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きれいな王子様と食事を

作者:黒杉くろん
あるところにとても可愛らしい王子様がいました。

お星様の光を集めたような淡い金色の髪、ミルクみたいに白い肌、瞳はうっとりするようなサファイヤ・ブルー。
笑った顔なんて天使みたいに愛らしい子どもです。

王宮の誰もが彼をかわいがり、王子様は、宝石箱にしまわれるように大切に大切にされていました。

王子様は彼らに望まれると、いつもにっこりと笑いかけ、それで相手が喜んでくれると、さらに嬉しそうにほほを染めて微笑んでみせるものですから、皆はさらに彼を可愛がりました。

王子様がうまれてから、王宮に笑顔が溢れなかった日はありません。

父さまも母さまも、使用人たちも、王子様の笑顔を見れたなら、どんなに辛いことがあってもすぐに楽しい気持ちになれるのでした。


王子様も、優しい人たちにかこまれて毎日幸せでした。

ただ、ひとつだけ、こっそりと不満に思っていることがあったのです。

それは、一人で食べるごはんが美味しくないということ。
王子様がごはんを食べる時は、いつも一人きりでした。

大きな机にたくさんの家族と並んで座っているのに、いざごはんが運ばれてくると、皆、食事をする自分のことをうっとりと眺めるばかりで、料理を一口も口にしないのです。

何度「いっしょに食べよう」と声をかけても、返ってくるのはいつもと同じとろけた笑顔だけでした。


仕方がないので一人きりで料理を食べるのですが、最高級の美味しい料理を食べているはずなのに、ちっとも美味しく感じません。

たくさんの人が、自分のために命を育ててくれて、料理してくれて、それを頂いているのに、美味しく食べることができない。
王子様はとても悲しく思っておりました。




やがて月日が流れて。

王子様はかわいらしい少年から、とても美しい青年へと成長していきました。
月日は彼をさらに見目麗しく、かしこく、やさしく育てたのです。

素晴らしい青年となった彼ですが、求められるままに笑う美しいブルーの瞳には、全く感情がこもっておらず、それこそ本物の宝石のように冷たくなっていました。
彼の容姿に魅せられている者たちはそんなことには気づきません。

彼が恋人をつくったことは、今までに一度もありませんでした。
相変わらず、誰にでもやさしく微笑んでくれるのですが、彼が特別な思いを寄せる女性は未だ現れていません。

そうして、王子様は想い人のいないまま、成人の日を迎えます。


街では、どこの貴族の娘が彼の妃になるのかという話題で持ちきりでした。
国民たちはわくわくしながら、時に喜劇で彼の妃えらびについて楽しそうに話し、めでたい知らせを今か今かと待っていました。


一方の貴族たちは、もう気が気ではありません。
みな、自分の娘を彼の妃にしたくて仕方がなかったのですが、どんなに美しいと言われる娘でも、王子様の美貌にはとうていかなわなかったのです。
せめてもと言わんばかりに、あれもこれもと、様々なマナーや習い事を娘に覚えさせていきました。


そんな中、王宮から、ついに王子様の結婚相手についてのおふれが出されます。


『三日後、王子殿下の結婚相手をさがすための食事会を王宮にてひらく。
我こそはとかんがえる美しい貴族の娘たちは、出来うるかぎり着飾って参加せよ。
王子殿下は、とにかく美味しそうに食事をするご令嬢をのぞんでおられる』


この知らせに貴族たちは首をかしげました。
しかし悩んでいる時間はないと、食事会にそなえて、娘たちにテーブルマナーをかんぺきに叩き込みます。


三日後。

王宮前に集まったのは、色とりどりに着飾った年若い娘たち。
王子様とちょうど同じくらいか、少し年下あたりの、まさに花盛りの少女たちです。
彼女たちは応接間へと、5名ずつ、順番に案内されていきました。

どきどきしながらドレスのすそを優雅に持ち上げ、扉をくぐる少女たち。
部屋の中央に置かれたテーブルの向かい側には、あまりに美しい王子様がにっこりと自分たちに微笑んで座っています。

