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『せ』のつく自由業始めました  作者: 旭日暮きと
オタ喪女聖女、爆誕。
11/13

11. 大丈夫だよ、ひとりじゃない

「それが、今から約500年ほど前のこと」


昔話を一度締め括り、ザイフォールさんは席から立ち上がる。

さっきの人とは反対側の壁際に控えていた男性から何かを受け取ると、私が着いているテーブルの方へと近付いてくる。

背の高い男性が絵画を持ち上げると、今度はザイフォールさんが持っていたそれをテーブルの上に広げた。


「以来我が国は、聖女様とは切っても切り離せない関係にあるのです」


そう言いながら、広げたものの一部分を指す。それはどうやら、年表のようなものらしかった。


「チヨ様がいらした時、我が国は出来て間もない……いえ、それでは語弊がありますね。我が国がアイデムタル王国となってから、まだ間もない時期でありました」

「"なった"?」

「ええ。元々我が国は、シュティリアム公国を名乗る法治国家でした。しかし法治国家とは名ばかり、実際には貴族が互いに覇権を争う無法者の国、と他国に揶揄されていたほど酷い有り様だったと伝えられております」


説明を聞いて、ザイフォールさんが指差していた部分を改めて見る。"アイデムタル王国建国"。成る程、確かにその少し後に、先程お話で聞いたバートリアム国王の名前があった。


「それを今の形に作り替えたのが初代アイデムタル国王、バートリアム王の祖父にあたるユフテム王だったそうです」


なるほど、ならばバートリアム王はお祖父さんから数えて3代目の王な訳か。歴史のテストに出る訳でもないので軽い気持ちで覚えられる。


「公国が王国へと生まれ変わった後も、諸貴族たちの反発がない訳ではなかった。その抑えきれなかった部分が、サファリックの内乱へと繋がったともされています」

「サファリック……?」


さっきから横文字が多くてやっぱり覚えきれないかも知れない。王家3人の名前は何とか出てくるが、そんなサファリパークみたいな名前出て来ただろうか?


「当時の内乱で、特に酷い戦場と化した地です。その地で命を落とした者は10万を越えると言われ、今では街も集落も造られることなくただの平野として存在しております。その為内乱を象徴する名称として、この地の名前が用いられるのです」


なるほど、この世界に学校があったら絶対テストに出てくるやつだ。

納得して頷いてから、あれ、何の話をしてたんだっけと首を傾げる。


「話を戻しましょう。つまり、3代目国王バートリアム様の時代まで、元々我が国ではいざこざが絶えなかったのです。

しかし初代聖女のチヨ様が現れてから、国内は平穏が保たれておりました。

けれど彼女が亡くなって十数年が経つと、王国に再び暗雲が漂い始めたのです。きっかけは東の領地で猛威を振るい出した疫病でした。それから食糧難、天災、他国からの脅威、我が国は再び衰退の一途を辿り始めたのです」


駄目じゃん。

その"千代様"がいなくなったからかはわからないけど、人一人の存在で存続が危うくなるようなのは国としてアウトなのでは?

嫌な気分がしつつ、話の続きを待った。


「始めのうちは何とか事を収めようと、当時の者たちも総力を上げて奔走致しました。しかし事態は一向に収束せず、我が国は再び滅びの危機に陥ったのです。

そこで誰かが言い出しました。『再び聖女様を招こう』と」


ですよね、と頭の中で籠音さんの声が重く響く。気持ちはわからなくはない。当時の人たちも、生きる為に相当必死だったんだろう。


「勿論一朝一夕には事は運びませんでした。何せ千代様がいらした詳しい経緯は、終ぞわからぬままだったのですから。王家御抱えの魔術師たちも散々手を尽くしましたが、実現には長い時を要しました。聖女を喚べるか、国が滅ぶか。どちらが先かと国中が希望を見失っておりました」

「でも、出来たんですよね?」


事実国はまだこうして続いているし、自分と籠音さんだってここにいる。

ザイフォールさんは神妙に頷いて、真っ直ぐにこちらを見た。


「後の調べでわかったことなのですが。チヨ様がいらした時代、貴女方の国では長く戦乱の時が続いていたそうですな?」


突然問われて、えっとと言葉に詰まる。

千代様がこの国に来たのが500年くらい前。その時代、日本は、えーっと……


『ちょうど戦国時代だね。織田信長とか、桶狭間の戦いとかわかるでしょ?』


「ああ!」


籠音さんの言葉でピンときて、思わず声を上げる。そっか、あれってそのくらいの出来事なんだ。

いきなり叫んだ私をザイフォールさん以外の人が驚いて見る。部屋の中の大半の視線を集めたのにはっと気が付いて、ちょっとだけ気まずくなった。


「えっと、確かにそうだったと思います」


それだけ言うと、ザイフォールさんは頷いて話を続けた。


「どうやら、当時内乱状態にあった我が国と、戦乱の最中にあったそちらの国との間に近しい因果のようなものが出来ていたようなのです。簡単に言えば、その(えにし)を辿ることで、我らはまた聖女様を招くことが出来るのだとわかりました」


よくわからない。

首を捻っていると、また籠音さんが補足を入れてくれた。


『多分だけど、同調(シンクロ)ってわかる?呼吸を合わせて同じ動きをするとか、とにかく一致する、みたいな』

『あ、なんかわかります』

『そういうのがここと日本とで繋がった、みたいな感じじゃないかな。最初の縁がどこでどう繋がったのかはわからないけど』


なるほど?

