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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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閑話 若菜は馬鹿




 小学4年、今日はバスケ部の練習が早く終わったから昴と遊ぼうと思った。小学校は俺の家側にあるから一旦家にランドセルを置いてからまた家を出る。家族がみんな外出してる時は鍵を締めないといけないのに母さんは今日も馬鹿だなと思いながら鍵をしっかりかけて昴の家に向かう。昴の家に行くとリビングに昴と母さんと優菜さんがいた。なんだか不穏な雰囲気に俺は訝しげに思い、テーブルに伏せている優菜さんの背中をさすっている母さんの服を引っ張る。


「母さん、なにがあったの?」

「あ、あ……はやとー……」

「なんでみんな泣いてるの?」


 昴も座って泣いてるし優菜さんは伏せてるし母さんは俺の顔を見てもっと泣き出した。なにがなんだかわからないと思っていると玄関が騒がしくなった。


「ママ!!」

「パ、パパ……」


 リビングに入ってきたのは浩一さんと父さんだった。優菜さんは浩一さんに抱きついた。いつも強気な優菜さんのこんな姿は初めて見た。ますますこの状況はなんなんだと思いながら父さんに問いかける。


「父さん、なにがあったの?」

「うん、あのね」


 父さんはしゃがんで俺に心配かけないようになのか少し笑って言った。


「学校帰りに昴と一緒に帰ってた若菜が昴が目を離してる間にどこか行っちゃったんだ。でも大丈夫。すぐ見つかるよ」

「でも、でも、車が走り去ったって」

「ぼ、僕気のせいだったかも……」


 若菜がいなくなったことに気が付いて動揺していたんだろう。昴が泣きながら言う。


「偶然通りかかっただけかもしれないよ。ね、ママ。落ち着いて」

「でも!!誘拐されたら!!」

「誘拐!!琉依さんどーしよー!!」

「美香も落ち着いて。とにかく警察に連絡しよう、ね?」


 てんやわんやの光景にため息をついた。どうせ若菜がふらーと歩き回ってるだけだろうに。その辺で呑気に遊んでるだろう、と俺はリビングから出ようとする。


「ぎゃー!!隼人どこ行くのー!!」


 なんなんだ。母さんが後ろから飛びかかってきた。まったく、どうして母さんはいつもこんなに狂暴なんだ。


「その辺でふらふらしてるだけだ。見つけて連れてくるよ」

「駄目よー!!誘拐犯が隼人まで連れていっちゃうー!!」

「妄想を肥大化してないでよ。どうせ昴が目を離してる隙に野良猫とか虫とか追いかけていっただけに決まってる」


 べりっと母さんを離すと俺はまた母さんに技を仕掛けられる前にと走って玄関に行って外に出た。

 さてと、とりあえず学校に向かって歩いて、途中で若菜が寄りそうなところを探していこう。俺は駐車場の車の下とか裏とかを探したり草むらの中を枝でつついてみたりした。だがいない。若菜のくせに手を煩わせやがって。見つけたらどうしてくれようか。俺はどんどんイライラを募らせていてふと思い付いた。若菜がここで猫を追いかけたとしたらどうする?俺は辺りを見渡してみる。あの家だ。あの家のおばあちゃんは子供が好きであの縁側から通学中や下校中の子供たちに手を振ってくる。子供たちの中には話し相手になってる人もいるらしい。あのおばあちゃんなら若菜を見てるかもしれない。俺は家のベルを鳴らしてみた。


「あらあら、素敵な僕、どうしたの?」

「俺に似てる小さい女見ませんでしたか?」

「え?ああ、あの外人さんのところの可愛い子ね。見たわよ」

「なにしててどこに向かったか覚えてますか?」

「ねこちゃんを追いかけて向こうに行ったわよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺は頭を下げて向かったという方向に歩き出す。ほら見たことか。やっぱり猫を追いかけてふらふらしてるだけじゃないか。人騒がせなやつだな。優菜さんは外人ではなくハーフだと訂正しなくて良かったかなと一瞬思ったけどどっちでも良いかと頭を切り替える。

 歩いていくと公園があった。こんな所まで来ることなんてないから初めて見たけど大きなコンクリートの塊があって取っ手があるからよじ登って遊べるようになっている遊具にトンネルがあった。家出少女が隠れそうな場所だな、と思いながらそこを覗きこむと思った通り若菜がいた。膝を抱えて下を向いてる若菜に声をかけると顔を上げた若菜が微妙な顔をしてきた。


