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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
67/136

アルバム



 結局食べきれなかったご飯は最初に言っていた通りタッパーに詰めて村岡さんに持って帰ってもらうことにした。


「それにしても村岡さんはどうして生まれた時から知ってて遊びにもよく来てくれてたのにお店ではあんなに他人行儀だったんですか?」


 タッパーを入れた紙袋を受けとる村岡さんに聞く。


「え、えっと……」

「久しぶりすぎていざ話すとなったらどういう感じでいけば良いのか迷ってたんだよ」

「そうなんですか?でも初対面みたいにしなくても……」

「すみません、悩みすぎてもう普段のお店にいる時みたいにすれば良いかと思って」

「なんだ、そうだったんですね」

「はい。今日も楽しかったです」

「俺もです。また来月も楽しみにしてます」


 そう言ってさあ帰ろうという時に誰かが来たみたいだ。


「いたいたー村っち久しぶりー!!」

「優菜さんですか……」

「はい厄介なの来たって顔しなーい」


 リビングに入ってきたのは優菜さんで紙袋を持っていた。紙袋を振って村岡さんの腕にぶつけてる。


「そっか……優菜さんも村岡さんの知り合いだってことだね。仲良さそう」

「仲良「仲良くないです」」

「被せなくても良いじゃん」

「あなたみたいなのと仲良いと思われたくないですから」


 仲良さそうに見えるんだけどと思っていると母さんがあーと叫ぶ。


「そうだわー。優菜が村岡さんに会うのが数年ぶりじゃない?」

「そうね」

「それがどうしたんですか?」

「だって隼人が数年ぶりの感動の再会が見たいってー」

「へ!?言ってないよ!?」


 どんな勘違いしてるんだ母さんは。本当に馬鹿だ。


「そうなの?5年くらいぶりだけど残念ながら感動の再会じゃないわ」

「隼人くんごめんなさい。けどこの人とは根本的に合いません」

「別に謝らなくて良いですけど……」

「それで優菜どうしたの?」

「そうです。なにしに来たんですか?」

「見てこれ!!覚えてる?20年以上前の自分のマフラー!!」

「……はあ?」

「覚えてないでしょー!!年ね!!去年実家に行ったら見つけて懐かしくなって持って帰ってきたんだけどそのまま仕舞っててさっき思い出したから持ってきたんだー」

「……物忘れの激しい優菜さんに言われたくないです」

「私の比じゃないくらい隼人の方が酷いわよ」

「隼人くんは良いんですよ」

「相変わらず隼人贔屓なんだから」

「村岡さんは隼人が好きだからー!!」

「わかってるわよ。けど隼人が小さい時ならまだしも今だと危険な香りだわね」

「なんですか?ドラマの見すぎじゃないですか?それにおばさん感がすごいですよ。アラフォーですもんね。そういえば化粧が濃くなったよう……あ、それは昔からでした。皺が目立つようになりましたね。少し離れて見ましょうか」

「きー!!次から次へと!!本当腹立つ!!」


 俺が呆気にとらわれていると母さんと親父が笑う。


「この感じも久しぶりね」

「美香もいつもみたいに怒りなよ!!」

「そうなんだけど懐かしくてー」

「まさに犬猿の仲だよね」

「もう!!せっかく持ってきてあげたっていうのに。良いから持って帰りなさいよ」

「嫌です」

「あ?」

「話してたら思い出しました。いらないです」

「ちゃんとクリーニング出してあるわよ」

「それでもです。処分してください」

「良いから巻いて帰りなさいって」

「な……まだ10月です」

「持って帰るわね?」

「わかりましたよ。……優菜さんの相手してたら時間が押してしまいました」

「悪かったわね」

「じゃあ帰ります。隼人くん、また」

「え、あ、はい」

「私も帰るわー」

「なにしに来たんですか?」

「だからそれ届けに来たって言ってんでしょーよ」


 口喧嘩しながら廊下に出て歩いていく優菜さんと村岡さんを呆然としながら見る。そして玄関から出ていってドアが閉まる。


「親父大変だよ!!」

「ん?なにが?」

「優菜さんと村岡さん!!」

「優菜と村岡さんがどうしたのー?それより楽しかったわねー。来月みんな来るのも楽しみだわー」


 いつも通りの2人に俺は叫ぶ。


「不倫になっちゃうよ!!」

「「……え?」」

「不倫なんて駄目だよ。浩一さんに連絡しなきゃ……いや、教えない方が良いの?どうしたら良いんだよー」

「隼人何言ってるのー?」

「だって20年以上前の村岡さんが家に忘れていったマフラーを大切に仕舞ってて届けに来たんでしょ?よりを戻すんじゃないの!?優菜さんは結婚してるから駄目だよ!!あ、でも村岡さんが結婚しないのは優菜さんが忘れられないから?でも優菜さんは浩一さんのことが好きだしどうしたら良いんだろう!!ねえ親父!!……親父?なんで笑ってるの?」


