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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
大陸横断編
15/71

縮まる距離


 遺跡に入って一時間程が経った。

 

 「······嘘···だろ?」

 「こ、こんな事って······」

 

 俺とアヤは遺跡を進みながら愕然とした。その理由とは-

 

 「何事も無く真魔鉱石に辿り着いてしまった······」

 「えっと······。もっと魔獣とかが、うじゃうじゃしてると思ってたんだけど······」

 

 そう。俺達が愕然としていた理由、それは真魔鉱石に辿り着くまでに低魔獣のゴブリン一匹、スライム一匹現れなかったのだ。もちろんまだ道は続いているが、目的の場所に着いてしまった以上、遺跡探索はこれで終わり-という事になる。

 

 「···ま、まぁよかったよね。無駄に戦わなくて済んだし」

 「う、うん。そうだね」

 

 アヤの言葉に俺は首を縦に振った。確かにこれはいい事だが、少し···というか、大分呆気なかったのでちょっとだけショックを受けざるを得ない。

 

 「それじゃあ、始めるね?」

 「うん」

 

 俺の残念気分を他所に、アヤは真魔鉱石に触れてステータス更新を始めた。

 

 -その瞬間。

 

 「グアアアアアアッ!」

 

 「ってこのタイミングかよっ!?」

 「エト君ッ!」

 「大丈夫、アヤは続けてて! 俺が守るから!」

 「わ、分かった!」

 

 アヤがステータス更新を始めた途端、巨大な魔獣が現れた。見た目は獅子に近い。というか、めちゃくちゃデカい。10メートルを超える巨体に圧倒されながらも、俺は『纏雷』を発動させた。

 

 「なんだコイツ······見た事ないんだけど」

 

 俺の辞書には、目の前の魔獣が何なのかが記載されていなかった。つまり初見の魔獣だ。『魔力感知』によればそれ程強くは無い。が、高位の冒険者でも苦戦するくらいの存在感はある。俺はアヤに気を配りつつ、真面目に相手をする事にした。

 

 「グアッ!」

 

 獅子型の魔獣は一瞬で俺との距離を縮めて来る。俺はそれを高く跳躍する事で回避し、空中で回転しながら魔獣の背後を取った。

 

 「『怒槌』ッ!」

 

 -バチバチバチッ!

 

 強烈な電撃が魔獣の胴体を背後から穿く。そしてすぐに後退した。

 

 「っと。······なるほどね。雷撃はお気に召さない···と」

 

 しかし、魔獣は全くのノーダメージのようで、すぐさま体を反転させて俺を睨みつけてきた。多分だが、この魔獣は雷撃に対する絶対耐性があるのだろう。意外と厄介だ。それに-

 

 「雷撃と一緒に殴り飛ばすつもりだったんだけどね······。物理攻撃も防ぐってか?」

 

 どうやら物理攻撃にも絶対耐性があるらしい。という事は、雷属性以外の魔法攻撃のみで戦う他ない。······本気で面倒だ。単なる耐性なら、魔力値の高い俺の攻撃で属性優劣を無視出来る。しかし、絶対耐性=無効化は別だ。そもそもの効果が無い。

 

 「んじゃまぁ······しょうがないか」

 

 俺が持つ他の魔法攻撃と言えば、【神羅万象(エル・デウス)】しかない。

 

 「エト君ッ! 大丈夫!?」

 「うん、問題ないよ。ないけど、ちょっと今からこの中〝めちゃくちゃ熱くなる〟から、先に謝っとくね!」

 「······へ?」

 

 アヤに声をかけた後、俺は両手を地面に叩きつけた。

 

 「威力は最小限に抑えて···。【神羅万象(エル・デウス)】-『破極噴火(アドラヌス)』ッ!」

 

 -ゴゴゴゴゴッ······

 

 次の瞬間、轟音を響かせながら魔獣を中心に半径50メートルの地面がひび割れていく。そして、そのひび割れた隙間から摂氏二千度のマグマが勢いよく噴き上げた。

 

 「グガァアアアアッ!?」

 

