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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
66/136

一足先に



 数回目の椿探し、土曜日の今日はもらったばかりのアロハシャツを車に置いて塾講師のバイトに来た。夕方に終わった塾の更衣室で着替えをして車でアロハシャツを羽織ると調べた大学へ向かう。


 女の子をかわすのはだいぶ慣れた。電話に頼りきりだけど。今日もでっち上げで頑張ると気合いを入れて、ついた駐車場でサングラスをかけて帽子を目深に被って車を降り学生が住んでいそうなマンションやアパートやスーパーを回る。






「はあ……」


 けどやっぱりいない。いないしすごくチラチラ視線を感じて落ち着かなかった。この格好がいけなかったのかな……。けど声はかけられなかったし多少は効果があると思うんだけど。


 公園にたどり着いた俺は緑に囲まれたベンチに座って噴水を眺めながら考えている。こういう所に来れば落ち着けるんだよな……。椿は来てないかな……。あ、あの草木で出来てるオブジェとか椿好きそうだよね。あそこのアーチとか潜る椿なんて最高に可愛い。あ、あれなんて──。




 1時間くらい経った頃、携帯のバイブレーションが鳴っていることに気が付いた。もうこんな時間なんだ。

 親父の仲間……というか友達みんなで集まるという話は都合を調整して11月の中旬ということになった。まだ先だなと思っていたら母さんが来れる人だけでも呼ぼうよーと言い出して試しに聞いてみたら村岡さんだけ二つ返事で来てくれることになった。それが今日。お店を他の人に任せて早めに切り上げてくるというので21時には来るというから俺もそのくらいに帰ることにしていた。そういえばみんな結婚してないのかと思って親父に聞いてみたら昇さんと関さんは結婚してることも子供がいることも前から知っていたけど他に小林さんと竜二さんも結婚してまだ小さいらしいけど子供もいる。木村さんと村岡さんは独身を謳歌しているらしい。木村さんは若い感じで楽しんでるというイメージがするけど村岡さんはどうしてなのか不思議だ。すごく優しくて良い人なんだけど。あ、もしかして見た目に反して遊んでるのかな。

