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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
大陸横断編
9/71

クオリオーネ王国


 北方大陸を目指して数時間。無事に境界門を通り、俺達は北方大陸に渡ることが出来た。東方大陸は自然が豊かな場所だったが、北方大陸は白雪が大陸全体を包んでいる。たったこれだけの移動で、気温も気候もガラリと変わる。それもこの世界の特徴だ。

 違いは他にもある。この北方大陸は魔力開発の先進大陸で、魔力を動力とした乗り物や武具が多く取り扱われている。

 例えば、スキルを付与した剣や防具、魔力で動くクルマと呼ばれる物。更には魔力増加の研究まで行われているのだ。見方によれば危険な大陸ではあるが、そのおかげで人々の暮らしが豊かになっているのも事実だ。その為、魔力開発に関しては厳しい規則が確立されている。

 

 「寒っ!?」

 「た、確かに寒いわね。エト君、腕を組んでくれないかしら」

 「別にいいよ。あったまるか分かんないけど」

 「あぁ! じゃあ私もエト様に抱きつ-っくしゅん!」

 「のあっ! ミーア鼻水!?」

 「ははは。エト様もお二人も情けないですね」

 

 予想以上の寒さに三人とも凍えかけている。必死に身を寄せて俺達は寒さを凌いでいるのだが、唯一ルカだけは余裕そうな表情を浮かべている。思念体であるルカに暑いだの寒いだのは関係ないのは分かるが、そう堂々と薄着で居られると、腹が立つし、見ていて寒さが増してくる。ミーアとアヤに密着されて〝色々と〟元気になっているが、今はそれどころでは無い。

 

 「うぅっ···。は、早く宿に行こう」

 「そ、そうね。大いに賛成よ」

 「っくちゅん! あ、温かいお風呂に入りたいですぅ!」

 「はっはっはっ!」

 

 この野郎。主が辛いって言うのに呑気に笑いやがって······。近いうちに絶対ぶっ飛ばしてやる。

 

 ともあれ、あたりも暗くなってきている。寒さとは別に早く宿に行きたいものだ。

 そう思っていた矢先、ようやく見えて来たのは北方大陸でも有数の発展を遂げているクオリオーネ王国だった。俺達は、まるで救いを見つけたように歩くスピードを上げた。

 

 クオリオーネ王国。人口は約三十万人で、寒さを凌ぐ為か、建物のほとんどが断熱性の高い鉱石で出来ている。先人達の知恵というやつだろう。王国に着くなり、俺達は駆け足で近くの宿屋に駆け込んだ。

 

 「いらっしゃい〜」

 

 宿に入ると、ツインテールの可愛らしい女の子がエプロン姿で出迎えてくれた。そして、宿に入って一番最初に思ったこと。それは······

 

 「「「あったかい(です)!」」」

 

 綺麗に三人の声が重なった。

 いや、マジで本当に温かさのありがたみを再確認した。幸せな一時を満喫していると、俺達の姿がおかしかったのか、エプロン姿の女の子が微笑みながら声をかけて来てくれた。

 

 「お客さん達、寒かったでしょ? そんな薄着で外を歩くなんてビックリだよ。宿泊でいい?」

 「もちろん宿泊で」

 「はーい。じゃあパパッと受付済ましちゃうね!今からだと 一泊二食で、おひとり様銀貨一枚だよ」

 「ありがと。それじゃあこれ」

 「······あれ?」

 

 俺はエプロン姿の女の子に銀貨五枚を手渡した。もちろん四人だから四枚なのだが、つい可愛かったので心付けとして一枚プラスしたのだ。下心は全くない。これはほんの感謝の気持ちだ。

 

 「貰っておいて。気持ちだから」

 「···えへへ。こんな素敵なお兄さんからだなんて。嬉しいなぁ。それじゃあえっと······」

 

 そう言いながら、エプロン姿の女の子は俺に近寄って来た。よく初見で俺が男だと分かったなぁ-なんて思っていると、突然耳元で囁かれた。

 

 「こんなこと、他のお客さんにはしないんだけど。えっと······後で部屋に伺いますね」

 「え? あ、うん」

 

 ·········うん!?

