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異話 時雨の日常 ~2~

不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等よろしくお願いします。



 一週間のフィールドワークでブィストロエ川の状況が大体把握することは出来たけど時間が無いや。信玄堤を作りたいと思ってたけど、効果が出るまでは長すぎる。


 よし、ヴァ―ル様に報告しに戻ろう。採用をするとしたら支流づくりとため池造りが一番、使える手かな。


「ヴァ―ル様、ご報告にまいりました」


「おう、入れ」


 最近はローゼ様が重要度や期日で書類を分けているから執務の速度や精度が上がってるってバーンさんが言った。一見、良い所が無いように思えるヴァ―ル様だけど自分に足りないものを理解して、それを補う人材を登用して領政を回していく。そして、自分の私腹を肥やすための政治では無く、民衆の為の政治をしているのはこの世界では珍しかった。


「現地調査が終わりまして、こちらが報告書です」


「確認する。少し、待っていてくれ」


「了解です」


 こうして、見ているとヴァ―ル様も美男子だよね。睫毛も長いし、身体も鍛練を欠かさずにしてるから綺麗だなぁ。


「ブィストロエ川に支流を作り、水量を減らして洪水を防ぐか。問題は時間が無いことか」


「はい。下手に工事を始めて、雨期に入りますと未完成の水路から更なる被害が出ると予想されるので厳しいかと」


 支流の長さは約六百メートル、工事は二年間を予定している。僕には小説的な魔力やスキルによるチートなんてない。確かに知識チートに近いものはあるけどもし、作るとしてたら現代並みの設備や環境が必要で現状じゃ再現なんて出来ない。


 本当に僕はこの世界になんの為に来たんだだろう。


「まぁ、お茶でも飲みなさい」


「ありがとうございます、ローゼ様!」


「いいえ。ヴァ―ルも飲みなさいな」


「おう、ありがとう」


 目の前で大きな果実がプルンと揺れる。なんでなんだろう、僕の方が食事事情は良いはずなのにこんなにも差が出るんだろう。


「ヴァ―ル様! 魔法隊がブィストロエ川の近くで爆裂魔法を使い、大きな窪みが出来ました! あいつらは加減を知りませんぞ! なんか、言ってください!」


「はぁぁ、またか。確かに火属性魔法は海か川の近くでしろと言ったが戦術魔法を使うなよ」


 ノックも無しで部屋に突入してきたのは内政部長のヴァイン様だった。また、魔法隊が大穴を開けたらしい。ということはバーンさんも胃に大穴を開けているんだろうな、可哀想に。


 まて、大きな窪み。訓練で爆裂魔法が使えるということは連発も出来るのではないのか? 窪みの直径を調べて、やれば二年もかからずに工事も終わるんではないのかな。


「今回の罰は厳しくして頂きたい!」


「ちょっと待ってください。爆裂魔法は連発出来るんですか?」


「なんで、そんなことを聞くか分からないが一応、十人で一発。時間を置けば、三発は撃てる」


「人数は?」


「一大隊」


 一大隊ということは六百名弱、一日百八十発も撃てる。疲労も考えたら一日五十発位と考えた方がいいかな。


「どうしたんだ、シグレ?」


「いえ、魔法隊が協力してくれたら工期が短くて済むかもしれません」


「ほう、聞かせてみろ」


「では……」


 僕の意見は認められて、その後は窪みの現地調査と明日の資料作りに追われた。お屋敷に戻るとバーンさんも後処理に追われているらしいく今日は城にお泊りって執事さんが教えてくれた。ちょっとだけ、一人の食事は寂しかった。


「本日は集まっていただきありがとうございます。では、これよりブィストロエ川の支流造りについての説明を始めます」


 今回の説明会に集まったのは領主代行としてローゼ様、内政部からヴァイン様とバーンさん、軍部からはアルディート様と魔法隊隊長のエールデ様、ドワーフ隊のクルツ様が集まってくれた。


 窪みの直径は四メートル、深さは二メートルだと分かった。高さも幅も身長との比較と歩測で計測したら誤差は生じてるはず。そういえば、普通にアラビア数字が使われているし、人名はドイツ語に地名にはロシア語も多い。僕より前に来た渡界人が広めたのかな? お米もないかなぁ。


「以上が計画の概要となりますがご質問はございますか?」


「魔法隊の協力は訓練日程によっては協力が出来ない日も出てくる」


「ヴァ―ル様から今回の戦術魔法の無断使用は工事への従事によって不問し、最大限協力するようにと言伝を預かっております」


「了解した」


 エールデ様もブィストロエ川の近くで訓練すると報告は聞いていたが戦術魔法である爆裂魔法を使うとまでは聞いてなくて、アルディート様とヴァイン様にしこたま絞られたらしい。


「魔法隊で水路を作るのならわしらはいらんのではないのか?」


「いいえ、ドワーフ隊の方々には水路を整地して煉瓦を敷き詰めて欲しいのです。既にドワーフ隊の新人研修で造った煉瓦の不良在庫は確認しております」


「あれが無くなるなら手伝おう」


 クラウト領では新人のドワーフには煉瓦を作らせる伝統があるらしい。昔の帝国との前線がクラウト領であったから建物が破壊されていたからその修復や建材に利用するための策でもあったってバーンさんが教えてくれた。今となっては前線は遠のき、伝統というなの不良在庫造りとなっているらしい。


