星降る夜に
一つ一つは人の大きさほど、大きくても車の大きさ程の岩でしか無い。だが、それが雨の如く降れば人を殺すに余りある殺意となる。
それでも、それすら超常の存在には遊びの延長だ。私だって盾を掲げればこの程度の攻撃、意に介さないだろう。
だが、弾幕というのが良かった。アーチャーは自身に当たるものだけを迎撃するのではなく、全てを迎撃することにしたらしい。
「全目標補足。全砲門撃ち方始め!ホンモノを見せてあげるわ!」
周囲に輝く砲門から放たれる一閃が正確に一つずつ岩を撃ち砕き、砂塵に帰す。大地を耕すはずの岩の雨は悉くが小石と砂となってパラパラと積もるだけとなった。
投擲を終えたツヴァイは、巨大化に応じて強度が増すとは言え、流石に負荷に耐えかねた肩から先がひどく変形して見え、二度目の投擲は不可能なのが明らかだ。おまけにアーチャーの弾幕から、目標を外したかに見えた一撃がツヴァイの肩を撃ち抜く。
「さて、もう気は済んだかしら?」
アーチャーはこちらを向き直り和かに笑う。
「随分と甘えた真似をしてくれたものね。可愛げがあっていいわ。これからあなたを倒すしか無いのが残念なほどに」
こちらを見下ろす彼女の背後に再び数多の門が。また、手には弓を握っている。
解析完了。対象の門の約6割は攻撃衛星からの砲撃支援が構成しています。
高精度、高出力、高レート、おまけに弾切れの心配も無いとなれば、まさに究極の兵器に他ならない。
恐ろしい事だが、逆に言えば衛星からの支援を潰せれば彼女の火力にも陰りが出来るだろうと言う事だ。
なら、私がするべき事は明らかだ。みんなが下がった方を背にしてアーチャーに向けて盾を構える。
「言ってくれるね。待った甲斐があったって言わせてみせるから」
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「アイン!何をしてる!早く治すんだ!」
右肩を抱えて蹲るツヴァイ、苦しそうに息をするフィアに目を醒さないドライとフンフ。
だが寝かせた彼女達の側でアインは俯いて動かない。
「...できない」
「...なんだって?今なんて言った!?」
「出来ない。だって私が治せば彼女達は...」
そう言うアインに私は彼女の葛藤を理解した。確かに、皆エリニュスの元へ戻りアーチャーと戦うだろう。
それはつまり治す事が死地に送る事と同義とさえ言える。だが
「じゃあ、妹達の怪我を放置か?治せるのに治さないなんてそれの何処が...」
「治せだなんて簡単に言わないで!あなたに...これが分かるわけ無い!」
「...ああそうか。じゃあどうする?彼女達が起きた後に何を思うか考えてみろ!エリニュスを見捨てて来ましたって、そう説明して以降幸せに暮らすなんてあると思うか!」
「そんなのどうだって良い!後の説明なんて如何とでも言えるわ。今ならまだ、どこか遠くに逃げ...」
私は彼女の頬を張っていた。
「ふざけるな!エリニュスはその身を盾にしても私たちを庇った。現に私たちが蜂の巣になっていないのもアーチャーを引きつけてるからだ!だから、彼女達はそんなエリニュスを信じてついて行こうと言うんだ。なのに大局を見ているつもりで一番感情的になって目を逸らしているのはお前なんだよ!」
この期に及んで。いや、きっと彼女も整理が必要なんだろう。でも残念ながら今その時間は無い。
「だって.....」
本当は、分かっているんだ。迷う余地などなく即断できる様な、そんな簡単な問題ならどれだけ良かったか。
言い返す言葉も無く、ただその辛さを表す様に静かに泣くアインの頬を伝う涙が、遠くの閃光を反射して光った。
始まった二人の戦い。まるで花火倉庫に火が付いたような、あそこで何があるか考えたくも無い程の攻防。それでも攻撃が続く以上、まだ彼女は立っているという事だ。
空を明るく照らす程の、しかしあまりに綺麗な景色に、いつしか私達は目を奪われ離せなかった。
「なあ、アイン」
返事は無い。
だけれど少し間があって、彼女は徐に懐から小さな剃刀を取り出す。
そうして手のひらを切ると、妹たちの口元へ、手を固く握って搾り出す様に血を注いでいく。
「...ありがとう」
アインの魔法を受けた彼女たちの身体は再生していき、やがて目を開け始める。
「お..ねえ、ちゃん..?」
「あれ、ここは...?」
目を覚まし、周囲を見渡す。直ぐに状況を把握し切れない。
そんな妹達を前にアインはまだ俯き、その表情は髪に隠れて見えなかった。だが、一息付いて意を決すると自分の言葉を待つ妹達に向けて遠くを指す。
「あそこでエリニュスが戦ってる。敵の力は強力無比。みんな死ぬところだった」
戦いは時間が経つごとに激化し、閃光が夜空を狂った様に染め上げている。教会のあったはずの場所は既に形を留めていない。そこは常人の立ち入る事を拒む世界。本能で分かる死の具現。
そんな絶望を前にしても、もはや迷う事はなくアインは声を張り上げた。
「それでも...それでも!まだ、あそこで戦うという人だけついて来なさい!」
顔を上げ、叫ぶアインに呼応する様に、皆迷う事なくバイザーを閉じて、戦闘態勢に入った。
しかしツヴァイは...いや、違う。
彼女はまだ目を覚さないシューレの側で無事を確かめながら
「シューレはさ、言ってたんだ。今のアインは、私を逃がそうとした時のお姉ちゃんと同じ感じがするから危ないって」
そういえばなぜ彼女達が一緒にいたのか、その疑問と答えが今同時に与えられた。
「ならツヴァイは、どうしたいんだ?」
「さあね。エリニュスについて行くも、みんなで逃げるも、どっちでも良い。でも今は、みんながエリニュスの為に戦うなら私は皆の為に戦うと言ってくれたシューレを守る」
ある意味、最も中立的で冷静だったのは彼女だったのかもしれない。姉と妹達の対立に、元来の我儘さが逆に我を通す強さとなって現れた。
現に迂闊に戦場に飛び込まなかったことで、こうして体制を立て直せたのだから。
「なら、みんな同じ目標って事で良いか?」
聞いた言葉に全員が頷いた。
「よし...なら一つ、アイツの真意を聞きに行くとするか」




