第58話
「はい。俺もリリスをもらい受けようなどと思っておりません、」
「っ!」
「へ!?」
「んっ!」
「それはどう受けて良いのですか?」
「俺は誰かと共に生きることは出来ません。その為、俺はここを1人で発ちます。実は先程、リリスにも提案されましたが、断りました…!」
今、俺は好きだと認めたから楽になれた。しかし、その反動は大きい。なんせ俺はここを1人で発つと決めているのだから…。また失う辛さだな……。
「リョウさん、何もすぐに決めなくても。今はダメだと言っているだけではないですか!」
「そうじゃリョウ。妾達は反対してる訳ではないのじゃ!」
「…………」
「リリス! 御主からもなんとか言わぬか!」
「母さん、父さん、私は止めないよ……」
「な、何故じゃ!」
「リリス、どういうことです!」
「それは……、」
「俺から説明しましょう…」
「リョウ、頼むぞ!」
その声には少しの怒気と威圧、そして悲壮が込められている。しかし俺も譲れない。
「俺にはある方と約束したことがある。その方は力のない俺に力を教え授けてくれた方だった。だから絶対に裏切るわけにはいかないんだ!」
「リョウ、それが理由かのう?」
「あぁ」
「妾の娘はその方には及ばぬようじゃな、」
「…………」
「仕方のないことじゃ。妾達は引き留めぬ。行くがよい、」
「感謝する。リリスも、ありがとな」
「ちょっと待ってよ!」
俺はその声を無視し部屋を出ていく。悲しくない訳じゃないがそこまで込み上げてこないな。
俺も人じゃないということだな。
「短い間だったが、世話になったな」
真っ白の紙に丁寧な字で書き残すと机の上へ置き魔力を巡らせる。すると例の俺を包む程の巨大な翼が具現化する。月が綺麗だ。まるで俺を祝福するように……。
「未練程、不必要な物はないな、」
右足をかけ飛び降りようとした時、俺の裾は何かに引っ張られる。無理にほどくことなど容易い。しかしここでほどいては唯一残る人としての部分さえ消えてしまうかもしれない…。
「ねえ…、待ってよ…。」
「…………」
「父さんに言われたからって今行く必要ないじゃない。ねえ、」
「…………」
「父さんだって、言ったら分かってくれるよ。私、ちゃんと説明するから!」
「…………」
「ねえ、戻ってよ。私、今日凄く楽しかったし嬉しかったのよ。なのにその日にお別れなんて……」
「…………」
「お願い……。リョウ、ねえ!」
「…………」
「…………」
バサッ、
俺は翼を大きく広げる。今振り返ってはもう行けない気がする。もし行けたって丸くは収まらないだろう。絶対に傷が残る。
「リョウ! 待たぬか!」
その手には剣が。
こうしてくれる方がやり易い。反逆せし客を成敗した領主という画になるからな。少し悪を被るとしよう。
「闇魔法・高重力×10倍」
「ぐっ!」
「っ……、」
「2人とも悪いな。俺はもう戻る気はない。やはり俺にはこれがお似合いのようだ」
日緋色に煌めく大太刀が右手に現れる。その刀身には高密度の魔力が渦巻いている。
「それじゃあな。エリス!」
大太刀を重力で体の動かないエリスへと振り下ろす。当たっても、喰らっても重症にはならないだろう。
ガキンッ!
「リョウさん、流石に酷いではありませんか?」
「いえ、敵将を討つのは戦場の理ですよ」
「ほうう、我々を敵と申しますか?」
「そうです。短い間世話になりました。が、今は俺を阻む障害となります!」
「それはそれは。ならば我々も敵将を討ち滅ぼしましょう『雷鳴ノ瞬撃』!」
目で認知出来ないような剣撃が俺を襲う。しかし『魔ノ賢者』により魔力を含む攻撃は全て理解及び認知できる!