 天井に高々と噴き上がったマグマが魔獣を呑み込んで行く。流石にこれは効いたようだ。巨大な魔獣は一瞬にして溶けて消えていった。

 それを見届けた後、俺は事後処理の為に『地核変導(トラソルテオトル)』で地面を元に戻した。今回は威力を抑えたので、残りの魔力にも十分に余裕がある。

 

 「ふう。おまたせ、アヤ-ッ!?」

 

 事なきを得た俺はアヤの方に視線を向けた。すると、アヤは先程の『破極噴火(アドラヌス)』時に発生した高温によって大量の汗をかいていた。余程熱かったのか、右手を真魔鉱石に触れさせたまま服を脱ぎ、上半身が下着姿になっている。上着もシャツも右腕からぶら下がった状態だ。

 

 「エ、エト君······やり過ぎだよ」

 「ご、ごめんっ!」

 

 俺はすぐさまアヤから視線を逸らした。···が、汗ばんだ下着姿が目に焼き付いて離れない。必死に忘れようとしたのだが、体はいうことを聞かないようで、第二の俺が爆発寸前になってしまった。

 

 「······もぉ。エト君のえっち」

 「ぬぐっ······申し訳ありません」

 

 どうやらアヤには気づかれていたらしい。こればっかりは本当に申し訳ないと思った。

 

 

 

 

 何はともあれ、アヤのステータス更新は無事に終わり、俺達は遺跡を出る事にした。そして、遺跡を出た辺りでアヤが声をかけてきた。

 

 「さっきのも例の化物スキル?」

 「うん、そうだよ」

 「奈落の峡谷で使ったのと違うよね? 何種類もあるの?」

 「んー、何種類っていうか、至高の力(マスタースキル)自体は【神羅万象(エル・デウス)】だけなんだけど、起こせる事象っていうか、天災が複数あるんだ」

 

 【神羅万象(エル・デウス)】の力で起こせる天災が『天運万雷(ママラガン)』や『地核変導(トラソルテオトル)』なのだ。さっきの『破極噴火(アドラヌス)』もその一つ。それぞれが至高の力(マスタースキル)というよりは、【神羅万象(エル・デウス)】を属性に例えて、その属性に派生した各魔法が〝引き起こせる天災〟という感じなのである。···と、まぁ説明したものの、アヤはピンと来ていないようだ。

 

 「ふーん?」

 「まぁ、俺もよくわかってないんだけどね」

 「それっていくつあるの?」

 「七つだよ」

 「七つ!? それ全部があんな凄い力なの?」

 「······まぁね」

 

 とはいえ、【神羅万象(エル・デウス)】シリーズは消費魔力がイカレているので、本気で発動することはほとんどない。金属の塊が相手の時は、結構な規模で放ったが、本気で放つとなると、魔力を半分以上消費する。そのため、本気なら一つが限界だ。特に【神羅万象(エル・デウス)】シリーズの中でも〝ずば抜けて〟化物能力の言える、とある能力に至っては、一撃で全魔力がぶっ飛んでしまう。だから未だに本気で使った事がない。

 というか、能力が能力なだけに使う場面がない。

 

 「まぁこの先、極力使わないで済むことを願うよ」

 「そうだね。光の柱も地震も大陸が壊れるかと思っちゃったもん」

 「うっ······ごめんね」

 「あははっ」

 

 長々と話してしまったが、これでようやく一つの目標が達成出来た。俺達は早速、更新したステータスを確認する為にアヤのステータスプレートを覗き込んだ。

 

 -すると······

 

 

 名前:アヤ・ケイシス

 年齢:二十七歳

 種族:人間

 加護:覇王の加護【高速再生・痛覚緩和・全属性魔法耐性・状態異常無効化・属性進化・魔力増加】

 称号:覇王の番

 魔法:水属性魔法 → 氷属性魔法

 魔力値:【4,500】→【104,500】

 技能:『US記憶操作』・『気配感知』・『隠密』

 

 

 -と、記されていた。

 