 困った困ったと頭を抱えていると親父が笑ってるのに気付いた。


「母さんまで……。なに?」

「だって全然違うんだものー」

「家に忘れてったとも大切に仕舞ってたとも言ってないしそもそも付き合ってたこともないし村岡くんも優菜も好き合ってないよ」

「………けど2人とも似てたしなんか俺に似てた……。あ、もしかして俺と優菜さんの見た目も似てるんだし俺本当は2人の子供って「それはないよ!!」いうわけないよね散々話してるんだから」

「ひどーい!!」

「あ!!ごめんってば母さん!!」


 動揺して酷いことを言ったと思ってリビングから出ていった母さんを追いかけようとしたらすぐに戻ってきた。


「これよー!!アルバム!!」

「これ……」


 母さんが持ってきたアルバムの写真には親父と母さん、それに村岡さんと関さんと優菜さんと浩一さん6人が写っていた。


「ほら、私のお腹が大きくて優菜のお腹はなんともないでしょ」

「優菜よくこんな服着てたね」

「そうよね。この頃優菜お腹出すお洋服着て浩一さんがヒヤヒヤしてたわ」

「ね、あり得ないでしょ」

「うん。……他にも写真あるの?」


 酷い思い違いをしていたことはすんなり解決してこのアルバムの写真が気になった俺はアルバムを捲ってみた。


「これは隼人が生まれたばかりの写真ねー」

「小さいねー」

「ねー」


 次のページに写っていたのは病室で母さんが生まれたばかりの俺を抱いていて親父が母さんのそばにいる写真だ。そしてその下の写真や見開きのページには優菜さんと浩一さんとおばあちゃんたち、それに小林さんが写っていて俺はみんなの腕の中にいた。

 またページを捲ると家のリビングで関さんや村岡さんたちみんなが俺のことを抱いている写真が何枚もあった。その写真の中に浩一さんみたいに強面だけど和服を着ている見慣れない男の人がいた。


