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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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極光

「ドライ。必ず救うから私を信じて欲しい。貴方の全て、私に預けられる?」

私はドライに訊く。負ければ全てを失う。勝てる保証も無い。それでも

「うん。預けるよ」

ドライは強く真っ直ぐ頷いた。


実行承諾。

臨時プラン「オリオン」

全演算資源をもって遂行します。


ドライの差し出した盾を受け取り、彼女の首後ろのジャックに髪を差し込む。


権限承諾。魔法演算オーバーライド


ドライの魔法なら。彼女で無くてはならなかった。

立つ事すら後回し。今は全てを演算に注ぐ。脳裏に走るは理解不能な膨大な数字の羅列。

世界が回るような眩暈と頭痛に襲われ、それでも盾を大地に突き立て、これから起こる事を見据えるように前を向く。

眼前に迫るは極光の死

「させるかぁああああああ!!!」

一際輝きを放つイオナの炎が矢と衝突する。螺旋状に削り取られ、剥がされていく炎と、衰える事のない矢の回転。しかし、それでも僅かでも時間が稼げればいい。

「おらぁあああ!!」

気合いとばかりに雄叫びを上げ、残りの尾も毟り取って燃料にする。

他の攻撃なら彼女の尾を使って一度死んで死を取り消したほうがいい。でも、これはそんな小手先が通用する物ではない。あらゆる手段でも対抗不可能な神の一撃と言っても過言では無い。

炎が仕掛ける世界に対する欺瞞も、拮抗さえ出来ず僅かな時間稼ぎにしかならない。

削られ行く炎の限界はいずれ訪れ、遂に薄くなった中央を矢が刺し貫いて

そのまま回避の余地無くイオナの姿を瞬時に掻き消す。いや、その素振りさえ見せぬ程彼女は時間稼ぎに徹してくれたのだ。

術者の居なくなった炎はもはや抵抗にもならない。

眼前に迫った矢、だが、ほんの数秒を稼ぐ為にもしなきゃ行けない。

「...必ず助けるから」


権限α起動。

指揮下のワルキューレに対する絶対命令権、発動


迫り来る死の具現を、目の前で幾つもの影が飛び込み、コンマ1秒も稼げずに消えて行く。

あまりにもあっさりと命が散る光景は、絶景さが却って際立ち、まるでこの世の地獄のようだ。

一人、一人と姉妹が消えて行く事にドライが私の手を強く握る。だけれど、彼女は私を信じてくれている。私も犠牲を無駄にするつもりは毛頭無い。

遂に私に矢が触れようかという瞬間


世界は巻き戻る。


権限発動。魔法演...魔法演算オーバーライド。時間移動を越えた演算の引き継ぎ仮説立証を確認。

現在、解析進行度7%...


ドライなら、彼女の魔法なら死までの時間を僅かながらも実質的に増幅することが出来る。

しかも記憶を保持できるなら演算内容も同様のはず。

ならば攻撃を解析し、再現術式を用いた反撃を試みる事が出来るというのが計画の概要だ。

だけれど想定外に猶予が短い。また解析の進行が遅い。単純計算で14回の跳躍はドライの身体が持ち堪えられない。

「おらぁああああ!」

尾を毟って焚べながら、振り返る事なく全力で炎を投射するイオナ。

私はここから動けないが、まだ手立てがあった。

イオナの背後に結界を展開しておく。

本当は彼女の前に置きたいが、今は最も時間を稼げる方法を考えなければ。

先程と同じ。イオナは最後まで退かず、結界はガラスを破る様に容易く砕かれ、姉妹たちの命は1秒にも満たない時間に代えられた。それでも。まだ詰みじゃない。


...演算オーバーライド。進行度17%...


まだ足りない。戻るタイミングが早すぎる。

先程と全く同じ時間で皆の命の灯火が消えて行く。

ただ、ここまでは大事をとって接触する前に発動していたが、今度は盾を握った左手を差し出す。

一瞬の拮抗の後、盾は握った腕ごと捥ぎ取られて消えた。指が、肘が、肩が呑まれた瞬間、戻る。


...演算オーバーライド。進行度31%...


まだ足りない。あと何が捧げられる?

考えろ、考えろ、考えろ、考えろ

同じだ。また皆んな死んで行って、それでも途中で辞められない。諦められない。

私の中の意地をかき集め、概念侵食を纏わせた左手を突き出してみた。だけれど苦肉の策では結局は同じ事。私の拒絶の概念はこの一撃を防ぐには足りないが多少マシな時間稼ぎにはなったかな


...演算オーバーライド。進行度47%...


脳の演算領域が割かれてる為に思考がうまく纏まらないが、まだ試していない事があった。この場に居ないツヴァイに指示を出す。

「...ごめんなさい。ツヴァイ、あなたのコアを抉り出してシューレに」

強制権を使って指示する。したのは確かに私だが、こんな指示、通らないで欲しいとさえ祈った。それでも、この指示が正しく受諾されてしまったのを感じた。

この場に居ればきっと、彼女が目前で自分の胸を抉り、抱えた少女の胸に押し当てながら生き絶える光景を目の当たりにしただろう。


個体:ツヴァイ 機能停止

個体:シューレ 指揮下に入りました。


無機質なメッセージ。だがこれで手札が増える。

時間はちょうどイオナが消滅する頃。既に数秒も残っていないが、続いて強制権でシューレに魔法を使わせる。

並行世界か何かで演算リソースを倍化した。

でも、もはや理屈なんてどうでも良い。

いや、もはや何をしているのか私も分からない。

ただ、少しでも早く、少しでも長く。


...演算オーバーライド。進行度73%...


グッと手が引かれた。いや、ドライが倒れただけだったが無理も無い。

高負荷の演算を精神的ストレスに必死に耐えながら、

それでも彼女の演算領域はまだ動いている。

あと一回だ。あと一回だけ跳躍できれば、それで良い。

ガンガンと殴りつける様な頭痛も、精神がおかしくなりそうな思考も、今この時だけ保って欲しい。

目の前で鼻から、耳から血を流しながら倒れている少女さえ、まだ諦めていないのだから。

救うと誓っておいて、彼女達より先に折れて仕舞えば何がシールダーか。

この盾を掲げる手を緩める事は決して許されない。守る使命は一時も揺らがない。


...97...98...


次の春に続くと知っていても、散る花が無価値になる事はない。

繰り返しの後に続く時間の中の彼女達自身はこれを覚えては居ないだろう。

それでも私は死にゆくように命じた者として、ここまで殺めた全てに彼女達の名も何度も刻まれた事を決して忘れない。


...99...


腕を奔る雷電に、私を終わらせる為の慈悲の一撃への答えを、死という逃げ道は不要だと決意を込める。

手のひらの中で、我が身を滅ぼさんと貫こうとする矢に明確な返答でもって拒絶する。


...100


長い時間だった。

「じゃあ、みんなを助けに行こうか、ドライ」

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