 

 あ、いや。そういうつもりじゃ無くて···。と言おうとしたが、時すでに遅かった。エプロン姿の女の子はニコニコしながら店の奥に消えて行った。寒さで思考がおかしくなっていたようだ。「うん」-なんて言うつもりはなかったのに···。まぁいいか。

 

 用意してもらった部屋は二つ。俺が一人部屋でルカとアヤとミーアが三人部屋だ。この部屋割りにしたのは、万が一に何か起こった場合の為にルカを護衛につける為だ。

 ミーアが残念そうにしていたが、アヤが自分と同室ということで、渋々納得した。

 

 部屋に滑り込むと、一目散に浴室に飛び込んだ。多分、ミーアとアヤも同じだろう。なんだか、先にどっちが入るか-なんて言い合ってそうだ。当然だが、ルカは風呂には入らない。入る必要がないからだ。

 

 「っくはぁぁ〜···」

 

 浴槽に飛び込むと、全身が一気に温まっていく。···最高だ。キンキンに冷えた体に痺れるくらいの温度がたまらない。今まで水浴びばかりだったので、念入りに体を洗う事にする。にしても風呂というのは誰が考えたのか、画期的過ぎる。作った奴は天才だろう。

 構造は浴室の横に備え付けられたこの白い箱のような魔道具だ。これに魔力が内蔵されていて、水を温水へと性質変化させている。もちろん、内蔵された魔力は無限では無い為、定期的に供給しなければならないのだが、それでもこの構造を発明した奴を褒めてやりたい。

 

 

 そして-。

 

 風呂を満喫した俺達は、晩御飯をサクッと済ませて早々に休む事にした。部屋の前で、一応ルカに声をかけておく事にする。

 

 「それじゃあ、ルカ。二人を頼むな!」

 「よろしくね。ルカさん」

 「よろしくです!」

 「はい! お任せ下さい」

 

 こうして俺達は無事に安息の地を手に入れる事が出来た。

 

 

 -しかし、俺は完全に忘れていた。

 

 深夜、突然部屋の扉をノックされたのだ。

 

 ミーアが「一緒に寝たいですーっ」-なんて駄々を捏ねに来たのだろうと、部屋の扉を開けると、黒いナイトウェア姿の美少女が立っていた。······誰?

 

 「えっと······どちらさま?」

 「あっ。すみません」

 

 そう言いながら、彼女は自分の長い髪の毛を両手で掴んで、耳の横辺りでまとめて見せた。

 

 「あぁ、お店の」

 

 そのツインテール姿で思い出した。彼女は、あの可愛らしいエプロン姿の女の子だった。······待てよ。そう言えば、何か盛大な勘違いがあったような-そう思っていると、彼女は部屋にピョンッと踏み入るとゆっくりと扉を閉めた。

 

 「それじゃあ、始めますね」

 

 そう言うと彼女は俺をベッドに誘い、ゆっくりと体を擦り寄せて来た。······うん。こりゃダメだ。拒否れる気が全くしない。

 

 ということで-

 

 「ごめんね。ありがと」

 

 せめてもの謝罪の気持ちで、彼女を優しく抱き締めてそう呟いた。すると、彼女は頬を赤く染めながら嬉しそうに微笑んでくれた。

 

 「失礼します。わぁ······えへへ-」

 

 

 

 

 

 -次の日。

 

 早朝に目覚めた俺はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。ちなみに、昨晩の彼女の奉仕は、とても献身的だった。

 

 「はぁ···。そう言えば前の旅の時もこんな事あったっけ」

 

 なんて物思いにふけってみる。なんだか、人としてダメになりそうな気が······。ともあれ、体は充分に休めることが出来た。

 北方大陸を進むにあたって、やはり服は必需品だ。近くの店で買っておく必要がある。だが、それと同時にしなければならない事がある。それはイルミへの連絡だ。『異界門』の存在を知った時、真っ先に思ったことが、イルミに何時でも会いに行ける···という事だった。

 しかし、東方大陸から西方大陸へ行こうとした結果、奈落の峡谷へと迷い込んでしまった。当然、こちらから東方大陸に行こうとしても同じ事に成りかねない。あれと戦うのはもう勘弁して欲しい。

 その他に伝書という手段もあるのだが、魔邪の樹海に届ける奴なんていない。主従契約を結んでいれば、念話をする事も出来るが、もちろんそんな契約は結んじゃいない。

 

 「···どうしよっかな。多分、めちゃくちゃ退屈してるだろうなぁ」

 

 ああ見えてイルミは、ものすごく寂しがり屋だ。発狂して樹海を破壊してなきゃいいけど······。

 