 「·········何これっ!?」

 

 驚きの余り、ステータスプレートを地面に落としたアヤ。俺はアヤの表情を不思議に思いながら、地面に落ちたステータスプレートを拾い上げた。

 

 「おぉー······。凄いじゃん······って〝覇王〟? ······誰だそれ」

 

 加護の欄に〝覇王の加護〟と記されているのを見た俺は首を傾げた。一体誰の加護だ?-なんて思っていたが、言わずもがな。これは多分···というか、確実に俺の事だ。

 

 「覇王って。俺はそんな称号持ってないんだけど」

 

 ってか、〝つがい〟って何だっ!?

 

 なんて独り言を呟いていると、アヤは顔を青ざめさせながら俺の手を握り締めてきた。

 

 「エト君ッ! 何これ、何これ!? 私どうしちゃったの!?」

 「お、落ち着いてアヤ。加護には、加護主の能力が付与される事があるんだ。多分、俺のスキルに近いものが付与されたんだと思うよ?」

 「これもこれもこれもこれもこれもこれもっ!?」

 「た、多分ね。この『魔力増加』と『属性進化』以外は常用付与スキルだから、自動で常に発動されてる事になるね。もちろん魔力消費も無いよ」

 

 とはいえ、正直びっくりした。『高速再生』に『痛覚緩和』、それに『全属性魔法耐性』なんてものまである。この『属性進化』と『魔力増加』なんて、多分めちゃくちゃ希少だ。見た事がない。

 魔法の欄と魔力値の欄には、それぞれ強化された後の数値や属性魔法も記されている。この数値だけ見れば、アヤはSランクの基準値を上回っている。

 

 「な、なんだか怖い······かも。体から力が溢れてくる気がする」

 

 急な成長は体にも心にも影響を及ぼす。アヤは今、力に呑まれる感覚を味わっているのだ。俺も経験したが、急成長する人間は多くはない。だが、少なくもない。ほとんどの人間が、この感覚のままに強者と戦い命を落とす。魔力値やスキルが増えた所でそれを使いこなせなければ意味を成さない。

 

 「アヤ。覚えておいて? 上には上がいる。強くなったとしても絶対に自惚れちゃダメだよ?」

 「うん。それは大丈夫だよ? 隣にエト君がいてくれてるからね」

 「そっか。ならこれからはもっとビシバシ行くからね?」

 「うんっ。お願いします!」

 

 少し落ち着きを取り戻してくれたみたいだ。そして、俺はアヤと魔法学園に行くにあたって、一つの約束をした。それは、余程の事が無い限り、『魔力増加』を使わないということ。魔法学園の教師でも魔力値が【100,000】を超える者は多分居ないだろう。

 俺と同様に怪しまれる可能性がある。まぁアヤの場合は『記憶操作』があるので、最悪なんとかなりそうだが、極力面倒事に巻き込まれて欲しくはない。

 

 「分かった。エト君の言う通りにするね?」

 「うん。ありがと」

 

 えへへ-と笑顔を見せたアヤは、当たり前のように俺の手を握って歩みを進めた。

 

 ······まぁこのくらいは別にいっか。

 

 少しずつ明るくなりかける空の元、俺達は魔法学園へと向かう。途中、スノーマンと出くわしたり、小型の魔獣と相対したが、俺との組み手で自信を付けたアヤが見事に倒していった。······これからの成長が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 -数時間後。

 日が昇るにつれて、気温が少しずつ上がっていくのが分かる。上がるといっても寒い事に変わりはないのだが、明るいのと暗いのでは温度の感じ方が変わってくる。そんなことを考えながら、不思議だなぁ-なんて思っていると、遠くの方に大きな壁が見えてきた。

 この距離でも分かるほどにデカい。これは一つの国と言っても過言ではない。

 

 「もしかしてあれ?」

 「多分ね。にしてもあれが学園だなんてね」

 

 これじゃあまるで学園都市だ。学園の上空には少しだが、空間の歪みがドームのように広がっている。あれが強固な結界というやつなのだろう。······めちゃくちゃ攻撃してみたい。どれくらいの威力まで防ぐのだろうか······。

