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12. ノーサンプトン侯爵令嬢の断捨離

 クリスティーナとフェミリアは、ローラからのお茶会に誘われ、ローズレッドのバラが咲き誇るノーサンプトン侯爵家の温室で美味しいお菓子と香り高いお茶を楽しんでいた。


ローラは、クリスティーナ達と学院の中庭で話をした日の夜、両親に学校でサヴィル侯爵令息に婚約破棄されたこと、そしてジョージに会う度に自分の目が気持ち悪いと言われて自分は醜いと自己不信となり、家を出て修道院に入ることまで考えていたことを伝えた。娘からの告白に驚いたノーサンプトン侯爵夫妻は、自分達が王宮魔術師としての仕事に追われ、娘がこんなにも思い詰めていたことに気づくことが出来なかったことを詫びた。


ノーサンプトン侯爵家は昔から高魔力を持つ家系で、侯爵夫妻は王宮魔術師としての仕事が忙しく、家を留守にすることが多かった。ローラは一人っ子で身近に相談する者もいなかったため、ずっと自分一人で苦しい思いを抱えていたのであった。


ノーサンプトン侯爵は、すぐにサヴィル侯爵家に婚約解消の件を確認すると、サヴィル侯爵夫妻は息子が勝手に婚約破棄を告げていたことを知り、ジョージを部屋に謹慎させて婚約の継続を願ったが、ノーサンプトン侯爵は、これ以上ローラを傷つけることは出来ないと婚約解消を押し切った。


そしてノーサンプトン侯爵は、娘の心を少しでも癒すためにと、春のような暖かい温室でローズレッドのバラを満開に咲かせた。

 


「クリスティーナ様、フェミリア様。先日は私のお話を聞いていただきありがとうございました。両親にも私の本当の気持ちを伝えることが出来ました。そして無事に婚約解消もできました。……それで、あ、あの……」


「ローラ様、良かったですわね。これからは……、んっ、どうされました?」


ローラは、前髪で隠した顔を上げると「あの……、わ、私が自信のある女性になれるようにアドバイスをいただけないでしょうか!」とクリスティーナの手を握った。


クリスティーナは、フェミリアと目を合わせるとニッコリと笑顔で頷いた。


「そのつもりで、今日はフェミリア様とお伺いしました。ローラ様が大好きな自分になれるように、お手伝いさせてください!」




ローラは温室でのお茶会の後、クリスティーナとフェミリアを自室に案内した。


「まぁ、素敵なお部屋です!本が沢山あって、ローラ様の好きが溢れている空間ですね」


「あ、ありがとうございます。私、自室にいる時だけが癒される時間だったんです。ここでは、誰も私を傷つけることはありませんから……」


「ローラ様の大切な空間なのですね。ローラ様は、これからどんな自分になりたいですか?この部屋の空気のような落ち着いた優しい感じですか?」


クリスティーナがそう言うと、フェミリア様が近くにあった真っ白なウサギのぬいぐるみを抱いて、ローラ様に振り返った。


「ローラ様。私は騎士になりたいと、女の子らしくない恰好でおりますが、実は柔らかいフワフワしたぬいぐるみが大好きなんです。私の部屋はシンプルな飾り気のない部屋ですが、ベッドの周りには大好きなぬいぐるみ達がたくさんいるんです。外での私はクールな凛々しい女性を装っておりますが、自室に戻るとぬいぐるみに囲まれている女の子になるんです。外で装う自分と、自分の内面は違ってていいのだと思います。だって、両方とも大好きな自分なんですもの。外での凛々しい自分という鎧を付けた私も、ぬいぐるみに癒されている私も、どちらも大好きな自分なんです」


フェミリアは、以前クリスティーナのアドバイスで断捨離をしてから、自分の好きなものや、自分が理想とする姿を見つけることができた。そして、自分の理想に近づきたい一心で、周りからなんと言われても自分の意思を貫いた。始めのうちは、常にパンツスタイルの彼女を女性らしくなくみっともないと悪く言う者もいたが、今では男装の麗人といわれるまでになり、フェミリアの中性的な魅力にたくさんの女性が魅了された。


「鎧、ですか……」


「この方法が正しいのかはわかりません。でも、外での態度や服装を凛々しい印象に変えたら、自分の気持ちも外見に引っ張られるように、凛々しく振舞えるようになったんです。

鎧が重くなったら、外してしまえばいいですから。以前の私は、自分の意思を持たない弱々しい印象だったと思います。自分の理想とする振舞が出来るようになったのは、まず外見を自分の理想のイメージに変えたからできたんだと思います」