驚き、その場で倒れてしまう娘もいました。
みな緊張のあまり、小鳥がついばむほどしか美味しい料理を食べられず、ほうっと頬を染めて、しずかに退室していきます。


一組、二組……順調に娘たちが入れ替わり、部屋に入っていく。


今度の組は、華やかな少女4人と、どこかやぼったさを感じる地味な茶髪の娘が1人でした。
よく見るとその彼女は、お化粧もほんの少ししかしていません。

王子様は娘たちを見比べて不思議に思いましたが、いつものようににっこり笑うと、さっそく料理を勧めました。


「今日はきてくれてありがとう。
美味しい料理を楽しんでいってね」

「ありがとうございます」


娘たちは声を揃えてお礼を言い、派手な4人は、王子様を見つめてため息をつきました。

地味な少女は、お礼を言う時にちらりと王子様をみたものの、今は目が料理に釘付けです。

王子様はその地味な少女の様子に、わずかに目を見張りました。

自分が口をつけないと彼女たちが料理を食べられないので、まず一口、彼から旬のジャガイモのスープを口に運びます。

王子様は何度も食事をしなければならないので、席にはスープが一皿のみ。
娘たちの前には、贅沢なフルコースが並んでいました。

再び王子様が「どうぞ」と声をかけると、ようやく皆のフォークが動き始めます。
王子様は、茶髪の娘を視界のはしでこっそりと見ていました。

彼の様子など気にもとめない茶髪の娘は、なんとも嬉しそうな表情で、美味しそうな料理に次々に手を伸ばしていきます。

まずはサラダを平らげる。
次いで、スープを上品に飲み干しました。

キラキラした目でメインの肉料理のお皿を眺めて、ゆっくりとナイフをはしらせ、薄く削がれた肉を小さな口へと何度も運びます。
頬を膨らませ、もぐもぐ懸命に食べている様はまるでリスのようで、地味な容姿を最大限に可愛らしくみせていました。


王子様はもうおかしくておかしくてたまりません。
思わず笑いだしてしまいました。
「あはは!」

初めて聞く、心から楽しそうな彼の笑い声に、娘たちは目を白黒させています。
笑われた地味な娘は、まだ頬を膨らませながらも、ぽかんとしていました。

その様子がまた王子様の笑いを誘います。

ひとしきり笑い終わると、王子様は目じりに涙を浮かべながら、茶髪の娘の手をとりました。


「私が一緒に食事がしたい女性は、あなたです。
人生を共に歩んでくれますか」

「……はい」


茶髪の娘は戸惑いながらも、ひかえめに頷きました。


こうして、美しい王子様の結婚相手は決まったのです。
相手は名も知られていないような下級貴族の娘でしたが、王子様は彼女がいいといってがんとして譲らなかったので、両親もしぶしぶ結婚を認めました。


結婚式は、食事会の一週間後でした。
お嫁入りの準備をおえた茶髪の娘が、王宮への門をくぐります。

親が奮発したのか、たいそう大きな馬車に、きれいなドレスを山ほどつんで、顔にも美しくお化粧がほどこされていました。
他の貴族の娘のように派手な顔立ちになっていて、まるで別人のようです。
彼女を見た使用人たちは、みな驚いておりました。


「私と食事をしてくれますか」
「よろこんで」

娘はにっこりと頬を染めて笑い、あこがれの王子様の手をとり歩きだしました。


2人きりで食事の席につくと、王子様は明るい声で彼女に告げました。

「いつも、みなは私の顔しか見てくれない。
そうではなく、共に食事を楽しんでくれる女性と結婚したかったんだ」

「そうでしたの」


お互い笑顔で笑いあうと、手にフォークを持ち食事を始めます。

王子様は意気ようようとサラダを口に運びました。
そして、こくりと首を傾げます。

どうしてだろう。
妃と一緒に食事をしているのに、いつものように料理がまるで味気ない。
先日彼女と食事をした時には、スープをとても美味しく感じていたのに!

