表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/26

長峰更新4

 

――校内放送から化け物の鳴き声がした。


 幻聴だったらよかったのに。最悪カラスの鳴き声でもよかった。

「――んのは今日も元気んの」

 中年のおじさんみたいな高い声で近況報告されたような気分……ではなくて、本当にスピーカーから音がしていた。


 進藤が「スピーカージャック……」と呟く。

 スピーカーの向こうの化け物はこういう。

「――失礼んの人間」

 いや、失礼なのはそっちだって。

「――ちなみにこれを聞けているのはお前らだけんの。オープニングサービスも付けたんの」

 スピーカーの声はそういう。どうやら、こっちの声が聞こえているらしい。というか、そのオープニングサービスが今の地震か! 

 ふざけるな化け物が。この場にいたら引きちぎったのに。


「――前ふりはさておきんの。本題に入るんの」

 前ふりにしては酷いふりだった。

 化け物ははりきったような声で言う。また、追いかけっこでしょ。

「――今日は別んの。追いかけっこじゃなく、かくれんぼんの」

 え、追いかけっこじゃないってなんだ?

 去年はそんなものは無かった……捕まえて倒したら勝ちのゲームに、かくれんぼ?

 化け物が次に言ったのはこんな言葉だった。


「――んのを探せ。この学び舎のどこかにいるから探せんの」


 ――化け物探し。

 『タローさん探し』という名前にふさわしいゲームだった。

 『学び舎』ということは、『この学校の校内全て』が範囲になる。

 植え込みに隠れていたら、絶対に見つからないだろう。

 かといって、校内で目立つようにいてくれるかどうかは……それは無いな。

 

 タローさんは続ける。

「――ヒントやるんの。んのの可愛らしさや愛らしさを考えれば簡単に分かるんの」

 

 ――全然ヒントじゃない。

 まずどこにそんなものがあったのだろうか。


「――んの」

 プチッ。鳴き声と接続の切れる音がした。 


 呆然とするしかなかった。

 え、どこへ行けばいいのか。


 成すすべをなくした私達の中で、進藤が立ち上がった。


「――探すぞ。絶対」

 どうしてそんな真剣な顔ができるのかわからなかった。

「うん、探そう。手分けして」

 志乃美はそういった。

「――じゃあ、私と居鳥はタローさんを。で、千代田君と……。あっちゃんは探すんだよ」

 志乃美は私を見て、さっきまで泣いていたのに、変だ。

 落ち着いた表情で私の方を向いて言った。 


「――菊池君を」


 

 ――廊下に出て驚いた。

 

 人がいた。

 私たち以外の人がいた。

 

 ――ここは異空間ではなく、普通の空間。


 じゃあ、銃は。

 私は引き金を引く。口から出たのは水だった。


「――くそっ」

 進藤がギターを部室の壁に立てかけた。志乃美も紙を捨て、千代田君ももっていた玩具類を置いた。


「――行くぞ桜田」

「うん」

 二人が人混みをかき分けて進む。


「部長、どうしますか」

 千代田君が尋ねる。

「私達は、探してどうするの」

 エミを探すこと。それは無意味に思えるんだ。

 素直にそういうと、千代田君は何もかも分かりきったような顔をしてこう言った。

「菊池は部長のことを知りました」

 知らないよ。

 彼は私のことなんかこれっぽちも分かってくれないよ。


「部長のことを全然知らないあいつが、ちょっと部長をかじりました」

「『かじる』ってそういう使い方したら、物理的にかじられた気になるんだが」

 ちょっとツボに入った。

 千代田君はそれを見て首を少し横にかしげた。


「――そうやって笑う部長のことしか知りませんよ。菊池は」


 不意を突かれた。

 

「菊池が知ってるのは部長の優しさとかそういうプラスの面ばかりっすよ。マイナスなんか見たこと無かった。昔の部長がマイナスだらけだったとしても、それは今と地続きではないので」

 私にとって過去は今につづく一本線だ。

 千代田君の中の過去はそうではないのだろうか。

 エミの過去もまた違うのかもしれない。


「部長は変わったんすよ」

 千代田君は人混みに目線を向ける。

「だから、菊池にそのことを伝えてやって下さい」

 

 ――皆には、内緒ですよ。


 千代田君がそう言って手をかざすと。

 目の前の世界は、一瞬にして明るくなった。


 さっきまでいた人たちがいなくなっていた。。

 廊下にあった人ごみがすっかり消えて、太陽の光が綺麗に差し込む。白い世界が廊下に広がる。


「部長。お先にどうぞ。菊池はどっかにいますよ」

 千代田君は、どうやら超能力者だったみたいだ。え、動揺してる。千代田君もっと評価されるべき……いや、まじで。

 

 とりあえず。先輩はすごく驚いてるけど。感想は後にするから。

「――あ、ありがとう」


 そういって、先を急ぐ。

 後輩は、私の何を知っているかといえば、きっと少ししか知らないだろうけれど、私の気持ちは分かっているらしかった。なんかすごい能力まで使うようになってたのは衝撃だけれど。

 

 ――後輩が成長してる。なら、私が負けるわけにはいかない。

 何も考えず、ただ走ればいい。


 廊下を抜けると、踊り場に出た。一段飛ばしで階段を駆ける、たんたたんたんたん。

 リズムがあった、けれども、いつしかやめてしまった。ハミングの仕方も忘れた。ハミングって鼻歌のことなんだって。鼻歌を歌うと歌の調子が良くなるの。先生が言っていた。

 ハミング。ふんふんと鼻息が荒かったかもしれない。調子が合わないときだってあったかも。


 それでも、私は歌を歌っていた。歌を歌って、可愛いものとキレイなものに囲まれるのが私の幸せ。

 


