星月夜
「ごきげんよう。そしてさようなら」
そんな気取った挨拶をした瞬間、その背後に数十の光の門が開く。一つ一つが夜の空に星が如く輝き、その殺意さえなければ幻想的とさえ言える程だった。
一際強く輝くと、それぞれから一条の光が放たれ、身体の前に盾を構えて防御する。
得策では無かった。だが、それ以外に選択はない。
盾の表面で爆ぜる殺意は、手数と威力のトレードオフなど知るかと言わんばかりに盾を構える腕が砕けそうな程の衝撃を伝える。
いつもなら真っ向から受ける真似なんてしない。だが背後に受け流すわけにはいかない。
「イオナ!ドライとフンフを!早く!」
ほんの10秒も無い、だが永遠にも感じられる時間。
盾の影だけを残して大きく大地を抉り取るほどの猛威。
だが、斉射を止めた時、もはや私が盾を握っていることも出来ずに取り落とす。
手は震えて握れず、足は膝から崩れそうで、でも後ろを守ろうと両手を広げ、振り返ることなくアーチャーを見据えながら声を張る。
「イオナ!二人はまだ!?」
「やってる!くそっ、頑丈な石造りだっただけに...アイン、ツヴァイはどこに居るんだ!?」
だが、必死なこちらを嘲笑うかのように、彼女は弓を取り出してゆっくりと引き絞りながらこちらを照準する。
「へぇ、その子達があなたが頑なに私たちを拒む理由?面白いじゃない。じゃあ貴方の盾が本当に守りたいものを守れるか、見てあげるわ」
そういうと、照準は私の僅か後ろへ向けられる。
既にここまでの圧倒的な火力なのだ。いかにもな攻撃なぞ一撃必殺の即死攻撃と言って余りある威力に違いない。
絶対に撃たせるわけには行かない。
だが気持ちと裏腹に身体は動かない。三半規管は揺れ、飛ぶために翼を開くことさえ出来ず、ただ余りにも無力な肉の盾でしかなかった。
飛ぶのを諦め、少しでも射線に割り込もうと足を縺れさせながら前へ、がむしゃらに走った。しかし彼女が弓を引き切る方が先で。
その時、前触れなくアーチャーの背後にフィアが現れる。
身体ごと回しながら蹴りを放つが、アーチャーは弓を消すと虚空に現れた門がフィアの片足を撃ち抜き、もう片方を掴んで投げ飛ばす。
そのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられたフィアは、戦闘継続不可能な傷だろう。
「全く、躾がなってないわね。私は、アーチャーとしてシールダーに会いに来たの。貴方達は盾の本分を引き立てる為の庇護者にしか過ぎないわ」
そういうと、今度こそとばかりに先ほどより多くの門、天を覆いつくさんばかりに展開される。
「構えなさい。今度こそ砕いてあげるわ」
先の斉射はクラスとしても出力を大幅に超過しています。現在、その仕組みを解析中です。
少しだけ持ち堪えてください。
全力で再生術式を起動し、フィアが稼いでくれた10秒ほどの時間を起死回生の一手を探るための絶望的時間稼ぎのために注ぎ込む。
ツヴァイから入電。「今から5秒後にシューレが一瞬だけ時間を稼ぐ。その間に全員連れて下がって」
いや、違う。私は一人で戦っているんじゃ無い。
ツヴァイの策を信じて、私は声を張り上げた。
「アーチャー!私は...一人で戦ったりしない!」
相手の懐へ飛び込む様に前へ踏み込む。狩人は獲物を仕留める最後の瞬間と思った時こそ気を引き締めなければならない事を教えてやろう。
「シューレ!」
きっと遠くで彼女が魔法を行使したのだろう。私の周囲に私と同じ姿形をした像が数百と現れる。よく見れば細部の粗こそあれど、欺瞞には十分だった。
「これはっ!?小癪な手を!」
彼女は手当たり次第に近い目標を撃つ。彼女は至近距離のフィアへの攻撃にさえ、あの門を頼ったという事は接近される事を嫌うと踏んだが見事に当たりだったのだろう。
「どれが本物...全部が本物っ!?そんなわけ無いわ。一体どうなってるの!?」
シューレの魔法は存在確率の操作だと言った。なら、魔法が私を複製する瞬間だけ、私はアーチャーに突撃する無数の可能性を作り出せば良かったのだ。それでも、泡に水をかける様に溶かされていく私の虚像達を尻目に、私は急いでフィアの元へ駆け寄る。
手足はあらぬ方向へ曲がり、撃ち抜かれた足は向こうが見える程であったが、さすがワルキューレだけあって胸郭が動いている。まだ生きている。
「フィアっ!なんでこんな無茶したの!」
私は彼女を担ぎ上げて今度はバイザーに示された方向へ走る。
瓦礫からかろうじて二人を救い出したアインとイオナが追いついてくる。
私はアインにフィアを渡す。
「任せた。急いで治療してあげて」
「でも...」
アインは何か一瞬躊躇いの様な間の後、力強く頷くと、そのまま飛行して行く。
「イオナも、二人を」
「大丈夫か?」
「やるしか無い」
それを聞いた彼女は二人を抱えたまま、アインの後を追った。
「ねえ、ふざけてるの?」
背後から不機嫌な声が聞こえる。だから言ってやった
「そっちこそ」
更に、遠くで巨大化したツヴァイが地面から、元は舗装の一部だったのだろうか、10m以上にも及ぶ巨大な岩石を投げたのが見えた。アスファルトか敷石か分からないが、人ほどの岩石が降り注ぐのが見える。
彼女もそれを見上げて言った。
「どこまでもイラつかせるわね。私に弾幕で挑むなんて」
満身創痍なこちらとは裏腹に、彼女はどこまでも砲身とその目を輝かせ、楽しそうに口角を上げた。