顔を上げて、自らの妃となる女性を改めて見つめました。

彼女は頬を染めて、ぽーーっと王子様を眺めているばかりです。
料理に手をつける様子など、まるでありません。

本当に、あの美味しそうに料理を食べ尽くしていた娘なのでしょうか…?
驚いた王子様は、部屋の外にも聞こえるように高らかに声をあげました。


「この娘は私が妃にえらんだ者ではない!」


部屋の外にいた護衛騎士がとんできます。

実は、今ここにいる娘は、あの茶髪の少女の腹違いの姉だったのです。
もともと好き嫌いが多くて、美味しそうに料理を食べる自信がなかったものですから、いじめていた義理の妹を食事会に参加させていたのでした。

彼女は、妃の座を奪おうとした罪人として罰を言い渡され、遠く過酷な秘境の大地へと送られ、二度と王子様の前に現れることはありませんでした。



「食事会にきていた、同じ貴族家の茶髪の娘を連れてきてくれ」

王子様が命じて、王宮には、あの地味な娘が呼ばれました。


「私と食事をしてくれるかな」
「はい」

今度は間違いないだろうと思いながらも、王子様は確認のため、結婚前に、また彼女と食事をしてみることにしました。

今日のメニューは季節のサラダに、オニオンスープ、さっぱりとした酢漬けの牛肉にスパイスソースをかけたメイン。
デザートには木苺のタルトが用意されています。

並べられた料理を見た娘の目は、昼の日差しのようにキラキラと輝きだしました。
王子様を見ても染まらなかった白い頬が、今やリンゴのように赤くなっています。

王子様はホッと息をつきました。どうやら望んでいた少女のようです。

まずは、自分から一口。
サラダを食べてみると、みずみずしい緑の香りが口一杯に広がりました。

彼女と食べる料理はほんとうに美味しい。
思わず、心からにっこりと微笑んでいました。

娘は、王子様が料理に手をつけたのを確認すると、待っていましたと言わんばかりにフォークを手にとり、サラダを口に運びます。
そして幸せそうに、シャキシャキと野菜を噛みしめていました。


「美味しい?」

「もちろんです。
こんなに美味しい料理をまた食べられるなんて、夢のようです」


今まではどのような食事をしていたのか?
驚いた王子様がたずねてみると、娘は「妾腹の子でいじめられていたので、パンとスープしか食べたことがありませんでした」と語りました。

こんなに美味しそうに食べるのに食べ物を充分に与えられなかった娘と、今まで、最高の料理を出されても味が感じられなかった王子様。

2人は「ごはんが美味しいことは幸せだね」と笑いあって、これからも仲良く一緒に食事をすることに決めたのでした。



そうして、結婚式を挙げて。

王子様と茶髪の娘は、王様とお妃様になりました。

美しい王子様が選んだ結婚相手が、あまりに地味な娘だったことに、貴族も国民たちもたいそう驚いていましたが、王子様が更に美しく微笑むようになったものですから、反対の声はしだいに消えていきました。

しかし、妃候補だった娘たちは面白くありません。
王様の両親もまた、この結婚をこころよく思ってはいませんでした。


「まあ、なんて美しくない娘なのかしら」
「あなたでは彼のとなりにふさわしくないわ」
「そんなに食べるだなんて、王族として恥ずかしい」
「どうして王様は、あなたと結婚しようなんて思ったんでしょう」


お妃様となって王宮で暮らしはじめた娘は、王様の聞いていないところでたくさんの心ない言葉を投げつけられていました。
それはそれは、とても辛い日々です。

旦那さまと2人きりで食卓をかこむ朝と夜のわずかな時間だけが、彼女の心をささやかに癒してくれました。

王様はいつも、その日にあったことを楽しそうに話しながら、料理を味わって食べています。
お妃様は、そんな彼といられる穏やかな時間が好きでした。
はじめは、豪華な食事だけが楽しみで彼の妃となったのですが、今ではすっかり、幸せそうに笑う王様を心の底から愛しておりました。


