第03話3/4 暴走
カナリアが叩きつけた拳の衝撃で、城の一部がガラガラと砂埃をあげて崩れ落ちていく。
「なっ……!?」
「陛下、こちらへ!」
突然暴れ始めたカナリアに驚き、皇帝は仮面の男に手を取られ城の中へ逃げていく。
「待ちやがれええええ!」
カナリアの掌が皇帝の居たバルコニーを掴み、引き剥がす。
「よくも俺に!俺にぃ……」
嗚咽混じりの声で瓦礫を握り潰す。
カナリアの哀しみに呼応するように暗雲が立ち込め、激しい雨が降り始める。
「人を殺させたなああぁ!」
哀しみに蝕まれた少年の心が、天に向かって慟哭する。
「貴様ーっ!」
狼藉を見かねた冥鬼兵が背後から斬り付け、カナリアの背中から火花が散る。
城から引き剥がされたカナリアを冥鬼兵がぐるりと取り囲み、カナリアは荒い息遣いで獣のように周囲をねめまわす。
「バーリム達!なんとしてもそやつを倒すのじゃ!」
再び姿を表した皇帝が檄を飛ばすと、冥鬼兵達が一斉に動き出した。
迫る冥鬼兵、総勢10体。
蟻の這い出る隙間もないほどに、全方位から一斉に槍が放たれる。
だが、カナリアの身体から蒼い炎が放たれると、その身は炎だけを残して消え去り、攻撃対象を喪失した刃がぶつかり合う。
瞬時に飛び上がったカナリアは冥鬼兵の包囲を抜けると、剣を抜き全身に気合を込める。
「うがああああああぁ!」
カナリアの全身から蒼い炎が波動のように噴き出し、その眼光には赤黒い稲光が走る。
やがて蒼炎は剣に集まり、カナリアは溜まったエネルギーを一気に解き放った。
「蒼炎斬波ァ!」
放たれた三日月状の斬撃エネルギーは着弾と同時に大爆発を引き起こし、冥鬼兵を足元から吹き飛ばした。
「きゃああー!」
「陛下!」
吹き付けた衝撃と爆風に皇帝が悲鳴をあげ、仮面の男がそれを庇う。
倒れた冥鬼兵から黒煙が立ち昇る中、カナリアは城へを歩を進め、皇帝へ刃を向ける。
「次は……お前だ」
「ひっ……」
殺せ――。
そいつこそお前を苦しめている張本人だ。
そんな声が聞こえる。
「……」
だが次の瞬間、再びの目眩と共に今まで溢れ出ていた負の感情がぷっつりと、途切れるように消えた。
「え……あ?俺は……何を?」
視界が元に戻り、辺りには冥鬼兵の残骸に瓦礫の山。
戸惑うカナリアに皇帝の、人々の、そして破壊された冥鬼兵から這い出してきた兵士達の怯えた目線が突き刺さる。
「あ、う……」
訳が分からない。
自分は何故こんな事をしてしまったんだ。
記憶はハッキリとあるのに、何故自分がそうしたかが全くわからない。
「……うああああああああああああぁ!」
何もかもが分からなくなり、カナリアはその場から逃げるように飛び去った。
――
カナリアが飛び去った後、王国では非常事態が布告され国中が騒がしくなっていた。
「ダメか……」
エクスは先程の戦闘現場に赴き、生存者が居ないか確認していた。
だが、巨人の搭乗者は全員既に亡くなっていた。
彼には、カナリアには知らせない方が良いだろうか。
降りしきる雨の中、そう考えていると遠くから風を切る音が聞こえてくる。
北の方角から王国に向かう白い影。
カナリアが戻ってきたのだ!
しかし、急ぎ王国へと戻ったエクスの目に映ったのは、城門の前で力無くうなだれ、雨に打たれるカナリアの姿だった。
「すまないみんな……。俺のせいだ……」
「カナリア?」
ナグルファーで一体何があった……?