 そう思いながら公園を出て車に乗ると家に帰った。



 20時半すぎに家に着いた俺は着替えをしてリビングに行く。


「あれ?こんなワインあったっけ?」

「村岡くんワイン好きだから買ってきたんだ。おもてなしだよー」

「村岡さんイタリアンが好きだけどお店でたくさん食べてると思ってフランス料理よーおもてなしー」

「そ、そうなんだ」


 お店で食べるような料理がテーブルにずらりと並んでいた。


「今日来るの村岡さんだけだよ?多すぎじゃない?」

「そんなことないわよー。村岡さん食べるの好きだもの」

「イタリアンのお店をするくらいだからそうだろうけど……ま、いっか」


 と、話しているとインターホンが鳴った。


「わーい!!村岡さんだわー」

「あ、俺も」


 母さんが村岡さんを困らせたら困ると思って俺もパタパタ歩く母さんのあとを追いかける。


「いらっしゃーい!!本物だー」

「どういう意味ですか」


 スーツ姿の村岡さんは無表情だけど心なしか嬉しそうだ。こんな母さんでも懐かしいと思ってくれてるんだろう。


「あー髪が長くなってる、ここー」

「この前切ったばかりなので2ヶ月前に会った時とたいして変わらないですよ」

「痛っ」

「あらあらー!!隼人どうしたの!?頭ぶつけちゃったのー!?」

「なんだよ2ヶ月前って!!全然会ってないって感じだったじゃん!!」

「えー?2ヶ月前って久しぶりじゃない。それにおうちに来るのは本当に久しぶりなのよー?」

「ふん!!もう良いよ!!」


 数年会ってないって雰囲気を出してたじゃないかと思いながら壁にぶつけた頭を押さえる。


「たんこぶできてないー?痛い?」

「煩いな痛くないよ」


 まとわりついてくる母さんの手を払って村岡さんに家に上がってもらう。


「いらっしゃい」

「はい、お邪魔します」

「それなんですか?」


 村岡さんが手にしていたものを見る。


「ワインです」

「ワインですか?親父も用意してますよ」

「だと思いました。けどこれは俺の好きなワインなので隼人くんに飲んでもらいたくて持ってきました」

「そうなんですね、ありがとうございます。……母さん、なにやってるの?」

「えへへ!!」


 母さんがついにおかしくなった。いや、いつもおかしいけど。母さんは目の前で両手の人指し指と親指で四角を作ってる。


カシャカシャカシャカシャ


「ああ!?」


 嫌な予感がして部屋の奥へ顔を向けると親父が携帯をこっちに向けていた。


「おーやーじー!!」

「村岡くん久しぶりの佐々木家で隼人とツーショット、だね」

「見せて琉依さん!!わー!!よく撮れてるわねー」


 すぐに親父の撮った写真を見に走った母さんに呆れる。


「ごめんなさい、馬鹿な親で」

「知ってますから大丈夫ですよ」

「ですよね。学生時代から知ってるんですもんね」

「ほらー村岡さん来てきてー!!ごちそうよー!!」


 母さんが大げさに手招きするからまた馬鹿だなと思いながら村岡さんとリビングに行く。リビングのテーブルに並べられたご馳走を前に村岡さんは言う。


「今日来るの俺だけです」

「知ってるわよ?」

「こんなに食べれるわけないじゃないですか」

「えー?大丈夫よ。村岡さん食べるの好きでしょー?」

「限度があります。どうするんですか?食べれませんよ」

「そうなのー?」


 だから言ったじゃないか。おかしいと思ったんだよ。村岡さんスラッとしててあんまり食べるようには見えないし。母さんはうーんと手を顎に当てて考えてる。母さんが考えたってろくなことじゃないだろうに。


「そうだ、食べきれないなら持って帰ってくれれば良いじゃない」

「さすが美香。頭良いね」

「えへへー琉依さんすごいでしょ!!」

「すごいよ、美香は天才だね。食べられないなら持って帰れば良いよ。ね、村岡くん」

「……そうですね」

「すみません、村岡さん……」

「こういう人たちって知ってますから大丈夫です。ムカつくかムカつかないかでいうとムカつきますけど」

「……ですよね」


 ほら、村岡さんが困ってるから止めてよね、と俺もイライラしていると親父が座って座ってと言うから俺たちは椅子に座る。キッチン側に母さんと親父、母さんの正面に俺、俺の隣に村岡さんが座った。


