須貝絵玖という女の子(10)
「……………………」
「あ、君、ちょっといいかな?」
「はい?」
「うふふ、こんにちは」
「はあ、こんにちは……あれ? 何処かで見たことがあるような……」
「さすが、成績優秀な五十沢くん、記憶力も良いみたいね」
「……あ、そうだ。思い出した! あの時、道を俺に聞いた――」
「そうそう、覚えててくれたのね。嬉しいわ」
「ああ、どうも。お久しぶりです……えっと、つかぬ事を伺いますが、貴女は須貝絵玖ちゃんの身内の方なのでしょうか?」
「あはは、そんなに畏まらなくて大丈夫よ。あたし、そういうのは気にしないから」
「はい、ありがとうございます」
「……ご察しの通り、あたしは絵玖の身内の人間よ。ヒントを上げるとすれば、絵玖を頑張って産み落とす仕事をしたことがあるわ」
「……分かりました、120%理解しました」
「ふふ、答えは?」
「絵玖の……お母さんです」
「正解~。さすが、回転率が速いわね」
「すっごく分かりやすいヒントを出してもらったので、難なく答えを導き出すことができました」
「それはよかったわ。……ごめんなさいね、急に話しかけちゃって」
「いえ、大丈夫です。むしろ、お話することができて嬉しいです。絵玖ちゃんとは、仲良くさせてもらっていたので」
「普段の呼び方で大丈夫よ、固くならなくていいから」
「ああ、はい。すいません」
「ふふ、話に聞く通り、初対面の人と話す時は上ずりがちなのね」
「え? それは、誰から聞いたんですか?」
「成木先生からよ、ちょっと教えてもらっちゃったわ……」
「うわ、何ていうことだ……」
「ふふ、五十沢くんは面白い子ね。絵玖が懐くのも分かる気がするわ」
「さっきも言いましたけど、仲良くさせてもらえてとても光栄です」
「どういたしまして。……今日も送ってくれてたのよね? 絵玖のこと」
「はい、帰り道は一緒に帰るようにしてまして」
「偉いわ、紳士的エスコートをしてくれてるわけね」
「カッコよく言えばそうかと。本当は、単純に一緒に帰りたいってだけなんですけどね」
「そっか。でも、何か今日は最初に会った時とは雰囲気が違うわね」
「雰囲気、ですか?」
「ええ、前回道を教えてもらった時より、ちょっと落ち着いてる感じがする」
「そんなものが、分かるんですか?」
「まあね。あたし、只者じゃないから」
「自分で言える辺り、相当なすごい場所にいるんだなってことが分かりました……」
「それほどでも~? ……でも、実際当たってるでしょ」
「まあ、そうですね……」
「何か、悩み事でもあるの?」
「……………………」
今目の前にいる人は、絵玖のお母さんだ。それはつまり、絵玖がこの学校に転校してきた理由も、今日絵玖の体に起こった症状のことも全て知ってるってことだ。すごく、聞いてみたい気持ちはある。
だが、それを聞くのが怖いと思う自分もいる。……仮に、俺が考えたことが事実だったとしたら……絵玖を見る目が、普通でなくなってしまうかもしれない。
それに、絵玖はしきりに大丈夫だと言っていた。それはつまり、俺にそれを知られたくないから隠していたってことなんじゃないか?
それを無視して聞くってことは、絵玖の心を踏みにじったことになってしまうんじゃないか?
前回、俺は自分でも言っていた。こういうことを聞くのはもっと仲良くなってからだと。今俺がここで聞くのは、まだ早いことかもしれない。




