辺境伯領で大きな被害をもたらした魔獣災害を思い出し、眉を寄せて暫く無言でいたが、はっと何かを思い出したかのように顔を上げた。

 

「ギル、12歳になったら王立学院に入学する年になるが、騎士団はどうするんだ?」


「あっ、俺、王立学院じゃなくて、ガーラ国に留学するつもりです。ガイも留学するって言ってるし。それにガイが留学する時には、レイ師匠もガーラ国に戻るっていってたから」


隣国のガーラ国は、近隣諸国では一番大きい国土を持ち、魔法協会も本拠地を置く魔術の発達した国で、現国王も良政を敷く皆が憧れる国であった。


「そうか、ガーラ国は魔法が盛んだから、留学して向こうで魔法を学んでくるのもいいかもしれんな。ガーラ国にはうちの商会の支店もあるし屋敷もあるから、私達も頻繁に会いにいけるし……。そういうことなら、クリスも留学して向こうで魔法を学んできたらいいんじゃないか?」


「そうでしゅね……。こちらの教会や王族に目を付けられる前に、私もガーラ国に留学しましゅ」


ダリオン国の王族は、国王も王妃も殆どの政務を宰相に丸投げしており、この国で実質の権力を握っているのは宰相であるパルマ侯爵であった。彼は自分の派閥以外の領地には厳しい税を課したり、王宮の文官も全て自分の派閥の貴族からのみ採用していた。そして教会もパルマ侯爵には逆らえず、いわれるがままに魔力持ちを国に差し出していた。



クリスティーナは、話題に上がっていた辺境伯令息について気になり、兄にどんな方なのか聞いてみた。

 

「お兄しゃま、辺境伯令息はどんな方でしゅか?」

 

兄は説明に困ったような顔をしながら答えた。

 

「ん~、ガイは、仮面被ってる」


「「「仮面?」」」


母は、どういうこと?と、首を傾げた。

 

「辺境伯夫人の葬儀の際にお見かけした時は、可愛い顔でいらっしゃったけど……」


ギルバートは、言い淀んでいたが、顔を上げて話始めた。


「これは他言しちゃいけないんだけど……。ガイからうちの家族には言っていいよっていわれてるから話してもいいか……。俺が辺境伯騎士団に見習騎士として入団してから数か月後に、ガイの顔が消えたんだ。ずっと仮面をつけてるからガイの顔が消えたってことは辺境伯と専属侍従しか知らない。皆には魔獣にやられて顔に傷があるからってことになってる。でもガイは、性格は真っすぐでスゲーいい奴だよ。辺境伯の好意で俺とガイは一緒に家庭教師の授業受けてるんだけど、俺もびっくりするぐらいスゲー頭いいし、剣の上達も早い。俺より1歳下だとは思えないぐらいスゴイ奴だよ」


「顔が消えたって……。お兄しゃま、どういうこと?」


「理由がわからないらしいんだ……」

 

母は、悔しそうな表情で答える兄の背中に優しく手を当てた。

 

「メナード辺境伯は?メアリ夫人が亡くなられてから体調を崩されたって噂があったけど」


「実は、辺境伯夫人が亡くなってから、ガイもほとんど辺境伯に会ってないらしいんだ。ずっと国境の砦にいるらしいよ。月に一度は辺境伯城に帰ってくるけど、執務室に篭りっきりで、早朝に夫人のお墓のある墓地に向かう姿を見かけるだけだって言ってた」

 

「そう……。ギル、ガイ様を支えてあげなさいね」


「わかってる。ガイは俺の親友だからね」


♢*♢*♢*♢*♢*

 

次の日、クリスティーナが商会の帳簿の確認をしていると、ギルバートが執務室に駆け込んできた。


「クリス!仕事が終わったら俺の部屋に来てくれないか?俺の部屋の断捨離が完了したんだ。俺達の魔力が発覚してから、すっかり断捨離のこと後回しになってたけど、魔力検査も終わったし、スッキリしたくてやってみたよ」


「ギル兄しゃま、私もしゅっかり忘れていましたわ!今しゅぐ行きましょう!」


クリスティーナは、ギルバートの手を引っ張ると、駆け足で兄の部屋へ向かった。


ギルバートに手を引かれて部屋に入ると、部屋の中にはキラキラした日の光が窓から差し込み、美しく神々しい空間となり、クリスティーナはしばらくの間、目を見開いてうっとりと部屋を眺めていた。


「しゅごい……!これは断捨離を超えたミニマリストでしゅね……」


ギルバートの部屋はほとんどの物が無くなり、クローゼットの中も正装の服が3着と、他は黒のパンツと白いシャツ、そしてジレとジャケットが数着のみとなって、部屋もクローゼットも必要最低限のもの以外ほとんどの物が処分されていた。


「ミニマリスト?片付けをしてたらさ、今の俺には必要ないものばかりだったことに気が付いて、どんどん仕分けしていったら、こうなった。俺が本当に大切なものは、家族と親友のガイだけで、物って別に必要ないなって、片付けしながら思ったよ」


光が差し込む清々しい空間を見つめていたクリスティーナは、小さく口を動かした。


「放てば手に満てり……」


「ん?なんて?」


「今、前世でしゅきだった言葉を思い出しました。『放てば手に見てり』という言葉があったのでしゅが、執着から手を放すと本物の大切なものに気づくという意味でしゅ」


「なるほど……。少しわかるような気がするよ。ほとんどの持ち物を処分したら、自分自身がクリアに見えてきたんだ。それに、なんだか今まで『これが普通で常識』だと思ってたことが、なんでそんな価値観や偏見を持ってたんだろうって思えるようになった。昨日、断捨離したばかりなのに、こんなにすぐに自分の意識が変わるなんて思ってもみなかったよ」


クリスティーナが兄に前世のミニマリズムや禅宗の思想について説明していると、ドアをノックして両親が部屋に入ってきた。


「まぁ!ギル、思い切ったわね~!スッキリして清々しい空間になってるわ。セバスからギルが部屋の断捨離してるって報告があったから、早く見てみたくてウィルを連れて来ちゃったわ。」


「これは凄いな。ほとんど物が無いのに寂しい感じがしない。むしろ清々しい空間になっている」


母は、部屋の中を見回しながらキラキラした表情で父に振り返った。


「ウィル、次は私達ね。私も断捨離してみたいわ!」


「あぁ、次の休みは3日間は取れるように調整しよう。この部屋を見てたら、私も不要なものをそぎ落として、身軽になりたくなってきたよ」


両親は顔を見合わせると「よし!」と頷きあいながら、休みを確保するために速攻で仕事を片付けに仕事場に戻っていった。



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