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イタリアファンタジー戦史   作者:


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総本山

 

 北の大陸から南に向かって突き出た形の半島国家イタリアーナとそれ以北の国々を隔てる山脈。

 一年の半分以上を雪に閉ざされる高山地帯であり、イタリアーナにとっては北からの侵略を防ぐ天然の要害でもある。

 山脈の奥深くにディオス教の総本山があった。その名を「ヴァティカーノ」。

 わずか数千人の人口しかない小さな町同然の国だが、囲まれた峻険な山脈により侵略から守られている。

 高山を縫うように走る細い道は軍隊の維持に欠かせない大量の物資を運ぶには至難。

 それでも山脈を越えてきた軍隊には、短い夏を越えればあっという間に来る冬が襲い来る。日が沈むたびに軍が一割ずつ死んでいくと言われるヴァティカーノの極寒は、二十万の兵を越えると言われる防衛力を備えていた。

 秋でも昼間は汗ばむシュパーニエンとは対照的に、すっかり雪に閉ざされたヴァティカーノの中心部。ディオス教最古の聖堂の中で報告書を読んだディオス教のトップ、教皇が安堵の息をついた。

「イタリアーナ・シュパーニエン連合軍がトルティーアを完膚なきまで打ち破ったそうだ」

「当然です。ディオスの神は常に我々を見守ってくださるのですから」

 教皇の言葉に応えたのは、彼の面影を残した少女。

 髪もまつ毛もヴァティカーノに降る雪のように白く、その瞳は聖堂に捧げられた聖杯と同じ金色。

「ですがイタリアーナは、一年前我らを裏切ってトルティーアと講和した国。信用できるのですか?」

 手渡された報告書を読んでいくうちに、金色の瞳が怒りに歪んでいった。

「やはりイタリアーナは信用なりません、父上」

 報告書を握りつぶしながら、雪と同じ髪色の少女は言った。

「トルティーアの艦隊をほぼ壊滅させながら追撃せず、引き返すなど……」

 マルタ島防衛の任についていたシュパーニエンの将軍、ドン・ガルーシアからの報告書にはマルタ島攻防戦とトルティーアとの海戦の模様が仔細漏らさず綴られていた。

 ディオス教は北の大陸最大の宗教であり各国に信徒がいる。国をまたいだ情報網も完備されていた。

「落ち着け、アルビーナ。イタリアーナは今回の戦いで最も勇敢に戦ったのも事実。ガルーシアの報告を疑うか」

「しかし、追撃を止めた。冬だから海が荒れるというのは建前で、実はまた異教徒どもとの和平を模索しているのでは」

 純白の髪をかき上げながら、アルビーナは食い下がる。

「必死に戦ったという情報も怪しいものです。父上のおそばにお仕えしたこともある、元枢機卿たるガルーシア様が異教徒の手にかかって負傷するなどありえません。おそらくそのパウロとやらが後ろから切りつけたに違いありません」

「アルビーナ。育ての親の負傷だからとむやみに疑うな。偽の証言など、枢機卿がするはずがなかろう」

「し、失礼しました、父上……」

 歯が鳴るほどに身を震わせた娘の様子を意に介する風もなく教皇は目を閉じた。

 あごに手を当てて瞑目する、考え込むときの癖。

 沈黙の中、アルビーナの震えはますます大きくなった。

「見極めねばなるまい。同時に、誼を通じておかねばな」

 アルビーナの肩がピクリと跳ねる。

「それは、つまり」

「イタリアーナ女王の従兄弟、パウロ将軍がディオスの神のためになる人物と見たら、篭絡せよ」

「神に仇なす人物ならば?」

 教皇は一度目をつむり、眉頭に深くしわを刻んでからゆっくりと口を開いた。

「神の名の下に、殺せ」



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