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66ページ目 菫さんの責任重大な文化祭 後編


 菫が一旦教室を後にした頃、めぐるの鶴の一声でコスプレと客引きをさせられた知輝・和馬・幸輔はというと……。


「あ〜、疲れたな」


 持っていたダンボールの看板を置いて、知輝は愚痴りながら校舎裏の外階段に腰を下ろす。外のベンチはどこにも先客がいて座れないので、仕方なく階段に腰掛けることにしたのだ。この辺りはそもそも人通りが少ないので、少しばかりはゆっくりできそうだ。


「なぁ。……ったく山﨑の奴、人使い荒いぜ」


「絶対教室にいる方が楽だろ。こっちは学校の隅から隅まで歩いて手当たり次第声かけなきゃなんねーんだし」


 幸輔と和馬もぶつぶつ言いながら、知輝に続いて階段に座り込む。意外なことに、ここまでは三人ともサボらずに真面目に客引きをやっている。北水島祭が始まってからつい先程まで、知輝達は校門のゲート前はもちろん特設ステージのある中庭や運動場も回り、色んな客に手当たり次第声を掛けている。ほぼ興味なさそうにスルーされるばかりだが、時折食いついてくる客もいた。その前にどの客もコスプレ姿の三人に笑っていたが。

 模擬店で買ったラムネの蓋を開けながら、知輝は客引きしていた時のことを思い出し、ニヤニヤする。


「まぁでも……よっしーは流石だぜ。止まって聞いて くれる女子何人かいたじゃねーか。やっぱりイケメンは得だな〜」


 知輝の言った通り三人の中で和馬は一番集客力が高く、声を掛けられて立ち止まる客が一番多かった。やはり器量が良いからだろうか。眉毛の太くて濃いテューク南郷のコスプレをしているにも関わらず。

 幸輔もその様子を思い出し、小声でポツリと呟く。


「……堀はほぼスルーされてたもんな」


「……なんか言ったか、ザワ」


「なんでもねぇよ」


 眉毛をピクピクさせ引きつった笑顔で知輝は幸輔に訊くが、幸輔は涼しい顔ではぐらかす。そんな2人の横で、和馬は知輝に褒められたにも関わらず、不機嫌そうな表情でラムネをごくんと飲み込む。


「別に嬉しくなんかねーよ。……過去のことほじくり返しやがる奴もいるし」


「…………」


 和馬は喜ぶどころかそう吐き捨てたので、知輝はニヤニヤするのをやめ黙り込んだ。更によくよく思い出してみると、確かに客の中でそのようなことを言った者もいた。


「ほら、あれが春の甲子園でエラーしちゃった……」


「あ~……ヘディングしたんだよね?」

 

「だから野球やめちゃったんでしょ~? てゆーかなんちゅうコスプレしてんのよ(笑)」


 こうしたヒソヒソ話が知輝にも何度か聞こえてきた。当然、話をしている者は皆和馬の方を見ながら。その度に当の和馬はかなりイライラした様子で唇を嚙んでいた。

 今もやはり唇を噛んでいる和馬だが、知輝は困惑しながらも何とかなだめようとする。


「ま、まぁ……そんな気にすんなよ。お前もう野球部辞めたんだから、もう甲子園に行くこともなけりゃエラーすることもないし……」


 知輝が和馬の肩を叩きながら、そう言った時だった。




「あっ! ホリトモさんじゃない!」




 聞き覚えのある幼い声で約1か月振りに呼ばれ、知輝は咄嗟に横に振り向いた。と同時に、目をぱちくりさせる。まさかこの北水島祭で会うなんて思ってもみなかったから。その驚いた表情のまま、知輝は上擦った声で彼女の名前を呼ぶ。


「い……いくちゃん!!」


 知輝を呼んだのは……同じ3組の来美の妹である、育美だ。育美とは来美共々夏休みの別荘旅行で遭遇したばかりか、知輝とはひょんなことからチャボテン公園を一緒に回ることとなった仲だ。しかも、育美はまた知輝と遊びたいとまで言っていた。あれからほぼ1ヶ月経つが、まさか今日再び会うなんて……と、知輝は嬉しい半分少し照れ臭くもなる。

 同じく旅行に参加していた和馬ももちろん育美のことは知っており、「いくちゃんじゃねーか」と言う。その一方で旅行に参加していない幸輔は誰なのかわからず、首を傾げている。そんな幸輔に和馬は耳打ちする。


「田宮の妹だよ」


「あ、そう……言われてみれば確かに似てんな」


 姉の来美の顔を思い浮かべながら言う幸輔に、和馬はくっくっと笑いながらもう1つ教える。


「ホリトモったら、あの子から好かれてるみてーだぜ」


 そう言った通り、育美は他の2人には挨拶もそこそこに、知輝にばかり絡んでいる。


「ホリトモさんやっと見つけた〜! 射的行ったのにいなかったんだから〜!」


「ハハハ……お客さん探しに行ってこいって言われたから……」


「そーなんだ。てゆーか何そのコスプレ? この眼鏡は……のび夫でしょ〜?」


 頭の上の竹とんぼとかけている眼鏡を見るなり、育美はクスクス笑い出す。そういえば今コスプレしてたんだった……と思い出した知輝はつられて笑ってしまう。


「そうだよよくわかったな! やっぱ射的と言ったらのび夫だろ。それにテューク南郷と時元太介も……ってあれ?」


 同じくコスプレしている和馬と幸輔の方をチラッと見る知輝だったが……2人の姿がない。知輝は立ち上がって周りをキョロキョロ見回すも、やはりどこにも2人の姿は見えない。