 

 なんて思っていると···。

 

 「······ダメだよ?」

 「ですよね」

 

 俺の目論みは呆気なく看破されてしまった。とはいえ、目的の魔法学園はもう少しだ。なので、この辺りでアヤと一時的に別れる事にした。

 

 「それじゃあ、作戦通りお願いね!」

 「うんっ! 任せて!」

 

 そう言いながら俺から離れて行くアヤの後ろ姿を見ていると、ふと頭に妹の姿が過ぎった。その瞬間、俺は離れて行くアヤを追いかけ、後ろから抱きしめた。

 

 「っひゃ!? え!? エト君···?」

 

 自分で自分が情けない。まるで自分から本当に離れていくような感覚になるなんて。俺はアヤからゆっくりと離れると、アヤに笑顔を見せた。

 

 「······気をつけてね」

 「しょうがないなぁ」

 「えっ······アヤ?」

 

 アヤは振り向き、小声で何かを呟くと正面から俺を抱きしめた。

 

 《大丈夫だよ。エト君の前から消えたりしないから》

 

 抱きしめながら念話で話しかけるアヤ。アヤに俺の心の中の不安が伝わってしまったらしい。離れていくアヤが、連れ去られた妹と重なった事もお見通しなのだろう。じゃないとこんな言葉は出てこない。

 

 《不安なら······そこの木陰で···する?》

 《はははっ。念話だからって容赦ないね。それって〝キスじゃない〟んでしょ?》

 《そうだよっ?》

 「却下だよ。······〝まだ〟早い。出直しなさい」

 「もぉ。·········って、えぇ!? ちょ、エト君ッ! それってどういう事!?」

 

 どういう事も何もそういうことだ。小っ恥ずかしいことこの上ないが、たまにはこういうのもいいだろうと思っただけだ。にしても、不安を取り除こうとしてくれたようだが、それはなんか違う気がするけど。

 

 「はいはい、行った行った〜」

 「無理ー! ちゃんと言ってくれないと作戦に支障がでーまーすーっ!」

 「ふーん。じゃあ、さっきのは無しって事で」

 「行ってきますっ!」

 

 俺の言葉に態度を一変させ、俺に敬礼をしたアヤは魔法学園へと駆け出して行った。全く、困ったお姉さんだ。

 

 そして。

 俺はアヤが戻って来るまでの間、魔法学園が見える近くの木陰で横になる事にした-。

 

 

 

 

 

 

 -一方。

 

 「〝まだ早い〟···かっ。えっへへ〜」

 

 街道を魔法学園に向けて駆け出す。見送ってくれたエト君がどんどん小さくなっていく。さっきの言葉は正直予想だにしていなかった。多分、少しずつだがエト君との距離が縮まっている気がする。

 

 ミーアちゃん拗ねるだろうなぁ〜。

 

 なんて思いながらも、これからの作戦の事はしっかりと頭に入れていた。とにかく私はこれから魔法学園に侵入するのだ。エト君の為にも失敗は出来ない。

 

 「ん? そこのキミ。こっちに来なさい」

 

 大きな鉄の壁に埋め込まれるように建てられた入門審査室の男性が私を出迎えた。人数は一人のようだが、見ただけで分かるほどに強い。······とはいえ、エト君と比べると全く問題ない。やはり一度、本気で殺気を放ってもらってよかった。一瞬で気を失ってしまったけど。

 

 「なんですか?」

 「魔法学園に何か用かね?」

 「いえ、おにいさんと少しお話したくて······。ダメ···ですか?」

 

 私は男性に向けて上目遣いで甘い声を出した。こういう事は、今までにもクリムゾンで平然と散々やって来たが、今はものすごく気分が悪い。こんな声も表情も仕草も、今はエト君にしか見せたくない。

 

 「な、なんだい? 話くらいなら······聞いてもいいが」

 

