第4話 再教育
まぁイジメだとはいっても、傍から見ればそう見えるわよね? というだけで、実際にやる行為は嫌がらせとは無縁のものではあるんだけど。
要は私が物心つく前から施されてきた姫教育を彼女に叩き込むだけだ。
ただ、私が十五年かけたところを、彼女には三年で身につけてもらうわけだから、多少のスパルタを覚悟しておいてほしいだけなのよ?
というわけで、翌日からさっそく実行に移した。たとえば、廊下ですれ違うたびに姿勢やら言葉遣いやらをネチネチとあげつらうとか。気分は小姑だ。
しかし、これでは効率が悪いわね。こうなったら、休み時間と放課後も空き部屋に呼びつけて指導するか。
と、思い立ったら権威を振りかざして部屋をキープ。悪役令嬢の面目躍如ね。
そして放課後、私の指示の声が部屋の中を飛び交う。
「背筋を伸ばして! 下を見ない! 優雅に、足を高く上げすぎないで!」
マリエルの頭の上に本を載せ、ただひたすら真っ直ぐ歩かせる。
あの時も、そうやって下を向いて歩いていたから、前から私が近づいてきてることに気付かなかったのよね?
なら、歩く姿勢から直さないと、また同じことが繰り返されるに違いないわ。
――それが、彼女への指導の最初に歩き方を選んだ理由ね。
「なにをやっているの? 下を向かないでと言っているでしょう? そんなにじっと見ていたって床にお金は落ちていないわよ?」
「……はぃ…」
「聞こえないわよ!」
「はい! 申し訳ありません、エリザベート様」
「良い返事ね」
「ありがとうございます」
「でもねマリエルさん。言ったことが出来ていなければ意味はないのよ? さあ顔を上げて!」
こんな感じでひたすらしごく。アメはなくムチだけを振るう。
まぁ一朝一夕に上手くいくわけがないのは当然よね。
でも、だからといって甘い顔をするつもりはないわよ?
それに、これぐらいはまだ端緒に過ぎないわ。
他にも社交に必要な知識、たとえば北の伯爵領の季節ごとの特産品とか、有力な家の家族構成とか、誰がどの派閥に属しているとか、果てはデザートの好みまでみっちり学んでもらうつもりだから、覚悟しといてね。
立ち振る舞いの矯正に関してはかなり時間がかかりそうだったが、こと知識面に限るならスポンジが水を吸収するように身に付けていった。
さすがに父娘そろって〝天才〞と呼ばれるだけはある。
これなら何とかなるかも? 絶望的な状況に一条の光が射してきた。
しかし、それならそれで疑問が浮かぶ。私の婚約者の第一王子ルーカス殿下は、なぜあんなに頭にお花畑が咲いているのか。
あの方も私と同じように物心つく前から帝王教育を施されてるんじゃないの? 一応、私たちは同い年の従兄妹だし、頭の出来にそれほどの違いがあるようにも思えないのだけど……?
……おかしい。
うん。やっぱり気になるわね。
放置すべき問題ではないと私の直感が囁いてる。
私は取り巻きのひとりにさりげなく話題を振り、こっそり調べてくるように頼んでおく。
で、予想は的中。調査の結果は私が危惧したとおりだった。
犯人は王子の教育係。
そいつがとある大臣から金を握らされて洗脳じみたことを行っていたらしい。
将来、傀儡の王にするための布石なんだと……
――アホかい! 国の次期トップの頭を空っぽにしてどうする!?
そんなことをすれば下手をしたら国が滅ぶわよ!? いったい何を考えているんだか! 宮廷内の実権さえ握れれば、王国自体の弱体化には気にしないとでも言うつもりだったの!?
でも、さすがにそこまで馬鹿なのはどうなのよ。名前が出たその大臣、それなりの地位にある人物なんだけど? いや大臣なんだから当然なんだけどさぁ。
とりあえずそいつはブラックリストのトップに名前を載せておくことに決定。
それでもまだ半信半疑だった私は、翌日、ルーカス王子を人気のない場所に呼び出し、当人から直接それとなく真偽を確かめた。
当たりだったよ……
マジですか。
私は主人公だけじゃなく、第一王子にも再教育し直すことをその場で決めた。
――ルーカス王子の私への好感度はさらに下がったようだ。
順調に悪役令嬢への道を進んでいるようである。