王様はお仕事があるので、昼間はどうしても、お妃様一人で過ごさなくてはなりません。

そうすると、また嫌な言葉をぶつけられるので、彼女は耳をふさいで、なんとか1日1日を乗りこえていました。

王様に心配をさせまいと、弱音をはかずに耐えてきたお妃様ですが、ある日、なんと昼食に毒を盛られてしまいます。

嫌がらせがあった事はついに王様も知るところとなり、陰口でお妃様を苦しめていたもの、毒を盛ったものは、それぞれ重い罰を言いわたされ、王宮を追放されました。

これでもう大丈夫だろうと、王様がホッと息をついたのもつかの間です。

王妃様は食事をすることを怖がるようになり、だんだんとやせ細って、ベッドから起き上がることもできなくなってしまいました。

あんなに幸せだった2人で食卓をかこむ時間は、残酷な運命にとりあげられてしまったのです。

王様は、周りを狂わせる自らの美しすぎる容姿と、嫌がらせに気づけなかったことを悔いて、お妃様の手をとり涙を流しました。


「ああ、愛しい妃。
どうしたら、私はあなたを救うことができるんだ」

「旦那さま。
もし願いを叶えて下さるなら…次の世でも、私を迎えにきてくださいな」


お妃様は、自分に最後の時が近づいていることを、分かっていたのかもしれません。

「もちろんだ」

王様の返事を聞いて、うっとりと幸せそうに微笑んだお妃様は、静かに瞼をおろして、息をひきとりました。

冷たくなった愛しい人の手に、王様は想いをこめてキスを贈り、いつまでもいつまでも、優しく握りしめていました。


王様はその後、歴史に名を残すほどの偉大なひとになりましたが、新しい妻はついに娶りませんでした。
彼が愛したのは、茶髪のお妃様ただ一人だけだったのです。



***




これはまったく違なる世界の、奇跡のお話。


冬の近づくとある北国の雑貨店。
繁華街の片隅にひっそりとたたずむその店のショーウィンドウには、昨日入荷したばかりの真新しい人形が飾られていました。

手のひらに乗るくらいの小さなサイズ。
ともすれば見落としてしまいそうな小ぶりな人形でしたが、街ゆく人たちはみな足をとめて、首をかしげながら人形を眺めて、また歩いて去っていきました。

なんてことない、フェルトで作られた簡単な王子様の人形です。
きいろの髪に、真っ白な肌、目は鮮やかなブルー。
それがどうしてこんなに気になるのかと、みな不思議に思っていました。


「かわいい!」

ふと、一人の少女が足をとめて、その店の中に入ってきます。

他の雑貨には目もくれずに、何かに導かれるように人形を手に取りました。

「お誕生日のプレゼント、それでいいの?」
「うん。なんだか私を見てる気がしたの」

「ありがとうございました」


きれいにリボンで飾られた人形を満足そうにながめた少女は、嬉しそうに笑って、さっそくカバンに彼をそっとしまい、雪をかぶらないようハンカチをかけてあげました。


それからはどんな時でも、彼女と人形は一緒です。
お出かけするときも、遊ぶときも、夜寝るときも、…食事をするときも。
いつも仲良くそばにいました。
一度、人形の裁縫がほつれてしまった時には少女が大泣きしたほどです。

「おうじさま!」

少女が人形をよぶ声は、どこか甘い響きがこもっていました。



ほんとうは人形も、少女の名前を呼び返したいと思っていたのです。
人形のなかには、あの美しい王様のこころが入っていました。

少女が自分の愛したお妃様だとは、一緒に食事の席についたときに初めて気づきました。
あのキラキラした瞳を見間違えるはずがありません。
運命は、2度目は彼らをつないでくれたようでした。


迎えにいくつもりだったのに迎えに来られてしまったな、と、人形は心の中で苦笑しました。

自分からも少女に笑いかけたかったけれど、青い目のフェルトが2つ付いただけの彼の顔では、表情をあらわすことはできません。

生まれかわって、裕福な家庭でなに不自由なく育った少女は、じつに様々な表情を人形に見せてくれていました。
かけっこでビリだったと泣き、男の子にいじわるされたと怒り、母に褒められて笑い。

人形は、今世でも、また彼女に魅了されていました。

前世にくらべてはるかに美人でよく笑う彼女は、男の子にもよく告白されていましたが、不思議と、ボーイフレンドをつくることはありませんでした。
少女が告白を断るたびに、人形はほっと息をつきます。

少女のどんな表情も可愛らしいけど、とりわけ、食べている時の顔は一番だと、そこに惚れていた人形は誇らしく思っていました。


今日も人形は、テーブルの片隅から、食事をしている少女を眺めています。

小さかった少女はもう14歳になり、ナイフとフォークをとても上手に扱うようになっていました。

バターをじゃがいもに乗せて、ナイフで大きめに切り分け、口に運びます。
その瞬間の彼女の、幸せそうな顔といったら!
見ているこっちが笑顔になるほど、美味しそうに食べるのです。