 ――私が幸せの色を忘れたのは、エミが咲と間違えられて、水をかけられた時だった。


 その日、図書室にエミはいなかった。

 私はリーダーたちに用事があるといって、急いできたのに。

 気落ちして一人で帰ろうと廊下を歩いていると、背後から声がした。


「――裏切り者」 

 振り返るとエミだった。水浸しになったエミがそこにいて、その表情は、どことなくよどんでいた。黒いランドセルを抱えて、私を睨みつけた。

「何で」いじめの矛先は咲なのに。

「私のこともヒドリにとってはターゲットだったんだ」

 え、ターゲットって何が。

「裏切り者。咲のこといじめてたの。ヒドリだったんだ」

「違うよエミング」

「――違くないっ!」

 エミが叫んだ。

「私に水かけた人が言ったんだ。『なんであいつと一緒にいんの。あいつは、あんたの上履きを捨てた張本人なのに』って。あいつってヒドリのことだよね。咲の上履き、どうしたって?」 

 リーダーだ。リーダーがエミに言ったんだ。リーダーは全て知っていた。

「あ、あのね。裏切ったつもりは無かったんだ」

 たどたどしく言い訳をしても無駄だった。

 エミはこっちを見る。茶色い目が突き刺すように見てくる。

「エイミングって。英語だったんだね。『Aiming』って『狙う』って意味だよね。この前、調べてビックリした。何のことか分かってなかったけど今知った」

 エミングは、そういう意味じゃない。そう言おうにも声が出ない。怖い。怖いよ。


「お前なんか、嫌いだよ」

 エミが私を嫌いになった。

 私は逃げる。

 私は噓つきだから。嘘をついていたから、罰がきたの。

 あの絵本にもあったよね。


 ――わたしたちはともだちでした。なかよしでした。

 でも、それはうそでした。しっていましたそいつはにせものでした。だましたやつはあくでした。

 だから、そのこは……。なんだったっけ。いやだ。忘れちゃったんだ。しかも内容うろ覚えだし。どうだっけ。


 私はどうだったんだ? 私なりの。物語で言うのなら。


 ――いきたまま、ごめんなさいをいえなくなりました。


 言い訳ばかりで誤れなかったな。唯一謝れたのは最初のアレだけか。ごめんね咲とかなんとか。


 ああ、結局私には。全く私ってやつは。

「――私には守れなかったの」

 君との約束、守れなかった。

 弱い私だ。

 上履きだって私は命令されて隠しただけ。それをリーダーが見つけて勝手にゴミ箱に捨てた。

 何事にも動じない咲も、さすがにあの時ばかりは泣いていた。

 探しても探しても無いことが咲の心をどれほど傷つけたか。

 私は返してあげようとしたけれど、置いた場所には、もう無かった。

 そのゴミ箱の中身は上履きを入れてすぐに回収されてしまったということは、後から分かったことだ。

 リーダーが、エミを咲と間違えて水をかけたのも後から分かった。

 

 

 ――私は昔を思い出しながら、だんだん答えに近づくような感覚に陥った。

 なんとなく図書室にいそうだ。勘がした。

 理由はなかったけれど、きっとそうだって気がしていた。



 これはエミと私が図書室で話したことの一つ。

「――恵まれた神様って、酷い話だね」

 その日は、エミがめずらしく絵本を借りていた。

 『恵まれた神様』という絵本だ。表紙に描かれた茶色の塊はその神様の姿らしい。

 その絵本のあらすじをざっくり言うと。


『ある恵まれた神様が何もしないからって理由で生き埋めに、それを助けてくれた『誰か』という青年と神様は友達になる。

 神様はその男に恩返しとして、色んな願いをかなえてあげたりしていた。そうやって神様は幸せに暮らしていた。

 ――でも、男は人間なので、神様より先にしんじゃう。

 神様は男が死んで、いっぱい泣いた。泣きすぎて声まで枯れて、今度は自分から土にもぐった』


 話はここでお終いになっており、神様はその後どうなったか書いていない。はっきり言って駄作だった。 

 

 それを昔の私が読んだとき「悲しいよ。恵まれてるのにかわいそうなことばっかりだもん」と言って、絵本を閉じた。

 恵まれている人が悲しむのはおかしいって、そうおもっていたから。


「――私はこの子みたいにならないもん。それにわたしにはエミングがいるもん。絶対一人ぼっちにならないし、エミをひとりぼっちにさせないからね」


 約束破り。それが私の大罪だ。

 

 ――階段の最後の段に足をかけた。

 右手に図書室の入り口があった。

 

 中には、誰もいなかった。カウンターにも、座席にも誰もいない。自習スペースにも。

 誰もいない図書室。女の勘って無意味か。

 

 はは……。もうなんか腹立ってきた。


「――だったらどこ探せっつーーーんだ。化けタローのばーーーーろーー!」


 エミがいなくても、タローさんがすみっこから『んのー』と出てきたらよかったのに。

 私、無駄足か。

 はああああああ……ため息が切れない。

 


「――先輩?」

 声がした。

「長峰先輩ですよね。今、大声上げたの」

 本棚の隙間から、エミが顔をのぞかせる。


 エミが私を見る。

 私もエミを見る。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