第61話
「本当に良かったのか?」
「私?」
「そうだ。しばらくは会えれないぞ?」
「いいよ。私が好きでついてきてるんだから!」
「そうか。ならいい、」
俺の目的はこの世界の全土を見て約束を果たすこと。その為には取り敢えず港町へ行く必要があり俺達は南へと旅立つ。
「それより、私が無理矢理付いてきたけど大丈夫だったの?」
「あぁ。その代わり、身の安全は保証できないぞ!」
「分かってる。私はそれを承知でついてきたんだよ!」
「そうか。とは言え、自分の体は大事にしてくれよ」
「当たり前よ!」
しかしよく考えてみてくれ。南、と言うことは俺は自分の通った道を再び戻っていると言うことになる。まあ、地上だからいいけど。
「心強いじゃないか、」
「当然よ! これでも親衛隊No2の実力よ!」
「そう言えば親衛隊だったな、」
「忘れてたの!?」
「ごめんごめん、」
今ある光は焚き火の中の炎だけ。そんな中でもリリスの表情はよく分かる。
「もう!」
「良いじゃないか。どっちにしろ、俺がリリスを守ることに変わりはないんだからな」
「ふふ、ありがと」
パチパチと燃える炎がなんとも表しにくいムードを作り出す。しかし不思議と居心地は悪くない。
「なんか小っ恥ずかしいな。俺は焚き火の守りをしてるから、リリスは先に寝ると良い」
「そう? ありがとね。じゃあ私はお先に、」
「あぁ、お休み」
「お休み、」
焚き火がパチパチと音をたてる中、俺はリリスの寝顔を眺めている。今日は新月だ。いつも俺達を照らす月は今日だけは不在だ。
「くわぁぁぁ。眠いな……」
静かで冷たい風が俺を掠める。しかしそれ以上に暖かい焚き火が俺を暖めてくれる。夜の森は暗く静かだ。それと共に魔物達が活発になる時間でもある。
「グルルルルル、」
周囲にはこの魔物と同じ個体が見えるだけで5匹。草村に隠れているであろう気配も合わせると15匹だ。どうやら囲まれているらしいな。
「夜に俺と勝負するのか?」
「グルルルルッ!」
「リリスが寝てるんだ。静かにしてくれ」
「グルルッ!」
「煩い! 闇魔法・影殺針」
グサッ!
目標である魔物達は自らの影に串刺しにされ命をおとす。汚い血が滲みでてくる。
「はあ。集めるか、」
余談だが闇魔法は所謂影も操れる。つまり堕天人前の『影移動』や『影刃』等も影魔法で操れるというわけだ。
「ふっ!」
大太刀の切っ先で魔物の胸を切り裂く。首元に沿うように胸を切り、その中にある心臓を見付ける。そしてその心臓を切っ先でなぞっていく。
ブシュゥゥ、
切り口から血が飛び散り心臓の中を露にした。そこには綺麗に輝く魔晶が1つ。それを15匹、全てに行った。
「これだけでも疲れる、」
血塗れの魔晶が15個。水魔法で血を洗い流すが鉄のような匂いが染み付いている。時間が経たなければ取れないだろうな。と言うか服に血がついてしまった。
「着替えるかな……、『等価錬成』」
今と全く同じ衣装を魔力で錬成すると近くの岩へと並べる。改めてみると怪しすぎるな。コーディネートはこうだ。
・黒コート(フード)
・シャツ(白)
・ジーンズ(紺)
・革靴(狼)
・チェーンネックレス
この中で俺が買った物はない。しかしいつか、この見た目で装備を揃えてみたいものだな。
「っ!」
簡易魔法により今の服と作った服を着替える。大太刀とデザートイーグルだけはそのままで!
「ん、」
ふと周囲を見回すとどうも平け過ぎて危険だ。もし明日、リリスの方が早ければより危険だ。
「土魔法・石土塀」
ゴゴゴゴゴ、という音と共に野営地を囲む3メートル程の塀が築くかれる。そしてそれは頑丈な石で出来ておりここ周辺の魔物じゃ壊せない。
「火魔法・灯火」
ポッと小さな人魂が浮かび塀に一定感覚で灯っていく。夜に見たら気味悪すぎる…。
「まあいいっか!」
わざとその事については考えないようにして俺は目を背向けた。完成度なんて気にするべきじゃないだろう。
「朝も近いな…、」
東の空に微かな明かりが見え隠れしている。それに伴い動植物は目を覚ます。
パチパチ、
「熱っ!」
眠気が襲ってきていた顔に弾けた炎がパチンッと当たってくる。おかげで目が覚めたてと言えば聞こえはいいが、滅茶苦茶熱いに違いはない。
「ん、どうしたの?」
着せていた毛布を取り体を起こす。俺の声で起こしてしまったか?