「……あら?」

少女がふと、不思議そうな表情で人形を手にとりました。

「泣いているわよ。
あなたも食べたいのかしら…?」


人形は驚き、少女に持ち上げられるがままに、じっと瞳を見つめかえしました。

違うよ、美味しそうに食べるあなたがあんまりにも愛おしくて、思わず泣きたくなったんだよ…
と答えようにも、彼には口がありません。
心の中で、困ったように眉尻をさげていました。

少女の手のひらには、ポタポタとなおも小さなしずくがこぼれ落ちています。
ふと、彼女が呟きました。

「一緒にごはん、食べれたならいいのにね」

そうできたなら、どんなに素晴らしいだろう。
人形はもう、彼女が食事を終えるまで、あふれる涙をとめることができませんでした。



少女が住む街では、ひと冬に一度きり、14歳の少女が星にねがいごとをするという記念日がありました。

なんでもひとつ、星が願いごとを叶えてくれるという言い伝えがあったのです。
ほとんどの少女はそこで「将来、いいご縁に恵まれますように」とねがいます。

今日はその記念日。
オーロラが夜空にゆらゆらとゆらめき、一面白銀のせかいを鮮やかに照らしていました。

街中の14歳の少女たちが、小高い丘に集まっています。
ここから願いごとをすると、空に届いて、お星様が自分たちを照らしてくれると言われていました。

とある薄茶色のふわふわした髪の少女は、ぼんやりと星空を眺めていました。
その手には、ハンカチで丁寧にくるまれた王子様の人形が、やさしく握られています。

「その人形、なぁに?」

「私のボーイフレンドかな。ずっと一緒にいるもの」

「あはは!」


他の少女たちが将来のご縁を星にねがうなか、一人きりで少し離れたところに座り込んだ彼女は、瞳を閉じて心をこめて祈りました。

ずっと一緒だった、この人形が、幸せになれますように。


「王子様と、一緒に食事がしたいです」


ふと、ざわざわと、周りの少女たちの驚いたような声がきこえてきます。

瞳を閉じたままだった彼女の頬に、何かが落ちて触れました。
ポタリ、と落ちてきた水滴の感触を不思議に思いながら、少女はそっと目を開けます。

鮮やかに空を照らしていたオーロラの緑のひかりは、星のような淡い金色にかわっていて。
月から、星から、あふれたひかりが、ふわふわと雪のように、手のひらの王子様に降りつもっていました。

手袋ごしにもわかるくらいに、人形はあたたかくなっています。
まるで人の熱のようです。

ひかりが集まって、だんだんと人の形をとってきます。

手のひらに乗せた人形は、いつの間にか、とけて消えてしまいました。

少女の頬は、リンゴのように赤く染まっています。

赤くなったその頬を包むように、白い手が添えられました。
うながされるままに、少女は上を向きます。

この国の冬では見られないような、青い青い空のようなサファイヤ・ブルーの瞳が、やさしく彼女を見つめていました。
キラキラ輝く髪は、まるで星の光をあつめたようです。


「…王子様!」

「あなたを迎えにきたよ。私の愛しい人」


王子様になった人形は、これまでの愛情をすべてこめるようにやさしく、少女を抱きしめました。

少女は驚いていますが、彼をふりほどいたりはしません。
なんだかなつかしくて、そして、確かに彼を愛おしく感じていたのです。


「私と食事をしてくれるかな」

「…もちろんだよ、王子様」




少女と王子様は、この世界でまた出会い、そして幸せに結ばれました。


その命を終えるまで、ずっと仲良く、たくさんの子どもや孫たちにかこまれて暮らしていったようです。
2人の家からはいつも明るい笑い声が聞こえてきます。

食卓にはいつも、奥さんの素晴らしい手料理がテーブルに乗り切らないほど並んで、美味しそうな匂いとともに、家族の笑顔をさそうのでした。

切り分けられたケーキをお互いに食べさせあった夫婦は、幸せそうに微笑んでいました。

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