「防ぎたましたか…、」
動揺も見せない顔が妙に不気味だ。不敵な笑みを浮かべその体は残像を残し消える。
「っ!」
いつの間にか目の前へ現れ鋭い剣は右半面を切り裂く。『痛覚耐性』のおかげか痛みも強くない。それに体の方は『肉体再生』により回復していく。
「ほう。忌み子でしたか、」
不敵な笑みが失笑を含む挑発の笑みに変わる。それにこの眼帯はシュラの鍛冶屋で買ったものだ。借りは返させてもらわなければな。
「堕炎魔法・暗黒炎、『絶炎ノ矛』」
大太刀に灯る暗黒の炎は全てを断ち切り全てを燃やし尽くす。耐えられるものなら耐えてみろ!
「はっ!」
刀身もそうだが余波のように飛ぶ暗黒炎が周囲を溶かしていく。そして間違って当たった所など跡形も残らない。
「当たらなければよいだけのことでは?」
感情の分からない笑みを浮かべ斬撃を全て避けていく。まあいい。まだまだ余興に過ぎないのだから。
「はっ!」
「無謀だね! 君のスピードじゃ私には当たらない」
ガキンッ!
再びぶつかり合った剣は大きな金属音をたてるがそれはシリュウの剣が折れて消えることで終わる。
「ほう。危険なことに変わりはありませんか。仕方ないですね。リョシ、あとは任せましたよ」
一瞬、シリュウの目の光が消えそのあとメラメラとした意思が宿る。
「俺と会うのは初めてだなリョウ! 俺はリョシ、お前が殺した奴と同じだ!」
「っ!」
「驚いたか! じゃあ殺らせてもらうぜ!」
ほんの一瞬、まるで目にも止まらないスピードで俺に迫るとその凶悪な鋭い爪を振りかざす。
「闇魔法・圧空剣」
ガキンッ!
爪相手なのにまるで金属音のような音が響きわたる。そして圧空剣は壊された。
「強いが魔力操作がお粗末だな。それじゃあ俺には勝てねえな!」
ドンッ!
引き締めた拳を俺の鳩尾へと喰らわせるとしゃがみこんだ所を蹴り飛ばされる。仕方ない。
「殺す! 雷魔法・痺電空間」
強い閃光と共に部屋の中は常に放電状態となる。身体能力を削るだけ、だがそれでも足しにはなるだろう。
「殺してみやがれ!」
同じように爪が俺を襲う。しかし同じ手は喰らわないさ!
「闇魔法・吸滅ノ牙口」
掌に展開した魔法により腕ごと爪は吸い込まれ、実質この空間からは消える。
「閉じろ!」
口は命令通り勢いをつけながら閉じ腕もろとも噛み千切る。噛み千切られた腕からは血がドバドバと滴る。
「くははは! やるなあお前! 是非その力、欲しいぜ!」
その目は血走りまるで俺の何かを奪うつもりだ。まあ、奪うのはこちらだがな!
「ふっ『絶炎ノ矛』!」
飛び掛かるリョシへスキルの炎を纏わせた蹴りを喰らわせる。すると炎の当たる部分は吹き飛び当たった右肩は吹き飛ばされる。
「くはっ! 俺よお、ここまでとは思わなかったぜ! お前、何か捨てたろ?」
そうさ!俺は捨てた。ここにいようとする自分の中の微かな希望までも。こいつを殺し飛び発てば追い掛けることはしないだろう。それにリリスの傷も違う形だが消える。
「ふっ、戯れ言だな。闇魔法・触滅ノ雨矢」
ソッと空を撫でるとそこへ闇の矢が作られ矛先をリョシへ向ける。そして……、
「行け!」
命令に忠実な闇矢達は血を求めリョシへと加速する。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
連続で放たれる矢は必死に避けるリョシを容赦無く狙い、数発は貫通という形でリョシを襲う。
「終わりだな、『奪者ノ頂点』」
「そうみたいだな。俺もそろそろ終わりだ」
「『絶炎ノ矛』」
大太刀へ渦巻く絶炎を纏わせその首へ翳す。ここで殺せば俺は解き放たれる。
「いくぞ、」