「あ、やっぱりそれ持ってきたんだ」

「隼人くんも気に入ると思います」

「じゃまずはそっちで乾杯しよっか」


 村岡さんが持ってきてくれたワインを3つのグラスに注いでオレンジジュースとワインで乾杯する。


「隼人くん、どうですか?」

「美味しいです。この前お店で飲んだのと全然違いますけど」

「あの時飲んだのもこれもフルボディの重いワインなんです。この前のよりも滑らかで芳醇な香りがするんですよ」


 様になる村岡さんを見よう見まねでもう一口飲む。


「この前のスパイスが効いてるような味とも違いますね」

「そうですね」

「……親父?」


 親父の顔がニヤニヤしていてる。だいたいなに考えてるのかわかるけど。


「買ってこなくて良いからね」

「えー?けどお酒好きでしょ。好きなんでしょ?」

「今までこだわるものなかったものねー」

「今度焼酎も飲んでみる?木村くんと昇が好きだから買ってきてもらうね」

「ええ?そこまでしなくても」

「みんながしたくてやるんです。好きにさせてくれれば良いんですよ。俺もまた他にもお勧めを持ってきます」

「そうですか?……ありがとうございます」

「ねーご飯は?村岡さんどうー?美味しい?」

「はい。美香さんは相変わらず料理だけは才能ありますね。和食以外」

「もー!!お料理だけじゃなくてお花もよー」

「料理と花だけの人ですね」

「えへへー」

「母さん、褒められてないし馬鹿なだけだから止めな」

「美香は天才的に可愛いよ」

「うふふー」

「天才的に馬鹿の間違いです」

「もー!!村岡さんは相変わらず意地悪なんだからー!!」

「美香さんも変わらず馬鹿です」

「馬鹿馬鹿って隼人みたいなこと言ってー!!むー!!」

「隼人くんみたいですか?」

「意地悪だわ!!」

「ふふ、村岡くん喜んでる」


 喜んでるのかな?綺麗に食事をしている口角はあがっているけど。俺が見てると村岡さんと目が合う。


「村岡さんは隼人が好きだものねー」

「好きです」

「え……ありがとうございます?」

「はい」


 変なの……。全然表情が変わらない村岡さんが目を細めて笑う。


「ねね、覚えてる?初めて隼人に会った時」

「琉依さんは小林さんの次です」

「それは良いよーもう……」

「そうじゃなくてー!!退院してからおうちに来てくれた村岡さんがね、私から生まれたのに琉依さんにそっくりですってー」

「当たり前でしょ、僕の子なんだからって言ったら酷いんだよ。僕にそっくりなのに可愛いって言ったんだよ」

「美香さんよりも頭の良い子になるでしょうねとも言いました。当たりです」

「またそういうことー!!ひどーい!!村岡さんがそんなことばかり言うから隼人に移っちゃったじゃないのー」

「え、いつも優菜さんに似てって言ってなかった?」

「優菜も酷いけど村岡さんのせいでもあるわよー。おうちに遊びに来るたびに隼人から離れないで私の悪口ぶつぶつ言うんだものー」

「美香さんに言っても響かないんですもん。美香さんはド天然馬鹿だから隼人くんは真似しちゃ駄目ですよって隼人くんに言うと笑ってくれたんです。可愛かったんです」

「それで隼人の頬につんつんしてさ、隼人もきゃっきゃって笑って可愛すぎたよ……」

「琉依さんにそっくりなのに天使でした」

「言いすぎです……」

「遊んでたら隼人が村岡さんの指をぎゅって掴んだまま離さなくてね、村岡さん帰らないといけないのにそのまま隼人が寝ちゃってー。そっと離して村岡さんが帰るんだけどね、隼人は起きて村岡さんがいないって気付くとすごく泣いちゃったのよー」

「何回もあったよね。村岡くんも帰らなくて良いですか?って。次の日も仕事だって言うのにぎりぎりまで眠ってる隼人のそばから離れなくてさ。この前呼び出されたとか言ってたけど呼ばれて喜んで来てたからね」