「なんでもない。寝るんなら寝たらいいぞ、」
「んー、大丈夫!」
まあ、聞くまでもなくリリスは立ち上がり毛布を畳み始めている。まだまだ陽も十分に出ていないのに。
「本当か。まだ寝てて良いんだぞ?」
「大丈夫よ! それにリョウなんて寝てないでしょ!?」
「…………」
「やっぱり! 私のために起きててくれるのは嬉しいけど、リョウもちゃんと寝てよね!」
「分かったよ。なら俺が心配しないでいいくらい強くなれよ!」
「これじゃあ心配だって言うの?」
「当たり前だ。まあ、何処まで強くなっても安心は出来ないかもしれないけどな、」
「どうしてよ!」
「俺が後悔したくないから、」
「…………」
「忘れてくれ。リリスを信用してない訳じゃないんだ……」
「分かってるよリョウ。私、強くなるからね!」
「やっぱり頼もしいな、」
「ふふ、それほどでも!」
「っ!」
「どうしたの?」
「いや、可愛いって思って……」
「な、なによ! もうその手には乗らないんだからね!」
「正直な気持ちなんだがな…、」
「それでもよ! そんなの全然平気なんだならね!」
「なら俺は控えようかなっ!」
「えっ……」
嫌、みたいなことを言ってても嬉しそうにしていたリリスは、俺の言葉に明らかに悲しそうな表情をうかべる。リリスは気付いていないだろうがな……。
「冗談だ。これからもからかい続けてやるよ!」
「な、何よ、からかうって!」
可愛いやつだな、笑ったり怒ったり。もう少しだけからかってもいいかもしれないな。
「『状態変化・霊』」
まるで何も無かったかのように体が透明に消える。疑似生命みたいに消えるのではなく一瞬で見えなくなった。
「ど、どこ!?」
目の前にいた人、俺が急に消えたことで慌てて立ち上がる。けれど見えるわけない。なんせ実体がないのだから。
「…………」
静かに、声も出さずに。
俺はそんなこと気にせずリリスの背後へと回る。
「ねえ、どこ? リョウ、どこ行ったの?」
ドンドンと不安そうな声になってゆく。涙目になるまで待ってみたいけど流石に可哀想な気がする。
「わっ!」
「リョウっ!」
「驚いたか?」
「もうっ!」
「ははは、ごめんな。怖かったか?」
「そ、そんなことないよ!」
まだ虚勢をはるか。
もう1度驚かしてみようか。と思ったが止めた。良心が悪戯心を上回ってしまったから。
「なあ、リリス?」
「ふんっ!」
「まいったなぁぁ、」
朝一からからかい過ぎた。リリスは俺に背を向け口もきいてくれない。
「ごめんって、リリス」
「ふんっ!」
「はぁぁ……」
ホントまいったなぁ。俺が女子と喧嘩なんて今まで無かったからな。どうすればいいのか分からないんだよな。その時、なんとリリスから救い舟をだしてくれる。
「リョウ、私怒ってるわけじゃないんだよ。けどね……、」
「やり過ぎたよ…。ごめんな、」
「もういいよ。今度からほどほどにしてよね!」
「ごめんな。これは詫びだ、『等価錬成』」
「いいよいいよ。貰えないって、」
作り出したのは焼き立てのクッキー。俺自身は2度だけ食べたことがあった。ばあちゃんが無理してつくってくれたのと、桜咲が作ってくれた物だ。
「詫びの気持ちだ。貰ってくれ、」
「いいの?」
「あぁ。その為に作ったからな、」
見本にしたのは桜咲の作ってくれた方。流石にばあちゃんのは旨いとは言えないからな…。
「美味しい。ありがと、」
ニコッと笑った顔を見て機嫌が治ったのが分かる。良かった……。