「えっ? ど、どこ行ったんだアイツら……」


 呆気に取られる知輝に、育美は冷静に何があったか伝える。


「あの人達、さっきどっか行ったよ。シーッてしながら」


「はぁ!?」


「でも大丈夫だよホリトモさん! 私と一緒じゃ寂しくないでしょ!」


 育美は知輝が返事をする間もなく、彼の手を取って引っ張る。知輝は最初こそビックリしたものの……すぐに満更でもない顔になる。相手はクラスメイトの妹かつ小学生とはいえ一応女の子なので、こうしてグイグイ来られるのも嬉しいものだと思ってしまう。


「一緒に回ろうよ! 私またホリトモさんと遊びたくて来たんだから〜」


「マジか〜。いくちゃんがそこまで言うんなら……」


 デレデレしながら知輝がそう言った時、育美はふと知輝の着ているクラスTシャツの裏面をチラッと見た。


「ホリトモさんこれ……」


「……っ!! い、いくちゃん! コレは……」


 遂にキャッチコピーを見られてしまい、知輝はギクッとする。「三度の飯より乳が好き」なんてそもそも子供に見せられないし、育美もきっとドン引きするだろう。そう危惧する知輝は何とか言い訳しようと頭をフル回転させる。

 が、それとは裏腹になぜか育美は笑顔を見せ、無邪気にこう言った。


「三度の飯よりも牛乳が好きなんだねホリトモさん!」


「……あ! は……ハハハ……そ、そうだよぉ〜。牛乳うめぇからなぁ〜」


 知輝は苦笑いしながらも、内心しめたものだと思いながらそう答えた。


 

 菫と琴葉は真っ先にアメフト部のアメリカンドッグ屋まで足を運んだ後、それを片手に廊下を歩いている。その間、同じく楽しそうにしている別のクラスTシャツを着た生徒や、私服姿の客と何度もすれ違った。


「アメリカンドッグってこんなに美味しいのね〜」


「久しぶりに食べたら美味しいわよね。アメリカンドッグなんて食べたの何年振りかしら」


「確かに……私なんか十何年……」


「しっ! バレちゃうでしょ菫ちゃん」


 菫も最後にいつ食べたかしら……と考え込むが、つい口に出してしまい琴葉から釘を刺される。それと同時に母がまだ生きていた時、おやつに時々アメリカンドッグを出してくれたことも思い出した。また今度は葵と食べようかしら……と菫が思っている横で、琴葉はなぜかププッと笑い出す。


「ん、どうしたの? 琴ちゃん」


「いや〜、意外だなって思って。あのアメフト部の先輩が言ってた、清宮君が大失敗した話」


「あ〜……」


 それはアメリカンドッグ屋でのこと。菫と琴葉が買いに行った時、店頭に立っていたのは3年生だった。その3年生に「初めて見る顔だね、1年生?」と聞かれ、菫は2年で寛斗と同じクラスだと答えた。するとその先輩は笑いながら、寛斗が2回もアメリカンドッグを真っ黒焦げにしたことと、そのせいで彼に調理は任せずに接客だけをやってもらっていることを明かした。尤も、調理実習や別荘旅行で寛斗がやらかしたことはもちろん知っているので、菫は全く驚かなかったが。


「……あぁ見えて清宮君って料理苦手らしいわよ〜」


「そうなんだ〜! 勉強やスポーツは何でもできるのに。まぁ確かに料理はしなさそうよね……」


 寛斗があの清宮財閥の息子であることを思い出したのか、それを考慮すると琴葉も納得したようだった。




 その後も菫と琴葉はたわいのない話をしながら、模擬店で食べ物を買っては他のクラスや部活の展示を観て回っている。琴葉の所属する華道部の展示や5組のダンボール迷路にもお邪魔させてもらった。琴葉の生けた花は明るく上品な彼女の雰囲気によく合っており、迷路もダンボール製ながら脱出ゲーム顔負けのクオリティでなかなか楽しめた。


「いや~、面白かったわ! 迷路もなかなかいいわよね。他のクラスと被ってないし」

 

 自分のクラスの出し物を褒めてくれた菫に、琴葉はニッコリ笑いながら礼を言う。


「ありがと菫ちゃん。3組の射的だって面白そうよ。それに射的も全然被ってないじゃない」


「本当? でも友達が射的を提案してくれるまでベタなやつしか出なかったわよ。カフェとかお化け屋敷とか……」


「うちだってそうよ。うちのクラスはそれと輪投げね。で、3組と同じように私の友達が迷路を提案してくれたの」


「なるほどね~」


 やっぱりどこのクラスも出し物決めは同じような感じなのね……と菫は思った。菫が2-3の射的場へと戻るついでに琴葉も来てくれると約束したところで、2人は階段を下りて2階へと向かう。すると、ある教室から一斉にゾロゾロと人が出てくる。


