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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第533話 お仕事の風景です! その八

 浅草寺から数本外れた静かな路地に、クラシカルなヴィクトリア朝メイド服を纏ったメイドロボがいた。手に持ったホウキで、地面にうっすらと積もった雪をはいていた。


「今年の冬はそんなに積もらなさそうで助かります」


 ルベールは白い息を吐き出した。去年の冬は大変だった。豪雪に見舞われ、浅草は壊滅しかけた。これは、横綱藍王(らんおう)が宇宙傘を操作して起きた現象だ。来年は平和でありたいものだ。ルベールは心からそう願った。

 ルベールはふと、自分の紅茶店の隣にある古民家を見た。ゲームスタジオ・クロノスが入っている古民家とは反対側の空き家だ。なにやら、数人の業者が出入りをしているようだ。


「なんでしょうか? どなたかお引越しでもしてくるのでしょうか?」


 浅草は人の出入りが激しいエリアだ。別に珍しくもないが、隣にどんな人がやってくるのかはさすがに気になる。

 その時、クロノス事務所からいつもの声が聞こえてきた。


「貴様らーッ!!!」


 ルベールは思わず笑みをもらした。不思議と落ち着くいつもの声。不謹慎かもしれないが、来年はなにをやらかしてくれるのか、楽しみでもあった。



「貴様らーッ!!! よく聞けー!!!」

「……うるさい」


 突然の怒声に耳を塞いで耐えたのは、青いストレートヘアが鮮やかなお絵かきロボの影山(かげやま)フォトンだ。ペンキだらけのダボダボのニッカポッカに、ダボダボのパーカーを着込んでいる。


「黒ノ木シャチョー!? ナンデスか!?」


 頭の発光素子を明滅させて驚いたのは、見た目メカメカしいプログラミングロボのFORT蘭丸(ふぉーとらんまる)だ。ゲームスタジオ・クロノス唯一の男性ロボだ。


「先輩、どうしました?」


 向かいの席から顔を覗かせてきたのは、真っ赤な厚い唇が色っぽい桃ノ木桃智(もものきももち)だ。ゲームのディレクション、会計、人事、なんでもこなす才女である。


「皆の衆! この一ヶ月間、ご苦労であった!」


 突然の労いに社員達は困惑した。これは特別合同課外授業のことを言っているのだ。遥か太平洋に浮かぶ肉球島で遭難した学生達を救うために、黒乃とメル子は方々を走り回っていた。社員達もそれに尽力し、かつ会社の運営も同時にこなしてきた。とてつもなく忙しい一ヶ月だった。


「みんなのおかげで、学生達は無事救助された! ありがとう!」

「……紅子ちゃんと、鏡乃(みらの)ちゃんが無事でよかった」

「ボクもがんばりまシタよね!? ボーナスくだサイ!」


 桃ノ木は席を立つと、黒乃の背後に回り込みしがみついた。


「先輩! 朱華(しゅか)を助けてくださって、ありがとうございます!」

「ええ? ああ、うん」


 朱華は桃ノ木の妹であり、特別合同課外授業に参加していた。


「朱華も先輩に感謝していました。私から改めてお礼を言わせてください!」

「ああ、そう。朱華ちゃんも島ではがんばったそうだね。あんまりくっつかないで」

「あん」


 黒乃は桃ノ木を跳ね除けると、立ち上がって社員を見渡した。


「いいか、貴様らーッ!!!」

「……だからうるさい」

「大きな事件が終わり! いよいよ我が社も、次のプロジェクトに挑む時がきた!」


 黒乃は興奮して語り出した。さすがの社員達も、これには姿勢を正さずにはいられなかった。


「ゲームスタジオ・クロノスオリジナルゲーム第一弾『めいどろぼっち』は、壊滅的な結果に終わった!」


 というより、浅草が壊滅した。それを思い出した社員達は顔を青く染めた。


「だからといって、次に進まないわけにはいかない! 我々は前に進むしかないんだ!」

「さすが先輩です!」


 桃ノ木は盛大に手を叩いた。FORT蘭丸とフォトンも、仕方なく手を叩いた。


「……クロ社長。次はなに作るの?」

「シャチョー! 無難にパズルゲームとかにシテおきまショウよ!」

「くくくく」

「……ワロてる」

「実はもう案を考えてきているのだ。クロノスオリジナルゲーム第二弾は、これでーい!」


 黒乃はデスクになにかを叩きつけた。それはカードの束であった。


「……なにこれ?」


 フォトンはカードを一枚めくりあげた。裏返すと、かわいらしいモンスターの絵と謎の数字、謎のテキストが印刷されていた。


「……これ、ロボモンカードだ」


 ロボクロソフト社が開発した国民的人気ゲーム『ロボットモンスター』を題材としたトレーディングカードゲーム『ロボモンカード』。カードを集め、デッキを構築し、そして対戦を行う。シンプルながら奥深いシステム、カードの収集要素、独自のコミュニティの発展、そして頻繁に行われる大会。すべてにおいて規格外の規模を誇っている。知らぬ者はいない、カードゲーム界の王者だ。


