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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第03話「ナグルファー」
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第03話2/4 皇帝

 カナリアは北へ向かって飛ぶ。

 目指すは巨人を送り込んできた国、ナグルファー。

 眼下に広がる、遥か遠方まで広がる深い森。


(どうして……)


 どうして、人間同士で争い合うんだ。

 カナリアの心に暗い影が落ちる。

 巨人の頭を砕き、踏みつけ、撃ち抜いた光景が何度も頭を駆け巡る。

 あの巨人達にも人が乗っていたんだろう。

 それを1体、また1体と倒す度に自分は……。


「あっ……」

 

 飛び続けているとやがて森が途切れ、広大な丘陵地帯が姿を現す。

 さらにその先へとゆけば、剣山のような山脈が輪をなしたような地が見えてくる。

 輪の中心には、閉じ込められたような、もしくは外界との接触を拒んでいるような、重厚で堅牢な城郭都市。


「ここが……」

 

 そびえ立つ黒い三日月。

 城壁で囲まれた巨大な都市の中央に、黒く巨大な城が鎮座している。

 半分地面に埋まった三日月を描くような形状のそれは、地面に突き刺さった船のようにも見える。


「……あれは!」

 

 巨人だ。

 何十もの巨人が様々な物を運び、建物を築き、農作業までしている。

 巨人の国と形容すべきか、だがその足元では人間が指示を出している。

 都市の外には窪みが何箇所もあり、今まさに新たな巨人が掘り出されている最中だ。


「やはり、この国が!」

 

 確信を持ったカナリアは巨城の正面へと降り立つ。

 巨人を用いて築き上げたのか、随分と大きな城だ。

 人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、カナリアは城へ向かって叫ぶ。

 

「俺はエインヘリアルのカナリア! この国の代表と話がしたい!」

 

 だが、返答が来る前に城から巨人が飛び出してきた。

 初めて見るタイプの巨人。

 赤い装飾が施された白い甲冑に、肩から伸びるマント。

 大きな槍と盾を持ったその姿は、城を守る衛士といった風貌だ。

 2体の巨人は一定の間合いを保ちながら、カナリアを囲うように回り込む。


「待て!戦いに来たんじゃない!」

 

 だが、彼らはカナリアの言葉に耳を貸さなかった。

 鋭い突きが左右から同時に襲いかかり、カナリアはそれをいなす。


「やめるんだ!」

 

 反撃を躊躇うカナリア。

 きっと、この2体にも人が乗っている。

 搭乗者を傷付けずに巨人を無力化するには……。

 突きを躱すため身を屈めたカナリアを狙い、2体目が飛びかかる。

 迫る切っ先。

 避ける暇は――。

  

 ガキィン――。


 だが、放たれた一撃はカナリアの尾羽根を形成する白翼の盾によって防がれた。

 

「頭に乗っているなら!」

 

 武器や脚を狙えば、人を殺さず巨人の戦闘力を奪えるはずだ。

 カナリアは巨人の突き出された腕に剣を突き立て、斬り裂いた。

 腕とともに、持っていた槍が地面に落ち、その重さを伝える。

 負傷した巨人はもう1体の後ろに下がると、盾を捨て、腰から剣を抜いた。

 それをカバーするように無傷の巨人が前に立ち、盾を構える。

 カナリアも同じように剣と盾を構え、空気が張り詰めていく。

 

「そこまで!双方、武器を下ろせ!」

 

 その時、膠着した戦いの場に甲高い声が響いた。

 声の方を見上げると、城に赤いドレスを纏った少女が凛と立っている。

 

「聞こえぬか? 双方、今すぐ武器を収めよ!」

 

 少女が一喝すると巨人達は戦闘態勢を解き、ビシッと直立した。

 その様を見てカナリアも剣を収める。

 少女の傍らには仮面を着けた男がおり、さらに後ろに多くの家臣が控えている。

 城へ歩み寄るカナリアに家臣達は怯えた様子だが、少女はまるで動じていないようだ。

 

「お主が噂のエインヘリアルか」

「キミは……」

「控えろ狼藉者!」

 

 突然、仮面の男が声を荒げた。

 

「この御方こそ、偉大なるこのナグルファーを収めるクルル=バイラール=ハートパルム皇帝陛下にあらせられるぞ!」

 仮面の男が高らかに少女を紹介し、カナリアは面食らった。

「皇帝……君が!?」

「余が皇帝で何が悪いか!?」

「あっ、いや……」

 

 国の代表なのだからもっと大人の、老人くらいの人物が出てくるものだと思っていた。

 気を取り直し、カナリアは本題を問いただす。


「聞かせてくれ……。巨人を使ってあの国を襲わせたのは君か?あの巨人は何だ!?どうして人間が乗っている!?」

「ふん……1つずつ答えてやる!1つ!お主が眠っておったあの国、イーザヴォール王国を襲わせたのはまさしく余の命令じゃ!」

「どうして……」

 

 カナリアを意に介さず皇帝は返答を続ける。

 

「2つ!あの巨人こそ我が国の叡智と技術の粋を集めて作り上げた巨人兵器、冥鬼兵(めいきへい)バーリムである!」

 