「あれって……視聴覚室よね?」


「あ、そういえば……」


 その教室が視聴覚室だとわかるや否や、琴葉は何か思い出したように言った。


「うちのクラスに映画研究会の子がいるんだけど、上映会やってるって言ってたわ。皆で作った映画のね」


「へぇ~! (というよりうちの高校に映画研究会なんてあったのね)」


 そもそも2-3に映画研究会の人物がいないので存在すら知らず、菫は目をぱちくりしながら相槌を打った。更に視聴覚室へ近づいてみると、道理で窓のカーテンはしっかりと閉じられており、映画を見終わった客も戸のすぐ前のカーテンをくぐって廊下に出ている。場所が場所なのに加え、外の光を完全にシャットアウトしているので、かなり本格的な映画なのだろうか……と菫は思っていた。

 しかしそれとは裏腹に、視聴覚室から出てきた客の反応は……イマイチだ。ほぼ全員無表情か難しい顔をしてため息をつく者もいるほか、極めつけには映画の内容に辛口かつ厳しい意見を言う者までいる。


「結局何が伝えたかったんだろう……つーかジャンルすらよくわかんねぇ……」


「なぁ……最初恋愛ものかと思ったけど、スパイとか悪の組織みてぇなのが出てくるし……」


「しかもヒロインは主人公の命を狙う殺し屋だったんだよな? それに途中で時代劇になったりドッジボール始めたり、主人公がUFOに攫われて宇宙に行くし……」


「B級映画っていうよりC級映画だろコレ……」


 これらの感想を聞いた菫と琴葉は気まずそうに黙り込んだ。そして映画を見た者の中には菫の知っている顔もいる。「僕の芸術の秋がキター!」と背中に書かれた佳之で、恐らく同じ美術部員なのか別のクラスTシャツを着た生徒と出てきた。仲間も他の客と同様に酷評する中、佳之だけはある点を評価する。


「確かに内容はアレだけど……最後に出てきた怪獣と巨大ロボはなかなかよかったかな。コジラとか戦隊もののロボに結構似てたような気がする」


(さすが美術部ね……着眼点が違うわ)


 菫が美術部ならではの着眼点に舌を巻く中、琴葉は苦笑いする。


「なんか……かなり難解な映画みたいね……」


「でもここまでこき下ろされてたら……逆に観てみたくならない?」


「確かに……菫ちゃんの言う通りかも」


 そう思ったのは山々だが、次の上映時間は今から30分後。観ると戻る時間がかなり遅くなってしまうので、菫と琴葉は仕方なく視聴覚室を後にした。


 2階の他の教室でも各クラスや部活の出し物が行われており、理科室では科学部による実験が行われ、社会科教室ではクイズ研究会によるクイズ大会が行われている。クイズ大会では「打倒宇治田原! クイズ王に僕はなる!」と背中に書いた通り、難問に果敢に挑戦する慶吾の姿がある。

 同じく2階にある音楽室では、朗々かつ堂々と歌う歌声が聞こえてくる。


♪エヴリデ~イ アイ リッスン トゥ~ マイ ハ~ト ひ~と~り~じゃ~な~い~


 廊下側の窓から覗いてみると……歌っていたのは2-1の面々だ。そういえば、2-1の出し物は合唱だという噂があったのを菫は思い出した。そもそも音楽室の戸には「2-1リサイタル」と書かれた煌びやかな看板が立てかけられている。1組の生徒の中でも、特に合唱部員である丈一郎は圧倒的な声量で、気持ちよさそうにテノールパートを歌っている。1組の合唱を初めて聞く菫でも、丈一郎の声だとすぐにわかるほど。しかし菫は無表情のまま、すぐに1組の面々から目をそらす。


(確かに上手いんだけど……なんか鼻につくのよね……)


 そんな菫の様子に気付いたのか、琴葉は小声で耳打ちする。


「菫ちゃん、もしかしていけ好かないって思ってるでしょ? 西園寺君の声。わかるわよ、確かに上手いけどなんか……ねぇ?」


「えっ! なんでわかったの? まさにそう思ってたのよ……あのライオン寺君の……」


「ら、ライオン寺……っ、あはははっ!」


 つい3組にいる時のように菫は丈一郎を「ライオン寺」と呼んでしまい、それを全く知らない琴葉は思いっきり吹き出してむせ返るほど大笑いしたのだった。



 菫と琴葉が次に行ってみたのは、中庭にある特設ステージだ。ここではさまざまなステージ発表があり、吹奏楽部やチアリーディング部にダンス部など部活の企画はもちろん、昨年は莉麻が優勝したミスコンも行われるのだとか。2人が観に行った時に行われていたのは……軽音部のライブだ。ステージの前は沢山の客が集まっており、一緒に歌ったり手拍子したり掛け声を発したりと、今まで見た出し物の中で一番大盛況となっている。菫と琴葉も一番後ろの列に立ち止まった。