「この人が竜二さん?」

「そうよー」

「竜二さんの家は茶道をしていて家はお兄さんが継いでるんだけど時々呼ばれて行くんだ。忙しくしてるからこっちの方であったお茶会に出てから駆けつけてきたんだよ」

「そうなんだ……。みんな写ってる……」


 初めて見る写真に聞きたいことがいっぱいあってページを戻したり次のページを開いたりとしてみる。


「ふふ……少し前から実家にいてね、実家の近くの病院で隼人を産んだのよ。優菜たちはずっと付き添ってくれてたの」

「予定日はまだ先だったからいつも通り仕事してたんだけど急に生まれるかもって母さんから連絡もらって急いで病院に行ったんだよ」

「慌てちゃった琉依さんが普段しないミスをたくさんしててね、危ないって小林さんが付き添って来てくれたのよ」

「そういうことだったんだ」

「見て、琉依さん泣いてるー」

「本当だね。小林さんが嬉しそう」

「隼人を見た瞬間に涙が溢れてきたんだよ」

「みんなで写真を撮ってね、退院したあとに全員遊びに来てくれたの」

「へえ……」


 さらにページを捲ってみると家族だけじゃなくて村岡さんたちもたびたび写っていた。


「しょっちゅう来てたんだよ。特に村岡くん。初めは隼人を抱っこするのに苦戦してたのに遊びに来てずっと隼人のそばから離れなくてね」

「木村さんがたくさんお洋服を買ってきてくれたりね」

「関さんがやりすぎは駄目ってよく怒ってた」

「ふふ、そうねー。でも嬉しかったわ。あ、この頃になると歩けるようになったのよ」

「掴まって歩けるようになったって嬉しくてみんなに報告してすぐ遊びに来てもらったんだけどその時にはもう掴まらなくてもいろんなところに歩いていけるようになってて」

「みんなですごーいって目の前で褒めたら隼人頭とか手を振ってどんどん歩いていくから可愛かった」

「そうなんだ。……覚えてないから多分だけどそれは邪魔に思ってたんだろうな」

「関さんも言ってたよ。歩いてる時に美香が抱っこするとすごく嫌がってね」

「降ろしてあげたら関さんのところに歩いていっちゃってー」

「さすが関さんだね。小さい俺も話のわかる良い人だとわかったんだよ。竜二さんはあんまりいないんだね」

「そうなのよー。でも竜二さんも隼人に会いたいって言ってくれて写真は何回も送ってたのよ」

「竜二さんの会社有名だよ」


 親父が言う会社名に驚く。


「有名な貿易会社じゃん。俺でも知ってるよ」

「そうよー。すごいでしょ」

「本人はいたって大物感ないんだよ。家族に反発して子供の頃からよくヒッチハイクとかしていろんなとこに行ってて」

「自給自足の生活をしてたこともあるんだってー」

「へーそうなんだ」

「でも今はあんまり面白くないよ。かかあ天下だから」

「翠さんとはまた違った感じの人なの。優菜に近いかも」

「強面だし浩一さんじゃん」

「浩一さんは根っから優しいからね。一応竜二さんは反発するんだよ。けど言い負かされちゃうんだ。あの竜二さんがってなったけど今じゃ普通になっちゃったよ」

「この前の感じだとそんなんじゃない気がするけど」

「そうだったかな?」

「けど竜二さんっててきぱきしてるのよ。隼人のおもちゃをねバーってばらまいてたら遊びに来た竜二さんがぜーんぶ片付けてくれてお掃除までパパっとやってくれたの」

「ばらまいてたのは母さんだと思うけどまあ良いや。……この人だよね、テレビにも時々出てる」


 竜二さんがどんな人かわからないと思いながら携帯で検索してみたら写真が出てきた。


「仕事できる人って感じする」

「は……また隼人がなつく気がする」

「仲良しになれるわよー。竜二さんも隼人のこと大好きだもの」

「僕も仕事できるよ!!」


 嬉しそうに両手を合わせる母さんと必死な親父。


「親父は仕事できるけど技術がってことでしょ。昴からしたらすごいと思うだろうけど」

「仕事……できる……」

「わ、わかったよ。すごいよ」

「やったー」

「それにしてもこんなにみんなと撮った写真があったなら教えてくれれば良かったのに」

「だって隼人家族写真恥ずかしいって言うからー」

「思い出に浸ってほのぼのホームドラマみたいって文句言ってたからね」

「……そうだったかな?」

「でも見てくれるならもっと持ってくるわよ!!」

「うん、でもまた今度にするよ。今日はもうこんな時間だし」

「そうー?わかったわ」




 そして部屋に戻った俺は念のため村岡さんにメッセージを送ってみた。


『帰りなにもなかったですか?』


 親父と母さんが知らないだけで村岡さんと優菜さんはこっそり付き合ってたかもしれないし優菜さんのことだから昔好きだった人に夜道で襲いかかることがないとも言い切れない気がする。少しして返事が来た。


『なにかあったんですか?』

『優菜さんといろいろです』

『あの調子で話して駅まで帰っただけですけど』

『それなら良いんです!!じゃあまた!!』

『はい、また今度』


 良かった。なにもなかったみたいだ。でも村岡さんが優菜さんのことを好きで結婚してないならどうしたら良いんだろう。これをきっかけにまた連絡を取り合うようになって……とか。

 困ったと思いながらお風呂に入って部屋に戻るとメッセージが届いていた。関さんからでなんだろうと思ってそれを開いてみた。


『それはない』


 それはない?どういうことだろう、と思っていると村岡さんからまたメッセージが来た。終わったはずなのにと不思議に思ってそれを開くと『電話して良いですか?』と来ていた。俺が返事をするとすぐに着信した。


「どうしたんですか?」

『それはないです!!』

「村岡さんまで?なんの話ですか?」

『優菜さんと付き合ってたことなんてないです!!』

「親父ですね!!」


 もう!!親父の筒抜けが早すぎる!!知らなかっただけで今までも即報告してたんだな。なんて父親だ。


『女帝なんて頼まれても嫌です』

「女帝……?でも優菜さんは性格はあれですけど美人ですよ。甥が言うのもなんですけど」

『それは認めます。ですがそれを上回るんです性格が』

「それはわかりますけど……。それならマフラーはなんだったんですか?」

『えっと……蜘蛛です』

「くも……?」

『虫の蜘蛛です。優菜さんがまだ高校生の時なのでもうずっと前の話なんですけど偶然帰り道で会ったので2人で帰ってたらマフラーに蜘蛛がついて優菜さんに押し付けただけです』

「……だいぶ簡略化されましたけど村岡さんは蜘蛛が大嫌いでそのマフラーを持っていたくなくて優菜さんに押し付けたってことですか?」

『……そうですよ。かなり前のことなので覚えてないと思いますけど琉依さんも美香さんも知ってます』

「なんだ、そんなことだったんですね。じゃあ村岡さんが結婚しないのは優菜さんは関係ないんですか?」

『まったくなにも関係ないです』

「それならなんで結婚しないんですか?」

『結婚しないわけじゃないです。タイミングがないだけで一緒に住んでます』

「え?え、彼女はいるんですか?同棲?」

『そうです。仕事がバタバタしてたので』

「けど今日来てくれましたし落ち着いてるんじゃ」

『最近は落ち着いてるんです』

「なら出来るんじゃ……」

『琉依さんたちと同じこと言いますね』

「え、すみません」

『いえ、良いんです。ちゃんとします』

「そうなんですね。安心しました。優菜さんが忘れられないからじゃないん『それはないです』わかりましたよ、そんなに被せなくても」

『わかってもらえて良かったです』


 そして電話を切った俺は関さんにも『村岡さんにちゃんと話聞きました』と返事をした。







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