 皇帝の言葉と共に城の地下からぞろぞろと巨人が……もとい冥鬼兵が姿を現す。

 冥鬼兵にはいくつかのタイプが見受けられ、それぞれ甲冑の形状や持っている武器が異なっているようだ。

 

「冥鬼兵……だと?」

「この地に眠る巨人の骸を利用したのじゃ。それはそれはたくさん埋まっておるからのう。それを余の優秀な側近が改造し、人が乗り、操る事の出来る人形としたのじゃ!」

 

 皇帝の手振りを受け、仮面の男が恭しくお辞儀する。

 冥鬼兵を造り出したのは彼のようだ。

 格好から道化師の類と予想していたが、どうやらそれなりに地位のある人物らしい。

 

「先発隊は破れたと聞いたが、今に改良を重ねてお主を超えるものになるじゃろう。せいぜい覚悟しておくのじゃな!」

 

 皇帝は余裕の笑みを見せる。

 だが、カナリアが本当に知りたいのはそんな事ではなかった。

 

「そんな事はどうでもいい!どうしてあの国を狙う!いや、どうして人間同士で争う!何が理由なんだ!」

「とぼけておる……。お主こそがその元凶であろうが!」

「俺が……!?」

 

 カナリアにはまるで予期せぬ言葉だった。

 困惑の中、皇帝はこの国の成り立ちを語り始める。

 

「この国は、元はあのイーザヴォール王国から追放された民が作った国なのじゃ!」

「追放……?」

 

 今のイーザヴォール王国からは想像できない言葉にカナリアは戸惑う。

 あの平和そうな国で一体過去に何があった……?

 

「そなたを信奉しなかったせいよ。 かつて、あの国は南の海からやってきた蛮族と戦争になり、国が滅びる瀬戸際まで行った。そんな状況にも関わらずそなたは目覚める事はなかった。 戦争には勝利したが、余の曽祖父は国の危機にも目覚めぬそなたに幻滅し、信じることを辞めたのじゃ。所詮は死体じゃとな……」


 自分が眠っている間にあの国でそんなことが……。

 もしその時、目覚めていれば戦争を止められたかもしれない。

 

「王族であった曽祖父に従う者は多かった。だが、あの国はそれを許さなかった。不信心者として国外追放された曽祖父達はまず同盟国であるマグリアを頼った。だが、王国は卑劣にもマグリアに曽祖父達を匿うなと圧力をかけていたのじゃ。西にも東にも行けず南は海……。曽祖父達は北にあるという新天地を目指し、魔獣の徘徊する森を通って北へ逃げるしかなかった。森の中で仲間は次々と魔獣に襲われ、人数を減らしながらも曽祖父達は命からがら魔獣の寄り付かぬこの地に辿り着いたのじゃ」

 

 話が進むたび、カナリアの心に重いものがのしかかる。

 

「それから200年、魔獣の森と山脈に囲まれ外界に出ることの叶わぬこの地で、我が国とその民は歴史を紡いできた。先祖の想いを受け継ぎ、いつの日か我らをこの地に追いやったあの国に復讐するために!そして、冥鬼兵の完成によって我らはついに外界に踏み出していくことが可能となった! エインヘリアルよ!神々のしもべよ!お前達も我らが復讐の対象である!貴様ごとイーザヴォールの地を焼き尽くし、我らが民の200年の怨みを思い知らせてくれる!」

 

 宣戦布告と共に、皇帝は強い眼差しでカナリアを指差した。


「……すまない!」

 

 カナリアの口から謝罪の言葉が零れた。

 

「俺がもっと早く目覚めていれば、君達の先祖をつらい目に合わせることもなかった。それに知らなかったんだ!巨人に人が乗っているなんて!」

「ほう……?」

「エインヘリアルは調停者だ。俺に出来る事だったら何でもする!だからもう、人間同士で争い合うなんて止めてくれ!」

「神の戦士が何でもするとは、泣かせるではないか。事と次第によっては聞いてやらんこともないぞ」

「なら……!」



(それじゃ困るんだよなぁ……)



「ぐっ!?」

 

 突然カナリアを目眩が襲い、視界が紅く染まる。

 

「ぐ、うう……」

 

 なんだ、これは……?

 過去の凄惨な戦いの記憶が次々にフラッシュバックする。

 

『下等な人間どもが!』


 巨人が人間を殺す様子。

 

『巨人は皆殺しだ!』

 

 天界の神々とエインヘリアルが巨人を殺す様子。

 

『裏切り者め!』

 

 同族同士が疑い合い、殺し合う様子。

 

『いつか……手を取り合える日が来るって……』

 

 己の手の中で息絶えた、絆を育んだ巨人の少女。

 

(なんでだよ……どうしてだよ……)

 

 過去も今も、争いの絶えない世界の連続。

 抑え込んでいた怒りが、哀しみが、憎しみが、カナリアの瞳を染め上げていく。

 何が復讐だ――。

 つらい過去があったからって、罪のない人々の幸せを踏みにじって良いはずがない。

 話し合うことだって出来たはずだ。

 なのに、どうしてあんなやり方しか出来なかった!?

 何故だ……どうして……!


「どうして……どうして仲良く出来ないんだっ!」

 

 カナリアは拳を握り締め、全力で城に叩きつけた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。


鬱展開は3話内で終わります。

ご容赦ください。

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