「やっぱりこういうライブっていかにも文化祭らしいわよね~」


「ほんとそれよ~……あ!!」


 次に特設ステージに出てきた人物を見た瞬間、菫は目を丸くした。すっかりお馴染みの2-3クラスTシャツに下は制服のスカートを穿き、手にギターを持つ彼女は……千穂だ。しかも、2-3クラスTシャツを着ているのは千穂だけではない。後方のドラムセットに座っている恭平もだ。ちなみに背中のキャッチコピーは千穂が「普段は大人しいですがマイクとギター持つと変わります」、恭平が「この通りロックが大好きです」である。


(阪口さんに北山君……! まぁ2人とも軽音部だしライブには出るわよね。……それにしてもよく同じステージに立てるわね、阪口さんは北山君に告白してフラれたってのに。まぁ阪口さん、気まずくないし歌ってる時は忘れられるって言ってたし……)


「どうしたの? 菫ちゃん」


 どうしても菫は同じステージにいる千穂と恭平のことを案じてしまうが、琴葉に声を掛けられてハッと我に返る。菫は一旦首を横に振り、なんとかはぐらかす。


「あ、あの……友達がステージの上にいるの。あのボーカル兼ギターの子と、ドラムの男の子」


「あぁ、菫ちゃんと同じTシャツ着てるものね。てゆーか阪口さん、去年同じクラスだったから私知ってるの」


「あ、そうなのね」


 へぇ〜と思いながら聞いている菫の横で、琴葉はどういう訳か少しばかり気遣わしげな顔で囁く。


「……阪口さんと何かあったの?」


 単刀直入に訊かれ、菫は思いっきりギクッとした。が、何とか平静を取り戻し敢えて質問で返す。


「……どうして?」


「だってちょっと神妙な顔で見てたじゃない」


「あ……! ……阪口さんちゃんと歌えるかなってちょっと心配になってたの」


 自然と表情が変わっていたことを琴葉に指摘されるも、菫は誤魔化した。流石に千穂の恋の話を他言する訳にもいかないので。すると、琴葉は思いの外すんなり納得してくれた。


「あ〜、なんかわかる! 友達がステージ出てたりしたらこっちまで緊張してくるわよね。……阪口さん、何回人前で歌っても緊張するって前言ってたから」


 琴葉がそう言っている側から、ステージに立つ千穂はギターを奏でながら歌い出しを静かに歌っている。しかし菫も知っている通り、歌い出しが終わったところで雰囲気がガラリと変わる。


♪リンダリンダー リンダリンダリンダーァー


 サビに差し掛かり、千穂は先程とは打って変わって叫ぶように力強く歌う。もちろん、ギターもジャカジャカ掻き鳴らしながら。後ろにいる恭平もリズミカルかつ勢いよくドラムを叩く。時折スティックを回すのも忘れずに。

 一気に周りが大盛り上がりする中、琴葉は菫以外の誰にも聞こえないようにもう一つ囁いた。


「あの北山君が一緒なんだから……余計緊張しちゃうかもね」


「え?」


 どうやら千穂が恭平に思いを寄せていることは、琴葉も知っているらしい。観客ほぼ全員がステージに目が釘付けになる中、菫は唖然としてぼんやりと琴葉を見つめていた。


(え……琴ちゃんも知ってるの? ということは……阪口さんは1年の頃から北山君を想ってたってことね。……まぁ流石に告白したことまでは知らないだろうけど)


 そう思いながら、菫はふと自分達の後ろの方を見てみると……またも見覚えのある顔を見かけてギョッとする。そこにいたのは、新聞委員長の暁だ。普段と何ら変わらず相棒の一眼レフを片手にキョロキョロしながら、ウロウロ歩き回っている。


「委員長……せっかくの文化祭でもスクープ探してるのね……」


 菫が呟くと、琴葉も振り向いて暁がいるのを確認し、苦笑いしながら「あ〜……」と漏らす。


「そういえば委員長言ってたわね……北水島祭では羽目を外す奴がいっぱいいるだろうし、スクープを撮るチャンスなんだから……」


「怪しい奴がいたら必ず写真を撮れって……あー、すっかり忘れてたわ」


 いかんせんクラスの出し物に手一杯で委員会のことなんか二の次どころか……完全に失念していた。菫は頭を抱えながらため息をつく。それに続き琴葉もうんざりした顔をする。


「全く……スクープのためなら手段を選ばないんだから……昔からずっと」


「……昔から?」


「あぁ。近所に住んでるからね……」


「……ぇええ!?」


 琴葉と暁の新事実に……菫は更に驚愕し、思わず大きな声が出てしまった。しかし、耳がキンキンするほどのライブの音声と周りの声出しにかき消され、全く目立たなかった。



 菫が2-3の教室に戻ってきた頃、既に寛斗達の姿はなくまた別の部活組と入れ替わっていた。今いる部活組は来美、成一、悠太、遥、日向の5人だ。まためぐると萌が戻っていたが、その代わりに凜の姿がない。恐らく先程までの菫同様、どこかを回っているのだろう。

