九話 クラウト領法十箇条
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「シグレの水路造りは上手くいったようね」
「おかげで水害も防げて、開墾も始まった。あそこの土壌は良いとバーンから報告がきていた」
雨期が始まったが時雨が造った水路のおかげでブィストロエ川は氾濫せずにいた。水路の名前をシグレ水路と名付けようとしたが本人の猛烈な抗議によって、今はシグレ水路(仮)と呼ばれていた。
「新領法は纏まっているの?」
「今は邪魔をしてくる分家もいないから無駄な税も廃止することが出来る。うちは馬と薬草という大きな収入源があるから民衆にはあまり負担は減らしたい」
クラウト領は良馬の産地で有名であるがそれと並んで良質の薬草の産地でもあった。当初は輸出だけであったが冒険者をしていたエルフを引き抜き、薬草の加工を始めた。
それからはエルフからもたらされた効率の良い栽培方法や魔法技術などを提供されて、クラウト領は代わりに地位と生活を保障し、対等な関係を築いてきた。
「貴方がこんな大胆な法を制定するなんてね」
「領地を守ることで頭が一杯だったが俺には優秀な家臣と頼りになる妻が居るからな」
少し前までは婚約に否定的であったヴァ―ルだったが今となっては周囲が認めるほどのおしどり夫婦である。
「この領法を布告したらクラウト領は世界から孤立する可能性がある。だが、俺はシグレが言っていた平等な世界の礎となりたい。その為に今、行動する必要がある」
「……平等な世界か」
「特権階級である貴族の俺が何を言っているんだと他の連中は糾弾するだろう。
だが、憧れないか? 獣人と肩を並べて酒を呑んだり、夢を語られる世界。子供たちが身分によって職業が決められるずに自分がなりたい職業に就ける。
そして、何より悔しいんだ。シグレが居た世界より自分が産まれた世界が劣っていることが悔しいだ。今はシグレの知識を借りて、領地を発展させるがいつの日かは渡界人の知識が要らない領地。いや、世界を作り上げる。それが俺の夢だ!」
ローゼは驚いていた。ヴァ―ルは誰かの為に怒り悲しむことはあるが自分の思いを隠さずに話すのは初めてであった。
与えられた役割を演じるのでは無く、己の夢を語るヴァ―ルの姿は猛々しく輝いて見えた。
「私は貴方の妻だからついていくわ」
「ローゼが俺の後ろを大人しくついてくるとは思えないな」
二人の笑い声は屋敷に響き、使用人を驚かしていた。そして、月は沈み、太陽が昇るように歴史の分岐点へと針が進むのであった。
――翌日
「クラウト領主ヴァ―ル・ラーゲン=クラウト様よりお言葉を賜る。必ず、拝聴するように」
ヴァ―ルは今日の宣誓が全領民に届くように声送りの魔法具などを使い、準備を整えていた。
「クラウト領主ヴァ―ル・ラーゲン=クラウトである。今日は皆にクラウト領法十箇条を制定したことをここに布告する。
内容はギルドや各警備隊詰所、村長宅に掲示しているがここで読み上げる。
一、法の下に種族や身分の貴賤に関係なく、平等に裁かれる。
二、領法は一時的な休息であろうと他国の者であっても領内に居る限り、全ての者に例外なく課せられる。
三、警備隊、もしくは軍以外の者が罪人や疑わしい者を裁くことを禁じる。
四、証拠の隠滅や虚偽の申告、罪人に助力した場合、罪人と同等の罰を与える。
五、許可の無い決闘を禁じる。
六、宗教団体による政への関与を禁じる。
七、法の改定には領主と内政部長、軍部長の承認がなければならない。
八、緊急時を除き、新しい税や税率の改定は施行より一年以上前に全領民に告知しなければならない。
九、新生児や死者、行方不明者が現れた場合は早急に行政に申告すること。
十、出身や信仰する宗教及び種族による差別を禁じる。
以上をもってクラウト領主の名のもとに不変の法とする。
これがクラウト領法十箇条である。他にも無駄な税の廃止、既存の法の改定及び新たな法の制定も行っている為、必ず変更点を確認するように。では、以上だ」
平民は一部の税の廃止に喜んでいたが知識のある者はこの領法の危険性に気づいていた。今まで各国で少なからず差別を受けている普人以外の種族は法で身の安全を保障されるクラウト領を目指すだろう。そして、聖教会に対する宣戦布告とも言っていいほどの宗教分離。
世界を巻き込む闘争がこの時から始まった。
本日(2018年1月9日)、急に総評価が伸びていたことに驚きました。評価して下さった方、ブックマークして下さっている方、いつもありがとうございます。
次話で一章が終わりになりますが今後ともよろしくお願いいたします




