公爵令嬢、貴族を示す
「これにて、入学式を終了する!貴君らの入学を今一度、祝福しよう!」
そう言ってグレイス学長は一礼して退壇していった。よ、ようやく終わりましたわ……。そろそろ限界でしたから、助かりました……。
ぞろぞろと広間から出ていく皆様方に混じって出ていこうとした所、マリアがわたしのところまでやってきました。忘れていた訳じゃございませんのよ?ちょっと、お花摘みに……。
「大丈夫ですか?イザベラさん……?」
「一旦、お手洗いに……」
「肩、お貸ししましょうか?」
「結構ですわ……お気遣いに感謝しますわ」
マリアに心配されながらお手洗いへと向かう、入り口で別れ、早速個室へと向かいました。入って鍵を閉めて……。
「オロロロロ!!!」
淑女、淑女ですのに……おぇ。
「あの、帰って休まれた方がいいのでは……?」
「女爵たるもの、二日酔いで式典に出られませんはプライドが許しませんもの……」
口元をハンカチで拭いながら外に出ると、早速マリアに気を遣わせてしまいました。面目ない。マリアは私を気遣うように、青色の目で見上げてくる。
「……あの!マーケットガーデン卿!」
そうしていると、先程私を馬鹿にしてきた皆様方が勢ぞろいで、こちらにやってきました。表情には申し訳なさと恐れが宿っているようですわ。唯一エレナだけが余裕そうな顔でこちらを見ている。ふむ……
「先程は、失礼いたしました!」
「「「失礼いたしました!」」」
取り巻き全員が頭を下げてくる。まぁ、感情としては鼻をもう明かせていますので、気にしてはおりませんが。ちゃんと謝れるのは素晴らしいことですわ。本当に。
マリアがどうします?と言わんばかりに目を合わせてくる。この子たちは別にいいですわ、問題は後ろの方ですわね。
「エレナさんからは、何か言うことはございませんの?」
「私は特に何も言ってませんので……」
「……?何をおっしゃいますの?」
「は……?」
緩んでいた雰囲気が一気にまた冷ややかな物になる。エレナ、それは頂けませんわ。恥をかかせたい訳ではありませんが……少し、お話をしませんと。
「この件、貴女の責任ですわよ?」
「なぜ?勝手に周りが貴女を馬鹿にしただけで、私は何もしておりませんよ?」
「貴女の周りの、方々ですわよね?」
「それは、そうですが……。私は何も命令してませんし、何もしてませんので」
「そこですわよ」
「は?」
呆けた顔をするエレナ。貴女、取り巻きがいるという意味をご存じないの?伯爵令嬢ともあろう方が?ネモフィラ伯爵家は丁寧で南西特有の温かみのある方々だったと記憶していますが……。まるで逆ですわね。
「取り巻きがいるならば、その責任を持ちなさいな」
「お言葉ですが、勝手に着いてきてるだけですよ?」
「エレナ様……?」
「責任から逃れるぐらいなら、最初から解散させなさい」
「ですから、何で私がそこまでしないといけないんでしょうか?」
「貴女、伯爵令嬢でしょう?家を背負ってここにいますわよね?」
「家とこの件は関係ありませんよね?」
「大ありですわ。少なくとも私は今、ネモフィラ家に失望している」
エレナが強く顔を歪めた。そりゃそうでしょう、貴女の管理能力不足、責任逃れで私の貴女に対する評価は地に落ちていますわ。それを輩出してしまったネモフィラ家への評価も。
「家は関係ないでしょう……!」
「このレベルの令嬢を表に出してしまう。言っている意味、分かりますわよね?」
「マーケットガーデン卿!!」
エレナが大声を上げ、取り巻きがそれを諫めようとする。しかし意味を成していないようで、私の目の前までやって来た。ふぅん、怒るぐらいは出来ますのね。ですが、関係ありませんわ。
マリア、そんな顔をしないでくださいな。問題を起こしたい訳じゃありませんのよ?本当に。
「事実でしょう。取り巻きの管理一つ出来ず、言われれば責任逃れ。ここは公の場ですわよ?貴女の一挙手一投足が、家の格を表している」
「ネモフィラ伯爵家を馬鹿にするか!!」
「貴女が馬鹿にさせていますのよ?一度落ち着かれては?」
ハンカチをエレナに投げつける。顔を掠めてひらひらと落ちていくハンカチを見すらせず、私を睨みつけてくる。威勢がいいですわね~。何も怖くありませんけど、潜ってきた修羅場の数が違うんですわよ。
「フーッ……!」
「まぁ、敢えて言うならですが。取り巻きぐらいは管理しなさい、周り含めて貴女の格ですわ」
行きますわよ、とマリアに告げて横をすり抜ける。マリアは気まずそうにエレナを一度見た後、パタパタと私の後ろを付いてきた。はぁ、疲れましたわ。これ吐いてなかったら、話してる途中に吐いてましたわね。ナイスですわ私。
後ろは見ませんわ、見てもしょうがないですもの。
「イザベラさん、あんなに怒らせてよかったんですか……?」
「怒らせたい訳ではありませんでしたけど、結果的にそうなってしまいましたわね」
「後が怖くないですか……?」
「大丈夫でしょう。エレナさんが伯爵家に報告すれば、叱責されるのは本人ですし。伏せれば本人に出来ることはたかが知れてますわ」
「なるほど……!流石です!」
二人で教室へと歩いていく。意外としたたかねこの子、もう恐怖が無いわ。流石の出自と言うか、本来の性格なんでしょうね。普通はそれでもちょっとは怖いでしょうに……。でも、その肝の大きさは武器ですわね。
「意外と恐れてないのね、貴女」
「港町出身なので!荒事は慣れてます!」
「あ、あらそう……?」
「はい!」
シュッシュッとシャドーボクシングを始めるマリア。したたかというか、強いわね。普通に戦うと負けそうだわ……私、戦いの才能はないもの。
「よろしければ、港町のお話を聞いても?」
「もちろんです!えっと、港町……ホーリマスっていうんですけど」
「ホーリマスなの?私も一時期いましたわよ」
本当ですか!と喜ぶマリアの横で、なんとなくホーリマス滞在時のことを思い出していた。あれはそう、私が10歳頃の話……。農地改革の一環で様々な植物を探していた時、色んな港町に滞在していた。その中にホーリマスがあり、魚料理と市場が非常に印象に残っていました。
「本当ですか!?ホーリマスのどちらに居られたのですか?」
「領主様の邸宅ですが……色々な場所に行きましたわよ」
「どこでしょうか!?」
「えっと……あの、フェルキン市場とかご飯屋さんの『クラムディール』とか」
「『クラムディール』ですか!スーヴァは食べましたか!?」
「ええ……濃厚なシチューに魚介を足した雰囲気で、非常に美味でしたわ」
凄い食いつきですわね……。我が領の話になると私もこう見えているのかしら……。でも、楽しそうですしいいわね。まだまだホーリマスの話はありますわよ!
「他には!他はどうでしたか!」
「そうですわねぇ……酒場の『パブリク』もよかったですわ。カクテルの『ホーリーデュエル』もいいアイデアで……」
「ホーリーデュエルにパブリク!母もよく行って、飲んでおりましたわ!」
「ウイスキーにクリーム、塩を振るというのも驚きで、美味しかったですわ」
「分かります!!」
このようにずっとホーリマスのお話をしながら、教室へと向かっていく私達二人でございましたわ───