 射的には琴葉も挑戦したものの……菫同様全くのノーコンで1点の的すら当てられず、参加賞の景品である飴一粒を持って帰っていった。


 お昼時なこともあってか、琴葉が帰った後で客足は一旦引いている。男子4人が昼食を買いに行っている中、今いる女子達はたわいもない話で盛り上がっている。


「ねー、これ見てー!」


 「時々ドジっちゃうけど許してね♡」と背中に書かれた来美は、ニコニコしながら皆にスマホを見せてきた。そこに写っているのは体育館のステージで、何か劇をやっているようだ。よく見るとステージの端っこに置かれためくりには「演劇部」と書いてある。劇は昔話ないしは時代劇のようで、和服やカツラ・または動物役なのか着ぐるみを身に纏い扮装した生徒が数人いる。「何これ?」「何の劇?」とめぐるや萌が口々に訊く中、ステージには新たにもう一人、赤い着物に日本髪のカツラをかぶった町娘のような格好の女子が出てきた。彼女が出てきた瞬間、菫達他の女子は皆驚愕した。


「これは……うーたん!?」


 めぐるがかなり驚いた様子で言った通り……この町娘役は羽衣だ。普段は内気かつ無口でクラス内でも滅多に発言することがなく、長い黒髪と目が隠れそうなほど伸びた前髪も相まって大人しい印象だが、この時の羽衣はいつもと違う。カツラを被っていることもあって彼女の目はしっかり見えるし、何より態度が普段と全くかけ離れている。

 まず3組にいる時の羽衣は猫背気味だが、ステージの上では背筋がまっすぐ伸びている。その姿勢もあってかいつになく堂々としていうように見え、声も普段のか細い声ではなく、大きくよく通る声で気持ちを込めて台詞を言っている。しかも羽衣はただ台詞を読んでいるだけでなく体を使って演技をしており、棒読みまたは大根役者のような演技をしている他の部員よりも断然存在感を放っている。この羽衣の姿に菫達他の女子達は見惚れてしまい……すっかり来美のスマホに釘付けになっている。


「すごーい! うーたんってこんなに喋れるんだ!」


「ねー! こんな堂々とした演技できるなんて~」


「てかいつも背筋伸ばして前髪ももっと短くしたらいいのに~」


 めぐる・遥・萌が褒めちぎる中、来美は得意げな顔をする。


「でしょ~。うーたん部活の時は結構はっちゃけてるらしいから」


「そうなのね! 確かに伏見さんいつも大人しいし、見る目が変わったわ(流石「私の名演技をぜひ見てね!」ってTシャツに書かれてるだけあるわ)」


 菫も正直な感想をハッキリと言った。その羽衣がこの射的の店番を担当するのはこの後で、めぐるは会ったらベタ褒めしようと明言した。と同時に、今度は萌が来美に1つ質問する。


「そういえば今日いくちゃん来てるよね? さっきホリトモと一緒にいるの見たんだけど」


「えっ!? またホリトモといんの!?」


 めぐるは少し顔を歪めて聞き返したが、来美は嬉しそうにニッコリ笑ってコクンと頷く。


「うん、そうだよ~。いくちゃんまた堀君と遊びたいってずっと言ってたから。それに小学校は今日休みだし、家から学校まで自転車で行けるし」


「ええ~……」


「まぁいいじゃない、いくちゃんは堀君気に入ってるみたいだし、堀君もいくちゃんには優しいんだから」


 まさかの育美が知輝を気に入っているという状況に、めぐるは不快感を覚えてしまう。そんなめぐるを菫はなだめた。

 ちょうどその時、「マッチョは世界を救う!」と背中に書かれた成一と、「小っちゃくても食べる量はMAX!」と書かれた悠太が教室に戻り、やはり来美は彼らにも羽衣の劇の動画を見せていた。






 それから数時間が経過し……1日かけて行われた北水島祭ももう終盤である。お昼時を過ぎたころから「2-3輪ゴム射的場」の客足は再びぐんぐん伸びてまたも大盛況となった後、時間が経つにつれてまた客足は徐々に遠のき、夕方になった今は誰もいない。景品もどんどん減っていき、どの点数の景品もほぼ空になっている。今残っているのは7点以上の知輝のフィギュアと、5~6点の漫画数冊、1〜2点のお菓子が2、3個だ。なお参加賞の飴も数粒残っている。


「もう流石に客来ねぇかな~」


 最後の店番を任された真二は教室の戸から廊下をキョロキョロ見回して、客が来ないか確認している。真二の他には、「3組のセクシー番長」と背中に書かれた英玲奈、「見た目はクールだけど甘いもの大好き」と書かれた優香子の2人がいる。そんな中、颯はほとほと疲れた様子でため息をつく。


「いや~、十分来てくれたし正直もういいぜ。もう銃作るのも疲れたよ……」


 当然、客が割り箸鉄砲で撃っている間にも何度か銃が壊れて予備と入れ替えし、その度に颯は新しい銃を作らざるを得なかった。いくら得意だとしてもずっと割り箸鉄砲を作り続けるにも集中力が要るし、そりゃ疲れるわよね……と菫も思う。そこでめぐるが話題を変えてきた。


「そーいやナラッチ、野球部は何やってたの?」


「あぁ、俺らはなぁ……」


 真二によると、野球部は野球場でリアル野球盤をやっていたという。射的と同じくヒットやホームランを打ったのに比例して、指定の点数の景品がもらえるのだとか。しかも球を投げるのは北水島高野球部のピッチャー陣で、その中には「北水島高野球部のエース左腕は俺だ!」とのキャッチコピーを持つ雅哉もいた。当然、雅哉の投げる球は挑戦者全員ほぼ打てずに大苦戦したらしい。ただし……