 とはいえ、もしかしたら-という手段は一つある。それは、あの化物共の動きを止めた事で、『異界門』が使えるようになっている-という可能性だ。あの正体不明の塊が、何かしらの結界を張っていたとしたら、解除されている可能性は十分にある。その為、一応は試してみることにする予定だ。

 

 と、その時。部屋の扉がノックされた。はーい-と返事をすると、ゆっくりと扉が開かれた。そこに居たのは、昨夜の美少女だった。

 

 「おはよう。どうしたの? 〝アリサちゃん〟」

 「おはようございます。〝エトさん〟」

 

 いや、まぁ〝いろいろと〟あったのだ。名前を呼び合ってもおかしくはない。

 

 「昨日は遅くまでごめんなさい。その······つい」

 「ううん。こちらこそありがとう」

 「えへへ。あ、えっと、朝ご飯用意出来てるので、いつでもどうぞ!」

 「うん、分かった。みんなに声をかけて行くよ」

 「はい! それじゃまた後で!」

 

 そう言うと、アリサちゃんは満面の笑みで部屋を出て行った。······全く。ともあれ、さっさとご飯を食べて行動を開始しよう。

 

 準備を終えた俺は、ミーア達の部屋に向かった。すると、ルカが俺に気付いたようで、ノックをする前に扉を開けてくれた。

 

 「おはようございます。主」

 「うん、おはよう。二人は?」

 「まだ寝ておられますよ。起こしますか?」

 「そうだね。っと、その前に。一応、今日の流れを伝えておくから、ルカから二人に言っておいてくれる?」

 「はい。かしこまりました!」

 

 ということで。俺はルカに今日の行動内容を伝えた。まず、アヤとミーアとルカで、服を調達してくる事。その間に俺は、東方大陸に『異界門』で行けるかどうかの確認をする。これは、化物共を停止させた事で、通る事が出来るようになった可能性があるかもしれないからだ。

 そして、もし行く事が出来ればイルミに近況報告を伝えに行こうと思っている-という事。

 

 「···なるほど。かしこまりました。吾輩は変わらずお二人の護衛という事ですね?」

 「あぁ。頼むな。言うことを聞かないようなら、俺の名前を使ってくれて構わないから」

 「はい!」

 

 こうして、ルカに二人を任せて俺は先に食堂へと向かった。

 

 数分後、二人を連れてルカが食堂に現れた。ミーアはまだ眠そうな目でフラフラと足元がおぼつかないようだ。一方のアヤは、しっかりと目を覚ましている。流石はお姉さんだ。一応、二人に確認を取ると、ルカに伝えた内容はしっかりと二人の頭に刻まれていた。まぁ、アヤもいるから心配は無いだろう。

 

 食事を終えた俺達は、早速行動を開始する事にした。

 

 「また······来てね?」

 「うん。必ず」

 「······えへへ」

 

 アリサちゃんに別れを告げ、店を出た瞬間、アヤに呼び止められて俺は歩みを止めた。何やら不服そうな顔をしている。

 

 「どうしたの?」

 「······節操無し」

 「はい!? な、いきなりなんだよ!」

 「彼女の顔を見れば分かるわよ」

 「うぐっ······」

 

 どうやら、アリサちゃんとの関係を勘づかれたようだ。アリサちゃんの顔を見ただけで見抜くなんて······。これが女の勘というエクストラスキルなのだろうか···。

 

 「···ったく。······相手なら〝してあげた〟のに」

 「え? なんだって?」

 「なんでも無いわよ馬鹿」

 

 アヤはものすごく機嫌が悪くなっている。そんな事を言われても、俺だって健全な男だ。それなりに欲だってある。······とはいえ、このままじゃ面倒そうなので、目に入ったシルバーの指輪を買うことにした。

 機嫌を損ねた事が、幸をそうしたのか、全く気付いていないようなので、サプライズ的な感じで渡すことにする。イルミ曰く、「女の子は、サプライズが好きなのよ!」-だそうだ。

 

 「えっと···アヤ?」

 「······なに?」

 

 俺はアヤを呼び止めると、黙ってアヤの右手の手を取り、薬指に先程急遽購入したシルバーの指輪をはめ込んだ。

 

 「···えっ······いいの?」

 「うん。ごめんね? 俺も一応、こんな顔だけど、男だからさ。でも、気をつけるよ」

 

 そう言うと、アヤは指にはめられた指輪を見つめながらクスッと小さく笑みを見せた。

 