 案の定、目の前の男性は鼻の下を伸ばし、私の胸元をチラチラと見つめている。······不愉快だ。でも、エト君の為なら我慢する。今だけだ。この男に触れさえすればこの不愉快な思いも消える。

 

 「あ、あの。握手···なんて······」

 「も、もちろん良いとも。ほら」

 「······わーうれしいなー」

 

 私は男の手に触れた瞬間にエクストラスキル『記憶操作』を発動した。男の下心丸出しな表情についつい言葉が棒読みになってしまったが、そんな事はもう関係ない。『記憶操作』が成功したからだ。

 

 「これはこれはアヤさん。お久しぶりですね! えっと、赴任は今日からでしたね。どうぞどうぞ!」

 

 一瞬で入門審査官の男は『記憶操作』によって、私の存在を刷り込まれた。設定は、学園長の指示で今日から一年の間、教師として魔法学園に赴任する-というもの。ちなみにこの男性とは以前から知り合いだということにしておいた。もちろんエト君の事も刷り込んである。

 

 「ご苦労さまです」

 

 そう言いながら、私は大きな門の隣に備え付けられた小さな門から中へと入る。入門審査官の男は笑顔で手を振っている。とにかく第一関門は突破した。この調子で必ず学園長まで辿り着いてみせる。

 

 

 

 

 -そして。

 魔法学園に潜入して二時間。ようやく学園長室に辿り着いた。教師や生徒を含めて『記憶操作』を使った人数は二十人を超えていた。流石にこれだけ広いと、学園長室が何処にあるかを誰かに聴き込まざるを得ない。

 

 「さてと。ここからが問題よね······」

 

 そう。ここまでは何かと理由をつけて接触出来たが、学園長ともなればガードが固い筈だ。まともに触れられないかもしれない。それにエト君が言っていたように『記憶操作』を無効化するスキルや耐性スキルを持っているかもしれない。

 私は最悪の場合を考えて学園長室前の窓を開けておくことにした。最悪、この窓から外に出て魔法を空に撃ち込む。エト君の加護のおかげで再生出来るはずだし、痛みもそんなに無いはずだ。

 

 「あっ···。そうだ」

 

 私は一応念話を試してみることにした。

 

 《えっと······確か···》

 《ん? なんだ···この声······もしかしてアヤ?》

 

 私が念話の感覚を探っていると、不意に私の大好きな声が聞こえて来た。その声を聞いた瞬間、私の中から不安や緊張が一瞬でどこかに消えていった。たまらず私は勢いよく彼の名前を叫んだ。

 

 《エト君っ!》

 《な、何かあったの!? まさか『記憶操作』がダメだったのか!? っくそ。待ってて! 今〝本気で〟ぶっ放すから!》

 《あ、待って待って待って!? そうじゃないの! 念話が繋がったのが嬉しくって。今のところ『記憶操作』はちゃんと発動してくれてるから大丈夫だよ?》

 《······へ? そうなの? ···そっか。ならよかったよ》

 《それで、今学園長室まで辿り着いたんだけど、ちょっと不安になっちゃって······それで念話しちゃったの》

 《なるほどね。······アヤ? 不安を消す方法を教えてあげよっか?》

 《なになに?》

 《それは、今の不安がちっぽけに感じる程の〝ありえない状況〟を想像すること!》

 《あはははっ。なにそれーっ?》

 

 やっぱりエト君は面白い。言ってる事はめちゃくちゃだが、不思議とそんな気がしてくる。というか、だとしてもありえない状況とはどういうものなのだろう。

 

 扉を開けるとエト君がいるとか? -ふははっ。ちょっと面白いかも。

 

 《例えば、そこから外が見える?》

 《え? 外? うん。見えるよ!》

 《それじゃあ······-》

 

 そう言うとエト君は急に黙り込んでしまった。というか、外を見てどうしろと言うのだろうか。私はゆっくりと窓の外に視線を向けた。

 

 -すると······

 

 「······えっ。·········どういう事?」

 

 先程まで窓の外は明るかったというのに、今は真っ暗になっている。

 