「おにぎりが投げた球で見事にホームラン打った奴がいたんだよ…………まぁよっしーなんだけど」


「えぇ!? よっしーがぁ!?」


 めぐるをはじめ、事情をあまりよく知らない菫と颯以外ほぼ全員が驚いた。ただ菫も和馬が元野球部であることだけは知っているのだが。


「……よっしーって吉田か? 確かアイツ帰宅部だよな? なんでそんなにしっかり打てんだよ」


「確か吉田君、元野球部だったわよね? だから打てるのかしら?」


 口を挟む颯と菫に、真二は頷いてからため息をつき遠い目でこう言った。


「そうだよ。……まだあれだけ打てるんならいい加減戻ってくりゃいいのに」


「ていうか……なんでまた野球盤やろうと思ったのかしら? 吉田君、野球部の話になったら結構嫌がってる感じよね?」


 優香子も首を傾げる傍ら、凜が口を開く。



 

「やっぱり……まだ野球に未練があるんじゃね? あんな形で辞め……」



 

「すみませーん! まだやってますか~?」



 

 が、ちょうどその時……凜が話し終わるのを待たずして、新たな客がやってきた。その客は、小学校中学年ぐらいの女の子2人だ。しかも2人とも見た目がそっくりなうえ髪型と身長もほぼ同じ、それに色違いだがお揃いのワンピースを着ている。


(あら、もしかして……双子ちゃんかしら! 可愛い!)


 そう思いながら菫はついふふっと笑ってしまう。そして他の皆も恐らく同じことを思ったのと、まだ北水島祭は終わったわけでなくあくまで閉店間際であることもあり、彼女たち双子を快く受け入れた。


「お嬢ちゃん達、もしかして双子ちゃんかな?」


 めぐるが優しく訊くと、双子達はニッコリ笑って2人同時に「そうだよ~」と答えた。ピンクの水玉のワンピースを着た方が葉月(はづき)で、薄紫色の方が菜月(なつき)という名前なのだとか。葉月も菜月も嬉しそうに割り箸鉄砲をそれぞれ1丁ずつ取って、まずは輪ゴムの弾を込めずに空撃ちする。その様子もほぼ全員がにこやかに見守っており、もちろん菫だって例外ではない。

 しかし……そんな菫のすぐ横にいつのまにか凜がいて、小声でぼそっと呟く。


「おい……大丈夫なのかよ?」


「……え? どうしたの生田目君」


 言っている意味が分からず不思議そうな顔をする菫に、凜は空撃ちする双子達の方を指差す。よく見ると……葉月も菜月も中段の宇宙人のイラストの描いた3点の的に向かって、銃口を向けている。


「あの子ら……3点の的狙ってんじゃね? 3点の景品もう残ってねぇだろ?」


「……あ!!」


 そう指摘されたと同時に……菫はハッとした。嫌な予感がする中、首をゆっくりと動かしてもう一度3~4点の景品の棚を見ると……確かに空になっている。



(ど……どうしましょ!? 3点と4点の景品全っ然ないじゃない!)


 菫は一気に血の気が引いたうえ、頭を掻きむしりながら慌てふためいてしまう。ここは副リーダーのめぐるに相談したいところだが、あいにくめぐるは双子への接客中で相談できそうな状況ではない。しかもめぐるは3~4点の景品が既に切れていることには気づいていないようだ。そのうえ、もし4点以上の点数を取ったとしても、残りの景品はよりによってフィギュアに双子達が読まなさそうな少年漫画と、喜ばれなさそうなものばかりだ。焦る菫に対し、凜は尚も冷静な態度で再び呟く。


「まぁ狙ってても当たらなけりゃ大丈夫だけどよ……」


「……そうよね!」


 菫もそう自分に言い聞かせ、2人とも1点の的に当てるか、もしくは外して参加賞になってくれないかと祈る。葉月と菜月が「1点は簡単そうだけど5点は難しそうだし……」「3点を狙おう!」と意気込んでいるにも関わらず。

 そして2人とも銃に輪ゴムの弾を引っ掛け……やはり2人同時に引き金を引く。


「あ~!」


「ざんね~ん!」


 2人とも3点の的に当てられず、飛んだ輪ゴムは的のすぐ横を通過して台に当たり、真下に落ちていった。葉月も菜月も悔しそうに歯を食いしばる。続いて2回目も両者ともに的に当たらず外してしまい、チャンスはあと1回となった。


「今度こそ当てるぞー!」


「菜月もー!」


「頑張ってー!」


 意気込んでいる双子達に、めぐるをはじめ菫を除いた女子達は声援を送る。その菫が内心、外せ外せと思っているなんて知る由もなく。2人とも真剣な目つきで3点の的を凝視し、今にも引き金を引こうとしたところ……そこに今度は客ではなく3組のある人物が入ってきた。



 

