自宅
家に帰る。
「ただいまー。」
母の「おかえり」が聞こえた気がしたけれど、香葉はそのまま階段を上がった。
自室。
制服代わりの私服を着替えもせず椅子に座る。
とりあえず課題。
数学。
英語。
現代文。
提出日が近いものから片付けていく。
時計を見る。
気付けば一時間以上経っていた。
「終わった……。」
シャーペンを机に置く。
肩が重い。
なんとなく怠い。
病気というほどじゃない。
でも元気とも言えない。
そんな日だった。
⸻
香葉はベッドへ倒れ込んだ。
ふかふかの布団。
天井を見上げる。
窓の外では夕方の光が少しずつ薄くなっていた。
もうすぐ六月。
夏が来る。
香葉は小さくため息をつく。
「夏かぁ……。」
あまり好きじゃない。
暑いし。
眩しいし。
周りは楽しそうだし。
なんだか置いていかれる気がする。
⸻
スマホが震えた。
何気なく画面を見る。
クラスのグループLINE。
文化祭の話で盛り上がっている。
数十件。
未読。
面倒なので閉じる。
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そのままSNSを開く。
少し眺める。
閉じる。
動画アプリを開く。
数分で飽きる。
閉じる。
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退屈だった。
何かしたい訳じゃない。
でも何もしないのも落ち着かない。
そんな中途半端な気分。
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ふと。
今日のブログを思い出した。
古畑亮。
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『必ず夜は明ける。』
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「何なの、あれ。」
思わず呟く。
別に感動した訳じゃない。
そういうのじゃない。
でも。
なんだか引っかかる。
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『耐えた先にはあなたにとっての絶景が必ず広がってるはずだよ。』
⸻
「絶景って。」
香葉は苦笑した。
大げさだ。
いかにも古畑らしい。
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なのに。
なぜだろう。
何度も思い出してしまう。
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教室の後ろで笑っていた姿。
駅でしつこく話しかけてくる姿。
授業中に先生に当てられて、
的外れな答えを言って笑われていた姿。
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そして。
ブログを書いていた時の古畑。
それだけは想像できなかった。
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「……変なやつ。」
香葉は枕に顔を埋める。
⸻
スマホを手に取る。
クラスルームを開く。
もう一度ブログを見る。
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『6月もよろしくね✌︎』
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最後の絵文字に少し笑ってしまった。
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その時。
スマホに通知が表示された。
古畑亮さんがあなたの投稿にリアクションしました
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「は?」
香葉は飛び起きた。
そういえば前に自分が担当だったブログ。
提出課題の愚痴を適当に書いただけ。
今さら?
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恐る恐る開く。
リアクション欄。
いいねマーク
たったそれだけ。
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「何なの本当に……。」
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だけど。
さっきまで少し重かった気分が、
ほんの少しだけ軽くなっていることに、
香葉はまだ気付いていなかった。