 「···そうね。エト君も男の子だもんね。······指輪、ありがとう。でも、〝右手じゃない方が〟よかったけどね」

 「·········はい?」

 「だから。その······」

 「·········なに?」

 「······馬鹿」

 

 そう言うと、アヤは真っ赤になりながら俺から離れて行った。当然だが、アヤが言っていた意味はわかっていた。が、そいう意味で渡した訳じゃない。というか、そういうのは俺にはまだ早い。だから、アヤには悪いが、今回はこれで勘弁して欲しい。

 

 「······馬鹿エト。ふふふっ」

 

 そんな小さなアヤの呟きも、嬉しそうな微笑みも、俺が気付くことは無かった。

 

 

 

 

 三人と別れた俺は、クオリオーネ王国から程近い丘で『異界門』を試そうとしていた。成功する保証なんて無い。可能性だってゼロに近いが、もし出来たのなら今後きっと役に立つ筈だ。

 

 「さてさて。『異界門』···」

 

 目の前に現れた空間の歪みを眺めながら、ふう-と心を落ち着かせる。最悪、奈落の峡谷へと繋がってもいいが、あの化物共とは会いたくない-なんて思いながら、一歩、また一歩と歩みを進める。

 『異界門』の中は、果てが無い。まるで、夜空の中に迷い込んだような感じだ。距離感も掴めない程の広い空間に無数の小さな光が輝いている。もしかしたら、その無数の小さな光全てが、別の場所へと繋がる出口なのかもしれない。···なんて考えると、ちょっとロマンチックだ。

 入る前、『異界門』を発動した時にイメージした場所への出口は、あからさまに大きな光で現れる。その光への距離は、大体歩数にして十歩くらいだ。クリムゾンの時もそうだった。多分、実際の距離とは関係無く、一律でこの距離なのだろう。

 光に手を当てると、呑み込まれるように手が光の中に消える。しかし、この状態ではまだ向こうに体は出ていない。空間を認識の出来る頭部、つまり頭が光の中に入って初めて向こうと繋がるようだ。俺は、もう一度深呼吸をして光の中に入った。

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか······。

 

 

 

 

 「えっーと······」

 

 空間を渡り、見えたもの。それは、見覚えのある街道。そして、両脇に広がる森だった。振り返ると、遠方に境界門が見える。······つまり。

 

 「っしゃあ! 越えられたぁっ!」

 

 俺は無事に北方大陸から東方大陸へと、空間を渡る事が出来たのだ。ただの空間移動でここまで感動するとは······。しかし、それも仕方がない。何せ、本当に辛かったのだ。あの化物共の相手は。

 一応の確認で、北方大陸に戻れるかも試してみたが、『異界門』はちゃんとクオリオーネ王国の近くの丘に繋がっていた。

 

 「···よし。って事は、あの化物共を止めれば、大陸間で『異界門』が使えるって事で間違いなさそうだな」

 

 あの金属の塊が、何かの妨害をしていたかどうかは分からない。しかし、少なくとも何かしらの関係はあるようだ。今後の参考に頭の隅にでも入れておくとする。

 

 「って事は、念話も使えるのかな」

 

 最初に奈落の峡谷へと迷い込んだ時、妨害の影響でルカへの念話が遮断されていた。空間を渡れた今なら、念話を飛ばせるのでは?-と考えたのだ。

 

 《あーあー。ゴホン。こちらエト、聞こえる? ルカ?》

 《む? おや、主。どうされました? 何か問題でも?》

 

 どうやら念話も問題無く使えるようだ。俺はホッと胸を撫で下ろした。

 

 《ルカ、成功だ。化物共を止めた今なら、空間を渡って東方大陸に来れたぞ!》

 《おぉっ! 本当ですか! おめでとうございます》

 《って事で、俺は近況報告の為に魔邪の樹海へ顔を出しに行くから、ちょっとの間二人を頼む》

 《はい! お任せ下さい。何かあれば、ご連絡致します!》

 《うん、よろしくね》

 

 念話を終えた俺は、すぐに『異界門』を発動し、目的地を魔邪の樹海に設定した。旅立ってから今日で五日目。中々濃い時間を過ごした為、もっと経っていてもおかしくはない気もするが、ようやく約束通りイルミにコンタクトをとる事が出来る。

 まぁイルミもまさか、直接会いに来るとは思っていないだろう。ふふふっ、サプライズというやつで驚かしてやろう。

 

 こうして俺は、再び空間を渡り、イルミの住む樹海へと歩みだしたのだった-。

 

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