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13. ガイの選択

  レイとガイが転移で辺境伯城に着くと、城の入口で待っていた辺境伯の側近が、彼らをすぐに辺境伯の部屋に案内した。


「セイランの怪我の具合は?」


「部下を庇い、正面から魔獣の攻撃を受けて、爪で腹部を深く切られました。意識が無く、治癒魔法を全く受け付けないので応急処置のみしか……」


部屋に入ると、治癒師が辺境伯が横たわるベッドの側についていたが、どんなに治癒魔法を施しても辺境伯が治癒を拒否して魔力で弾かれるため、このままだと今夜まで命が持たないと告げられた。辺境伯は夫人が亡くなってからは生きる目的を失い、ずっと死に場所を探していたことを、辺境伯の側にいた者達は皆知っていた。


「父上……」


ガイは、涙を堪えながら横たわる父親の側に立った。


レイは、頭を掻きながら「あ〜、もう世話の焼ける弟だ!」と、横たわる辺境伯に大声で怒鳴った。


「セイラン!聞こえているんだろ、目を開けろ!」


辺境伯は、レイの声が聞こえたのか、薄っすらと目を開けるとベッドの側に立っていた二人を見上げて小さく呟いた。

 

「王弟殿下……、ガイ……」


「お前、死ぬ間際ぐらい、お兄様と呼べ!」


辺境伯は、目尻を下げて微笑むような表情をした後、「すまなかった……」と、ガイに一言だけ言って目を閉じ、そのまま眠るように息を引き取った。


レイは辺境伯の手を取り、辺境伯の体から魔力が消えたのを確認すると無言で辺境伯の顔を見つめていたが、側にいた者達に辺境伯に近しい者達を部屋に呼ぶように指示をすると、部屋に居た者達は涙を堪えながら慌ただしく部屋を出て行った。


ガイは涙を堪え、握り込んだ拳を振るわせながら、横たわる父親の側に立ち尽くしていた。


「ガイ、大丈夫か。これから辺境伯の葬儀が終わるまでは、お前が当主代理となる」


「当主代理……。俺が……」


「お前は、どうしたい?このメナード辺境伯領を継ぐ気はあるか?」


「えっ……。俺に、辺境伯を継ぐ以外の選択肢があるんでしょうか」


「いくらでもある。お前がメナード辺境伯領を継ぐ気持ちが無いのであれば、分家に当主を譲ればいい。分家のグルフスタン伯爵家の先妻の息子が辺境伯の副騎士団長をしているから、そのまま当主兼騎士団長を継いでもらうことも可能だ。そうすれば、お前はただのガイとして暮らしていける。俺がお前の後見人になるから、経済的なことは心配しなくていい。そして、他にも選択肢はあるんだが……それは、後日話すとしよう。まあ、まだ時間はある。じっくりと考えてみなさい」


分家のグルフスタン伯爵には、先妻の息子が1人と、後妻との間の息子と娘のフェミリアがいた。先妻の息子は、跡目争いを避ける為、自分は本家であるメナード辺境伯騎士団に入るからと、グルフスタン伯爵家の相続を放棄していた。


暫くすると、辺境伯に近しい者達が部屋に集まり、辺境伯に別れの挨拶をした。そして、それぞれの別れの挨拶が済むと、辺境伯に長く支える従者が一歩前に出てガイの前に跪いた。


「ガイ様、辺境伯当主が亡くなられても不安になられることはありません。ガイ様が成人されるまで、私達がこの辺境伯領を御守りいたします」


その場にいた者達は、皆跪くとガイに向かって頭を下げた。


「皆んな、ありがとう……」


葬儀が終わり、当主代理を決める話し合いが持たれた。そして、ガイが学院を卒業するまでは、副騎士団長のグルフスタン伯爵家長男のガルフが辺境伯当主代理を務めることになった。


転移でガーラ国に戻る日、レイとガイが辺境伯城の玄関ホールに降りていくと、辺境伯城で働く者達が全員整列して、階段を降りてくる二人を待っていた。


当主代理を務めるガルフが、前に出て胸に手を当て騎士の礼をした。


「ガイ様、私はガイ様が戻られるまでの代理です。いつでも戻られたい時に帰郷してください。メナード辺境伯領の民達一同、ガイ様のご帰郷をお待ちしております」


「ガルフさん、皆んな、ありがとう。……いってきます!」


「「「「「「いってらっしゃいませ!」」」」」」

 