「……あれ!? 葉月と菜月じゃん! こんなとこにいたのか」


「「えっ! ……龍星兄ちゃん!?」」




 当の双子はおろか……3組の面々全員が驚いた。まさか、彼女達が「好きな人は……俺です」と背中に書かれた龍星の妹達だったなんて。と同時に、菜月と葉月は的の方を見ないままその弾みで引き金を引いてしまい、バチンッと銃声が鳴った。これに対し、菫は正直しめたものだと思った。的を見ていないからきっと外してくれるだろうと。


 菫の目論見通り、葉月が撃った方は的からバッチリ外れていた。しかし、菜月が撃った方は……奇跡的に3点の的の中央に音を立ててぶつかり……そのまま紙コップは後ろに倒れた。


「やったーーー!!」


「菜月すごいじゃ~ん!!」


「よかったなぁ!」


 2人は抱き合って喜び合い、龍星はもちろん他の面々も拍手をする中……菫は茫然とするほかなかった。その隣で凜はやれやれと言いたげな表情になっている。


(ど、どうしましょ!? 絶対外してくれると思ったのに~!)


 菫が人生で初めてリーダーの立場を任されたにも関わらず、めぐるが副リーダーだったこともあってこの射的はずっと上手く行っていた。なのでこの先も何も問題なく終わるのだろうと菫は高をくくっていたのだが……やはりそう簡単には終わらない。しかも最後の最後で景品がないという問題が起こるなんて……と菫は再び頭を抱えてしまう。そんな菫をよそに、めぐるはまず葉月に飴を渡すが……


「菜月ちゃんは3点を撃てたから、そこの景品を……あっ」


 ここでようやく気が付いた。3~4点の景品が全てなくなっていることに。これにはめぐるも慌てて菫に駆け寄って耳打ちする。


「す、すー様……3点のやつもうないの!?」


「…………」


 菫は何も答えられず、黙ったまま。ただ頭の中をフル回転させ必死で一生懸命考えている。3点の景品を何とかできないかと。


(3点の景品景品……どんなのがあったしら…………あ!!!)

 

 あの3~4点の景品の棚に何が入っていたのか必死に思い出しているうちに……菫にはあるものが思い浮かんだ。あれならば菜月もきっと喜んでくれるだろうし、3点の景品として相応しいと思い、菫は早速行動に出る。


「菜月ちゃん、ごめんね。今から景品を用意するからちょっと待ってもらえないかしら?」


 そう言うと、菫は自分のロッカーへと直行した。それからすぐにある物を持って双子の元へ戻ってくる。




「菜月ちゃん……これでいいかしら? 今日は他にもお客さんがいっぱい来てくれたから、3点の景品がこれしかないの。選べなくてごめんね」




 そう言いながら菫が菜月に渡したのは……リンゴ犬のキーホルダーだ。いつも筆箱につけていて、体力テストの賭けに勝って手に入れた金で買ったものである。つい先程、菫は3〜4点の景品の中にキーホルダーが入っていたのを思い出し、咄嗟にそれを渡すことを思いついたのだ。

 菫は申し訳なさそうな顔で言ったが……それとは裏腹に、菜月はパッと目を輝かせる。


「えっ、リンゴ犬だ! コレ貰っていいの!?」


「もちろんよ!」


 嬉しそうに訊く菜月に、菫は二つ返事でOKする。一方、参加賞に終わった葉月はその様子を指を咥えて見ることしかできない。


「いいなぁ〜……菜月だけ貰えるなんて〜」


「仕方ねーだろ、葉月は当たらなかったんだから」


 いつもナルシストな龍星も、この時ばかりは兄らしく妹の葉月をなだめていた。


 菫の機転のおかげで、葉月と菜月は上機嫌な様子で龍星と共に教室を後にした。何とか上手くいってホッとしている菫に、めぐるが声を掛ける。


「すー様……本当によかったの? あのキーホルダーあげて」


 めぐるは心配そうに訊いたが、菫はニッコリ微笑んで頷くだけだった。


「大丈夫よ。自分で買ったものだし、あの子が喜んでくれるんなら……」


 と菫が答えた瞬間……


「さっすがリーダーだなすー様!」


「ほんっとそれ! めっちゃ気が利くじゃん」


「私なら1点のお菓子全部あげるかも。……でもそれじゃなんで3点に当てたのに1点?ってなるし。やっぱ菫ってあったまいい〜!」


「しかも自分の渡すなんて優しいじゃん。俺なら嫌だぜ」


 真二・萌・英玲奈・颯が褒め称えてきた。だが菫は咄嗟に首を横に振って謙遜する。


「い、いや……景品の中にキーホルダーがあって思いついただけだから……」


 菫はそう言ったものの……めぐるをはじめその場にいた全員が拍手をする。しかもあの凜ですら手を叩いている。ただ代替品として自分の私物を渡しただけに過ぎないのにこんなに褒められ、菫は却って恐縮してしまう。


