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終わりゆく世界に花は咲く  作者: 霜月 式
2/10

 少女を助け出してから三日、シランは村人の依頼で貰った金で宿を借り、付きっ切りで看病していた。とはいっても、実際怪我の手当てなどをする必要はほとんどなかった。驚くべきことに、ボロボロに衰弱しきっていた体は半日ベッドで寝かされただけで回復し、青白かった肌には赤みが差し、髪には艶が戻ってしまった。おそらく、彼女の持つ膨大な力が回復に回ったのだろう

(...そこからが問題なんだよなぁ)

 今度は、その無尽蔵な力が放出し始めたのだ。シランが彼特有の能力で結界を張って力が部屋から出ていかないようにしているが、もしもシランが居なければこの小さな村程度なら村人全員、大きすぎる力にあてられ気分を悪くし気の弱いものなら気絶、病弱な者なら死んでしまう者さえ出るかもしれないほどだった。

 それ程の力を簡単に抑え込めるシランの固有能力は名を『現身』といった。その詳細は、五感のどれかで認識できるものの中の一対象の持つ力と同じだけ力を自分も持てるという能力だ。

 とはいえ、彼自身も普通の人間どころか上級悪魔さえも大きく上回る力を保持している。少々認識外に出て行ってもなんとかなったのだが、問題は彼の睡眠時だった。

 さんざん考えた結果は...

(これは、仕方ないよな~)

 苦笑いしながら見る彼の右手は少女の左手と繋がれ、寝てしまっても離れないように布で縛ってある。重なり合う少女の手、その温もりを感じながらシランは想う。

(今までどうやって生きてきたのだろう)

 今は自分がいるから何とかなっているが、以前からこの少女の力を抑えられる人がいたとは思えない。ならば当然のように、この少女は人の中では生きてはいけない。だが、これまで見てきた感じからおそらくこの少女は何も食べなくとも飲まなくとも生きていける。生きてしまえる。

 それがいかに辛いことか。

 シランは、ふと眠る少女に自分が重なるような気がした。

 力を持ってしまったが故に歪められてしまった人生。孤独な日々。他人に押し付けられた運命。似ている。勇者として崇められようと、悪魔に使われようと、その根本に変わりは無い。だからこそシランは気になった。彼女もまた、自分と同じように空っぽなのだろうか...と。


 四日目、差し込む朝日の中、少女は見知らぬ世界に目を覚ました。周りを囲む壁や天井、温かい布団に少女は思う、これは夢なのだと。そして、同時に思う。覚めたくはないと。目を覚ませばあの真っ暗で、冷たくて、痛くて苦しい、そんな現実へ戻ってしまう、それならば...

 そんなことを考えていた少女はふと左手に違和を感じた。手の甲に感じる何かに縛られるような感覚、手の平に感じる知らない感覚と布団とは違う温もり、向けた視線でそれが人の温もりと分かった瞬間、少女の瞳に涙が溢れた。

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