「昴じゃなーい……」

「お前の自由気ままな放浪に動揺してたよ。お前のせいで。それよりお前な、俺をこんなに歩かせやがって、放浪するなら家の半径10メートル以内にしとけよ」

「半径……それってどこー?」

「こっからあの辺まで」

「短い!!って、放浪じゃないもん!!お散歩だもん!!」


 屈んでトンネルに潜りこんで若菜の頭をつつきながら文句を言うと若菜は手を払って噛みつく勢いで吠えた。


「どっちも同じなんだよ。このお騒がせ女め」

「違うもん!!ねことお散歩!!」

「へーへー。可愛いなって言うと思うかこの馬鹿!!」

「うるさーい!!」

「こっちは部活終わって疲れてるのに昴と遊ばないでお前を探して歩き回ったんだからな」

「頼んでないもーん!!」

「お前が誘拐されたってみんな心配してるんだぞ。優菜さんも母さんも昴もみんな泣いてたんだからな」

「えー!!そうなの!?」

「そうだ。人騒がせなお前のせいで浩一さんも父さんも仕事途中で帰ってきたんだよ。きっと今頃彩華さんと一輝さんも帰ってきて一緒に探してるだろうな」

「ふえー……帰るー」

「当たり前だろ。ほら、帰るぞ」

「帰れないー……」

「あ?なんでだよ」

「痛いもーん……」


 なんだと思いながら若菜の膝を見ると擦りむいていて土がついて赤くなっていた。


「はあ……。転んだのか?」

「ねこと遊んでたら転んでその間にどっか行っちゃった」

「ねこに見捨てられたのか。不憫なやつだな」

「琉依さんの痛いの痛いの飛んでけーやって」

「嫌だよ」

「やってー!!」


 父さんが若菜や昴が怪我した時によくやってるおまじないだ。若菜が騒いで煩いから俺は仕方なくやってやる。


「痛いの痛いの若菜の頭に飛んでけ」

「違ーう!!琉依さんは琉依さんの頭に飛んでけーってやるよ!!これで若菜は痛くないねって!!」

「なんで身代わりにならなきゃならないんだ。冗談じゃない」

「意地悪だー!!」

「もういい加減行くぞ。こっちは疲れてるのに付き合ってやってるんだから」

「だから行けないって言ってるのにー!!おんぶしてー!!」

「嫌だよ」

「おんぶー!!」

「嫌」


 何度も繰り返しているとイライラがどんどん膨らんできた。と、そこで若菜の腹が鳴った。


「お腹空いたー……」

「お前な……」

「ママのご飯……ママ……パパ……昴……会いたいよー……」


 泣き出した若菜にさすがにいじめすぎたかと思った。


「仕方ないな。外まで出れるか?そしたらおぶっていってやる」

「本当に?」

「ああ」


 動く気になったらしい若菜を見てから俺は外に出た。そして手を伸ばして若菜の手を握るとトンネルから引っ張り出した。

 若菜を背負ってみると思った通り重かった。


「お前重いな」

「むー!!パパは軽いからもっとたくさん食べなって言うよー!!」

「そのうち豚になるぞ」

「ぶー!!そんなことないもん!!レディーにそんなこと言っちゃダメなんだから!!」

「若菜はレディーじゃないからいくら言っても平気」

「嘘だー!!琉依さんは小さなレディーって言ってたよ!!」

「父さんだからだ」

「隼人は琉依さんの子なのに全然似てない!!意地悪だ!!」

「はいはい。若菜はその口が悪いところが優菜さんにそっくりだよ」

「隼人の方が口悪いよ!!」

「騒ぐから余計に疲れるんだけど。落とすよ?」

「ぎゃー!!ダメ!!」

「おい、首絞めるのはやめろ、馬鹿」

「じゃあ落とさないって約束して!!」

「約束だー?そんなの俺の腕次第だ。疲れて限界になったら落とす」

「約束ー!!」

「もう煩いな……。わかったよ」



 俺は喋りながらどうにか自分の家の近くまで来た。すると父さんと浩一さんがいた。よし、浩一さんに若菜を押し付けられると思って若菜の足を離した。


「ひゃー!!」

「いてっ!!」


 なんてことだ。若菜を降ろしてやったら俺の首に回してた若菜の腕に締め付けられた。


「なにすんだよ!!」

「だって急に落とすんだもん!!約束したのに!!」

「んなもん知るか!!浩一さんに押し付けようと思ったんだよ!!」

「普通言うでしょ!!なんでなにも言わないの!?信じらんない!!」

「普通なんて知らない!!」

「若菜!!」

「隼人!!」


 俺たちが騒いでいると父さんたちが駆け寄ってきた。浩一さんは若菜を抱き上げて頬を寄せていた。


「若菜……どこ行ってたの?心配したんだよ」

「パパ……ごめんなさい……お散歩してたの」

「お散歩……?」

「ねこと散歩してたら転んでねこに見捨てられて公園でしょげてて怪我したから動けないってなってたよ。しかもお腹空いたって煩いし。まったく、ここまでおぶってきた俺の身になってよ、重いったらありゃしない」