「シャチョー! まさかロボモンに参入するんデスか!?」

「参入するのはロボモンではなく、カードゲーム市場だ」

「先輩。ロボモンの他にも、ロボ戯王とか、デジロボとか、ロボット・ザ・ロボリングとか大手が山ほどいますが、そこに入っていくんですか?」

「そのとおり」


 社員達は呆然とした。あまりに無茶なように思えたからだ。前作のめいどろぼっちは、競合するものはいなかった(おじょうさまっちはいた)。だからこそ、クロノスのような弱小メーカーでも展開できたのだ。しかし、カードゲームの世界は群雄割拠。大手が対立し、覇権を奪い合う状態だ。


「……なんかダメそう」

「こらこらこらー! フォト子ちゃん、やる前から諦めたらダメでしょ!」

「シャチョー! ライバルが多すぎマスよ!」

「ゲーム開発なんて、最初からライバルだらけじゃろがい」

「先輩、勝算はあるんですか?」

「全員蹴散らしてくれるわ! きぇえええええええい!!!」


 黒乃はロボモンカードの束に手刀を振り下ろした。しかし、カードは大事に扱わなくてはならないという鉄則を思い出し、手刀はデッキを外れデスクに突き刺さった。


「いでええええええぇぇぇ!!」

「先輩!」

「……アホ」


 悶絶した黒乃は、プルプルと震えながら語り出した。


「近年のカードゲームは二種類に分かれる!」

「……二種類?」


 一つは、ロボモンカードを代表するトレーディングカードゲーム(TCG)。自由にカードを組み合わせてデッキを作り、二人で対戦を行う。大手が市場を独占している。

 もう一つは、ボードゲーム系だ。パーティーゲームとしての要素があり、一人から複数人で対戦、または協力プレイが楽しめる。こちらは、数え切れないほどの種類が発売されている。


「シャチョー! というコトは、ボードゲーム系なら参入しやすいデスね!」

「先輩。そういえば、前にボードゲームを発売しましたよね?」

「うむ」


 黒乃が『テラフォーミング・オッパー』というボードゲームを発案し、八又(はちまた)産業から販売した(431話参照)。それなりに売れた。


「……ボドゲ系なら勝てそうな気がする」


 一同はほっと息をついた。別に大手に楯突く必要などないのだ。ニッチな分野でそこそこの成功を収めれば、それで充分ではないか。


「などと考えているわけではあるまいなー!?」

「イヤァー! 心を読まナイで!」


 黒乃は両手の人差し指を立て、天に向かって突き上げた。


「我々はTCGとボードゲーム、両方の天下を取る!」


 一行は大きく口を開けたまま固まってしまった。


「先輩、それはカードゲームを二種類出すということでしょうか?」

「一種類で勝負をかける!」

「……どういうこと?」

「TCGとボードゲーム、両方のいいところを総取りしたカードゲームを開発するんじゃい!」

「ソンなコトができるんデスか!?」

 

 FORT蘭丸は頭の発光素子を明滅させた。


「FORT蘭丸よ、TCGの弱点はなんだ?」

「カードを集めるのにお金がかかりマス!」

「それは企業側からしたらいいところなんじゃい!」

「先輩、対戦相手が必要というところでしょうか?」

「そう! TCGは二人対戦が基本なのだ! その点、ボドゲは一人からでも遊べるのだ」


 ボードゲームは、一人から四人プレイに対応しているものが多い。


「逆に、ボドゲの弱点はなんだい? フォト子ちゃん」

「……カードが売れない」

「そう! ボドゲはパッケージを買ったらもうそれ単体でしっかりと遊べてしまうのだ! だから、追加でカードを買う必要がない。これは企業側としてはもったいない」


 とはいえ、ボードゲームにも拡張パックというものが存在する。ビデオゲームでいう、ダウンロードコンテンツのようなものだ。TCGは無限に新規カードが追加されるが、ボードゲームの拡張パックの追加は数回のみだ。


「我々が目指すものは、一人でも遊べ、複数人でも遊べ、対戦ができ、協力プレイができ、かつ無限に拡張される夢のようなカードゲームなのだ! 私はこれを『MERCO(メルコ)』と名付けた!」


 Multiple Eclectic Robust Card Opper、通称MERCO。全方位型多機能カードゲームだ。


「……最後のオッパーってなに?」

「とにかく! 我々ゲームスタジオ・クロノスは、ただいまよりMERCOプロジェクトを立ち上げる!」

「先輩! MERCOを世界一のコンテンツに育て上げましょう!」

「イヤァー! すごく重そうなプロジェクトデス!」


 新たな始まり。不安、期待、懸念、熱望。様々な感情が脳内を駆け巡った。なにが始まるのか、なにが起きるのか、どう終わるのか。なにもわからない。霧の漂う荒野。行き先も見えず、足元も見えず、帰るべき道さえも見えない。だが進む。ひたすら進む。それがゲームスタジオ・クロノスに与えられた使命だ。


「みなさん! さっきからメル子とか、おっぱいとか、育て上げるとか、重そうとか、なにを言っていますか!? 朝から猥談ですか!?」


 台所からメル子が怒鳴り込んできた。


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