「寝顔も可愛かったんです」

「……ねえ!!もう良いよそんな話!!恥ずかしいから!!」


 飲んでないとやってらんないな、まったくもう、と思ってワインを飲み、グラスから離した手をじっと見てみる。


「昔はこれくらいの大きさで俺の手を掴んでたんです」


 ふむ……。何気なく差し出された村岡さんの指を手のひらで握ってみた。


「不思議です。覚えてないと思ってたのに覚えてる気がします」

「そうですか」

「……そ、そんなに喜ばないでください。気がするだけで気のせいかも」


 予想外に村岡さんが嬉しそうだから慌ててしまう。そんな俺に親父と母さんが笑う。


「懐かしいわー」

「そうだねー。隼人はこんなに大きくなったのに」

「だから恥ずかしいからしみじみしないでよ!!」

「けど木村さんが拗ねちゃうかしらね」

「木村なんて放っておいて良いです」

「相棒なのにー」

「その言い方もいい加減やめてくださいよ。あんな馬鹿と一緒にしないでください。隼人くんに呆れられるのも当然です」

「手巻き寿司大会でしょ」

「まったく見守り隊になってませんでしたし」

「一応昇主催の体だったから良いんじゃない?」

「呆れる?手巻き寿司大会?」

「これは覚えてるんじゃないかな?ほら、初めて隼人が美香の筑前煮を食べてみた時」

「それは覚えてるよ!!ま「美味しかったね」……そーだね」


 普段洋食とか中華料理とか凝ったイタリアンとかが食卓に出ていたけど小学生に上がったか上がってないかくらいの時珍しく洋食メニューの中に筑前煮が紛れ込んだ。彩華さんが作るご飯では食べていたそれを一口食べてみるとまったく味がしなくて、彩華さんのと違う、もっと味を足した方が良いんじゃないかと思った俺は椅子から降りてキッチンから調味料を持ってこようとしたんだけど直前で親父に止められた。こういう時はなにも言わずに笑って食べるんだよと教えられ、また親父の母さん好きが発症したと呆れながら最後の一口まで食べたんだ。でもその週末にこんな高そうな店ごめんだと思った記憶がある親父の知り合いの店だという懐石料理のお店に母さんと3人で行った。その時親父は和食なら食べに来れば良いんだよと爽やかに笑って言いのけた。単にあんなまずい料理は二度と作るなって意味でしょとかそれはお金がある人の発言だよとかどうせ知り合い価格で割り引きしてもらうんだろうけどとか俺は和食を食べたい時は彩華さんの手料理が良いよと思いながら母さんの、琉依さん素敵といういつもの台詞を聞いたんだ。

 あまりにはっきりとした親父の態度と言葉に驚愕した記憶があるからかなり鮮明に覚えてる。ニコニコしてるのに得体の知れないよくわからない人だと思った。そのだいぶあとにも驚愕の出来事が起きてさらに親父がわからなくなったわけだけど。

 と、それがどうしたんだっけと頭を現在に切り替える。


「で、その筑前煮と手巻き寿司がどう関係するの?」

「そのあと行った懐石料理店はさ、僕の仕事関係の知り合いのお店だったでしょ。その話をみんなにしたら、和食で良いものなら自分たちが隼人に食べさせてあげるんだって、木村くんが張り切っちゃって。都合がつかなかったから昇と小林くんと木村くんだけ集まることになったんだよ。だから隼人は僕の会社仲間の集まりに参加したって記憶してるんじゃないかな?昇が同級生のお寿司屋さんを貸しきってその人に捌いてもらいながら自分で手巻き寿司を作ってみようってやつ」

「隼人くんは金持ち然としてるのよりもっと身近なのが良いと思いますって行けない代わりに俺が進言したんです。そしたらよくわからないどんちゃん騒ぎになったらしくてなんでそうなったのか不思議でした」

「確かに店内は高級寿司店って感じで魚を捌いてる人は本格的な人なのに木村さんはねじりハチマキしてお祭りで着るハッピを羽織ってた気がする……。あとお囃子みたいな音楽も鳴ってた気がする」

「小林くんが1週間で覚えてきてね」

「そうだ、昇さんも演歌を歌ってた」

「これが和だって伝えたかったんだよねー」

「小林さんのひょっとこのお面見て昴が引いてた覚えがあるよ」

「せっかくだからみんなでって招待してくれたのよねー。楽しかったわー」

「いや、だから引いてたって昴も俺も……」

「だからやりすぎは駄目ってあとで関さんに怒られてましたよ」

「えええ……そうだったんですね」


 あの不思議な記憶にこんな裏話があったなんて……。


「反省して見守り隊は裏方に徹するって言ってたけどそれもどうかなー。やたらとうちに遊びに来てたしね」

「けど一応昇さんだけ隼人くんと喋ってたんですよね」

「ハンカチ咥えながらね。不公平だって言いながら」

「え、そうだった?」

「元々存在感はないですから。ハチャメチャしなければ」

「派手な服着てなければ埋もれるタイプだよね。今頃半年前から計画してたパーティー取り仕切ってると思うけど金ぴかのタキシードを用意したって言ってたよ」

「隼人くんと会えるって半年前にわかってれば計画しなかったのにって言ってましたから今頃自棄になっていつも以上にテンション上がってると思います」

「お互いけなし合うよね、村岡くんと木村くん」

「高校時代からずっとです」

「木村さんって明るい人ってイメージなのに全然知らないって思ってたけどそういうことだったんだね」

「小林さんは不思議さんよね」

「美香さんが言わないでください」

「そうー?」


 昇さんは結構話すというか親父の愚痴をよく聞かされてきた。間宮さんみたいに兄貴肌だけど苦労性っていう感じの人。だけど飄々として危険を察知する能力に長けてるのよね、と以前優菜さんが言っていた。


