第90話:絶望の質量、あるいは街の終焉
――ギギギ、ギィィィィィィッ!!
船首と激突した瞬間、コクピット全体が激しく鳴動した。
ガソタムの両腕から伝わる凄まじい反動。
握っている操作レバーが、目に見えるほどの勢いで、
私の体の方へと押し戻されてくる。
「……く、うぅぅぅぅぅっ! 押し、戻される……っ!」
私は全体重をかけ、腕が千切れんばかりの力でレバーを
押し返した。けれど、相手は30万トンの鉄の塊。
一人の女子高生の筋力など、塵に等しい重みが襲いかかる。
『麗、しっかりしろ! ブースター出力、最大じゃ!
機体が砕けても止めるんじゃ! 根性を見せろ!』
背後の噴射口が火を吹き、海面を真っ白に蒸発させて、
ガソタムは必死に海を蹴る。だが、タンカーの巨体は
嘲笑うかのように、一向に速度を落とす気配がない。
モニターの距離表示は、無慈悲にカウントを減らしていく。
500……400……。港の建物が、すぐ背後に見える。
「……止まって……お願い……止まってよぉぉぉ!!」
喉が張り裂けるほどの絶叫。けれど、現実は残酷だ。
全開のエンジンが悲鳴を上げ、火花を散らしてもなお、
私たちは巨大な死の塊に、ただ押し流され続けていた。
レバーを押し戻す圧力はさらに増し、私の指の骨が
軋む音がコクピットに響く。
目の前には、逃げ場のない「終わり」が迫っていた。