「すー様マジでありがと!! すー様のおかげで助かったよ、また今度キーホルダー買いに行こうぜ!」


 めぐるが菫の肩に腕を回して笑顔で言っている側で、凜は再びボソッと呟いた。


「……じゃあ来年も宮西にリーダーやってもらうか?」


「ちょっ! 生田目君!」


 流石に2年連続はちょっと……と思い、菫は焦って首を横に振った。だがそれとは裏腹に、他の皆は「さんせー!」とノリノリであった。



 一方、龍星は双子の妹を校門まで送るため、2人の手を引いて廊下を歩いている。もう北水島祭も終盤なので、人通りはまばらだ。そして菫からリンゴ犬のキーホルダーを貰った菜月は嬉しそうにそれを握っており、葉月はまだ少し羨ましそうにしている。


「リンゴ犬いいなぁ〜」


「まぁまた母さんにおねだりしたら買ってくれるだろ。にしても、3点の景品ないんなら……」


 菜月が的に当てて景品を渡そうとした時のめぐるの慌てっぷりからして、龍星は景品が切れていることに気付いていた。あの時を思い出しながら、龍星はスラックスのポケットからある物を出す。


「コレを使ってくれたらよかったのによ……」


 それはせっかく持ってきたのに没にされてしまった、龍星の生写真3枚セットだ。自分の写真を残念そうに眺める龍星だったが……


「龍星兄ちゃんの写真じゃん! こんなのいらない!」


「私もいらな〜い」


「……ええ〜! この龍星様のレアな生写真だぞ!?」


 葉月にも菜月にも断固拒否され、龍星はショックを受けて反論する。が、2人ともしっかりと首を横に振るだけだった。




 葉月と菜月が去って以降、客足は完全に遠のき誰一人も来なかった。一日中客引きをしてくれた知輝・幸輔・和馬も教室に戻ってきて、そろそろ片付けをしようとしたところで、北水島祭終了のチャイムが鳴る。紆余曲折あって決まった射的だが、蓋を開ければ終盤には景品が足りなくなってしまうほど沢山の客が来てくれて、売り上げも期待以上を叩き出した。そのおかげで、誰もが有終の美を飾れたと思っていたその時だった。


「おーい! 客だぞ!」


 相変わらず偉そうな態度で、チャイムが鳴っている途中にズカズカと入ってきたのは……丈一郎だ。これに対し、3組の面々は大歓迎……することはなく、鬱陶しそうにため息をついたり、「え〜、今?」とぶつぶつ言ったりしている。要するに、誰も丈一郎を歓迎していない。

 このぞんざいな扱いに、丈一郎は当然ブチ切れる。


「おいおい何だよその態度は! まだチャイム鳴ってる途中なんだからいいだろ!」


「はぁ? それはこっちの台詞なんだけど!」


「なんだよライオン寺、偉そうにしやがって」


 めぐると真二が負けずに言い返すも、丈一郎は意に介さずにスラックスのポケットからブランド物の財布を取り出し、半ば無理矢理めぐるに100円を渡す。どうやら射的をやる気は満々なようだ。


「この俺が来て売り上げに貢献してやるんだぞ〜。お前らは誰も俺らの合唱観に来てくれなかったのに。だから感謝しろよ」


(いや別に頼んでないんだけど……)


 他の皆も菫と同じことを考えているのか、険しい顔をしている。だが丈一郎は全く気に留めず、早速輪ゴムの弾を込めて両手で銃を構えるポーズをする。どうやら一番難しい5点の的を狙っているようだ。


「こんなの簡単に撃ってやるぜ!」


 そう豪語してから、丈一郎は引き金を引く。が、銃声と共に輪ゴムは的のすぐ上の壁にぶつかるだけだった。


「クソッ……まだまだぁ!」


 諦めずにすぐ新たな弾を込め、丈一郎は2回目・3回目と5点の的を狙って撃ったものの……いずれもかすりもしなかった。先程までの尊大な態度はどこへやら、丈一郎はがっくりと項垂れる。それを見た3組の面々は面白そうに笑っている。


「はい、ライオン寺は参加賞ね〜」


 めぐるが笑いながらハッキリと言うので、丈一郎はすっかり不貞腐れ地団駄まで踏んでいる。


「クッソ〜! やっぱりセレブで高貴な俺には向いてねーんだよ! こういう安っぽくてみすぼらしいお遊びは!」


(とか言ってさっきまでやる気満々だったでしょ……)


 菫が呆れ返る一方、知輝・和馬・颯は何か企んでいるのか、三人でニヤニヤしながらヒソヒソ話をしている。そしてめぐるが丈一郎に参加賞の飴を渡そうとしたところで、三人は「ちょっと待った!」と止めた。


「ライオン寺の参加賞は……」


「これな!」


 知輝と和馬が言うと同時に、颯は丈一郎に余っていた知輝のフィギュアを渡した。それを見た他の皆も大爆笑し、「それ渡すのかよ〜!」とツッコむ声まで聞こえてくる。もちろん、知輝達は丈一郎を喜ばせる気はさらさらなく、いらない物を押し付けてやろうと思っただけに過ぎない。


 が……




「……えええ!? いいのかぁ!? 全然撃てねぇのに貰っちゃって!」




 丈一郎はすぐさまパッと笑顔になり、目をキラキラ輝かせて小躍りしながらそれを受け取った。どうやら本命はこのフィギュアだったらしく……丈一郎が嫌がるだろうと思っていた3組の面々は拍子抜けしてしまった。


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