エクスがカナリアに触れると、石像に触れた時の様に記憶が流れ込んできた。
「な……、なんて事をしたんだ君は!?」
エクスはナグルファーでの顛末を知り、声を荒げた。
「うわああぁぁぁぁん!怖かったのじゃあぁぁぁぁぁ!」
「エインヘリアルを前によく我慢しましたね」
膝の上で泣きじゃくる皇帝を仮面の男があやす。
皇帝を名乗っていても、中身は年相応の少女だ。
「亡きお父上も立派だとお誉めになるでしょう」
「アドラアァァァァァァ!早くアイツを倒して欲しいのじゃあぁぁぁぁ!」
「ご安心ください。必ず倒して御覧に入れます」
仮面の男、帝国宰相アドラーは皇帝に優しく微笑んだ。
「ぐすっ……。本当か?」
「えぇ。さぁ、疲れたでしょう。後は私に任せて御部屋でお休みください」
皇帝を侍女達に任せると、アドラーは現状の確認を始めた。
「宰相殿」
「報告を」
「はっ!迎撃に出た冥鬼兵は約半数が大破致しましたが、幸い死者は出ておりません」
「それは良かった。冥鬼兵よりも兵達の命が大事だ」
アドラーは柔らかい口調で兵の無事を喜んだ。
あくまでどちらが"貴重"かという話だが……。
そこに後ろで控えていた大臣達が詰め寄ってくる。
「しかし、どうするのだアドラー殿。冥鬼兵すらエインヘリアルには歯が立たなかったではないか!」
皇帝よりもビクビクと怯えていた連中が偉そうに……。
仮面越しに見下しの目を向けつつ、アドラーは大臣達の追求に答えた。
「当然、エインヘリアルに対抗できるよう冥鬼兵を強化します。まずはそれを前線のガレス将軍に送りましょう。将軍がエインヘリアルを倒せればそれで良し。倒せずとも、断続的な攻撃でエインヘリアルをあの国に留めておけば、こちらは悠々と兵力を整えられる。その後で、強化した冥鬼兵の大軍によって押し潰せばいい。エインヘリアルがいかに強かろうが、所詮1体です。数で圧倒すればエインヘリアルを倒せなくとも、あの国は落とせる。どうです……?」
「もし……エインヘリアルに仲間がいたらどうする?」
確かに、その可能性が無いとは断言できないな。
だが……。
「もし仲間が居るのなら、あれが眠っている間に何度も現れているはず。ゼロに近い可能性を心配してもしょうがありません」
「ぐむ……。ならば鹵獲された冥鬼兵、あれを王国が修理して使うような事はあるまいな?」
「それこそ有り得ません。冥鬼兵はこの私の術と、私が開発した動力機関ギヌンガガプによって動いております。私の術で、この城の下にあるギヌンガガプのエネルギーを冥鬼兵へと送る事で冥鬼兵は動くのです。エネルギーは冥鬼兵が破壊、もしくは鹵獲された時点で供給が止まります。エネルギーを失った冥鬼兵に残るのは骨と鎧だけ。仮にあちらに私と同じような魔術師が居たとしても、ギヌンガガプのような膨大なエネルギーが無ければ冥鬼兵は動かせません」
「むぅ……。なら、良いが……」
アドラーの回答に大臣達はしぶしぶ納得し、引き下がった。
「ふふっ……」
冥鬼兵の工廠へ向かうアドラーは仮面の下でほくそ笑んだ。
(まさかあそこまで効くとはね……)
エインヘリアルがいきなり謝罪を始めた時は内心焦った。
あのまま話し合いで仲直りじゃ面白くない。
だが、これでこの国はアイツへの恐怖と怒りに囚われ、本格的な戦争になるだろう。
(面白くなってきた……)
アドラーは仮面を抑え、思わずこぼれそうになる高笑いを押し殺した。
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完結できるように頑張ります。
次で鬱展開は終わります。




