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「彼女はすでに死んでいます」
そんな声が聞こえたのは、シランがアイリスの死を悟ってすぐのことだった。それが誰なのか、シランは直感的に理解した。
それは、彼を勇者に祭り上げた張本人、
「何故、あなたがここにいるのですか、神よ」
その問いに、この世界の創造主たる存在が答える。
「世界の為です」
「世界?」
「彼女の存在は勇者たる貴方を堕落させ、何よりその膨大な力が悪魔の手に渡ることはこの均衡した戦局が奴らに傾くことになります。彼女は、この時代において存在してはならないのです」
「そうですか」
そう言った彼の瞳に、もはや一切の感情も映してはいなかった。
彼の後ろに立つ神と同様、いやそれ以上に。
「勇者よ、使命をはたしなさい。魔王に世界の主導権を渡さぬために!」
神の声に初めて感情が込められた。それは、使命感かそれとも魔王への怒りゆえか...その声は決して大きくはなかったが、それは人が到底抗えるものではなかった。
しかし、シランは
「僕が間違っていた...」
神の声など聞いていなかったとでもいうように、そう呟く。
「...何ですか?」
神が訝しげに訪ねるが、シランは答えずただ、続ける。
「僕が間違っていた。この世界の全てが君に悪意を向けていたというのに...悪魔は君を兵器のように使役し、同種であるはずの人間でさえ君を忌み嫌っていた。この世界が君を害していた。そして、世界の主たる神が君を殺した」
ふと彼女との会話が甦る。
シランはこう尋ねた。
世界を恨んだことはないの?
その問いに、アイリスは答えた。
この世界は、優しさで溢れています
悲しみや怒りでさえ、その本質は大切なものを失った害されたという
その者に対する優しさ故なのですから
これが、他の誰かの言葉であったなら、何も感じはしなかっただろう。それどころか何も見えてないと蔑んだかもしれない。
だが、そう言ったのは誰よりもこの世界に迫害であろう少女なのだ。
そして、彼女の言うその優しさを向けられることのなかった少女は、眠りながら過去の夢を見てはうなされ涙を流していた少女は、それでも優しく笑って言った。
私は、この世界が好きです
「ごめんね」
だからこそ、シランは謝った。
「君がこの世界を好いていたのは知っている。だからごめん、僕はもうこの世界に興味はない」
そして言う。無表情に、無感情に
「だからもう、捨ててしまおう」
「!!」
その瞬間、シランの体から神をもってさえ対処し切れぬほどの力が溢れだした。
その力の濁流に、神の姿が消え去った。
感想などじゃんじゃん待ってます




