1
世界は、三つの勢力に分かれていた。
一つ目は、世界を創った創造主たる神とその部下である天使達からなる天上の軍勢。
二つ目は、その神に対し反旗を翻した魔王を王とする悪魔の軍勢。
そして最後の一つが、人間界に住む人間達である。
...いや、人間達を一勢力とは言えないだろう。 天上と悪魔の軍勢の勢力はほぼ拮抗し、人間界を舞台に戦いが繰り広げる、その間に人の入り込む余地など微塵も存在しはしなかった。
人々は、昔通りの秩序ある平和な世界を望むが故に、ただ神の勝利を祈り続けた。
そんな世界に一人の少年が『勇者』として祭り上げられた。
その少年の名は、シラン・シュピーゲルといった。
「ここが、例の洞窟か」
15~17くらいの少年が呟くのは、森に入って少し行ったところにある洞窟の入り口だ。
何故彼が一人でこんなところにいるのかというと、近くの村の人々に依頼されたからだった。彼らの話によれば、最近になっていきなり悪魔の数が急増したらしく、村にもたびたび下りてきて畑を荒らしたり、人を襲ったりするようになったらしい。
「でもまさか、上級までいるとは……」
悪魔の社会というのは完全な階級社会であり、それは全て力によって決められる。そして王や侯爵など特別な階級を持つ者に準じる力を持っており、それは放つ魔力から少々離れていても感じ取ることができる程だった。
「面倒だけど、お金貰っちゃったしな~」
シランは、苦笑いしながら金貨で一杯になった小袋を掲げる。
いつの世も、働かなくては食っていけない。この少年の職業は勇者なのだ。
「仕方ないし、行くか」
言葉の割に、その足に淀みは無く。そこに緊張は感じられない。彼の顔に浮かぶのは、変わらぬ苦笑いのみだった。
「これは予想以上だな」
洞窟に入って早々シランは後悔の念を抱くこととなる。多いとは聞いていたが、それにしたって限度というものがある。それも進めば進むほど強くなっていくのだ。だが、その理由がシランには何となく理解できた。
「多分、そろそろだと思うんだけど」
この洞窟に入って驚いたのは、洞窟に満ちる力の大きさだった。例えば上級悪魔や天使などは、何をしなくても力が漏れてしまうのだが、ここに満ちる力の大きさはそんなものでは無かった。それも、中心部に近づくほどにより大きな力を感じる。
(地脈でも漏れているのかな?)
この世界は神が創造したと言われているのだが、その時神は己が持つ力を七度全て使い切ったという。(七度で全ての力を使い切るのではなく、一回一回力を全ての力を使い切り再び力を溜めるを七度繰り返す)
それ故に、単純に考えればこの世界は神の七倍の力を有しているということになる。そうすると、たまに大地の歪みなどから、神の注ぎ込んだ力が漏れてしまうことがある。その漏れた力を求めてそういった場所に悪魔達が漏れるのは珍しいことではない。そして、今回のこともそれが理由だとシランは見当をつけていた。
だが、進むにつれてシランは疑問を持ち始めていた。
(守っているのか?)
悪魔達は、力を求めて群がっているというよりも、中心部にある何かを守っているようだった。
門番?のような悪魔を倒して進んだ先、あったのは古びた大きな扉だった。
「人工物かな……いや、これは」
眺めながらシランは確信した。
(これは、悪魔が造った物だ)
それは、彼が前に行かされた魔界にあった建物などと似た趣だった。
(あのときは大変だったな~)
彼は、そんな楽しくない思い出に浸りながら扉はその大きさとは裏腹に簡単に開いた。その瞬間、
「!?」
巨大な力が溢れ出てきた。そしてその力の中心にいたのは、
「女の子……?」
そこにいたのは、14歳くらいの少女だった。その少女の姿は悲惨の一言に尽きた。ぼろぼろな白い無地のワンピース、体中傷だらけで膝をつき、両腕は鎖で吊るされ体から力が完全に抜け切っている。意識がないのかもしれない。
おそらく、感じていた力の根源は彼女なのだろう。しかし、見る限り無理やり力を引き出されているように見える。シランは少女に近づくと、彼女を中心として紫に光る魔法陣が描かれていることに気が付いた。おそらくこれで彼女から力を吸い出しているのだろう。
魔法陣というのは基本的に一部でも欠けてしまうと、その効力を失う。故にシランは、魔法陣の描かれた床に一部を魔法で破壊した。すると、先ほどまでの紫の光が消えていった。そして、シランは彼女に触れてみた。
(良かった、生きているみたいだ)
力を放出していた。だから生きているのは当然なのだが、それでも触れてみるまで生きているという確信はできなかった。それほどにこの少女の肌は青白く、血の気は一切なかった。
(とにかく、急がないと)
シランは急ぎ魔法で鎖を外し、少女を抱きかかえてきた道を戻っていった。
「魔王様っ、例の洞窟に侵入者が入りました!!」
闇の中、焦りを含む女性の声が響く。唯一の光である少し赤みの強い蝋燭の火が軽く揺れる。
その声に反応するように先ほどより少し若く落ち着いた声が響く。
「...じゃあ例の人間は?」
少し落ち着いたのか幾分か落ち着いた声で答える。
「供給されていた力が消えたので、おそらく...」
その答えに、魔王と呼ばれた存在が眉を顰める。
(あの門は、天上の者には触れることさえ適わないはずだが...)
そう考え、最近聞いた名を思う。
「勇者か...」
魔王は静かに敵のことを想う。
至らない所だらけなので、どんどん指摘していただけると嬉しいです。