「小林さんは真面目そうな人だよね」

「真面目です、かなり。ルールが決まりがっていつも煩くて」

「村岡さんもそういうとこちゃんとしてそうですけど」

「あれほどじゃないです。というかあれは自分で自分の首を絞める系の真面目です。乗せられやすい真面目です」

「今日から1週間野菜だけしか食べないことに決めたって突然言い出すからそう言われると他のもの食べさせたくなるでしょ」

「サラダの中に細かく刻んだ肉とか魚とか入れて出したりしました。わからないように細かく切るのにみんな必死になって」

「けどそういうことしてたの大学時代とかの話だよ。さすがに所帯を持ったらそんなことしないよ」

「そんなこと言ってますけど6年前に粉もの食べない1ヶ月に挑戦するっていう小林さんの話を聞いて久しぶりに家で変わり種たこ焼きパーティーをしたいって言い出した木村の意見に一番乗り気だったの琉依さんですよ」

「それは隼人が中学校の修学旅行に行っちゃって美香が短大の時の友達の結婚式に行くっていうタイミングだったからだよ。村岡くんだってノリノリでキムチ大量に買ってきたじゃん」

「せっかくやるならと思っただけです。昇さんに小林さんの奥さんが困ってるから親切心だって言われて」

「仕事の休み時間に小林くんが突然言い出して木村くんがたこパーって言うから隼人と美香が出かけちゃう日なら良いよって言ってね。昇が小林くんの奥さんにすぐ連絡したらまた変なの始まったわって言われたからそれなら阻止しようって村岡くんと関さんと竜二さんにもたこパだよーって連絡したんだ」

「良い年した大人が……」

「それで木村の家に集まってやったんですよ、で、ただのいつもの集まりだって言って来させた小林さんがたこ焼きパーティーだって言ってるのに食べようとしないので一番多く食べた人に年賀状で隼人くんから手書きのメッセージをもらえるということにして食べさせたんです。結局小林さんが優勝で」

「……ああ!?思い出した!!写真撮らされた!!」

「そうそう。せっかくだから来年の年賀状は久しぶりに家族写真を載せようってリビングで3人で撮ったよね。よく撮れてたから小林くんだけじゃもったいなくてみんなに配ろうって全部の年賀状をその写真つきのにしたよ」

「そうだった。反対したのに結局押しきられておばあちゃんたちから可愛い可愛いってめちゃくちゃ言われたんだ。そういえば1枚だけ書かされたね」

「明けましておめでとうだけじゃ味気ないから仕事頑張ってって書いたんだよ」

「まったく誰のか知らないまま書かされたけどね。なんか申し訳ない気がするよ。出かける前に呼ばれてささっと書いたやつじゃん」

「ノープログレムだよ。奥さんとの結婚式の写真と健くんの入学式の写真の隣にその年賀状飾ってるって」

「なんで家族の記念写真の隣に並ぶの年賀状が。家族も困ってるでしょ」

「なんで?」

「なんでって逆になんでよ」

「隼人の写真みんな見たいでしょー。小林さんの奥さんの加代子さんもそうだし翠さんもだしみんなから隼人かっこいいねーって言われたよー」

「……翠さんって関さんの奥さんだよね。まさかみんなって昇さんたちの家族も?」

「そうだよ。みんな隼人が好きだから」

「竜二さんも久しぶりに隼人くんに会えるって奥さんに言ったらサインって言われたそうです」

「あら、それなら翠さんにも言われたわよー。翠さん毎日育児に家事にお疲れさまって手書きのメッセージが欲しいって」

「芸能人みたいだね」

「そうねー」

「嫌って言っても駄目だよね」

「なんでそんな意地悪するのー?欲しいって言ってるんだから書いてあげれば良いじゃない」

「絶対おかしいよ」

「俺も欲しいです。家宝にします」

「……村岡さんまで?……なにを書くんですか?そもそも俺はメッセージとか苦手です」

「お仕事頑張ってください、とかですかね」

「今書きますけどその辺の紙に」


 電話のそばにメモ帳とかあったはずと目を向けようとすると親父たちが不自然に固まっているのに気付いた。


「え、なに?」

「なんでそんな酷いこと言うのー?」

「え、なにが?」

「色紙持ってきます」

「えー?色紙?その辺のメモ帳で良いじゃ……良くないですね」


 わかりやすく落ち込んでしまった村岡さんに慌てて言い直す。


「はい、持ってきます。金箔のついた色紙」

「大げさな……」


 たかが一言書くだけでなにが嬉しいんだろう。よくわからない。





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