第4話
いつの間にかリアスも後ろ手に鉄製の手錠を掛けられ、心配そうに俺を見つめていた。
「リョウ、絶対にダメだよ。リョウまで不幸になる。もうこれ以上迷惑はかけたくないの!お願い…」
「ごめん。勝手なことをして、、、」
「本当に。お願い、、お願いだから私の為に無理はしないで!」
「ごめんな、」
俺はそう言うと、街へと全速力で向かう。その後ろを心配そんな瞳で見つめている者のことを思いながら。
俺の体は普通じゃない。この間、水溜まりで見たが俺の両眼の色は違う。そしてこの驚異的な身体能力は異世界転生のボーナスだろう。なら何とかなる。何でもいい。自分の一番得意な方法で稼いでやる!
「ここかっ!」
十五メートル程の城壁が見えた。入り口には人が長蛇の列を作り時間がかかりそうだ。俺は足に力を込めると、その城壁の上へと飛び上がった。
「ふう、、ここが、」
城壁の中の広さは俺の住んでいた山がスッポリ収まるのではなかろうかと思うほど広い。そして大通りを元にした街の構造はなんとも分かりやすいな。
「自分の能力は理解している。今出来ることを尽くすまでだ。」
不思議なことにこの世界に来た瞬間から自分の能力は曖昧ながら理解出来ていた。けれど再確認の為、することはある。
「ふっ、」
山の木々を飛び移るように屋根の上を移動し大通りへ静かに降り立った。
そして大きそうな店に片っ端から入ることに決めた。恐らくは能力を鑑定するような場所もあるのだろう。しかしそれには当然金銭が必要になる。しかし今の俺は一文も無駄には出来ない。
「ふぅ、、ここでいいか。」
所謂スラム街。社会で習った通り薄汚く血生臭い所だ。現実に来て思うが本当に不気味だな。
「鑑定、」
そう。元々俺の能力には鑑定があった。これも感覚だが、当たればよし、当たらねば他の方法を探す。
「くっ、」
やっぱり曖昧な理解では能力は使えないようだ。仕方ない。
「…………。」
家の間に影が見えた。身長175センチ程。影から察するに男だ。
「出てこい!」
「あちゃぁ。見つかっちまった。」
声はまだ若い。俺達の親と同じくらいか。
俺が思考を巡らしていると、そのツルピカの頭を叩きながら俺が見た影の持ち主であろう男が出てきた。そして物音もたてずに俺に近寄ると、、
「坊主はなんも見てないな。忘れろよ」
ニコヤカにそう言うと無理矢理金の束を俺へ押し付けどこかへ走って行った。
待て待て。なんだアイツ!?アイツは誰だ。こんな大金を渡して帰るとは……こんな大金を持っているのは……
「アイツ、使えるな。」
俺はスキンヘッドの頭を目印にその男を探し始めた。スラムの住人とは分かっているが他に俺はあてがない。
「ここか、、」
途中、男の頭が見えて必死に追いかけてきた。流石にここまでは走ったことない。疲れた。
「おっと坊主。忘れろって言ったよな。」
後ろから急に首を掴まれると、二メートル程殴り飛ばされてしまった。
「すいません。俺、、」
「戯れ言はいいんだよ。お前が約束を破ったのは紛れもない真実だ。」
交渉決裂。始めから交渉する気もないのだろうが、俺は今金が欲しい。いや、待てよ。こいつらから奪ってしまえば……
「おりゃぁっ!」
男はたかが子供と舐めた装備だ。これなら熊よりは殺りやすい。
「、」
「ぐはっ!」
人と殺り合うのは初めてだ。けど不思議と罪悪感も何もない。これは殺りやすい。
ドンッ!
「ぐっ!」
バンッ!
「がはっ!」
ドンッ!
「ぐおっ……」
「最後だ!」
バンッ!
「ぐはっ!」
腹に3発。顔面に1発の拳は堪えたのか男は気絶して倒れた。ほぼ一方的な戦闘だったが歯応えがないな。
「あとで、起きられても面倒だな。」
先に殴ってきたのはこいつ。恐らくは殺す気。俺はあちこちに置いてある鉄材を振り上げると、
ドンッ!
