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イタリアファンタジー戦史   作者:


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陸中海最強

 領地の広さや兵数ではシュパーニエンやトルティーアに遠く及ばないイタリアーナ。

 だが海軍は南北の大陸を隔てる海、陸中海最強と言われる。

 海運国家であり貿易も移動も船を使うため、民の末端に至るまで船や舟の扱いに長けていることもある。

 単純に船の数もシュパーニエンやトルティーアより多い。だがなによりも、王族のみが引くことを許される身の丈ほどの長弓、「アルコ」こそが海軍を陸中海最強たらしめる要因の一つ。

 コンスタンティノーポリの城壁を強化していた「カステッロ」と並ぶ、ディオス教の秘蹟。

 秘蹟とはディオス教を奉ずる各国の王族の、さらにごく限られた者にしか使えない、神に分け与えられた力の一端。

 アルコによって放たれる深紅の矢は、大型の船をも一撃で沈める火力を持つ。

「お疲れさまっす、女王陛下」

 船室で甲冑を脱ぐのを付き人のヨハンネに手伝ってもらいながら、クリスティーナは息をつく。

 沖合から港に入った船には、船室の中にさえ壁越しに波止場の民たちの歓声が聞こえてきた。

「今回も大成功っすね」

「ええ…… でもせっかく作った船を粗末にするようで、私は気が進まないわ…… 懸命に船を作り整備する船大工たちに申し訳ない気がして」

 ヨハンネはそれを聞いて、くすくすと笑いをもらす。

「女王陛下は相変わらずやっさしー。でも大丈夫っス。古くなって廃船にする予定のものですし」

「そう言ってくれると、気分が楽になるわね、っん」

 甲冑から腕を抜く際、突き出した胸の先が甲冑に触れてクリスティーナがくぐもった声を漏らした。

「相変わらずっすねー。この甲冑でそんなことになるなんて、女王陛下くらいですよ」

 ヨハンネがクリスティーナの胸をにらみつけた。

 普段はドレスや甲冑で押さえられている文字通りこぼれ落ちんばかりの大きさの胸が、露わになってその存在を存分に主張する。

 黄金比のそれは、前から見ても横から見ても上から見ても下から見ても、球を半分にした理想的な形状。

 支えがなくとも型崩れとは無縁で、先端から突き出した桜色の突起物によって彩られていた。

 最高峰モンブラン級の胸がヨハンネによってひとしきりもみくちゃにされた後、軽装の甲冑を完全に脱いで外出着だけになる。

 後は海風で帆を膨らませた船が港に帰り着くのを待つだけ。なのだが……

「ちゅる、ちゅ、っ、ん、んん!」

「ぴちゃ、ぴちゃ、んむ……」

「れろ、んはあ、ぁぁ……」

 クリスティーナとヨハンネ、二人しかいない薄暗い船室ではくぐもった声が響いていた。

 舌が人の皮膚を這う艶めかしい音。

 餌をついばむ小鳥のような、唇が吸い付く水音。

 ピンク色の舌がれろれろと上気した肌を這う。

「女王陛下、もういいっすか?」

「は、はむ、まだダメ、足りないから。もっと、もっと、もっとぉ」

 ヨハンネの制止の声もクリスティーナを止めるには至らない。付き人が冷めた目で見守る中、一国の女王はまるで赤ん坊のように指をしゃぶっていた。

 やがてちゅぽん、という音を立てて唇が離れる。指と唇をつなぐ粘り気のある糸が、船室の窓から差し込む日の光を受けて金色に輝いていた。

「疲れたり嫌なことがあると、こうやって指をしゃぶる癖、治らないっすねー」

「ヨハンネが教えてくれたんじゃない……」

 クリスティーナが両親を亡くした頃、心労のためか幼いころの指しゃぶりの癖が出たことがあった。

 初めは一人自室で行っていたが、指をしゃぶる感触と音により一時的に気が晴れることを覚えてからは人前でも行うようになる。

 教育係や重臣が咎めたが止まることはなく、見かねたヨハンネが「いっそ気が済むまでやらせてみては?」と進言したのが始まりだった。

「それに、いつか役立つって。パウロもきっとその時が来れば喜ぶからって…… でもにいさまは全然喜んでないわよ?」

「そうっすね。女王陛下の技量が未熟なんでしょ」

「むー。人のこと小馬鹿にして…… もっとうまくなって、にいさまを満足させてみせるんだから!」

「そう。その意気っす。弓と同じく日々の鍛錬が肝心ですから。まあ私も男のモノなどなめたことはないっすっけど」

「何か言った?」

「いえ、な~んも」

 ヨハンネのすました表情にどこか騙されているような感じを覚えながら、クリスティーナは船室の窓から港を見る。

 波止場から聞こえる歓呼の声は止むことはなく、民たちの士気は上々。

 戦争に向けての兵や船員の募集も上手く行っているという。

 パウロからは、同盟が成らなかった場合に来るはずの快速の連絡船もない。

 今のところは万事上手く行っている。そのはずなのだ。

 にもかかわらず胸の奥に感じるわだかまり。それを振り払うかのように、クリスティーナは大きく体を伸ばした。


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