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給湯室の美咲ちゃん。  作者: 佐藤 涼
2/2

あの人とアイツ。

「美咲ちゃん」

パソコンから書類、書類からパソコン。と視線の行き来に目の疲労を覚えて来た頃、ふいに視界の端に人影が映った。

「はい」

 見上げた先に居たのは、美咲の憧れのあの人。三浦源。ついこの間、私が見ていると気付いていながら坂上恵(独身32歳)は源の腕を取ってひっついていたのを目撃し、心に嫉妬の炎を燃やしたばかりだったが、美咲に初めて源から声をかけてくれたことによって記憶の彼方へと飛ばされて行った。

 緊張から、どういった顔をしていいか分からず、にへら、と間の抜けた笑顔を向ける。すると源は正方形の黄色い一枚の付箋を差し出し、爽やかな笑顔を美咲に向けた。

「今日、この時間に会議があるんだ。大事な会議なんだけど、この時間の30分前にいつもの飲料水を此処に書いている人数分、置いておいてくれないかな」

 美咲は差し出された付箋を受け取り確認する。14時〜、A会社、会議室5、15名と書かれていた。美咲は不思議そうな顔で小首を傾げると付箋から源の顔へと視線を戻す。

「…いいですけど…なんで私なんですか。あ、いや、面倒くさいとかじゃなくて、わざわざ頼んでくるなんて不思議だなって思って…」

 嬉しいながらも普段あまり交流のない源から大事な会議の一部の準備を任せられるのは腑に落ちない部分が美咲にはある。まともな会話すら、ほとんどしたことのない憧れの人。それに今までは「高岡さん」と、苗字で呼ばれていたのに急に「美咲ちゃん」なんて呼ばれたのを思い出した。

「なんとなくだよ。よろしくね、美咲ちゃん」

 美咲の疑いは呆気なくも、なんとなく、の一言で片づけられてしまった。とにかく、頼まれた仕事はきちんとやらねば。そう自分に言い聞かせつつ疑いを捨てた。

 源に声を掛けられる前からやっていた作業が終わったのは午前十時。今から飲み物を冷やしに行けば会議までには冷えるはず、そう思いペットボトルに入っている飲料水を倉庫まで取りに行くことに。冷やす場所は給湯室だが、道のりが遠い上に中身の入ったペットボトル十五本は重い、仕方なく事務室で荷台を借りることにした。

 事務室は名前だけで、人は居らず事務員達は違う所にいて、ここは旧事務室なのである。会社自体はそんなに古くないはずなのだが、この旧事務室は汚い。こちらの方が倉庫に近い。

「ここ、電気をつけても、なんか雰囲気が暗くて好きじゃないのよねぇ…」

 旧事務室の前に着くと小さく呟き、扉のすぐ横にある照明のスイッチに手を置いた。すると、スイッチは既に入っている様子で。消し忘れかな、と美咲は思い、躊躇いなく扉を開けた。

 美咲の目に写ったのは、薄暗く、鼻につく埃くさい室内で源と恵が抱き合い、唇を重ねている場面だった。


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