羨望ゆえの嫉妬心。
あの人の腕にアイツの腕が絡みつく。私の視線を知っていながらアイツは見せつけるみたいにあの人の腕にすり寄っている。
「イー歳こいて胸なんか押し当てちゃって…まァ、お盛んだこと…」
「っ…!」
背後から男性の声がすると思わず立ち上がってしまい、頭がガツンッ!と背後にいた男性の顎にヒット。視界がガラリと変わった男性は天を仰ぐように上を向いたままよろめき、立ち上がった美咲は慌てて振り向くと男性に肩を強く掴まれた。
「オイ…石頭。」
「…はい。」
バツが悪い顔をする美咲に対し、顎の痛みと怒りに顔を歪める要が美咲を見下ろした。
「どーすんだァ、お前。俺の顎が割れちまったらよォ…」
「…先輩が急に声を掛けたのが悪い、と思います…」
肩を掴む手の親指をグリグリと食い込ませながら喧嘩腰で詰め寄る要に対し、頼りない小さな声で反論を口にする美咲。
「…よし、今回はコーヒー、一杯で許してやろう。淹れてこい。砂糖四本、ミルク二つだ。」
要は自分のデスクにあったコーヒー渋のついたマグカップを手に取って美咲に差し出した。
「…糖尿病になってしまえ」
ため息混じりに要のマグカップを受け取れば美咲は悪態をつきつつ給湯室へと歩き出した。ついでに自分のマグカップも持って。要に絡まれてから視線を外していたあの人とアイツの方に視線を向けると、もう二人はくっついていなかった。
誰もいない給湯室で、小さく唸るような音を出しながらお湯を沸かすケトルを見つめる。頭からアイツが、坂上恵があの人にひっついているのが頭から離れず、拳を握って歯を食いしばった。
「…坂上恵…独身32歳ッ!むかつく、あんなに気安く…今度雑巾の絞り汁コーヒーでも飲ませてやろうか…」
でも、羨ましくも思っていた。自分はそんな勇気も出ず、デスクも遠いため交流も少ない。たまにここの給湯室でばったり会っても話すことなく挨拶を交わすだけ。そんな時はいつも意気地のない自分を恨んでいた。故に、羨ましい。会話すらまともに出来ない自分より、坂上恵の方が何枚も上手だ。自分は所詮、裏で想いを寄せることしか出来ないのだ。
美咲はそんなことを思いながら沸騰し終えたケトルを持ち上げ要のマグカップにお湯を注ぐ。そして八つ当たりとばかりにシュガースティックを指定よりも一本多い五本を入れて、ミルクも三つ入れてやった。