まだよくわからないけど、とりあえずザックリとはわかった気がする。


「長く時は掛かってしまいましたが、千代様が逝去されて後、50年ほどで次なる聖女様を招くことが出来ました。そこからはまた長くなるのですが、とにかく我らは、聖女様をお招きする術と、そして国家の存続を確立させたのです」


なるほどようやく話がまとまった。

最初は偶然現れた千代さんのお陰で内乱が収まって、でも千代さんが死んじゃってまた国が荒れて。何とか次の千代さんを喚べるやり方を見つけて国を安定させて、そして今に至ると。

でも根本的にわからないことがもうひとつある。


「でも私たちの国で、不思議な力が使える人がいるなんて聞いたことないですけど」


雑誌やテレビの特集なんかで超能力者とか霊能者っていうのは見たことがある。でもそんな都合のいい力を持ってる人がいるなんて聞いたことがないし、もしいたとしたら病院も医者もいらなくなってしまう。大体そんな力を持ってる人がいたら周りが放って置かない筈だ。


ザイフォールさんは冷静に頷いた。


「存じております。初代千代様を始めとして、歴代聖女の皆々様は一様にそう仰っておられました。どうやらそのお力は、聖女様が世界を渡られた時に何らかの形で得られるもののようなのです。神に与えられし力、と嘯く者もおります」


神、と口の中で呟いた。

ピンと来ない。でも異世界に来ちゃった訳だし、それなら神様だって本当にいるのかな。

でもそもそも、今自分にそんな力が本当にあるのかどうかがわからない。もしかしたら籠音さんの方が本当の聖女様で、私はただのオマケかも知れない。


不安になっていると、何故だか籠音さんが気まずそうに唸っているのが聞こえてきた。


『籠音さん?』

『……何でもない。それより芹奈ちゃん、私ら普通にテレパシーで会話……念話?出来てる時点で、力普通にあるのでは?』


あ。

もうあまりに普通に使ってるので忘れていた。

そうだよ、テレパシーとか日本じゃ全く普通じゃなかった。

とりあえず聖女パワー(?)、1カウント目だ。


ちょっとだけ不安がなくなって、私は知らず縮こまっていた背筋を伸ばした。


『とりあえず帰れるかどうかはまだ早いよ。今はまず、』


うん。

頭の中で響く籠音さんの声に落ち着きを取り戻して、私はザイフォールさんに聞いた。


「それじゃあ具体的には、今この国は"聖女"に何を望んでいるんですか?」


私達の存在意義の確認から。

出来るかどうかはともかくとして、向こうが具体的に"聖女"をどう使いたいかを確認しなければ。


ザイフォールさんは目を細めて、ややあってから口を開いた。


「聖女様は謂わば我が国にとって平穏と安寧の象徴のようなもの。いてくださるだけで国民は安心致します。最上級の国賓として、末永く御守りすることを誓いましょう」


末永く。国賓。

つまりはあくまでお客様として、死ぬまでこの国で飼い殺す気か。

お腹の底に重たいものを感じて、ぐっと膝の上に乗せた両手を握る。

負けて堪るか。

出来るだけ表情を変えないようにして、そのままザイフォールさんを真っ直ぐ見続ける。


「幸いにして、現在の我が国は初代様や二代目様をお招きした時とは比べものにならないほど安定しております。他国とのいさかいもなく、疫病や飢饉の兆しもない。当面の間は丁重におもてなしさせて頂き、こちらに馴染んで頂くことが我らの望みでございます」

「そうですか」


聖女の歴史を説明してくれた時とは違って、ザイフォールさんはどこか壁を隔てるような雰囲気がした。何て言うか、多分、政治家の顔、みたいなものをしてるんだと思う。

歴史の説明をしてくれてる時はもう少し距離が近かった気がして、何だか寂しいような、薄ら寒いような感じがして不安になった。


『大丈夫?』


籠音さんの声がした。

今隣に、籠音さんがいてくれたら。

そんなことを考えそうになって、弱気な思考を振り切った。


『大丈夫です』


ザイフォールさんは真面目な顔をしている。何を考えているかわからない。

でも少なくとも、私を丁重に扱ってくれるという言葉に嘘はないと思いたかった。


よろしくお願いします、と言おうとした時、後ろの扉の向こうが俄に騒がしくなった。

何事かと振り返ると、ガチャリと扉が開いて優雅な足取りで人が入って来た。


「失礼する。堅苦しい話は終わったかな?」


昨日籠音さんに転ばされて胸ぐらを掴まれていた王子様が、何事もなかったかのように微笑んでいた。

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