 《〝初めて使ったけど〟最小限でこれか···。凄いな。あ、時間ないからすぐ〝消すよ〟?》

 《ちょ、え!? ちょっと待って!?》

 

 私はエト君が何かをしたのだと思い、窓から身を乗り出した。しかし、辺りを見渡しても何も無い。今いる場所は相当な高さなので、魔法学園が一望出来るが、それでも不思議なものは見当たら·········

 

 「も······もしか···して」

 

 ふと、私はゆっくりと空を見上げた。

 

 

 

 

 「-ッ·········」

 

 

 

 

 ······なるほど。確かにそこにあったのは〝ありえない状況〟だった。そして、〝それ〟は一瞬で消え去り、すぐに外は再び明るさを取り戻した。

 

 《はぁ···はぁ······ふう。どうだった?》

 《えっとね······〝この世の終わり〟って感じだったかな? あはははっ》

 《そっか。···大丈夫。アヤの変わりに俺が最悪の場合に備えてるんだから。自信持って!》

 《ありがとっ。もしもの時はよろしくね?》

 《任せなさい!》

 

 エト君との念話を切った私は、ゆっくりと学園長室の扉をノックした。

 

 コンコンッ-とリズム良く音を出すと、中から女性の声が聞こえて来た。どうやら学園長は女性のようだ。私はエト君の顔を思い浮かべ、クスッと微笑むと「失礼します」-と声をかけ、学園長室の扉を開いた。

 

 「おや? 見ない顔ですね。どちら様でしょうか?」

 「急な訪問をお許しください。わたくし、ロア王国から参りました。こちらが国王陛下からの書状になります」

 「ほぉ。ロア王国から。それに陛下から手紙とは。頂きましょう」

 

 学園長はゆっくりと立ち上がるとその場から〝消えて〟瞬く間に私の前に現れた。速過ぎて驚く事も出来なかったが、手紙を渡す瞬間に触れられれば私の勝ちだ。『記憶操作』を発動させられる。仮に無効化されても······なんてもう考えない。その心配や不安は学園長室の外に置いて来たからだ。

 

 「受け取っても?」

 「はい」

 

 しかし、手紙を手渡した時には手に触れる事が出来なかった。それどころか······

 

 「ん? 白紙ではないですか」

 

 不味い-と思ったが、これは逆にチャンスだと思った。私は手紙を覗き込む振りをして学園長に擦り寄り、軽く腕に掴んだ。

 

 「ちょっと失礼します。本当ですね。陛下からの書状なので、何か魔法がかけられているのでは?」

 

 なんて適当を言いながら私は『記憶操作』を発動させた。

 

 「······あれ? 私は一体···」

 

 よし! 成功だっ! やったよエト君っ!

 

 学園長にも無事に『記憶操作』が発動し、私の存在とエト君の存在を刷り込ませる事に成功した。

 

 「学園長?」

 「あぁ、ごめんなさいね。それじゃあアヤさん。これから一年間、よろしくお願いしますね?」

 「はい! いろいろと至らない点があるとは思いますが、精一杯頑張ります」

 「はい、結構。それより、エト君はいつこちらに?」

 「もうすぐ着くと思いますよ?」

 「そう。待ち遠しいわね。彼、とても優秀だから」

 

 そう言いながら学園長の女性は笑顔をみせる。そして、学園長はこめかみに指を当てて集中し始めた。多分念話のようなものだろう。『記憶操作』の際に、私とエト君の事を教師達に伝えるように刷り込んでおいたのだ。

 

 《エト君、完了だよ! 今すぐ魔法学園に来てくれる?》

 《おぉっ! わかった、すぐに行くよ!》

 《うん! それじゃあまたね!》

 

 念話を切ると、学園長も丁度伝え終えたようだ。

 

 「それじゃあ、アヤさん。エト君を迎えに行きましょうか?」

 「はい!」

 

 私は学園長に連れられて再び魔法学園の門へと向かった。ちなみに、学園長はエト君をこの世で一番信頼している-という設定にしておいた。当然だが、そこに愛はない-。

 

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