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第143話

「ふうーっ、食った食ったー」


 空腹を満たすバイキングの料理。食べてとても心が満足と幸せに満ちていた。デリバリーとはいえ、調理された直後と殆ど変わらない味だった。


 どうやら翡翠曰く、食事についてもアテがあり、バイキングで夕飯と朝も予め頼んでおいたという。そのアテがどこかは分からないが、出前よりも調理されてて美味い。


 今は食べ終わって、食器を片付け、一人で廊下を歩いて部屋に向かっている。窓から見える夜の森の景色は涼しげで穏やか。早朝から騒がしかった分、少し風に当たってこの時間を満喫するのもありかもしれない。


 花予は風呂に入るために、夕暮れに帰ってきてすぐ紫水と入ったあの大浴場へと行っているので部屋には誰もいない――――。


  


 夕飯中は花予と翡翠が懐かしのRPGのあるイベントで一人の仲間の生死を分ける話を熱心にしたり、紫水とハンバーガーショップの景品の話をしていたらあっという間に時間は過ぎていた。


 いつの間にか明日からの予定を訊いたり、そういう大事な話がどこかにいってしまっていた。それよりも食事が進んで、この場では食べることと戦いから離れた話をしたくなったのだった。


「そういえば、マグナガルドの景品でハムちゃんのハロウィンキーホルダーがこの前発売されたんだけど諒花は買えた?」


 ハンバーグを食べていたらそこから転じて紫水とこんな話になったのだ。


 キーホルダー。可愛くて魅力的だがそれをつける柄じゃない。そういうのはバッグにつけていたら落としたり、壊れそうで怖いからだ。

 過去にバッグにつけていたそういうのがいつの間にかなくなってて、かなり凹んだのが尾を引いている。


 紫水とは先月19日の事件の最中、零やシーザーも一緒に、4人でマグナガルドで昼食としてハンバーガーを食べた。


 実はあの店では度々、ジョイセットと称してハンバーガー、ドリンク、ポテトと一緒にその時期によって玩具やカードなど景品がついてくるのだが、あの事件の後、可愛いハムスターをあしらった大人気キャラクターのハムちゃんのキーホルダー5種類がジョイセットの景品としてちょうどハロウィンの日に販売されたようだ。キーホルダーとしても置物としてもちょうど良いデザイン。


 ハロウィンというとあのサソリ野郎、スコルビオンと夜に戦った日だ。あの日は朝の登校時に店の前を通りかかる事もなくこれが初耳だった。

 というか零がいなくなって、しかもワイルドコブラが攻めてきて気持ちもそれどころではなかった。

 目がウルウルとしていて口元も緩く可愛らしいハムちゃんキーホルダーはハロウィンに因んだかぼちゃを抱いていたり魔女の帽子などの装飾がなされている。


「あたし、その日の学校の昼休みにハムちゃんキーホルダー欲しくて行ったんだけど」

 

 きっと風呂で話した円藤由里の葬儀、告別式がまだやっていない件、そこから明らかになった彼女が休学扱いになっている件は通学してそのハロウィンの日か、もしくはその前日、こちらが最初の刺客であるハチ野郎、ビーネットと朝から戦っていた日に学校で確認したのだろう。


「そしたらとうに品切れで買えなくてさー、フリマアプリ見たら沢山転売されてたから諒花は買えたのかなって」


「そういうのは好きだけどアタシ、あんま興味ねえなあ……」


 特別沢山集める趣味もない。贈り物や思い出の品ぐらいで。歩美は好きそうだが。

 零は好きなのかは分からない。そもそも零は贈り物を受け取らない。だがそれは監視役だったので仕方なくそうしていたのだろう。今思えばある意味、一番気づきやすい貴重な伏線だが、こうなる前に結局どうする事もできなかった。


「けど、人が欲しいものを集団で独り占めして転売して金儲けするのは気に食わねえ。もしこんな事になってなかったら、言ってくれたら手を貸してたかもしれない」


「本当!? ありがとう。次あったら頼んじゃおうかな。ごめんね、こんな時にグチって……」

「いや、アタシなら朝早くに運動ついでにいけば買えたかもしれないし」


 朝早くに起きて、人気が少ないうちにランニングするついでに空いている店で買えば余裕だっただろう。紫水が喜ぶならば、言ってくれれば全部は無理でも一個は確保できていたに違いない。行こうと思えば近くに店があるのも大きい。


 先月19日に消滅寸前の変態ピエロの言葉から始まった零の件やワイルドコブラの侵攻がなかったら、だいぶ違うハロウィンになっていたかもしれない。


 そこに花予とのゲーム話が一段落した青山の女王のさりげない一言。


「あらあら二人とも。今どきの転売ヤーは組織ぐるみで朝5時から行列作って集団で犯行を行うので、いくら朝早くから動けても正攻法では敵いませんよ」


「そうなの……翡翠姉!」

「マジかよ……!」


 さりげなく翡翠が言った言葉が、紫水と仲良くぶっ刺さった。

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