「ガルフ、何かあったら俺を呼べ」


「レイ様、ありがとうございます」


レイが手を掲げるとキラキラした魔法陣が開き、レイとガイの姿が玄関ホールからスッと消えた。




辺境伯城から転移した二人は、ガーラ国の王宮の前に来ていた。


「ここは……?」


「ガーラ国の王宮だ。国王にセイランのことを伝えにいかねばならん。ガイ、お前にも伝えることがある」


「俺に?」


「ああ、国王からお前に打診がある。嫌なら断っていい。まあ、とりあえず話だけ聞いてやってくれ」


ガイは、レイからガーラ国の王宮を案内してもらいながら、国王の私室に着いた。


「国王様、レイノルド王弟殿下がいらっしゃいました」


案内されて部屋に入ると、レイと同じ色を持った国王がソファに座り穏やかな表情で二人を迎えてくれた。


「ダリオン国メナード辺境伯長男のガイと申します」


「ガイ、堅苦しい挨拶はよい。疲れているところ呼び立ててすまんな。さぁ、座りなさい」


レイとガイが国王の前のソファに座ると、控えていた侍従がお茶を運んできた。そして王は、国王の側近だけを残して人払いをさせた。


「ガイ、私と君との関係はもう知っているね。セイランは私の弟で、君は私の甥にあたる。セイランが亡くなったばかりで君にこんな打診をするのは厳しいことだと思うが、単刀直入に言う。ガイ、私の養子にならないか?」


「養子……ですか」


「あぁ、つまりこの国の王太子になってもらいたい。私には子がいない。そしてレイノルドも未だ婚姻もしていない。王族の血を引く者で一番の継承権をもつのが君だ。この国の王族は全て紅の髪に金色の瞳を持つ。その色を持つ者が王になることが暗黙の了解となっている。この色はね、竜人族の色なんだ。この国を建国したのが竜人族で長い間に人族の血も入ってきたが、王になるのはこの色を持つ者と決まっている。そしてその色を持つ継承者は、この国には君しかいないんだ」


ガイはチラッと隣りに座るレイを見ると、レイはガイの意図を察して、ゆっくりと頷いた。そして、ガイは国王の目を見るとゴクリと唾を飲み込んで口をひらいた。


「もし私がこの話を断ったら……」


国王は、安心しろという表情で微笑んだ。


「その時は、この国の王政を解体して新しい仕組みを作ろうと思っている。王政の廃止だ。君がこの国を継がないのであれば、王政を廃止しようと以前から考えていた。君はあと半年で王立学院を卒業する。そして高等学院に進む予定であったな……。王立学院を卒業するまでに返事をもらえるか?」


「畏まりました。即答できなくて申し訳ありません。少しお時間をください。……あっ、私は皆の前で仮面を外すことが出来ません。こんな私でもいいのでしょうか?」


「大丈夫だ。その件に関しては、レイノルドが解術する方法を探っているところだ」


レイは力強くガイの肩を叩くと、ガイの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。


「ガイ、もう少し待っていてくれ。必ず、顔を取り戻してやる」




王宮を出ると、レイとガイは、すぐにグリモード伯爵家のタウンハウスへ転移してきた。執事からガイが帰ってきたことを伝えられたクリスとギルバートは、全速力で屋敷の階段を降り、談話室のドアを開けた。


「ガイ!」「ガイ様!」


「ギル、クリス、ただいま」


二人はガイに抱きつくと「「お帰り(なさい)!」」とぎゅっとハグした。


ガイはレイに振り向き「二人にはあの話をしてもいいですか?」と許可を取ると、レイは優しい表情で頷いた。そして、ガイは二人に国王から養子の打診があったことを話し、これから自分はどうすべきなのか迷っていることを相談した。


「ガイはどうしたいんだ?メナード辺境伯当主を継ぐのか?ガーラ国王の養子になるのか?それとも特級魔術師として各国を周って仕事をしていくのか?」


「どの道を選択するべきなのか、わからないんだ……」


クリスティーナは話を聞きながら、自分ならば……と考えた。


「ガイ様、まずはそれぞれを選択した場合の自分の気持ちを想像してみるのはどうでしょうか」


ガイは目を瞑り、クリスティーナに言われたように、それぞれの選択をした場合の自分を想像してみた。


選択1:メナード辺境伯当主を継ぐ

家族のような辺境伯領の皆んなと領地を守っていく自分。そして、結婚して……?でも、父のように番に出会ってしまったら、辺境伯の皆んなに迷惑かけてしまうかもしれない。それは恐い……。それに、俺にはメナード辺境伯の血が入っていない。分家のガルフさんの方が正しい継承者なのかもしれない……。


選択2:ガーラ国王の養子になる

竜人について秘密裏にされていることを知ることが出来る。今までは、自分に竜人の血が流れていることに目を背けていたが、俺の祖先である竜人族については、ずっと知りたかった。自分の中の恐怖に打ち勝つには、恐怖の対象を知って、分析する事が大事だ。でも、養子になる事を了承したとしても、顔を取り戻すことが出来ずに仮面を付けたまま立太子したら、みんなの反感をかうだろう。


選択3:特級魔術師としての仕事に従事する

色んな国の仕事を受けて飛び回る生活。刺激があって楽しいかもしれないが……。あれ?俺は魔術師になって、何がしたいんだ?


俺が今、一番したいこと……。

俺は自分に流れる竜人の血が恐い。父のようになってしまうかもしれない自分が恐い。……恐怖に打ち勝つために竜人族について、全てを知りたい。知らなければ、自分の中の恐怖を払拭出来ない。王太子になるのは面倒だけど、竜人族について調べたいなら、この選択が一番いい。


俺は、覚悟を決められるか……?



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