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第一幕 王女誕生 第一場 精霊の歌
三日月の
明るい夜を統べるは月の女神
二輪戦車の轍のうえに
天馬の蹄は鳴り響き
従う死霊の声なき声に
黒い犬が牙を剥く
雪降る夜に
氷雪の妖精は舞い降りる
銀の美髪は艶々と
碧い瞳は煌々と
煙立つ裸身は手彫りの結晶
妖しい闇夜に透き通る
今宵この世に現れし子の
白い肌は星模様
銀の美髪は艶々と
碧い瞳は煌々と
性をあらわす徴は皆無
泣くより先に眼をひらく
床に敷いた魔法陣も
四方を護るまじないも
この世のものとは思えぬ冷気に
封じられた飾り物
産湯の槽に湧き出る聖水
予言の女神の海の泡
それは、冬でもないのに、そして三日月が明るく輝いているというのに、はらはらと雪が舞う夜だった。南嶺国の王城内、皆が祈るような気持ちで見守るなか、第一子が誕生した。
だが、取り上げた産婆は「ひっ」と悲鳴を上げて取り落としそうになり、魔術師が鳴らした銀の鈴の音は、子の誕生を祝う澄んだものではなく、深い水中のようなくぐもった反響だった。
そして、しんと静まり返る産室に、上がる産声は、ない。
誰ひとりとして、声を発する者はいなかった。今宵産まれたものは、明らかに“人の子”ではあり得なかった。
そして、空だったはずの産湯の槽に、こぽこぽと湯が溜まり始めるのを、ただ気味悪そうに見守っているしかできなかったのである。