クリスティーナは、ローラとフェミリアの会話を聞いて、『鎧を身に着ける』という言葉について考えていた。周りに持ってもらいたい自分の印象……。


「そうね……。鎧って、理想の自分と今の自分を繋ぐものかもしれないですね。……勇気をくれるもの」


クリスティーナがポツリと呟いた。


「そう!クリスティーナ様、まさにそれです!鎧って、勇気をくれるものなんです。騎士も鎧をつけると敵と戦う勇気が出ます!身を守ってくれますから!」


ローラは、ハッとした目で二人を見上げた。


「外で自分を守るために鎧をつける……。クリスティーナ様、フェミリア様、私、鎧を身に付けます!」



三人はローラの理想とする鎧について話し合い、ローラが憧れる王立図書館の司書をイメージすることにした。派手ではないがシンプルな装いで、きっちりと髪を結い上げて姿勢よく笑顔で対応してくれる司書の女性にローラは憧れていた。そして、そのような女性を理想として外見を変えていくことにした。


ローラ達は侯爵家の髪結いの上手な侍女を呼んで、ローラの前髪を切り髪型を変えることから始めた。

前髪を切って顔を出すように髪をハーフアップにし、伊達メガネを外し、薄化粧をしたローラの前に鏡を持ってきた侍女達は、口々にローラを褒め称えた。


「「「……ローラ様、美しいです!」」」


「……えっ、これが私なの?」


ローラは、自分の瞳を見たくないといって部屋に鏡を置くことをしていなかったが、久しぶりに見た自分の顔は、醜いなんて言う言葉は当てはまらないとローラ自身でも思えるくらいに美しかった。そして、その夜に帰宅した両親に前髪を切った姿を見せにいくと、両親は涙を流してローラを抱きしめた。


♢*♢*♢*♢*♢*


前髪を切り顔を出して学院に通うようになったローラは、見違えるように明るく振舞えるようになり、他のクラスからも教室を覗きにくる生徒までいた。いつもは中庭で一人で昼食をとっていたローラだったが、クリスティーナ達と仲良くなってからは、ギルバートやガイと一緒にカフェテリアで食事をするようになった。


クリスティーナ達がカフェテリアで楽しく会話しながら昼食をとっていると、サヴィル侯爵令息のジョージが女の子を腕にぶら下げて、テーブルに近づいてきた。


「ローラ、その醜い目を晒すんじゃない!気持ち悪くて食欲も無くなるわ!まあ、お前なんか、ダリオン国の余所者達ぐらいしか相手にしないだろうがな。学院に仮面付けてきてるような変人とかな!」


ジョージは、ニヤリと歪んだ笑みでガイを見下ろした。


ギルバートは、「あ”っ?」と立ち上がろうとしたが、ローラがそれを止めると、ガタっと立ち上がってジョージを睨みつけた。


「サヴィル侯爵令息、まずは名前を呼ぶことをおやめください。すでに婚約は解消されておりますので。それと、私の瞳の色は先祖帰りで、この国の大賢者であった曾祖父の色でもあります。この色を侮辱するのであれば、ノーサンプトン侯爵家が侮辱されたことになりますので、ダリオン国からの留学生を貶めるような発言があったことも含めて、サヴィル侯爵家へは抗議文書を送らせていただきます」


ローラは、自分の理想とする女性ならきっとこう言うだろうと勇気を振り絞り、拳を震わせながら目線を逸らさずにいた。


「み、醜い女が生意気な!」とジョージが手を振り上げると、突然後ろに現れた黒いマントを着た背の高い男性に、その腕を掴まれて床にねじ伏せられた。


「「師匠!」」 「レイ様!」


「ナイスタイミングだったねぇ」


レイはそう言うと、指をパチンと鳴らしてサヴィル侯爵令息をどこかに飛ばした。


「えっ、師匠、彼をどこに?」


「まぁ、反省できるような場所かな?」


ローラは、「えっ……」と黒いマントの男を見上げると、びっくりした表情で、すぐに一歩下がってカーテシーをした。


「王弟殿下……」


「ノーサンプトン侯爵令嬢、挨拶はいいよ。先程はいい啖呵だったね」と、にっこり笑いながらウインクした。


ローラは、顔を真っ赤にしながら、「助けていただきありがとうございました……」と更に深く頭を下げた。


レイは、ローラに席に座るように促すと、真面目な顔でガイに向き直った。

 

「食事中にすまないが、ガイに急用があってね……」


「俺に?」

 

「辺境伯が魔獣討伐中に怪我を負って重体だと連絡が入った」


「父が……」


「ああ、すぐに辺境伯城に向かう」


そう言うと、レイは震えるガイの手を握り、その場からすぐに転移していった。




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