あの子って、実は意外と……(10)
「ところで、須貝は何をしてたんだ?」
「え? えっと、野良犬さんに道を通せんぼされてました」
「いやいや、俺が聞きたいのはそれが起こらなかった場合のこと」
「あ、ああ……そ、そうですよね? すいません」
話す回数が増えていく毎にドジっ子キャラが裏付けられていくな。
「特に何をしようとは思ってなかったんですが、強いて言えば散歩、でしょうか? まだこの村のことをはっきりとは知らないので、どういうものがあるんだろうって思ったので」
「そうか? で? 散歩してみた感想は?」
「正直、直後にコウタくんに通りゃんせされちゃったんで、全くと言っていいほど散歩できてなかったです」
「ああ、それは悪いことしたな。今度コウタに言っておくよ」
「いえ、向こうも悪気があったわけではないと思うので、気にしません。それに、散歩ならいつでもできますから」
「なら、いいけど」
「五十沢くんは、何処に行こうとしてたんですか?」
「ん? 俺か?」
「はい。さすがにあたしを助けるためだけにここまで来た、なんてことはないと思うので」
「……須貝を助けるためだけに、と言いたいところだけど、言えないのが辛いところだ」
「あはは、ちょっと返答に困る質問をしちゃいましたね」
「俺は、この先にある駄菓子屋に行こうと思ってたんだ。知ってるか? 『あびこ』って名前の店なんだけど?」
「いえ、初めて聞きました。こっちの道に来たのが、今日が初めてなので」
「そうなのか。じゃあ、須貝の家はこっちとは反対のほうにあるんだな?」
「はい、そうですね」
「何だろう、急にあの店のアイスが食いたくなってな。ちょっと家から迂回して向かおうとしてたんだ。そしたらちょうど須貝がいたと」
「そうだったんですか。……早く食べたかったかもしれないのに、止めてしまってごめんなさいでした」
「いいんだって、謝らなくても。須貝は何も悪くないから、むしろ人助けしてより美味いアイスが食えるってもんだ」
「そ、そうですか?」
「ああ。――よかったら、一緒に行くか?」
「……え?」
「いや、須貝、この村のことをよく知りたくて散歩してたんだろ? アビコまでの道のりまで、色々と見どころもあるし、俺に教えられることも結構あると思うから。どうだ?」
おいおい、どうした俺。何があった俺?
つい先日までちぐはぐな会話しかできなかった俺が、一言会話を交わすだけでも苦戦していた俺が、自分から須貝に一緒に村を回るお誘いをしている。
明日は雪が降るかもしれないぞ。
「……迷惑、じゃありませんか?」
「迷惑なら言わないって」
「……じゃあ、よろしくお願いします」
須貝はぺこりとお辞儀をした。オッケーがでた。
これを亮と佑香に伝えたら、すげーびっくりするだろうな。
まあでも、そのびっくりは「何してくれちゃったんだ? お前」のような罵倒されるものではなく「すごいな、お前」といった賞賛のびっくりのほうだろう。
……自分自身でもびっくりしてるから、予想以上にびっくりされるかもしれないな。
「んじゃ、行くか」
「はい」
俺は須貝と人気のない道路を歩きだした。