「これで終わり。探そう」
俺が他に金はないかと探そうとすると、何か体の中で動いたような、、そんな気がした。
まあいい。金だ。全額俺に渡した訳じゃないだろうから、まだ残っている筈だ。俺は血塗れになった男の持ち物を物色し始めた。
「えーと、、金はこれだけか。」
俺に渡した額と同じくらいあったが、それでも少ない。まずこの世界の常識を知らないからどうしようもないな。
「あとは、これだけ。」
腰元の鞄から見つかった刃渡り二十センチ程のナイフが二本。取り敢えずはそれを腰元へ着ける。
「んっ、、」
近くの掲示板に気になるポスターが張ってあった。それも今俺が求めている物が手に入る。
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◈第340回
・サバイバルトーナメントを開催。
◈開催日
・午月、前巳日。
◈場所
・第一コロシアム
◈張り出し日
・午月、前卯日
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これは十二支だな。そう考えると開催日は明日。
よし、これで目標は決まった。
「坊主、サバイバルトーナメントに出るのかい?」
「はい。どうしても、どうしてもやらなければならないんです。」
「そうか、、、俺は坊主みたいな子供を本当は出場させたくないんだが、それを制限する規則もない。出場を認めよう。」
「ありがとうございます、おじさん。」
「坊主、けど、戦えるのか?」
「はい!一応格闘術は出来ます!」
「そうかそうか、じゃあ次に魔法は?」
「魔法は使えません…」
「そうか、仕方ない。じゃあ俺が教えてやるよ!」
「えっ、本当ですか!?」
「あぁ。ついてこい!」
このおじさん、滅茶苦茶良い人じゃないか!この世界は良い人が多いな…。
「おじさん、何故親切にしてくださるんですか?」
「実は俺も出場したかったんだよな。けど、色々と事情が重なって出場出来なかった。だから出場したいって言うんなら叶えてやりてぇんだよ。」
「ありがとうございます。」
「単なる自己満だ。礼を言う必要なんてねえぞ。」
はぁ。どこまで親切にしてくれるのか。
「あと、その右眼は隠しておけよ。」
「何故ですか?」
「知らないのか?オッドアイは忌み子として嫌われているんだ。絶対に見せちゃいけねえぞ。」
「忌み子、ですか?」
「そうだ。今夜俺の家にこい。眼帯でも作ってやる。」
「ありがとうございます。」
「礼なんてもんじゃねえ。行くぞ、、」
「はい!」
「ここが闘技場って所だ。坊主みたいに実戦で魔法を学ぶならここが一番だ。」
「魔法と言われましても、よく分からないんですけど…」
「んー、そうだなぁ。取り敢えず見てみろ。」
「■▧■▧■▧■▧■▧、炎球」
「っ!」
スゴい。本当に魔法だ。炎の塊がフワフワと浮いていた。
「これが魔法だ。俺はそこまで魔法が得意じゃないんだが、これくらいなら出来る。やってみな、」
「っ!?」
「どうしたんだ?」
「いや、、どうすれば?」
「はっ、分かんねえのか?」
「は、はい。」
「んー、、仕方ねえな。ならこれくらいは出来るか?」
魔法、じゃないのか?呪文がない。
「これは?」
「んー、、名前は無い。魔力操作を覚える為に作らた単なる練習用の技で、ダメージも皆無だからな。」
「えーと、、魔力を集めたら良いんですか?」
「そうだそうだ。取り敢えずはそれで良いはずだ。」
魔力は感じられる。分かりやすく言うと手足のように自由に動かせるし自分のじゃなくても見ることは出来る。
「おぉ、、、」
「それは使えるんだな?」
「そうらしいです。これは難なく……」
掌に魔力を集めると、五センチ程の球体が作られた。どことなくだが、魔力の性質が分かった気がする。
「そうかそうか。ならもう少し頑張ってみろ。沢山やって使いこなせたら魔法の練習だ!」
「はい!」
ちょうど良い、ナイスタイミングだ。
おじさんはそう言うと闘技場の端にある付き添い用の椅子へ腰かけた。
「魔力の塊、、日本のアニメでもあったよな、」
手の内にある魔力の塊は俺の操作下にあるから形を保っている。これから考えるに魔力とは空気中に拡散する性質を持つようだ。
次に魔力を多くして集めると確かに大きくなる。しかし集める時に抑えつけるようにすると大きさは変わらない。このことから圧縮もきくようだ。
「それくらい分かれば戦闘に使えるな、」
恐らくは魔法とはこの魔力に何かを加えて発動するのだろうが、正確に操作すればこれでも強力だろう。