私はあの人と親しい
私はとある趣味を持っておりまして、以前に二ヶ月に一度その集まりに参加していました。
その中に一人普段からにこやかで落ち着いた年配の人がいるのですが、その方が時々私に友人の話をするのです。
その友人とは山口県萩市で窯元を継いでいる方で、高校時代はこちらに来ていて同じクラスだったというのです。
もし私が萩に行く事があるなら一度訪ねてみたらいいよとも言われました。
私は歴史が好きですが焼き物も好きで、それまで美濃焼と備前焼の土地に行ったことがあります。
それで機会があれば訪ねてみようかな程度に心にとどめていたのですが、ある日まとまった休日が出来たこともあって幕末長州の舞台でもあるその場所へと行くことにしました。
実際現地に行き松下村塾などの有名所を色々と見て回ると、夕方頃には反射炉へと足を運びました。
そこでふと思い出したのです。
「そういえばあの人の友人がこの近辺で窯元をやっていると言っていたな……」
どこら辺にあるんだろうと興味の湧いた私はその近辺を少し歩いてみました。
でも事前に調べていないので何処かはわからないし見つからない。
ですがただ見つけたところで訪ねて何かしたい訳でもない。
軽い気持ちで此処なんだとわかればそれで良かったのです。
なのでこれ以上探してもと、そのまま立ち去ろうとしたのですが、丁度そこへ車に乗ってすぐ近くの家にたどり着いた御婦人に遭遇したため、その方に軽い気持ちで訪ねてみました。
「ちょっといいですか?
ここの近くに萩焼の窯元があると聞いたのですがどこら辺でしょうか?」
そしたらその方は
「ウチですよ」
え? 当り?
停車した家を眺めると窯元にそれっぽく見えなくも……。
遠くから眺めてそれで終わりにする予定だったのでこの展開には正直少し困りました。
「ウチに何のご用でしょうか?」
まあ聞かれますよね。
ここでヘンなことを行って不審者と思われるのもイヤなので正直に話します。
「いえその……私は○○市から来たのですが、同じ趣味の集まりで、親しい年配の方がこの窯元さんと学生の頃によく遊んでいたそうなんで何処なのかなと……」
「そうですか。
それは遠路来ていただきましてありがとうございます。
よろしければどうぞ中へ」
「いえ、別にそこまでは……」
「いえいえ、どうぞご遠慮なく」
言われるまま招かれて奥に通されると、そこにはこの窯元で生み出された素晴らしい出来の萩焼が陳列されている応接間のような場所でした。
テーブルへと通され、もてなしでその方が焼いた茶椀に少量の和菓子を出されました。
その状況にどうしたものかと座って待機していると、その窯元のご当主がちいさなお孫さんを抱きながら現れました。
「どうも、初めまして○○です」
「これはお忙しいところすみません。
睦月といいます」
私は人見知りするタイプなので、この時点でかなり後悔しています。
初見の方と話すのどうも苦手なんですよ。
あの時サッサと帰ればよかったのに何やってんだよと自分を責めていました。
そしてこの後の会話で更に私は地獄へと送り込まれるのです。
「貴方のおっしゃっている年配の方は、何というお名前ですか?」
「○○さんです」
「そうですか……名簿を見てみます」
……友人じゃないの?
名簿を見てみますって、それって相手はその人を知らないって事ですよ。
今の自分の立場を客観的に見たら、見ず知らずな赤の他人がいきなり工房を訪ねてお茶を御馳走されているという図です。
どうすりゃいいんだ?
この後どうやって会話をすればいい?
結果的に梯子を外されたような状況となり、身体からはイヤな汗が出てきました。
その場から逃げ出したい気分ではありましたが、それをこらえてどうにか話を合わせようと頭フル回転で話題を作ります。
時間としては九十分くらい。
萩焼の話を色々と聞かせてもらい、工房で作った湯飲みを一つ購入してなんとか無事にその場を切り抜けることは出来ました。
よく虚栄心から「俺は○○と知り合いだ!」といってそんな著名人と友人な俺!をアピールするダメな人がいますが、趣味の知り合いの方はそんな小物臭があるようにも見えない人です。
なので本当にそうなのかと思いきや相手方のあの反応。
自分を良く見せたいという気持ちはどんな立場となっても出てくるんでしょうか?
その訪れた窯元さんなのですがやはり地元でもかなりの人物でした。
この後に帰路で岩国空港へと足を運んだ時、その方の作品が単品で堂々と大きく飾られているのを見ましたし、翌年には日本橋の高○屋で個展まで開いた人なのです。
それ程の人だったのでついつい友人という言葉が出たんでしょうね。
こういう言い方も何ですが、いい意味で名前が売れると親戚や友人が急に増えると聞きますから。
でも私はそれをつい真に受けてやっちゃいました……。
因みに購入した湯飲みですが、使い心地がとても良くて常に愛用しています。




