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作品
午後。
病室には静かな時間が流れていた。
香葉はベッドのテーブルにノートパソコンを置き、画面をじっと見つめる。
開いているのは、総合型選抜で提出する制作作品の説明文。
作品そのものは、まだ存在しない。
スケッチブックに描かれた、一枚のデザイン画だけ。
退院したら、生地を選ぶ。
型紙を作る。
ミシンを踏む。
何度も縫い直して、一着の服に仕上げる。
そこまでの工程は、もう頭の中で出来上がっていた。
香葉はキーボードに指を置く。
『作品コンセプト』
しばらく考え、小さく息を吸う。
ゆっくりと文字を打ち始めた。
“誰かに選ばれる服ではなく、着る人が自分らしくいられる服を作りたい。”
“服は、その人の背中をそっと押せる存在であってほしい。”
途中で手が止まる。
「……違う。」
一度すべて消す。
もう一度書き直す。
文章も作品の一部。
だから妥協はしたくない。
ふとベッドの横に置いてあるスケッチブックへ目を向ける。
ページを開くと、描かれているのは何度も手直ししたデザイン画。
まだ紙の上にしか存在しない一着。
それでも香葉には、完成した姿がはっきりと見えていた。
「退院したら……。」
小さく呟く。
「絶対に形にする。」
その声には、不安よりも決意の方が大きく込められていた。
病室の窓から差し込む夏の日差しが、スケッチブックのページを静かに照らしていた。




