第60話
様々な人達の視点が入れ替わります。
ご了承下さい。
「行ってしもうたのう……」
大通りを2人は仲良く歩いていく。親としては娘が最後に最愛の人と旅立ってくれたことは嬉しい限りじゃ。
「…………」
「シリュウ、御主は良かったのか?」
「あぁ。リョウは俺に似ている。まるで自分をみているようだ」
「妾もじゃ。口調さえ似ていたような気がしたのじゃ!」
「…………」
「いつの間にか妾だけ歳を取ったようで悲しいのじゃ……」
「そんなことない。俺だって君と一緒に歩んできた。君と俺はいつでも一緒だ!」
「リョウに触発されたかのう?」
「そうかもしれないな。娘があそこまで喜ぶのを見たのは何年ぶりだろうな、」
「そうじゃな。最後に目の当たりに出来て良かったのじゃ、」
「そうだな。この町もそろそろ終わりだ」
「何を言う。その為に妾達が出向くのであろう?」
「そうだな。前向きにいかねばな、」
「そうじゃぞ。メイドにも妾達が帰らねばと申し付けておる。大丈夫じゃ。妾達が途絶えようとどうにでもなるじゃろう?」
「そうだな。前向きに、だな……」
今妾達がいるのは妾達2人以外は何人たりとも入れぬ秘密の部屋。リリスさえも入れなかった正真正銘秘密の部屋じゃ。
「しかし、もっと言葉を掛けてやれぬのが悔やまれるのじゃ」
小さな机の上には小さなグラスに真っ赤なワインが注がれておる。クイッと飲み込むと言葉も出やすくなるのじゃ。
「仕方のないことだ。今そんなことをすれば、リリスには気付かれぬとも、リョウには必ず気付かれる……」
「そうなれば巻き込んでしまうと言うことじゃな、」
「そうだ。一時の感情に任せ失敗してはならない。これは俺自身の経験だ…」
「そうじゃったな。妾達も仕事をするとしよう。人生最後の仕事じゃ!」
「そうだな。もう未練はない。娘はしかと預けたぞ!」
シリュウがここまで力を込めて話すことなど最近では無いに等しかった。為にシリュウも妾と同じように考えておるのじゃろう。
「そろそろ向かおうぞ。後のことは妾がメイド達へ任せておる。まだまだ未熟じゃろうが、ハンデスもおる、大丈夫じゃろう!」
「そうだな。奴はああ見えてしっかりしている。うちのメイド達もだ。任せてもいいだろう……」
「メイドよ、ここへ参れ」
妾の言葉に扉向こうで待機していたメイドが中へ入ってくる。初めての部屋にも関わらず躊躇もない。やはりしっかりしておるのう。
「エリス様、只今参りました」
「よし。メイド長へ伝えよ。妾達は行くとな、」
「はっ!」
メイドは妾の伝言を伝える為、部屋を出ていった。妾達も同時に武器を手に部屋を出ていった。
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私はここヤミラスの領主、エリス様のメイド。
「ここにいる全てのメイドに告ぎます。領主様は今しがた密かにその任を私達に任せました。その意味がお分かりですね。行きなさい!」
『はい!』
私達は城の広間へ集められていたのだけれど、メイド長のその言葉で一斉に部屋を出ていく。
領主様がその任を密かに私達へ任せた。と言うことは私達全員で領主様の代わりを完璧にこなさなければならない。だから普段している2倍は働かなくちゃならない。
「ねえメイ。領主様ってなんで今なんだろうね?」
「分かんない。けど、私達がしなきゃならないことは先輩達の穴埋めだよ!」
領主様の仕事は精密を極める。なのでそんな大役が任されるのはメイドの中でも経験豊富で発言力もあるメイド長くらいの人達。と言うことは他のメイドはどうなるかというと穴埋めに回る。だから殆んどのメイドが自分と先輩達の仕事をする羽目になる。
「メイは真面目だなあ。私なんてこないだ御客様に見いっててコップを落としちゃった!」
肩をすくめやらかしたっていう表情を浮かべる。確かにこないだの御客様は良い人だったなあ。私達にちょっかいも掛けないし、中には感謝されたメイドもいたって言ってた。私も誉められたかったなあ。
「………」
「あっ! メイ、今あの御客様のこと想像してたでしょ!?」
「まあね、」
「認めるんだ……」
「うん。あの人、性格も含めて格好良かったよね!」
「そうだね。私は会えたの一回だけだったけど……、」
「そうなんだ、」
私はリリス様担当で良くあの御客様とは会っていた。だってリリス様がずっとあの御客様と一緒だから……。
「メイはいいよね。私も会いたかったよ!」
「会いにこれば良かったのに、」
「本気?」
「ふふふ、」
「もしメイド長に見付かったらどうなるか考えただけでも怖いよ。御客様の方が許してくれてもメイド長は許してくれないもん!」
「まあ、そうだよね……」
私達はゆっくりと歩いていた。すると肩をポンポンと叩かれ、振り返るのが怖い何かが背後にいる。
「………っ」
「………!」
どちらが振り向くか目を合わせながら話すけど、やっぱり振り向きたくないみたい。仕方ないや……。
「…………」
「あらら2人共、随分と余裕そうね」
「…………」
「…………」
その顔は一切笑っていない。御客様のお礼の笑みはあんなに魅力的なのにこの違いはなんなんだろう?
「分かってるわね、」
私達はその日、他のメイドの2倍の仕事をさせられた。当然、それは幾日か続いてしまった。
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領主様達が旅立って数日。同時にリョウ殿までも旅立ち賑やかで楽しかった場内は藻抜けのからになってしまった。
スタスタスタスタ、
それでもメイド達は領主様の命令通り仕事をこなす。そして俺はそのメイドのトップ、メイド長に呼ばれた。
「失礼する、」
部屋の中では書類の束に目を通しながら休息をとる女性、言わずとも分かるメイド長だ。
「ハンデスさんですね。私はメイド長のナーガ。今回は貴方に領主様の命令について説明する為呼びました、」
「領主様の、命令ですと?」
「はい。領主様によるとこの町へ向かう巨大な魔物が現れたらしいのです」
「ほう。それで?」
「わたくし達に後を任せ、御2人で向かわれました」
「っ!」
「領主様は政治を私に、軍事を全てハンデスさんに一任すると申しました。ですので軍事面での相談をとかんがえたのです」
「そうか。内容は理解した。しかし領主様不在の今、軍を勝手に動かすなど重罪に値するのでは?」
「いえ、既に領主様は軍権をハンデスさんへ一任しました。ので、関係ございません。付け加えますと領主様はもう帰ってくることはないでしょう」
「なにっ!? どういうことだ!」
「国を手放してまで討伐に向かわれた意味をお分かりですか?」
「決死戦ということですな?」
「はい……」
「分かりました。軍事面は俺が引き受けましょう、」
「ありがとうございます」
「ではまず、兵達を出動可能の状態にしよう。また、魔法部隊の配置の許可を貰いたい」
「どうしてです?」
「領主様の力を疑うわけではございませぬが、討ち漏らしの場合、我等の町を狙うだろう。備えはするに越したことはない」
「分かりました。許可を出します」
「感謝する。俺はこの後、兵達に説明があるので先に失礼する」
「ありがとうございました、」
丁寧にお辞儀するメイド長を尻目に俺は部屋を出ていく。
その後、俺は各部隊に命令を下し魔物に備えるのだがそれは空振りに終わった。その代わり、領主様夫婦が帰ってくることはなかった。