「しかし、魔法隊の全員を借り出すわけにはいかない。非常事態の為にも貸せるのは百人隊が限界だ」


「……百人隊ですか」


 それもそうだよね。分家さん討伐の前には隣国の帝国から侵略されていたんだっけ。クラウト領軍は騎馬隊が強すぎるから他の領地と比べて、戦争の花形である魔法隊の存在が薄れてるんだっけなぁ。


 |そんな扱いをされている《クラウト領だけ》魔法隊だけど攻城戦や籠城戦では欠かせない兵種でどの領地も必ず大隊くらいの規模は組織してるって誰かが言ってたな。


「一日当たり、三十発。直径は四メートルだけど円は重ねるから進む距離は一回あたり二メートルくらい。きっと魔法自体にムラがあるはずだからもう少し、距離は短いはず。ということは一日に進む距離は最大で六十メートル」


「あのシグレさん……?」


 雨期までは残り二か月。最短でいけば水路を掘るだけでは十日で終わるが煉瓦の積んだりするのは手作業になるからかなりの時間を取るはず。煉瓦の総数は三万三千個。なんで今は気づいたのかなぁ、三万個なんて積めないでしょ。


「シグレさん、どうされましたか?」


「いやぁ、この計画の一番の問題に今気づいてしまったんですよ」


「それは?」


「煉瓦で支流となる水路の補強としようと思っていたのですが三万個も積み上げるなんて不可能ですよね?」


「嬢ちゃん、ドワーフ隊を舐めて貰っては困るね」


 バーンさんもクルツさんが言うなら大丈夫ですよと言って、会議がお開きになってしまった。ローゼ様も頑張ってねと肩を叩いて、戻ってしまった。もう、煉瓦の輸送も開始してるし後が無くなってしまった。僕も覚悟を決めて、水路予定地に印を付けに行かなきゃ。


 僕はまだ、この世界のことを舐めていたことを教えられることとなる。


――二日後


「おいおい、もう少しで煉瓦は積み終わってしまうぞっ! お前らエルフから魔法を取ってしまったら何が残るんだっ! はっはっはっ」


「あのちんちくりん共に言われっぱなしでいいのか!? 気合いを入れて魔法をぶち込め! 戦場でもこんなに爆裂魔法を使える機会はないぞ! さぁさぁ、どんどんぶっ放せ!」


「おうッ!」」


 既に工程の半分を消化していた。うん、おかしい。何もかもがおかしい過ぎる。派遣されてきたのはエルフだけで構成された部隊で普人とは魔力も質も段違いだからということで派遣されたらしい。で、挨拶していたらドワーフ隊のクルツ様が登場、それからがヤバかった。


「嬢ちゃん、来たぜ」


「今日はよろしくお願いします!」


「なんだか、酒臭いと思ったら貴方ですが」


「なんだ、影が薄いと思ったら居たのか?」


 ここから部隊同士で乱闘なるかなと思ったらバーンさんが登場、マジで神様だった。


「もしも、シグレさんの指示に従わなかったらドワーフ隊のお酒の量とエルフへの林檎の支給は減りますから覚悟してくださいね」


「「「「「はい、気をつけます」」」」


「では、シグレさん。頑張ってください」


 それから最後の打ち合わせした後に作業を始めてたんだけど凄いスピードで作業が終わっていくこと。魔法隊の魔法は完璧な位置で炸裂して水路を作っていくし、ドワーフ隊も負けじと煉瓦を積み上げて終わらせていく。それで少しでも暇になるとドワーフ隊が魔法隊を煽ると爆裂魔法を容赦なく、予定地にぶち込んでドヤ顔で返すみたいなことを繰り返していくと一日で半分の工程が終わってしまっていた。


「おつかれさまでした。明日もよろしくお願いします」


「「「「「はーい」」」」」


あっ、エルフの一人倒れたと思ったら隣に居た人から青と緑の液体を無理やり飲ませれていた。


「クルツ様、煉瓦に塗っていたのはなんですか?」


「様付けは止めてくれ、クルツ爺かさん付けで呼んでくれ。あれは千年以上前にあった統一帝国という国の王様が伝えたなんちゃらリートってやつで俺達はリートって呼んでる。あれを塗ると強度が増したり煉瓦同士がずれ落ちないようになるんだぞ。本当は乾くまで時間がかかるが同時に乾燥魔法で水分を取るからすぐに乾くんだ」


「それは凄いですね!」


「そうだろうそうだろう」


 なんちゃらリートって、コンクリートだよね。後、なんで煉瓦の数が四万個も来てるんだぁぁぁ。保存する場所も考えてくださいよぉぉぉぉ。三万個も分割して送ってきてくださいって言ったのに魔法袋(マジック・バック)ってなんなん、所有者の魔力に応じて、収納出来る量が変わりますとかチートだろうぉぉ。エーデル様のあの笑顔を殴りたかった。


 なんと、たった三日で水路は完成してしまった。これまで魔法を整地に使うなんて考えていなかったらしい。後、余った煉瓦でため池を二つほどを作りました。


 今回の水路造りでヴァ―ル様からご褒美がもらえるらしい。やったね!


「よう」


「どうされましたか? ヴァ―ル様?」


「露骨にシグレを贔屓したらしいな」


「そのようなことはありませんよ。エルフとドワーフは種族的に協力なんて出来ないので作業を効率的に行う為に手伝っただけです」


「ふ~ん。そういえば、クラーターがシグレを狙っているかもしれないとアルディートが話していたぞ」

「そうですか」


「筆も安くはないんだから折るなよ」


「……ッ!」


「早くしないと盗られるぞ」


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