「そっか、ねこちゃんとお散歩してたんだね。良かった、本当に良かった」

「パパー痛いよ」


 浩一さんは安心して強く抱き締めてるんだろう。若菜が潰れると思ったけど俺には関係ない。


「あ、ごめんね。怪我したんだよね。どこ?」

「そういうことじゃないんだけど……。膝、ここ」

「本当だ。痛かったね」

「ん。隼人が痛い痛いの飛んでけで私の頭に飛ばしてきたから頭も痛い。それにお腹空いた。ママのご飯が食べたい。ママに会いたい。ママ……ママ……ふぇ、ふぇ……ママー」

「泣かないで若菜。すぐにママの所行こうね」

「若菜ー!!」

「あ、ママー!!」


 学校寄りの俺の家に場所を変えて集まっていたらしくて俺の家から優菜さんとかみんなが出てきた。次から次へと近所迷惑だな、と思っていると頭にポンと手を置かれた。見上げると父さんがニコニコ笑ってた。


「ありがとう」

「別に感謝されることじゃない」


 優菜さんは若菜を抱き締めた。


「良かった。無事で良かった」

「ママーもうお腹空いたー」

「へ?」


 俺はまた同じ説明を優菜さんとかみんなに説明した。


「若菜の馬鹿!!」

「ひぇー!!ママが怒った!!」

「怒るわよ!!どれだけ心配したと思ってるの!?」

「ごめんなさーい……」

「ママ、無事だったんだから良かったよ。それより怪我も手当てしなきゃいけないしママのご飯が食べたいんだって」

「もう……。わかったわよ。でもみんなも心配したんだからごめんなさいしなさい」

「ごめんなさーい」

「若菜……無事だったなら良いのよー。それより痛くて心細かったんじゃない?よく頑張ったわねー。偉いわー」

「美香さんー」

「昴も若菜がいなくなったって慌てて知らせにきて気が気じゃなかったんだから」

「昴ー」

「若菜ーもうなにも言わないでどっか行かないで」

「うん、多分ー」

「……またやりそうで怖いよ」

「困っちゃうね。GPSでも付けておこうか」

「お父さん、それはどうかと思うわよ。あ、でも携帯とか良いかも……」


 思った通り一輝さんと彩華さんも探していたみたいだ。汗を拭いて安心した表情で笑ってる。


「まったく……。それより俺への労いは父さんだけなわけ?ここまで豚みたいに重い若菜をおぶってきたのに首を絞めるって恩を仇で返されたんだけど」

「レディーに豚だの重いだの言ってんじゃないわよ」


 笑いながら怒ってる優菜さんに乱暴に髪の毛をかき回されて俺はその手を叩き落とす。


「俺だって腕痛いし首も痛いし散々だ」

「隼人ー偉かったねー!!」

「もー!!だから母さんの抱きついてくるのやめてよ!!」


 母さんはすぐ抱きついてこようとする。狂暴な母さんから避難して彩華さんのそばに行く。


「功労者ね」

「ふん……はた迷惑だったよ。せっかく部活が早く終わったから昴と遊ぼうと思ってたのにこんなことに巻き込まれるなんて」

「へ?隼人進んで探しに走ったんじゃないの?」

「なんかすごい良いやつ風に聞こえる。……昴だな」

「隼人くんみんながどうしようってなってるのに一番に飛び出して探しに行ってかっこよかったよ」


 俺のことを慕ってくれてるらしい昴のおそらく人から見たら見たまんまの状況説明だったんだろうがなんだか違う。それでは俺は従妹を心配してすぐに探しに走った殊勝なやつなイメージになってしまう。

 訂正しようと思ったけどみんなも心配しすぎて疲れたようで若菜もお腹を空かせてるし急いでご飯を作ろうと俺の家に撤収していく。ま、どうでも良いかと俺もみんなのあとについて家に帰った。





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