公爵令嬢、学園を知る
「また行きたいですわね、ホーリマス」
「ぜひ来て下さい!次は案内します!」
「さ、入りましょ」
「はい!」
この移動時間も一瞬で過ぎ去り、気がつけば教室へ着いておりました。マリアのホーリマストークのお陰で、また行きたくなってしまいましたわ。
開かれていた扉を潜ると、黒板から放射状に席と机が並んでいた。なんか、大学みたいですわね。やっぱり歴史って偉大ですわ。
「え~私がクラスA担当のサロモン・セデメントです。専門は地属性、これからよろしく」
「皆さんの生活の流れとしては、午前は今のように集まってもらって全体講義を受けてもらいます。休憩挟んで午後は、自身の選択科目をそれぞれ受講する形になります」
「今日から暫く、午前は全体講義。午後は選択期間なので、自由に受講してもらって構いません」
「質問あります?」
「選択期間は何日間ですか?」
「7日間です。受講決定の方法はまた話します」
「ありがとうございます」
「他は?」
「えっと───
完全に研究者の風貌ですわね。サロモン先生、地属性の権威として有名ですわ。専攻は地中の組成における魔力の混合比率……だったかしら。流石に詳しく覚えていませんわ。
マリア、眠いのは分かりますが……隣りでウトウトされると気になりますわよ。肘で小突くと、ビクッとして私の方を眠たげな目で見てきた。お礼は要りませんわ。
「まあ、こんなもんですかね。じゃあ、自己紹介でもやりますか。はい、君から」
サロモン先生は向かって右の生徒を指差した。えっ理不尽……指差された彼は困惑している。やがて立ち上がり、名前と好きな科目を挙げて一礼し、また座った。
そんな感じでつつがなく、自己紹介は進んでいる。あっ、アルフォード殿下とシエナ卿、ダイアン卿も同じクラスなのですわね。絶対作為的に決められてますわ、クラス分け。
「マリアと言います!科目は……何でぅえも好きです!よろしくお願いします!」
まばらな拍手と共にマリアが座る。めっちゃ噛みましたわね、赤い顔しなくても大丈夫ですわよ。そんな顔されると、私も緊張してくるのよね……。
「イザベラ・マーケットガーデンですわ。科目は……錬金学が気になってますわ。どうぞよろしく」
同じくまばらな拍手に迎えられる。まぁ、こんなもんですわね。
なんとなく聞いていると、あっさり終わってしまった。特筆すべきところは無いですわねぇ。
「はい、皆さんよろしく。じゃあ休憩、お疲れ様でした」
そう言い切ると早速出て行ってしまいました。圧倒的に研究者ですわねぇ。
「イザベラさん!ご飯行きましょう!」
「えぇ、食堂まで行きましょうか」
勢いの強いマリアに少し圧されつつ、二人で食堂へと向かう。なんというか、どんどん素が出て来ていませんこと……?いやいいんですが。
「メニュー、何があるんでしょう?」
「兄いわく、『肉パンチーズが好きなら一生居られる』そうですわ」
「最高です!」
私もこの三つは好きですわ。体重を考えなければ……ですけど。マリアはくるくる踊るように横を歩いている。普段からこんな感じなら、消費されてますわよねぇ。羨ましい。
「あの、食いしん坊だと思っていませんか?」
「いえ、そんなことは」
「思ってますよね?地元の友達と同じ顔してますよ!」
「……羨ましいな、と」
「やっぱり!酷いです!」
プンスカ!と怒るマリアをなんとか諫めながら、廊下を歩いていく。やがて、料理のいい香りが鼻孔をくすぐってくる。
「広いです!すごく!」
「ですわねぇ」
圧倒的な広さの食堂で、様々な学年の生徒が食事を取っていた。その中には教員や職員の姿もちらほら見える。
「早く食べましょう!」
「席、空いてませんわねぇ」
「あ!あそこが空いてます!」
「ん??」
カウンターにて肉とチーズが詰まったサンドイッチを受け取り、さてどこで食べようかと周りを見ていた。するとマリアが食堂の一角へと向かった。
長机に多数の生徒が詰まっている食堂ですが、その一角だけは明らかに人が居らず、一人だけが座っていた。そう、見間違えることもない。シエナです。相変わらず青白い顔をして食事を摂ろうとしていた。えっ行くの?
「シエナさん、ここいいですか!?」
「こちら、使わせて頂いても?」
話し掛けてしばらく間が空く。こちらをボーっと見て、どうでもよさそうに目を戻した。生気が無さすぎませんこと……?煮詰まってますわね……。
「……お好きに、どうぞ」
「では失礼して」
「失礼しますね……?」
丁度対面に座るように腰を下ろす、マリアも私の隣りに座った。しょうがないとはいえ、気まずいものは気まずいですわ。あのマリアさん、全然気にしてないんですわね。あれまぁ。
「美味しいです!イザベラさん!」
「そ、そうですわね」
大きくサンドイッチにかぶりつき、ぺかーっと笑うマリア。私も一口……美味しいですわね。もっと雑なのかと思っていましたけど、かなり丁寧な仕事ですわ。
「……」
き、気になりますわ……。目の前で冷えたサンドイッチをぼんやり眺め続ける人がいるというのは、非常に気まずいですわ。心から。流石に、放っておけませんわ……。
「あの……シエナ卿、ですわよね?」
「……何か?」
「……大丈夫ですか?」
「貴女が、イザベラ卿か」
「え?そうですが……」
肯定した瞬間、一気にシエナは顔を上げ、こちらを覗き込んできた。落ち窪んだ目が、私を見てくる。えっ怖すぎ!先程のエレナの視線、その十倍は恐ろしいですわよ!なんですのよ!
マリアは不思議そうな雰囲気を出しながらも、のんきにサンドイッチをパクついている。その自由な感じ、流石平民出身というか……羨ましいですわね。
「我が窮状、聞いてくれるか?」
「ええ、聞きましょう」
──────昼休み、これまた長くなりそうですわね。